うざい提督とブラック鎮守府   作:あばずれ

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99. 馬鹿って言った方が馬鹿というこの世の不条理

「阿賀野姉……」

 

 阿賀野と矢矧は部屋でずっと閉じこもっている。沈んだノシロが深海棲艦として蘇り、聞いた事のない真実を聞かされた。

 

 嘘だったのだ、能代は矢矧を庇って沈んだのではない。力不足という理由で放棄する為に沈めたのだ。あまりにも残酷、且つ卑劣。そんな根も葉もない理由で艦娘が艦娘を見捨てるなど言語道断だ。

 

 だが矢矧はそれを忠実に行い、阿賀野に嘘をついていた。能代だけではない、酒匂でさえも同様の理由で沈んだ可能性すらある。何故姉妹をいとも容易く見捨てられるのか阿賀野には理解出来なかった。

 

「その……何で──」「やめて」

 

 矢矧がベッドに寝込む阿賀野に近付き、何とか答えようと口を開いた。が阿賀野は矢矧の言葉を遮り、冷たい言葉で返す。その声は若干震えていた。

 

「今は話しかけてこないで」

「……分かった」

 

 阿賀野は泣いていた。

 

 妹が起こしてしまった罪と自分の不甲斐なさに。

 

 あの時、自分を犠牲にしてまで矢矧を止めていればまだ何とかなったかもしれない。例え自分が差別されても身を呈して動けば良かったのかもしれない。そういった後悔に押し潰されそうだった。姉として情けない、周りを止められる自信も無い。

 

 どれだけ自分が惨めなのかを思い知らされた。

 

「なんでよ……」

 

 

 

 

 ――朝九時。

 

「木曾、手合わせを頼む」

「了解した」

 

 鎮守府の港にて木曾と天龍が模擬訓練をやっている。互いに刀を構え、プリンツの合図の元に始まった。天龍の左手首に何か特殊な物を装着している。しばらくは警戒した方が良さそうだ。

 

「では……始め!!」

 

 笛が鳴る瞬間に二人は急発進。

 大きな水しぶきを上げて突進している。

 先制攻撃は木曾。わざと海水を斬り上げ、水の壁を作った。

 天龍は跳躍して水の壁を越える。

 真下には砲口を上に向けた木曾がいた。

 

「掛かったな!!」

 

 真上の天龍目掛けて砲撃。

 しかし天龍は身体を捻って砲弾を躱す。

 そして木曾に向けて砲撃。反動で着地地点をずらし、事前に撃たれた木曾の魚雷を回避する。

 

 天龍はまたもや突進。身体を回転させ、刀を一気に振り下ろす。

 木曾は攻撃をサーベルで受け止めた。

 衝撃で海水が散り、水柱が上がる。

 

「腕を上げたのはお互い様のようだな木曾……!」

「同感だ……フンッ!!」

 

 木曾は天龍ごとサーベルで押し上げ、回し蹴りで蹴り飛ばす。天龍は受身を取って着地、そして急発進。木曾と衝突し、剣戟が始まる。

 

 互いに一歩も譲らない。

 刀身は軽くとも一撃が重い天龍の大太刀、刀身が軽いが故に突き技の威力が高いサーベル状の剣。

 勿論模擬訓練なので峰で当てて戦っている。だがそんな事など一切感じさせず、二人はぶつかり合った。キーンと高い金属音が鳴り響き、擦りあった火花が周囲に飛び散る。手加減など不要、ただ目の前にいる相手を倒すのみ。互いに剣技を駆使し、相手を追い詰める。

 

「ッ!!」

「甘いぞ天龍!!」

 

 カウンターで天龍のサーベルを弾き返し、回し蹴りをする木曾。

 しかし回し蹴りはフェイントだ、本命はサーベルが残っている。このままではサーベルにまともに当たってしまう。が──、

 

「何ッ!?」

「もらったッ!!」

 

 突然天龍が跳躍し、サーベルを回避。

 身体を縦に回転させ、木曾の真上にて刀を振り下ろす。

 二人を囲うように水柱が上がり、爆発音の様な音が響き渡る。

 

「なるほど……その左手首の細工は何かしらの跳躍装置というわけか……!!」

「こいつに慣れるまで何十時間掛かったんだ……もう完璧に扱える!!」

 

 木曾のサーベルに乗りかかり、刀で押すのをやめない天龍。

 しかし木曾は天龍に砲口を向けて零距離砲撃。咄嗟に反応した天龍は砲弾を回避、身体を回転させて着地する。

 

「……悪くないなその跳躍装置。俺も一度試してみたい」

「あまりおすすめは出来ないけどな、反動が物凄いしよ」

「大丈夫だ、お前より早く慣れてやるさ」

 

 また剣戟が始まった。その様子をプリンツが睦まじそうに眺めている。あの二人は確実に成長しており、即戦力になる事間違いなしだろう。

 

「もう扱える様になりましたか、天龍さん」

「あら明石さん、観戦してたんですね」

「そりゃ勿論。データを取らなければより良いものは作れませんからね」

 

 明石が岸辺にてメモを書いている。双眼鏡のような眼鏡を装着し、木曾と天龍の剣戟をまじまじと観戦していた。天龍が小型ジェット噴射器を使う度、素早くメモに書き写している。

 

「今あの装置はどれくらいの完成度まで?」

「概ね八十%近く。まだ最終調整が必要な状態ですね」

「それは良かったです。私も少し試してみたいので」

「完成をお待ちしていただけたらと思います」

 

 明石は笑顔で答えた。彼女自身は開発するのは大好きな為、期待してもらえれば伸びるタイプでもある。ただ頑張り過ぎて徹夜するのは少し疑問ではあるが。

 

「そういえばAdmiralはどこへ?」

「提督なら食堂の厨房にいるって聞きましたね」

「あら珍しいですね、Admiralが厨房に行くなんて」

「そうなんですか? 普段は滅多に無い事で?」

「そうですね、Admiralはあまりそういう所には行きたがらないんですよ」

 

 

 

 

 

 ──食堂、厨房内。

 

「提督ぅ! 何してるのー?」

「色々」

 

 厨房にて提督が作業をしていた。鳳翔は加賀達と弓道の訓練中、間宮と秘書艦の五十鈴が厨房にて提督の事を物珍しそうに見張っている。そこに気になって入ってきた島風が提督に絡んできた。

 

「何これー? ネバネバしてるー」

「水飴だ、なめると甘い液体」

 

 銀のボウルに入った水飴を掻き混ぜていた提督。水飴はドロドロと粘着性があり、不透明で気泡が入り混じっている。水飴が入ったボウルの周辺には水飴の瓶が四つ、それぞれ違う味らしく接触は厳禁。しかしボウルの中に入った水飴ならと提督は指で水飴を付着させ、島風の口の中に誘い込む。

 

「はむっ……あっまーい!! もっとやってー!」

「犬かお前はァ!! 人の指を嘗めまくるのはやめろ!!」

 

 指についた水飴を舐め切ろうと島風は提督の指を必死に舌で舐め取る。提督は島風の頭を抑え、島風から指を離す。そして水道水で唾液で濡れた指を懸命に洗い流した。

 

「えー失礼だなー提督ぅー。そんなに私の涎が汚い?」

「当然だ、何億個の細菌が口の中で動いてんだぞ。洗うに決まってるだろ」

「素直に酷い」

「提督が厨房にいるのは珍しいですね……」

「あれ? じゃあ提督ぅー、仕事は?」

「俺のは終わらせた、後は灰に任せている」

 

 提督はいち早く仕事を終わらせ、厨房に来たようだ。秘書艦である五十鈴も少し遅れて仕事を終わらせ、提督の後を追っていたらしい。

 

「この水飴で何か作るのー? これは何ー?」

「質問を重ねるな露出バニーガールめ。こっちは高級な水飴、今お前に味見させたのが普通の水飴だ」

「高級なものもなめてみたーい!」

「駄目に決まってるだろ!! お前はさっさと訓練に行ってこい!! えーっと……これだな」

 

 島風が頬を膨らませ、ぶーぶーとブーイングしている。

 しかし提督はそんな事など全く気にせず、周辺に置かれた水飴が入っている瓶を取り出す。長いスポイトで少しだけ中身を吸い取り、ボウルに入った水飴の中に挿入する。

 

「あっ、提督の……挿入ってきた……」

「紛らわしい事を言うなァァ!!」

 

 隣でふざける島風の頭を鷲掴みにし、怒鳴り吠える提督。頭をグリグリと拳で押し付けた。耐えれない激痛に島風は悶絶する。倒れる島風を放り投げ、提督は作業を再開した。ボウルの水飴を更にまた掻き混ぜていく。

 

「もっと……もっと私のナカをっ、掻き混ぜっ……てっ」

「そこっ、そこがいいのぉぉ……」

 

 今度は鹿島が提督をからかう。

 提督は一旦作業を中止、即座に島風と鹿島を追い掛けた。二人は全速力で提督から逃げようと必死になっている。提督は無言でその後を地の果てまで追い掛けた。

 

 約十分が過ぎ、提督が息切れしながら厨房に戻ってきた。よく見れば食堂のテーブルには縄で拘束された島風と鹿島が気絶したまま放置されている。流石にキレたのか、何か悍ましいオーラを感じた。

 

「間宮、ちょっと味見してくれ」

「え……は、はい!」

 

 そんな中提督が間宮を呼び出し、水飴の味見をさせた。スプーンで水飴を掬い、口の中に入れる。何も変わらない、ただの甘い水飴だ。

 

「普通の水飴……ですね」

「そうか。んじゃこれを料理に入れる事は出来ないか?」

「りょ、料理にですか? うーん……そうですね……大学いも辺りなら出来なくもないんですが……」

 

 間宮が戸惑いながらも丁寧に例を挙げながら答えた。確かに水飴を使った料理はいくつか存在する。別に難しい事ではない。

 

「なら構わない。自由に入れてくれ」

「分かりました……っ……あの!」

「何だ?」

 

 間宮は何か言いたげそうに提督に話しかけた。しかし突然返事をした提督に驚き、言葉が詰まる。頭の中で考えていたやりたくて言いたい事を忘れてしまった。

 

「あ、いえ……何でもありません……」

「そか。おーい五十鈴ー、片付けるから少し手伝ってくれー」

「私もやるのー!?」

「秘書艦なんだから当然だろうがよ、胸デカイんだから腕もあるだろ」

「何その偏見、馬鹿じゃないの」

「うっせえんだ馬鹿って言った方が馬鹿なんだよバーカバーカ! 早く手伝え!」

「んだとコラァ!!」

 

 提督と五十鈴の会話が聞こえなくなる程、間宮は悩んでいた。間宮はそれほど料理の腕は上手くない。どちらかというと和菓子やスイーツ系が得意分野だった。前任の頃はそういった贅沢品は艦娘に食べさせる事は許されず、甘い物が嫌いだからという自己中心的な理由で作る事すら許されなかった。

 

 だが今は違う。提督はやりたい事さえ言えば必ず手伝ってくれる人だ。お店を持ちたいという欲望を叶えてくれるかもしれない。お店さえ持てば艦娘達にたらふく甘い物を食べさせてあげられる。しかし初めて会った時から提督が怖くて、顔を合わせば緊張で言葉がどうしても詰まってしまうのだ。

 

 つい先程もある事をいきなり思い出して、勇気を出して言おうと思っていた。

 

 

 

 かつては自分のお店があった事を。

 

 

 

「言えたら……いいなぁ……」

 

 

 

 そんなアテもない他人任せの願望を呟き、間宮は普通な毎日を過ごしている。

 

 

 

 

一番好きな結末は何ですか?

  • ハッピーエンド
  • バットエンド
  • ビターエンド
  • メリーバットエンド
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