Ultraman G ーto come again ー 作:マイケル社長
~石川県珠洲市 UMA日本支部~
水産庁より「調査期限を延ばすことにも限界がある」と冴島を指名してウェブ会議開催を通知され、冴島は無表情で応じて別室へ足を向けたのは、21時をまわろうかという頃であった。
「いい加減アタマの堅い水産庁の連中にも腹が立つが、なによりも剣太郎の無軌道ぶりにはホント腹が立っていきり立つぜ」
陽次朗がそう吐き捨てた。
「期限を延ばす依頼を出したのはこっちだからね。お冠になるのも無理はないけど・・・」
口調こそ静かだが、榛香も語尾に怒りを滲ませている。こうして先輩二人が腹を立てているとき、余計なことを話してとばっちりを受けることのないよう、護は神妙な顔をしてモニターに顔を向けている。「お先に休みます」と言いたいところだが、スパルタな先輩二人に何を言われるか、わかったものではない(実際はそんなことを言うことはないが、必要以上に気を遣ってしまっている護であった)。
そしてスキョンはマイペースに、自身の動画編集を行いつつ、モデルの響乃安蘭が自身のメイク動画を参考にしたというSNS投稿に胸を躍らせている。
「まったく、何が現場を探れ、だよ。ただサボって酒飲んでるだけじゃねえか、剣太郎のヤツ」
憤慨しながら、陽次朗はコーラを一気に飲み干す。
「隊長も何をお考えなのか、さすがにわからないよね」
榛香もパソコンを叩きながら同調する。いい加減カフェインを摂取したいころだが、コーヒーが大の苦手な陽次朗に気を遣って何も飲まないでいる。UMAの業務自体は招集かからぬ限りフレックスに近い勤務形態なのだが、冴島と水産庁の会議が終わるまでは、各々残務整理をしたり、はたまたスキョンのように副業をやったりと、時間を持て余すように潰している。
すると司令室のドアが開き、通信担当の米山善吉が入ってきた。
「おお、みなさん。冴島隊長ですが、もう少し長引きそうなのでかまわないから休んでよい、ということでしたよ。遅くまでご苦労さまです」
白髪を短く刈り揃えた米山は、朗らかな笑顔と口調で告げた。雰囲気からして好々爺の通信担当隊員なのではあるが、時折元警察官特有の眼光と口調の鋭さを垣間見せることがある。
「米山さん、隊長のご様子はいかがでしたか?」
榛香が訊いた。護とスキョンは米山の言葉通り自室へ戻ろうとしていたが、榛香がそう話しかけたことで、いま少しその場に残ることにした。
「まあ、あちらさんにいろいろ言われてはいましたが・・・隊長にもお考えがあるようで」
たしかに、冴島はたとえ相手が国家であろうと自説や姿勢を曲げるようなことはしないが、今回はこちらから調査期限延長を申し出ている。相当タフな状況にあることに違いはないのだ。
「それにしても、米山さんも事情はききましたよね?あの野郎、いつまで現場にいて隊長にご迷惑かけてんだか・・・」
そう毒づく陽次朗を、「まあまあ」となだめる米山。
「いやあ、ねえ、剣太郎くん、調査しながら酒を飲んだらしいですな。福井の地酒たぁ、うらやましい限りだ」
「なにを呑気に・・・」
そう陽次朗と榛香から鋭い視線を向けられ、米山は苦笑いで返した。
「いやはは、まあたしかに飲酒して帰投できないのは考え物ですなあ。かといって、それでも帰ってきたら飲酒運転だしそれに・・・」
よっこらしょ、と、米山は自席に腰を下ろした。
「あたしゃあね、警視庁通信局勤務になる前は、一丁前に刑事やってましてね。ええ、警視庁捜査一課。刑事の本場でしたよ。もう50年くらい前になりますかねえ・・・東京は葛西の臨海公園あたりで、若い女性ばかり襲われる連続殺人事件が起きましてねえ」
まるで当時の記憶をたぐるように、米山は天井を仰いだ。
「気の毒なことに、半年で4人もやられちまってねえ・・・あたしら、これ以上やられてたまるかって、冗談抜きで不眠不休で犯人を捜しまわって、あるとき、事件当日に現場近くで目撃情報あった近くの製材屋に勤める若い男の野郎をしょっぴいたんですよ。ところがやっこさん、事件あった夜はアリバイがある、って言ってましてね。荒川の上流・・・それこそ、やっこさんが住んでたあたりの川沿いを散歩してたって言うんでさ。そこから犯行現場まではとても歩いていけやしません、ええ。いまと違って、車もそう多くなかったし、まさか川をボートでくだるにも無理があった。明確な証拠も証言もねえ、被疑者捕まえながら、捜査がドン詰まっちまったんですよ」
昔話ではあるが、まるで昨日のことのように雄弁な米山。この老人は急に何を言い出すのかと怪訝に感じつつ、陽次朗も榛香も、スキョンも護も聞き入った。
「そんなとき、あたしと組んでた先輩の平岡部長刑事が、お先真っ暗でアタマ抱えたあたしにこう言うんですよ。やい米山、オレら刑事は、ドン詰まったらとにかく現場に足を運ぶんだ。現場百回といって、昨日と今日では現場がまるで変るんだぞ、って。いい加減寝不足と空腹でうんざりきてたあたしの頭をひっぱたいて、連れ出しやがったんでさ。昼も夜も、晴れでも雨でも、何回も、道行く人に話しかけて、いい加減にしやがれ、こんなことしてて埒があくもんか。そう思っていたときですよ」
米山は若い隊員たちに視線を向けた。いつもの朗らかな目ではない、獲物を仕留めんとする刑事の目であった。
「本当に百回くらい現場訪れたときでしたねえ、通りがかったばあちゃんに、平岡さんが話しかけたのは。そうして、何の気なしに、野郎が川を見て散歩してた、って話をしたら、そのばあちゃんがこう言うんですよ。そのあたりにこの川沿いを散歩できなかった。街灯が切れて、懐中電灯でもない限り歩けやしないハズだけどねえ、ってね。平岡さんとあたしは、街灯を管理してる地元の消防団に問い合わせたんですよ。そうしたら、やっこさんが夜、散歩してたって日の前後だいたい一週間、街灯が切れてて、夜の河川敷は危険てことで立ち入り禁止にしてたっていうんです。電灯なり行灯なり、それ持って散歩して川見えるかってきいたら、見えるワケねえだろがって、こうきやがってですね。慌てて取調室戻て、危うく拘留外れるやっこさんにそのこと投げたんです。真っ暗闇の中、おめえさん、どうやって川みて散歩しやがった!って。やっこさん、すっかり動揺して、そこから平岡さん、もう一度証言をたどるように尋問したんです。とうとう、認めましてね。川の中から証言通りに凶器の包丁見つけて、年貢の納めどきになったんです」
最後は目をつむり話す米山。熱のこもった話に、呆気に取られる陽次朗たち。
「そりゃあ、ルール違反やっちまったかもしれねえが、剣太郎くんの動きは、あたしら刑事のソレなんですわ。現場をこれでもかって嗅ぎまわるのと、何より、現場の人に話をして、様子や状況を聴くってのがね。いまじゃ学術的データやら科学調査やらでパソコンに向かう調査が多いが、現場行って詳しく探るってことの重要性も、いま少し気にしちゃくれねえかって思うんですわ」
そこで思い出したように、「いやいや、いまの調査をやるなって話ではないですよ!いやいや、どうも過ぎたことをしゃべっちまって、こりゃ」とぼやくと、米山は再び司令室を後にした。
~福井県美原市 越前丹後3丁目~
朝6時を少し回った頃だった。すっかり陽が昇った中、漁港から戻った剣太郎は、昨夜泊めてもらった三橋辰三の家に入った。居間の隣で寝ている息子の辰也を起こすと、寝ぼけ眼の辰也に言った。
「よう、いい天気だからツーリングいこうぜ」
いきなり家の中に入ってきて寝起きの自分に何を言って・・・という表情をした辰也だったが、昨晩酔いつぶれた親父をおんぶして家まで送ってきたことを思い出した。まだ眠いし気が進まないが、この珍妙な男の誘いに乗ることにした。
ヘルメットをかぶり、剣太郎の後ろに座ると、勢い良くチョッパーを進ませる剣太郎。そのまま海が見える丘の道を疾走し、雑木林を抜けて丹後の先の砂浜へ出た。
地元なのですっかり知ってる土地なのだが、疾走感あるバイクから眺める海と景色は格別だった。眠さなどどこかへ吹き飛び、青い海と空がこんなにも美しく大きなものなのかと感慨深くなった。
砂浜にチョッパーを止めた剣太郎は、ヘルメットを脱いで座り込んだ。つられるように、辰也も砂浜へ座る。
「オレも昔、海のそばに住んでたんだ。ある日どうしようもなくムカついて、家飛び出したことあってな」
おもむろに話し出す剣太郎。両手を砂浜に置きその顔は朝の空を仰いでいる。
「ささくれ立ったムカつきも、こうしてどんどんやってくる波と流れる雲を眺めていると、自然とほぐれてきてな。やっぱ、海って空って、でっけぇんだな、オレ、なんで怒ってたんだっけなって、そのうち思えてくるんだ」
いきなりそう言われても・・・そうつぶやきたくなったが、たしかに海辺をバイクで走る爽快感と、この静かで大きな空間を味わう時間を過ごすと、剣太郎の言うことも理解できる。
「昨日な、お前の父ちゃんおんぶして家に帰ってきたとき、いびきかいて寝てた父ちゃんがこうつぶやいてんだ。辰也、行かないでくれ、一緒にかあちゃん弔ってくれ、ってな・・・。オレ、父ちゃんの言う通りにしろよって言わねえし思わねえ。お前、どうしたいか、父ちゃんに話してみたのか?」
「いや・・・」
「そっか。そういうこと、言えねえモンなんだなあ」
剣太郎はゴロンと砂浜に横になった。なんだかよくわからない男だ。
「だって・・・話そうとすると、いつもケンカになるし」
「お前の父ちゃん、短気っぽいもんな」
見知らぬ相手に父をそう言われるのは、若干イラついた。だが辰也は噴き出した。
「・・・たしかにw」
「でもよ、お前も父ちゃんがすぐ怒るからって、話をすることから逃げてねえか?」
正直、図星を突かれたような気がした。
「話をわかってくんねえ相手に話するって、すぐにはできねえよな。でも見てみろよ、でっかい空に、流れる雲、綺麗な海。それに、周りの親切なみんながいるだろ。みんな、お前の味方だ。もちろん、オレもな」
そう言って、穏やかな視線と表情で空を見やる剣太郎。
「しっかり話してみよう、な。きっと父ちゃん、わかってくれると思うぞ」
この男、いったい何なのだろう。好き勝手言いやがって・・・いやそもそも、朝っぱらから連れ出しやがって。今日は平日だからこれから学校なのに・・・学校?
辰也はハッとした。
ここ数日、避けてた学校のことを考えた。3か月の洋上演習で、いろんなことを学びたい、この土地で漁師になって、クソ親父と同じように仲間たちと仲良く仕事したい・・・。
「良い天気だよなあ」
剣太郎がつぶやいた。好き勝手のたまうこの男はしかし、穏やかな表情のままだ。いや、口元こそ微笑んでいるが、どこかその目は寂しげで、哀しげだった。
そのとき、剣太郎のiPhonemに通知があった。
「おうスキョン、おはよう。どうした?」
『剣ちゃん大変!今朝剣ちゃんから送られてきた、この泡の残滓!』
興奮気味のスキョン。剣太郎は早朝のうちに漁港に停泊している宅見の漁船にこびりついていた白い泡・・・高校の坂本先生も漁師の宅見も、波の花と形容していたが、その残滓を採取して構造分析を依頼していたのだ。昨日一緒に酒を飲んだ宅見の証言を詳しく検証しようとしたのだ。
『この泡状の液体なんだけど、レーダーや電磁波を通さない物質で構成されてるの!』
「おお?つまり、どういうこった?」
『いままで、あたしたちも国防海軍も、日本海一帯を広くソナーやレーダーで探索したでしょ?でも、この泡がそれらを妨害してたとしたら・・・』
「・・・そうか。レーダーも探知機も、妨害されてますって声はあげねえもんな」
『うん、それ!だから、急遽日本海・・・それも剣ちゃんがいる福井県沖の探査に注力することになったの。うちからも潜水艇出るし、国防海軍も海上保安庁、韓国海軍と共同でもう一度大陸棚付近を探索するって』
「もしかして・・・これは怪獣か何かが出してる泡だったのか?」
『その可能性が強くなったの!さっき陽次朗さんと榛香さんがハマーでそっちへ向かったから、現場確認とかお願い』
「任せろ、早速動く」
そこで通信を切ると、剣太郎は身を起こした。
「悪い、仕事忙しくなった。家まで連れてく」
そう言うと、剣太郎は辰也にヘルメットを渡した。さっきまでの穏やかな表情はなくなり、口元こそ笑みはあるが、真剣な眼差しになっていた。
~東京都品川区 天王洲海浜都市公園~
「安蘭さん、おつかれさまでした」
早朝撮影が終了してかけられる現場スタッフからの労いも、マネージャーのスケジュール確認も、響乃安蘭には通じていなかった。いや聞こえてはいるのだが、心ここに在らず、上の空の返事をする安蘭に、スタッフもマネージャーも訝しげに首をかしげた。
『国防海軍とUMA、日本海沖大規模探査行動』
『レーダー探知を妨げる未知の物質確認、舞鶴より潜水艦『八坂』『伏見』出航』
続々と押し寄せる通知に、安蘭は夢中になっていた。
カラクリがバレてしまった以上、手持ちの駒が発見される可能性は高くなった。いやまさか、連中も2体いるとは考えていない可能性はある。だが・・・。
こうなれば、捜索によって発見されるより・・・安蘭はスマホを強く握りしめた。
「安蘭さん?」
強めの呼びかけに、安蘭はマネージャーを見やった。
「どうしたんですか、そんなにスマホ見て」
「え、ああ、ちょっと・・・昔の同級生から相談受けてて・・・」
だが額には汗が浮かび、かなり目が泳いでいる。そんな安蘭の様子にマネージャーは妙な顔をしながらも、タブレットを見せた。
「今日これからの行動です。いまから有明へ移動して朝のニュース番組出演、昼前に川崎のYouTubeスタジオでインフルエンサーの美織さんと3時間生配信です。安蘭さん、顔色どうしたんですか?」
「う、ううん、ちょっと寝不足かな。あはは!」
「なら良いですが・・・」
マネージャーは車を取りにいった。そのスキに安蘭はスマホを取り出し、とある画面を開いた。だいぶ息が上がってきていた。