Ultraman G ーto come again ー   作:マイケル社長

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第2話 漂流 -Exileー Ⅳ

~石川県珠洲市 UMA日本支部 中央司令室~

 

 

 

ひととおりの用意を終え、剣太郎は司令室に戻ってきたスキョンと護に、自慢のベトナムコーヒーを振舞っていた。

 

「すごーい!なんとも言えないコクと香り!」

 

スキョンが感嘆の声を上げた。

 

「ホントうまいです!剣太郎さん、ベトナム行ったことあるんですか?」

 

護が訊いてきた。

 

「ああ。地下格闘技やりながら、世界一周してたんだけど、あっちこっちでいろんな料理とか教えてもらったんだ。これは、ベトナムで会得した特技のひとつだ」

 

「へえー!いいなあ。もう世界一周なんてできないですもんねえ」

 

言いながら、護はコーヒーを口にした。

 

「ねえねえ剣ちゃん、他にどこ行ったのぉ?」

 

「世界全部の国だ。マジで」

 

「「ええー!!」」

 

3人で盛り上がっていると、戦闘時着用する特殊素材で仕立てられたUMA専用のフライトジャケットに身を包んだ榛香が入ってきた。

 

「あ、榛香さん☆」

 

「おう、二階だっけ。君も、飲むか?」

 

カップにコーヒーを注ごうとした剣太郎の手を、榛香は止めた。

 

「三堂、この出動終わったら、格闘訓練やらせて」

 

体格的に標準的な日本女性の身長を持つ榛香は、上目遣いで睨むような強い視線を剣太郎に向けた。

 

「いや、やめとく」

 

言うと剣太郎はコーヒーを飲み干し、マグカップにお代わりを注いだ。

 

「やらせて。今度は負けない」

 

コーヒーに注意を向ける剣太郎の視界に、榛香は身体を食い込ませる。

 

「なあ、言っただろ。オレは訓練でも女性を殴る趣味はねーし、自分より弱い奴とは手合わせをしない」

 

「ふざけないで!女だからって遠慮しなくていいから。あたし、負けたくないの」

 

次第に声を強める榛香に呼応するように、剣太郎の顔からも笑みが消えた。

 

「いや、お前はオレに勝てない。わかるんだ。だからやめとけ」

 

背を向けてコーヒーを飲もうとする剣太郎の肩に、榛香は手をかけようとしたが、剣太郎は後ろを向いたまま、その手を払った。

 

「いま、お前は純粋に手が出た。人間の動きで、思考を上回る身体の動きってのが一番早いんだ。オレはその手を払いのけた。そういうことだ。何度やっても同じだ」

 

榛香は全身が硬直し、次いでわなわなと震えながらうつむいた。

 

「コーヒー冷めちまった。暖めなおしてくる」

 

そういって司令室を出る剣太郎。震える榛香に、気まずさ全開のスキョンと護は顔を見合わせた。

 

「あ、あのう榛香さん・・・」

 

どうにか励まそうとしぼり出すように声をかける護だったが、「うるさいッ!!」と強く一喝されてしまった。

 

あまりの迫力にスキョンと護は身体に電撃が走ったようにビクついた。うつむいたまま司令室を出る榛香と入れ違いで、何かを話しながら冴島と陽次朗が入ってきた。

 

「おい、榛香どうしたんだ?」

 

陽次朗が訊いたが、どう返事をすれば良いのかわからず、スキョンと護は沈黙した。

 

「というか・・・誰だ、司令室でコーヒーなんか淹れたの?」

 

陽次朗は露骨に鼻をつまんだ。カフェイン入りの飲料全般が苦手なのだ。

 

「うん、良い香りだ。ベトナムコーヒーだな」

 

対照的にコーヒー好きな冴島は、匂いだけで言い当てた。

 

「剣太郎だな。こんな美味そうなコーヒーを淹れるとは。私の分もあるかな?」

 

何やら呑気なことをしゃべる冴島に怪訝な顔をするスキョンと護だったが、「だが時間の経った香りもする。コーヒーを一度冷ますほど、おしゃべりに夢中だったようだな」と言う冴島に、目をパチクリさせた。

 

「えーっとぉ・・・」

 

「なんというか・・・」

 

説明しようとするスキョンと護を、冴島は制した。

 

「剣太郎と榛香だな」

 

「隊長、あの二人、というか剣太郎、かなり問題です。奴が来てから、UMAの秩序が大きく乱れてます。榛香もずっと機嫌が優れない」

 

食い下がってきた陽次朗に、冴島は笑みを投げかけた。

 

「ずいぶんと榛香は、剣太郎を意識してるようだな」

 

「そりゃあ、UMA最強の格闘術を持つ榛香があっさり負けたんです。おまけに、これは榛香が話していたことですが、剣太郎の射撃やハマー操縦の訓練スコアですよ。入隊後の記録によれば、いずれも榛香が入隊したときのスコアを上回っているんです。あいつ、自分のプライドを打ち砕かれたようなものですよ」

 

「それだけ優秀な男が来てくれたんだ。歓迎すべきだと考えてはどうだろうか」

 

「そっ・・・それはそうですが・・・」

 

「それに、いまは出動のブリーフィングが先だ。隊員同士の個人的な諍いはひとまず置いておくとしよう。全員に招集をかけてくれ」

 

 

 

 

 

 

自室に戻った榛香は、デスクにつっぷした。

 

悔しさともどかしさがひどく渦巻いていた。

 

イラついていたとはいえ、護を怒鳴ってしまったことはもうしわけないし、何より、剣太郎のことだ。

 

半ば自分でも、理解はしていた。剣太郎は自分よりも強いと。

 

だがいままでの榛香のキャリアを鑑みれば、とても素直にそう認めることができなかった。

 

そしてそんな自分にもっとも腹が立った。

 

気づかぬうちに、涙が出ていたらしい。榛香は涙を拭うと、スマホの写真を眺め見た。

 

小学、中学、高校と空手、少林寺拳法の全国大会で優勝したときの写真。大学時代、グレイシー柔術の遠征でブラジルやメキシコへ出かけたときの写真。

 

あの頃はまだ自由に海外へ渡ることができたし、日本より治安の悪い国もあったが、少なくとも国そのものは存在していた時代だ。

 

あのとき交流があった外国の柔術家や学生たちは、いまも元気に生きているだろうか・・・。

 

だが、悲しみと思い出に浸る時間はなさそうだった。招集を報せる通知があった。

 

榛香は涙を拭うと、自室を出た。ほのかに、廊下に香しいコーヒーの香りが漂っていた。

 

 

 

 

 

〜長野県北部 九郎ヶ岳 西日本電力第四地熱発電所建設地〜

 

 

発電所建設のために切り開かれた殺風景な瓦場台地の先には、山を崩さなければそうであったはずのブナ林が広がっていた。

 

その一角、建設地を仰げる高台には即席のテントが仕付けられ、iPadにもなるラップトップが並ぶ他は質素な造りの前線基地が設けられていた。

 

そして建設予定地付近、すなわち先日来熱水の噴出が相次ぐエリアでは、迷彩服に身を包んだ日本国防軍の特殊作戦部隊が数名、テキパキと作業をしているのが見えた。

 

テントに集まったのは陽次朗に榛香、護とスキョンに剣太郎だった。冴島は基能登半島の基地から司令を下す役割だった。

 

「あれ見てみろ。欧州統合軍が開発した、対怪獣戦用の指向性大型爆弾だ。アレを怪獣が踏むと、怪獣に向けて衝撃波を集中させた爆発が起こる。威力集中型だから、浴びせられた方はたまったものじゃない」

 

国防軍が作業する様子を見ながら、陽次朗が解説する。

 

「しかし、おい、せっかくのオレの初陣だってのに、オレたちは国防軍のサポートかよ」

 

やや冗談めかして、剣太郎が肩をすくめた。

 

「日本初の怪獣戦闘をオレたちに取られて、国防軍も存在感アップに必死なんだ。彼らの気持ちもわかってやれ」

 

ややムキになって反論する陽次朗に「お前のそういうマジになりやすいとこ気にいったぜ」と皮肉半分に剣太郎は返した。

 

冗談を解さない陽次朗は青筋を立てたが、怒りを抑えながら口を開いた。

 

「いいか、もう一度確認だ。国防軍が指向性爆弾を設置次第、ギールの潜む地下空間に気化爆弾が流し込まれる。爆発のショックで地上へ現出したところへ、オレたちがハマーと地上の双方でギールを地雷区域へ誘導する。あとは、巨体に反応する爆弾が連続してギールに炸裂する。いいな?」

 

そんなことわかってる・・・陽次朗以外の全員が言いたかったが、ここは押し黙った。

 

ちょうどそのとき、国防軍から指向性爆弾設置完了の合図が出された。特殊部隊の面々が撤退していき、工兵を乗せた別の車両が立坑がそびえる付近へ走り、地下へ向けて気化爆弾を流し込んでいく。

 

「よし、作戦開始だ。護、オレとハマー1号機へ。榛香は2号機を頼む。スキョンはここで定点観測だ。で・・・剣太郎、お前本当に地上の誘導任せて大丈夫なんだな?」

 

陽次朗は鋭い目を剣太郎に向けた。

 

さきほど基地内でブリーフィングの後、剣太郎は格納庫の傍らにあるUMA専用のバイク、通称チョッパー(ホンダ・スーパーボルドール)に注目した。

 

「オレはバイクが良い。昔バイクでインドからサウジアラビアへ走ったし、一番気分が乗る。それにオレは医者だ。チョッパーて名前、他人とは思えなくてな」

 

そう言ってきかなかったのだ。

 

「機体に好みは禁物だ!」と陽次朗は強く抗議したが、山岳地帯という地形条件を鑑みれば、UMA車両であるサルトプス(日産エクストレイルを改造)よりはチョッパーの方が走破性が良い。また4足歩行で頭部が低い位置にあるギールには、地上からの陽動も有効という結論に至った。

 

「任せろって。カラコルム山脈に比べれば、険しさは初心者コースだ」

 

ドン、と胸を叩く剣太郎に、フン、と陽次朗は鼻を鳴らした。

 

「よし、作戦開始だ」

 

陽次朗は護を連れて、近くに駐機してあるハマー1号機へ向かった。連れられる護は「2号機が良いのに・・・」と目が物語っていた。

 

ヘルメットをかぶり、榛香は目線を剣太郎に向けた。剣太郎は気が付かないのか、レーザーライフルのエネルギーをチェックしている。

 

顔を背け、榛香は2号機へ走った。

 

「剣ちゃん、気をつけてね」

 

テントから、スキョンは声をかけた。

 

「おう。スキョンもな。ここまではやって来ないと思うが、念のため、な」

 

言うと、剣太郎はチョッパーのエンジンをかけた。

 

立坑からやや崖寄りから猛烈な土煙と爆音が上がった。

 

続けて地面が盛り上がり、雄叫びを上げながらギールが地上に現れた。

 

「大人しく眠っててもらいたかったぜ」

 

剣太郎はつぶやくと、テントから伸びるなだらかな崖をチョッパーで一気に駆け下りた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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