Ultraman G ーto come again ー 作:マイケル社長
~福井県美原市 越前丹後 食堂『清山』~
「うま!うま!」
ザッパザッパとあら汁を掻き込むと、剣太郎はどんぶり一杯に盛られたツヤツヤのコシヒカリを口に入れる。
「コメもうめぇ!」
口いっぱい頬張る剣太郎を、にこやかに見遣る女将の清山敏美。
「あんた、本当に美味しそうに食べるんだねえ。作り甲斐あるわあ」
そう言うと、おかわりであら汁をわけて寄越した。
「もうね、あんたの姿見てるとサービスしたくなっちゃったよ。ほら、どうぞ」
「おお!女将さんありがとう!何杯でも食えるぜ」
おかわりも平らげようとする剣太郎の向かいに、敏美は座った。
「おばちゃんよぉ、おかわり分も勘定払うよ。全部でいくら?」
さすがに気が引けてきた剣太郎は財布を出したが、敏美は剣太郎の手を抑えた。
「いいんだよ。こんなに美味しそうに食べてくれたんだもの。それに、あんた見てると、なんだか息子を思い出してきちゃえてねぇ・・・」
ふくよかな顔に浮かんでいた微笑みに影が差した。剣太郎は噛み砕いたエビの殻を飲み込んだ。
「息子さんは、どっかいるのか?都会に出てるとか?」
そう訊くと、敏美は首を横に振った。
「うちの旦那も息子も漁師でねえ。親子して漁に出てたんだけど、ほら、3年前の【蜂起の日】だよ。ヨーロッパやアメリカなんかと違ってアジアはほとんど被害出なかったけれど、日本海にゲスラが逃れてきたでしょう。あのとき、ゲスラが泳いだことで波が高くなって・・・運悪くうちのと息子の船が巻き込まれてね」
悲しそうに笑った敏美の目に涙が浮かんだ。言われてみれば・・・厨房の奥に、そっくりな男性2人の写真が掲げられている。
「おばちゃん、悪かった。オレ無神経なこと訊いちまって」
「いいえぇ。こうして元気に働くことが、2人の供養になると思ってがんばってるんだよ。気にしないでいいよ。でも、ねえ・・・」
また表情が陰った。
「ここんとこ、ずっと不漁でねぇ。町の漁師たちも仕事なくて外へ出ないで呑んだくれてるし、町の活気もなくなっちゃって。いつまで商売続けられるかわかんないんだよ。早いとこ、漁が再開してくれると良いんだけどさ」
深刻そうにぼやいたが、気を取り直したように顔を上げる敏美。
「やだよぉ、ごめんね隊員さん。こんな湿気っぽいこと。ささ、もっと食べて良いよ」
無理に笑顔を作ったようだ。顔を背けたときに目を拭ったのを、剣太郎は見逃さなかった。
「おばちゃん、オレさ、いまその不漁の原因調べてんだ。きっと何か原因があるはずだから、オレたちが突き止めてやるよ。よし!景気づけに、もっとおかわり!」
剣太郎の威勢に、少しは元気を取り戻してくれたようだ。敏美は顔をくしゃくしゃにして、あら汁をわけて寄越した。
入り口の引き戸が引かれた。
「あら辰三さん。辰也は?」
辰三さん、と呼ばれたヤッケ上下の男性は、面白くなさそうに無言で腰を下ろした。
「あんのバカ息子なんか、どうにでもなっちまえってんだよ。敏ちゃん、酒くれ酒!」
「んもう、あんたらは漁出れないからって呑んでばっかり」とぼやきつつ、敏美は一升瓶を持ってきた。
「おっさん、ちょっといいかな?」
剣太郎は席を立ち、辰三の向かいに座った。訝し気に睨みながら、コップに酒を注ぐ辰三。
「さっき、あんたの息子がここ飛び出したとき、危うく轢くとこだったんだ。別に怒ってるワケじゃないが、そのことで話をしたいんだ」
ギロリと剣太郎を睨むと、酒臭い息でまくし立てる。
「あんな野郎、いっそ轢いてくれてよかったんだがよ!」
「おい、そりゃないだろ。あんた実の息子だろうが」
「うるせえぞ、おい!お前この辺の野郎じゃねえな。おお、そのバッジはUMAだな?いいからさっさと怪獣の一匹でも二匹でも仕留めやがれ」
カチンときた剣太郎だったが、軽く深呼吸した。見かねた敏美が厨房から出てきた。
「辰三さん!うちのお客さんに何てこと言うの!」
ケッ、と声を出した辰三はコップ酒をあおると、乱暴に一升瓶を注いだ。
「ごめんねぇ」と言う敏美。
「気にしなくて良いよ。おっさん、息子の行先知らねえか?」
「知らね。その辺りでくたばってりゃ良いんだよあんな野郎」
グビグビと日本酒を飲み干す辰三。
「ごめんください」
入り口から誰か入ってきた。
「あら~、坂本先生」
敏美が駆け寄った。
「辰也は、来てませんか?」
坂本と呼ばれた男が訊くと、敏美は辰三を見遣った。すべてを察したように頷くと、坂本は辰三に近寄った。
「辰三さん、昨日も電話で話しましたけど、やっぱり辰也君、演習に・・・」
コップが叩き割れんばかりにテーブルに置かれ、坂本は二の句が継げなかった。
「うるせえんだよ!先生、さっさとアイツ退学させてくれよ。あのバカにこれ以上勉強させても意味がねえ。授業料の無駄遣いだ」
帰るぞ、と小銭をテーブルに放り投げると、辰三はズカズカと出て行った。
「弱ったなあ・・・」
坂本は力なく椅子に座った。水を持ってきた敏美が「あの親子にも困ったもんだよねえ」とぼやいた。
「あのう、口挟むようだけどさ」
剣太郎は坂本に言った。
「さっきひょんなことから知り合ったんだけど、いったい何がどうなってるんだ?」
「僕から説明しますか。UMAの方ですね」と坂本は言い、名刺を差し出してきた。ウィンドブレーカーにネクタイといういでたち、見るからに学校の先生といった風貌だ。
「私、美原水産高校で漁船運用を教えている坂本と申します。息子さん、辰也くんの担任です」
「オレは三堂剣太郎。UMA日本支部所属だ。なあ先生、さっきの話だと、辰也って子は学校退学になるくらい出来悪いのか?」
「とんでもない!」と坂本は大げさに手を振った。
「辰也君は、うちの生徒の中でもズバ抜けて操船、機関運用の成績が良いんです。魚類生態や水産の知識も豊富です。お父さんの辰三さんの息子さんだけのことはあるんです」
「あれでもね、辰三さんは丹後漁港の漁師頭なんだよ」と敏美が捕捉した。
「うちの学校では外洋演習といって、希望者のみですが3カ月の遠洋訓練を行うんです。漁師を目指す生徒に勧めてる演習なんですが、特に辰也のような知識と技術を持つ子には是非とも参加してほしいんですよ。最初は彼も、演習に参加する気でいたんですけれど・・・」
そこで言い淀んだ坂本は、どこまで話して良いものかと敏美を仰いだ。
「来週、辰也のかあちゃんの13回忌でね。辰三さんは演習に出ないで、辰也に居てほしいんだよ」
「そこでどうして揉めるんだ?」
剣太郎が訊くと、敏美も坂本もため息をついた。
「辰也も、難しい年頃でしょ。ここんところ親子の会話がほとんどないから、辰三さんは法事の準備を一緒にやって辰也との距離を縮めたいらしんだよ。ところがあの通り、素直じゃないし意固地だから。4日前だったねぇ、頭ごなしに『演習なんか行くんじゃない、母ちゃんの法事も出ねえなんてこの親不孝者!』なんて叱っちまったものだから・・・」
「辰也も頭に来たんでしょうね。2日、無断欠席したんです。こちらの清山さんがうちに入り浸っているって連絡をくださったので、私も話を聴きにここへ来ていたのです。ところが、辰也、学校へ行ったフリをしていたんです。ここで話を聴いているのを、昨日たまたま通りかかった辰三さんに見つかってしまって・・・。学校行く気ないならもう辞めろ、さっさと漁師を継げ、と大騒ぎになってしまったんです」
「呆れちまうよねぇ、飲んだくれて酒なくなったから買いに出てきたときに会っちまったものだから、酔った勢いで大ゲンカ。しょうがないから、辰也を昨日うちに泊めてたんだけど、退学しに行くぞって連れ戻しにきたんだよ。また大ゲンカになって辰也が飛び出しちゃって・・・それがさっき」
大きくため息をつく坂本と敏美。
「親子なのに、そんなにケンカするんだなあ」
剣太郎はぼやいた。不思議そうに坂本と敏美は剣太郎を見た。
「先生なあ、オレも辰也に用事があるんだ。探すの手伝うよ」
「忙しいのにもうしわけない、そうしていただければ・・・」
坂本は頭を下げたが、敏美は剣太郎が辰也を探す理由を話すと、微妙な顔つきになった。
「勘違いしないでくれよ、何も捕まえて説教しようってことじゃない。辰也が本当はどうしたいのか、オレも気になってきたんだ」
「気持ちは嬉しいんですが・・・あの、UMAの方がそもそも、どうしてここに?」
坂本が訊いてきた。
「うちでも不漁の原因を調査してんだよ。まあ各所の定点観測による水質調査も、今のとこ特に異常ないんだけどな。残りの調査がてら、辰也も探すよ。先生も、もし変わったことあれば教えてくれよ」
そう言うと、「おばちゃん、ご馳走さん。うまかったよ」と勘定を済ませ、外に出ようとした。
「そういえば」と、坂本がつぶやいた。
「変わったことというのか・・・ここ最近、波の花が現れるんです」
「何だいそりゃ?」
足を止めた剣太郎に、坂本はスマホの画像を見せてきた。
「海面に浮かぶこのメレンゲ状の白い泡がそうですよ。海面が強い風と波にさらされることで作り出される現象なのですが・・・」
「おう、それがどうかしたのか?」
「通常、11月から3月の厳冬期に見られる現象なんです。日によって肌寒い日があるとはいえ、5月近くに観測されるのは珍しいので、写真に収めていたんですよ」
「ほう・・・先生、差支えなければこの画像いただけないかい?オレあんまり詳しくないが、うちに海洋学詳しいコいるから訊いてみるよ」