「あー疲れたぁー、肩揉んで瑞鶴」
「えー何でそんな事しなきゃならないのー?」
「やってくれれば給料上げる──」「全力でやらせていただきます」
「お疲れ様です白さん」
荒くれ鎮守府に帰還した提督と瑞鶴は応接間のソファに寄り掛かった。買い物袋をテーブルに起き、疲れた身体を癒そうとする。ソファに寝っ転がる提督は給料アップの条件で瑞鶴に肩を揉ませる。
「灰か、馬鹿共はどんな感じか手短かに話せ」
「はい。第一艦隊は全員入渠しており、護衛援護艦隊は那智が大破、同じく入渠しています。高速修復材は数が少ない為、使用は断念しました」
「よろしい、良い選択だ。んで問題の馬鹿二人は?」
「阿賀野と矢矧は戦闘後、部屋に閉じこもっており、誰の声も聞いてはくれない様子でした」
鹿島がノシロを鹵獲した後、帰還した阿賀野と矢矧は入渠もせずに部屋に閉じこもった。その後は誰が声を掛けても返事はせず、ドアには鍵が掛けられている。
「まぁそうだろうな。鹵獲した軽巡棲鬼は?」
「軽巡棲鬼は現在、地下営倉にて収容中です。鹿島さんと戦い、大破以上の損害を受けており、暴れる可能性も考慮して拘束器具を装着させています。また艤装については壊のままでいた為に取り外しに成功、工廠にて預かってもらってます」
ノシロの艤装は工廠にて保管されている。取り外した途端に空中に浮いていた艤装は、エネルギーが失われたのか地面に重い音を上げて落ちたようだ。母体の方は専用の拘束器具を使用し、身体全体を拘束。今は地下営倉にて意識を失っており、未だに目が覚めていない。暴れる可能性もあるとみて艦娘達が見張ってくれている。
「よーし大体は把握した。早速、新個体の間抜け顔でも拝んでこようじゃないかぁ」
突然提督は起き上がり、肩を回し始める。瑞鶴と灰色だけと地下営倉に連れていき、ノシロが収容されている牢屋まで向かった。ノシロは身体全体を拘束されたまま、静かに眠っている。特に身体の損傷は酷く、見るに耐え難い傷痕が自然治癒力で治り掛けたまま残っていた。
「まんま能代だな」
「姿や顔はほとんど能代に酷似しています。更にこの鎮守府の記憶があるとすれば最早明白かと」
「何が明白なんだ?」
「え、いや沈んだ艦娘を深海棲艦として酷使されている事ですが……」
灰色は沈んでしまった艦娘は深海棲艦に利用され、新たな深海棲艦に生まれ変わるという説を信じていた。
「んなの当たり前だろ。結構前から言われている事だ、この能代以外にもいくつか事例がある」
「そうなんですか……」
一般人には深海棲艦と艦娘の事しか知らない。深海棲艦が力をつけ、増え続けている理由は海軍内部でも噂程度でしか広まっておらず、真相は闇とされていた。だが現元帥と■■大将、■大将、提督(中将)、■■■中将と軍の上層部は艦娘と深海棲艦が密接な関係にいる事を知っており、この機密情報は極秘として名前を挙げた僅か数人しか知らない。
「この軽巡棲鬼は本当に特殊だ。通常の軽巡棲鬼には艤装に乗る形で足が無い。だがコイツはその艤装を双方に展開させ、足を生やしている。その結果、見事な機動力と戦闘能力を手に入れた」
飛龍達の報告によれば、軽巡棲鬼でありながら対空装備や強力な装甲は勿論の事、対潜装備も常備していた。
そして普通の軽巡棲鬼とは比べ物にならない程の素早い機動力、艦娘の各弱点を見極めて正確に当ててくる命中精度。新たな対潜装備として使用されていた水中で炸裂し、一気に爆発させる砲弾。
最早軽巡棲鬼とは呼べない何かだ。空母棲姫並の戦闘能力を有しているといっても過言ではない。
「今後もこの軽巡棲鬼が出る可能性は……」
「十分有り得るだろうなぁ、やはり深海棲艦も力は増してきてるらしい。何より……」
ノシロと阿賀野達との会話をスマホ越しで聞いていた提督。このノシロは正確にこの鎮守府の事について、恨むように訴えていた。明らかにこの鎮守府について何か知っている。
「コイツはこの鎮守府の事を知っている。ちょうどいい、洗いざらい吐いてもらおうじゃないかぁ。いやぁ楽しみでしかない、何かしら情報があれば■■共から一歩有利になれる。グヘヘヘ」
「凄いゲス顔……」
提督はゲス顔で鉄格子の先に眠るノシロを舐めまわす様に眺める。巧みに指を動かし、これからの尋問に胸を膨らませた。深海棲艦となればわざわざ躊躇う必要も無い、何がなんでも聞き出してやろう。
「念の為に見張りは艦娘二人が午前午後のローテーションで組ませています」
「問題ない、自由にしたまえ」
牢屋の前には朝潮と荒潮が見張ってくれていた。疲れた様子はなく、任務と言い聞かせて立派にこなしている。
「そろそろ夕飯時だ。朝潮、荒潮、時間を見て夕飯は自由にして構わない。誰かと代わるなり、一人ずつ交代するなり、お前らで決める事だ」
「分かりました!!」
「分かったわ~」
見張り役の朝潮と荒潮に後は任せ、提督は地上に出る。既に日は暮れており、辺りは薄く暗くなっていた。夏特有の謎の暑さが微かに感じる。
「すいません……」
「何だ」
「あの鹿島さんって……失礼な言い方になるんですが……
これを聞いたら鹿島は笑いながら追及してくる事だろう。
だが灰色が若干怯えている様に、鹿島の戦闘を見てそう思うわれてもしょうがない部分だらけだった。艦娘とはかけ離れた戦い方、獲物を必ず屠る獣のやり口と似ている。
「
「皆、鹿島さんに怯えてばかりで散々な事になってます。正直私も生きた心地がしなくて……艦娘の真髄、その片鱗を見たような気がします……」
「アイツの戦闘能力は未知数だ。明らかに他の艦娘とは一線を超えているからな。ある意味完成された艦娘、いやリミッターが常時解除されている艦娘と言えるだろう。伊達に『
故に提督も警戒している。思考が読めない艦娘ほど、何をしでかしてくるか分からない。イチャコラにしろ、戦闘にしろ、鹿島は全てにおいて未知数だ。時々感情のこもらない声は時として焦心を覚える程に。
「普通の姉の香取でさえも怯える程だからな、心底アイツが味方で良かったと思っている」
もし敵だとすれば、それはこの戦争はとうに終わっている事だろう。それを聞いた灰色と瑞鶴は思わず唾を飲んだ。提督が警戒する程の艦娘、■■以上に厄介なのかもしれない。
そう思っている中、提督と瑞鶴と灰色は食堂に向かっていった。ドアを開けば、いつもの賑わいが少し足りない。
「久々のお通夜ムードだなオォイ!! いつもの馬鹿騒ぎはどうしたァ!!」
提督の大声で艦娘達は一斉に身体を跳ねらせる。ゾロゾロと提督の前に集まり、怯えた顔を提督に見せる。飛龍と蒼龍が必死に訴えた。
「提督……!」
「何あれ! 艦娘のやる事じゃないよ!! 明らかに度を超えてるって!!」
「怖いよ!! 明日から何て挨拶すればいいのか分からない!!」
他の艦娘達も飛龍と蒼龍の声と同じのようだ。どうやら鹿島のイメージがあの戦闘で一気に変わったらしい。予想していた事だ、別に驚く程の事ではない。
「大丈夫だぁ、アイツは艦娘に対しては半分以下の力で相手してくれる。死ぬ事はないだろう……多分……」
「多分って何!? その多分が一番怖いよ提督!!」
「確かにアレはやり過ぎなところが見える。鹵獲が視野に入っていたとはいえ、目くらましに水柱を発生させ、背後に回り込んで身体を拘束。海面に叩きつけ後頭部をひたすら砲撃……提督としてはどう思っている?」
長門が冷静に分析し、提督に意見を求めた。確かに鹿島の戦闘は通常では考えられない事だろう。悪魔の様な笑みでひたすら砲撃し続ける姿は味方の艦娘にとって恐怖を募らせたはずだ。恐らく鹿島本人は殺す気で戦っている。
「んまぁー……アイツは元々イカれてるから、そういう戦闘面は気にしない事にしてるな。大丈夫だ、安心しろ。命まで取りはしないって。な?」
「はい! 大丈夫ですよ! 練習巡洋艦としての務めを果たすだけなので!」
提督に背後には鹿島がいた。気配に気付かなかった灰色と瑞鶴は二度見をシンクロさせる。
鹿島はとびっきりの笑顔で答えた。周辺の艦娘達は全員引いている。
「……って事で、かいさーん。各自自由にしたまえー」
提督の呼びかけによって一時解散。艦娘達は納得いかない表情や少々怯える表情しながら持ち場に戻っていった。提督達は定食を受け取り、二階のテーブル席にて夕飯を取る。
「ギャハハハハハハハ!!! お前食べられねぇのか!! コレが!? 甘くて美味しいコレがァ!!? 残念だねぇぇぇ!!! とっても美味しいのに残すなんて!!! マジないわー、本当ないわー」
「別に笑わなくたって……!! その顔はぁぁ……!!」
提督の嘲笑った顔を見て、瑞鶴は手を震わせる。出てきた料理に嫌いな物が入っていたのか、傍に寄せたのを提督に見られて馬鹿にされていた。
「流石五航戦ね。だから勝てないのよ」
「アァ!? 何ですって!!?」
「言われてやーんの! 言われてやーんのォォォ!!!」
「うるさいわね!! 提督さんだって残してるじゃないの!!? 人の事言えないわよ!!!」
「好きな物は最後に残しておくというのを知らないのか!!? やばくないかオイ!! とんだ鳥頭だ!! 一度動物病院に行ってその小さな頭でも見られてくるといい! あまりの小ささに獣医も笑いを堪えるのに大変な事だろう!!! ブ~ハ~ハ~」
瑞鶴に煽るだけ煽りまくる提督。これだからこの男は性格が悪い上にうざい。もう慣れたのか周りは平然としている。まだ慣れない灰色は暴れる提督を説得し、まぁまぁと瑞鶴を窘めていた。だがしかし瑞鶴の怒り値は限界を突破する。
「あったまきた!! ぶん殴ってやる!!」
「ご馳走様でした」
「あ、こら逃げるなぁ~!!」
──執務室
「何の用だ……■■」
消灯時刻を超え、深夜の午前一時。執務室で一人、提督はある仕事をやっていた。静かな執務室にキーボードの打つ音が聞こえる。照明は消しており、パソコンのディスプレイが天井を淡く照らしていた。
その時、執務室のドアからノックする音が聞こえる。中に入ってきたのは■■だ。
「少しお話しませんか? 顔を合わせて」
「……悪くない」
提督は一時仕事を中止し、応接間にてインスタントコーヒーを淹れる。提督と■■分を作り、コーヒーカップを■■に渡した。
「顔を合わせて話がしたいって事は今度は何を企んだのかな? 楽しみで仕方ないよ」
「もう少し待っていただければ直に来ますよ。それにその私達の企みも知っている上で貴方は対策を練ってきた……お互い様ですね」
「……だな」
どうやらお互いがこれから何をやるかはお見通しらしい。■■がこれから行う計画も、それに対抗するべく提督が練った対策も、両者共にどちらも把握済みだ。提督は黙って珈琲を啜り、ソファに寄り掛かる。
「今度は何がしたい?」
「貴方を殺します」
「どうやって?」
「そのくだらないプライドをへし折った上で数多の苦しみを与え続けながら少しずつ」
「教えていいのか?」
「教えた所で計画に影響はありません」
「出来るとでも?」
「出来るから言ってるんじゃありませんか?」
張り詰めた空気が執務室の中を満たしていく。両者火花を散らし、一歩も譲らない。相当提督が憎いのだろうか、■■から殺気が漏れている。
「……まぁ……楽しみにしてるよ」
「はい、是非ご期待下さい」
沈黙が続く。
話がしたいと言っても話題がある訳ではなく、お互い出方を探っていた。勝負の駆け引きは更にヒートアップしていく。そこで提督は少し話題性を変えて■■に話してみた。
「お前的にはどう思っている? 阿賀野や矢矧、あの軽巡棲鬼の事を」
「そうですね……正直な話、どうでもいい。というのが初発の感想です」
「殺伐としてるねぇ~、仲間内なのにも関わらず、いざこざな関係は個人で解決しろってか」
「あの軽巡棲鬼が前のノシロとはいえ、私には全く関係が無いので。どうもコメントしずらいところです」
自分は関係が無いから関わらない。至極当然の理由だ、その方がよっぽど安全だろう。だが提督ら■■の言葉に少し違和感を感じた。
「その口ぶりだと自分以外誰も信じてないって感じだな。差別してる側のリーダーはどうやら慈悲も欠けらも無いらしい」
「あら、貴方だってそうではありませんか? 今は違うかもしれませんが、着任仕立ての貴方の眼は……完全に私と
両者共に睨み合う。
蒼白く輝く眼と黒く光のない眼の視線が衝突した。
「……よく考えれば私達は同じ穴の狢かもしれませんね。自身の目的の為ならば他人を無理矢理行使する……他人がどうなろうが関係ない、自分さえ良ければ全て良し。いつまでも憎たらしい……支配者の眼です」
■■の言葉には若干怒りと悲しみを含むような感情が感じ取れた。
まるで前任を憎み、そして自分さえも憎んでいるような、後悔した声。
あえて提督はその事については何も言わなかった。
「……ここ最近は暑くなりそうだ」
「えぇ……そうですね……」
「この時期なんだろう、初めて
■■の頭が少しだけ動く。
しかし■■は動じない顔で答える。
「……? 仰っている意味が分かりません」
「それは本当か? 残念だな、折角話が出来ると思っていたのに」
「すいません、そういう手の話はよく分からないんです」
話を遠ざけようとするのが聞いて取れる。
あまりにも拒み過ぎて逆に怪しい。
「分からない、ね……そうやって現実逃避し続けると後でまた痛い目に会うぞ」
「ご忠告どうもありがとうございます」
「挙げる花は考えたのか?」
「何の話かさっぱり」
「何焦ってるんだ? 遠ざけてばかりじゃないか」
「焦っていませんよ」
「分かるぞー、大切な何かを失う気持ちぐらい」
ソファに再度寄り掛かり、耳の穴をほじくる提督。■■は負けじと答えた。
「あら、貴方にも人の心はあったんですね。関心です」
「そういうお前はその人の心を捨てられずにいるよな」
「人間離れした貴方には言われたくありません」
「そもそも人間じゃないお前にも言われたくない」
また沈黙が続く。
珈琲もすっかり冷めてしまったようだ。外から風の音がよく聞こえる。
「……少し眠くなってきました。お話はこれぐらいにしましょう」
「そうだな。夜も深くなるところだ」
「では……ご覚悟を」
「戦争もそろそろか……」
一番好きな結末は何ですか?
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ハッピーエンド
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バットエンド
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ビターエンド
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メリーバットエンド