Ultraman G ーto come again ー 作:マイケル社長
〜福井県美原市 越前丹後4丁目〜
坂本教諭から教えてもらった住所を頼りに、剣太郎は狭い路地を低速で進み、目当ての住宅でチョッパーを止めた。
古い市営住宅とのことだったが、瓦屋根平屋の住宅は築40年は経過していそうな装いだった。縁側に趣味なのか5つの鉢が並べられ、小さなきゅうりが実を作っている。
昨今の不漁で仕事にも出ないから、おそらく自宅にいるはずだと坂本教諭には言われていた。たしかに駐車場には軽トラックが1台、止まっている。
「気難しい人ですから」
そう、坂本教諭が話していたことを思い出しながら、剣太郎はヘルメットを脱いで住宅の玄関に立った。呼び鈴などと洒落たものはなく、ガラス戸を引くのみらしい。
「ごめんくださーい」
声高らかに家の中へ呼びかけるが、反応がない。ガラス戸は鍵がかかっておらず、建付けが良くないのか引き戸の響きが手に伝わる。
「ごめんくださーい!」
もう一度呼びかけると、玄関から続く廊下の奥からガサゴソと物音がした。やがてくたびれたヤッケ姿の男性がぬうっと顔を出した。
「宅見さん?オレUMAの隊員で三堂剣太郎ってんだけど、高校の坂本先生から・・・」
だが宅見はギョロりと剣太郎を睨みつけ、だいぶ禿げ上がった頭を近寄せてきた。
「UMAだぁ?てめえ、てめぇもどうせオレの話笑いにきやがったんだろが」
近づいた顔からは、だいぶ酒の臭いがする。
「い、いやそういうんじゃなくてさ」
「怪我しねえうちに帰れよ、このガキが」
まるで取りつく島もなく、宅見は戸を閉めてしまった。怪我しねえうちに、と言われて思わず昔の血が騒いだ剣太郎だったが、酔っぱらいの親父相手にケンカをふっかけに来たワケではない。ひとまずどうしたものかと思案したが、廊下に並んでいた酒瓶の数々を思い出し、再びチョッパーにまたがった。
しばらくして、剣太郎はもう一度宅見の家を訪れた。
「宅見さーん、宅見征三さーん?」
大声で玄関を開けると、宅見は顔を真っ赤にさせてズカズカとやってきた。
「この野郎!」
怒声を浴びせてくる宅見に、剣太郎は近所の酒屋で買ってきた地酒を突き出した。
「あんたと、酒を呑みたいんだ」
それからややあって、座敷に通された剣太郎は宅見に湯飲み茶碗へなみなみと地酒を注がれていた。
「いやあ兄ちゃん、あんたみてぇに話のわかる若ぇモンは初めてだ!どだ、うちの漁協に来ねぇか!?」
「それいいなあ!そしたらオレおっちゃんの船に乗せてくれよ!」
「ガハハっ、オレの操船は粗いからなぁ、ゲロ吐くなよぉ!?」
「よぉしおっちゃん、いまから吐く練習だ!どんっどん呑もうぜ!」
大笑いしながら、剣太郎は宅見の茶碗に返杯する。
実は酒屋へ着いてから、坂本教諭に電話して情報を得ていた。
「あれ以来、宅見さんもすっかりふさぎ込んでしまって・・・。本当は寂しいんだと思うんですけど、越前丹後の男衆らしく、なにぶんにも意固地な方ですから」
とのことだった。廊下にズラリと並んだ酒瓶がすべてを物語っていると感じた剣太郎の直感は正しかった。酒を一緒に呑むことで、宅見の心は間もなくほぐれた。
「おお、そろそろカニが茹で上がったろなあ。ちぃっと待ってろ」
台所から磯の香りがしてきたのがわかり、宅見は立ち上がった。冷凍にしてあるズワイガニを茹でてくれたのだ。
「ほれ兄ちゃん、一緒に喰うぞ」
茹で上がったズワイガニのようにすっかり赤くなった顔にいっぱいの笑みを浮かべ、宅見はズワイガニを振る舞い差し出した。
宅見に倣い、剣太郎もズワイガニの身をすすり出す。脚は比較的簡単だったが、前脚のハサミが固くなかなか身が取れない。
「ハハハ、どうれ、貸してみろ」
宅見は造作なくハサミをもぎとり、中の身を差し出した。
「おっちゃんすげぇな!一発でハサミが抜けたじゃねーか」
「カニはなあ、力じゃ抜けねえんだよ。いまみてぇにハサミの付け根んとこあるだろがいね?ここんとこひねり上げれば関節がスッと抜けて中身食えるんだ」
早速ハサミの身にしゃぶりつくと、これまで以上の歯応えと海の香りが剣太郎の口内を悦ばせた。
「いや~っ、たまんねぇな!カニはうめぇし酒もうめぇ!」
グビグビあおる剣太郎の茶碗に、宅見はお代わりを注いできた。
「ハハハハ!おめぇ丹後に来れば毎日コレ食えるぞぉ!」
グイっと茶碗をあおり、宅見はカニの脚をしゃぶった。
「なあおっちゃん、ここいらでオレに仕事させちゃくれねぇかな?」
宅見に返杯しながら、剣太郎は訊いた。
「おう、酒呑みながら仕事たぁ感心だな。仕事ってなんだ?」
「実はさ、ここんところ日本海一帯で不漁が続いてるだろ?その調査でここに来たんだけどさ。おっちゃん、魚獲れなくなってきた1カ月前、怪獣見たんだって?」
愉快に笑顔を浮かべていた宅見だったが、怪獣という単語を耳にして顔に影が差した。
「悪いとは思ったんだが、清山のおばちゃんと高校の坂本先生からあんたの話をきいてきたんだ」
「・・・おい、UMAの兄ちゃん」
酔いが醒めたように、宅見は低い声を出した。
「オレの話、信じろって方が無理かもしんねえけどな」
「オレは信じるよ。酒好きな男はみんな正直者だからな」
そう言って剣太郎は宅見の茶碗に日本酒を溜めた。ひとくちあおると、それを合図にしたかのように宅見は話し始めた。
「そう、あんときは桜が咲き始まった頃だったなあ。漁が思わしくない上折からの燃油代高騰だかで、漁協が漁の中止とかほざきやがって、機嫌悪いまま出航したときだ。案の定、なぁんにも獲れなくてなあ、そろそろ引き揚げっかと思ってたときだったなあ」
ひと息つき、また酒を含む。
「4月には珍しい、波の花がプカプカいっぺぇ浮いてきたんだ。風もたいして強くねぇのに、おかしいと思ってたらな・・・。見たんだよ、海の底にでっけぇカニみてぇな怪獣がいるのを」
剣太郎は口をはさむことはせず、宅見の目を見て頷いている。
「慌てて港へ戻ってよぉ、漁協と海上保安署に駆け込んだんだ。怪獣が海にいるぞってな。ところが、誰も信じやしねえ。どうしてかわかるか?レーダーにも魚群探知機にも、怪獣の姿が映らなかったからだ」
そう言う宅見の口調には、怒りと悔しさが滲んでいた。
「そりゃあなあ、操船しながらカップ酒あおったのは間違いねえよ。4月でも海は寒くてしょうがねえから。でもよ、酔っぱらって何かと見間違えたんだろって決めつけられたんだよ。そこからはいくら本当のことを話しても信じちゃくれねぇし、漁協の組合長からは、ただでさえ不漁なのにこれ以上悪い噂広まるのはよくねぇってんで、UMAにも通報しねぇことになったんだ。それからはもう、地元の奴らみんなオレを酔いどれだなんだ悪口言い始めてよぉ、情けねえ話、すっかりオレもふさぎ込んぢまってさぁ・・・」
涙声になって茶碗に伸ばした手を、剣太郎はしっかり握った。
「おっちゃん、話してくれてありがとな。オレ嬉しいよ、おっちゃんにとってつらい話だろうに、話してくれて」
そう言われ、宅見は目線を下にそらした。
「兄ちゃんよぉ、UMAなら、しっかり調査してくれんだろ?」
「もちろん。実はな、UMAでも調査進めてて、いまのところ怪獣がいる形跡は見つからねえんだ。でもきっと何か、ワケがある。おっちゃんの話聴いて余計にそう思ったよ、オレは」
ちょうどそのとき、剣太郎のiPhoneが鳴った。
「おっちゃん、ちょっとゴメンな」
座敷を中座して外に出ると、iPhoneの画面に顔を真っ赤にした陽次朗が映った。
『剣太郎!貴様報告もしないで何をやってるんだ!?』
「ああ、悪ィ悪ィ。調査長引いちまってな」
『河川のデータに問題はないから帰投しろと連絡したはずだぞ!グズグズしてないでさっさと本部に戻ってこい!』
「そうしてぇんだけど・・・酒呑んじまったからなあ・・・」
『・・・・なぁにいぃぃーーー!!??』
耳をつんざくような怒声が、インカム越しに伝わってきた。
『貴様!調査の途中で飲酒したのか!?』
「お、おう。調査進める上で必要だったモンで」
『剣太郎ぉ!!貴っ様ーーー!!』
怒りで茹で蟹にようになった陽次朗をどかし、榛香がモニターに映り込んだ。
『三堂、調査は遊びじゃないんだよ。帰投命じられてるのに従わず挙句に飲酒するなんて、あなた本当にUMAの隊員なの?』
口調こそ冷静だが、榛香の目には陽次朗のそれと遜色ない怒りがにじんでいる。
『そうだ!貴様軍法会議ものだぞぉ!』
怒りで食って入る陽次朗を、『ちょっとやめなよ、ここは軍隊じゃないんだから』と榛香が押し退けた。
「いやあ、悪かった。そう言われちゃそうだよな」
苦笑いする剣太郎だったが、当然そんなことで画面の向こうが落ち着くはずはない。
『反省して済む問題じゃないでしょ。あなたのしたことは処分対象に該当するの。身勝手な行動の代償は払わなきゃいけないんだよ』
「それもそうだけどよ、なあ二階。地元の人たちに話を訊いたんだが、怪獣の目撃情報や時節的におかしな現象があったって話もあるんだぜ。もう少しその辺・・・」
『だから!そんな調査は要求してないでしょ!!』
とうとう堪忍袋の緒が切れた榛香が怒鳴ったが、すかさず背後から冴島がやってきた。
『剣太郎、その話を詳しく聞かせてもらいたい』
戸惑う榛香を尻目に、剣太郎は坂本教諭や宅見から得た情報を話した。
『いい加減にしろよ、酔っぱらいの見間違えに本気になってるのか貴様は』
わきから陽次朗が口をはさんできた。
『剣太郎、もう1日だけそこで調査をしてほしい』
冴島の言葉に、陽次朗は鳩が豆鉄砲を食ったような顔になった。
『怪獣の目撃情報と、波の花について詳細を調べるんだ。どのみちチョッパーは運転できまい』
「おお!さっすが隊長さん!話がわかるねぇ!!」
『だから貴様!隊長には敬語を・・・!』
『頼んだぞ、剣太郎』
荒れる陽次朗を無視し、冴島は通信を切った。
「おい兄ちゃん、話してぇこと話してすっきりした、もっと呑むぞ」
玄関から宅見が声をかけてきた。
「おうとも!上司の許しももらったし、ガンガン呑むぜ!」
座敷に上がり、蟹をつまみに酒盛りの続きが始まった。
「おーい征三!回覧板持ってきたぞぉ」
誰かが玄関から声をかけ、勝手に座敷に上がり込んできた。
「おっ、テメェは!」
辰三だった。
「UMAの若造が何してんだ?」
「宅見のおっちゃんと仲良くしてたんだ。辰三さんだったよな、一緒に呑もうぜ」
戸惑う辰三に、剣太郎は座るように促した。