Ultraman G ーto come again ー 作:マイケル社長
〜石川県禄剛崎 UMA日本支部〜
「そんなバカな!」
帰投するなりもたらされた報告に、陽次朗はひときわ大きい声を上げた。榛香は声こそ発しなかったが、抗議するような視線を冴島に向けていた。
「いえ、隊長のおっしゃる通りです。お二人の放ったランチャーはアーストロンに直撃こそしましたが、爆発の中アーストロンは地中へ潜ったものと思われます。そして10分前に小田原で、つい先程は茅ヶ崎で、震源自体が移動していると思われる地震が観測されています。状況的に、アーストロンは健在と考えて間違いないんです」
ラップトップを見せながら早口でまくしたてる護に、陽次朗は鋭い視線を注いだ。
「護、貴様、オレの照準が狂っていたとでも言いたいのか?」
「い、いえ、そうじゃありませんよ」
顔の前で手を大仰に振り、護が答えた。
「単純に、アーストロンにはランチャーすら効果が薄かったと考えられます。そのう、決して陽次朗さんの腕に問題があるとか、そういうことじゃ・・・」
言い淀んだ護は、怯えた表情で陽次朗を見据えた。胸ぐらをつかみ上げたまま、陽次朗は苛立ち気味に言った。
「ランチャーの火力がどれほどか、貴様知ってるよな?アーストロンはそこまで強固な皮膚だったか?各種怪獣の耐久性を弾き出した奴は誰だ?貴様だよな、護。貴様、自分の計算が間違えていたとでも言うのか?おい」
泣きそうな顔で首を横に振る護。
「やめな、陽次朗」
胸ぐらを掴む腕に、榛香は手をかけた。
「あたしも見たよ。あんたの照準は正確だった。にもかかわらずアーストロンは健在。要するにランチャーそのものが通用しなかったんだよ。護のせいじゃないし、護も泣くのやめな」
いつのまにか、護の両目から涙が流れていた。陽次朗から解き放たれると、護は腕で涙を拭った。
「クソ、男のクセに情けない」
捨て台詞のように語調を荒げる陽次朗に、「まあ、落ち着くんだ」と冴島が宥めた。
「スキョン、他にも異常現象があるな、皆に説明してほしい」
冴島に促されたスキョンは、まつ毛カーラーを置き、デスクに向き直った。
「こんなときまで、メイクもいい加減にしろ」と食って掛かる陽次朗に、冴島は向き直った。刺すような目を向けられ、陽次朗は首をうなだれた。
「はい。えっとぉ、陽次朗さんと榛香さんがアーストロンと交戦中にですね、東京湾底を走る送油パイプラインが破断する事故が発生しました。それとですね、時を同じくして、東京湾底で原因不明のメタンガス放出が確認されてます」
「それがどうした?単なるパイプラインの劣化だろ」
「陽次朗さん決めつけないでくださいよぉ。いいですか、送油ラインが破損したっていうなら、フツー湾内に原油が流出して大規模な汚染が発生します。今回は破損こそ確認されましたけど、海洋汚染が確認されないんです。逆に、メタンガスによる海上汚染が深刻です。このままだと、陽が昇れば東京の交通網は大混乱ですよぉ。羽田の離発着制限されますモン」
「スキョン、貴女の見立てはどう?」
膨れ顔の陽次朗を無視し、榛香が訊いた。
「海洋汚染が生じてないってつまり、上手い具合に溢れた原油が処理されてるんですよぉ。で、マモーと追及した結果、原油を呑む怪獣が現れたって仮説に行き着いたんです」
「そのマモーって呼び方やめてくれよ」
呼ばれた護が、弱々しくつぶやいた。
「おいちょっと待てよ、それってまさか・・・」
言い淀んだ陽次朗を、スキョンが制した。
「そうです。オイル怪獣タッコング」
その名前を聴いた陽次朗は歯噛みした。
「ヤツか。ヤツが、この日本に・・・」
「まだ仮説ですよ?ですが、それ以外の可能性がどうも考えられなくて・・・」
護はそれ以上言葉を発しなかった。羅刹のような険しい顔をした陽次朗に慄いたからだった。
「ヤツのせいで、オマーンとバーレーンが無政府状態になった。アイツ1匹で、世界にどれほどの損失をもたらしたか・・・」
血が滲むほど拳を握る陽次朗に、護は固唾を呑んだ。
「しかもスキョン、あんたメタンガスって言ったね?原因はやっぱり・・・」
空気を変えるように訊く榛香に、スキョンはマスカラを置いた。
「はい。ザザーンだと思います。タッコングが現れる箇所に、ザザーンは必ず出現しています。ずっと、縄張り争いしてるんでしょーねえ」
スキョンが出した映像には、東京湾が激しく泡立つ様子が映し出されていた。
「現在東京湾は、全域に航路・空路への航行規制が行われてます。これほどの泡立ちだと船舶といえど浮力が奪われて沈没しますし、航空機もメタンガスを吸ってエンジンから出火しかねませんからね。アーストロンも問題ですけど、こっちも同じくらい問題です」
帰投命令が出された理由がはっきりし、榛香と陽次朗はため息をつくと同時に、慄然とした。
「みんな聴いてくれ」
奥のデスクから冴島が声を発した。全員が視線を向けた。
「東京に三体の怪獣が出現しようとしている。おそらく東京湾底では、タッコングとザザーンが争いながら第一号埋立地へと向かっている上、アーストロンの予想進路も東京臨海部を指している。日本ではかつてない、一度に三体を相手にした戦闘を敢行する。みんな、やれるな?」
「「「「はい!」」」」
4人の返事に頷くと、冴島はより一層声を張り上げた。
「ハマー全機出動!」
〜東京都大田区・東京羽田空港〜
すっかり寝不足で極度に機嫌を損ねた藤倉は、入国審査・税関検査を抜けてあくびを噛み殺しながらスーツケースを引きずり、吉野家へと入った。
せっかくのビジネスクラスでのくつろぎも、後部座席で賑やかにしゃべるあの若造とキャビンアテンダントたちのせいで台無しになった。
よくはわからないが、聞こえてきた内容ではあの三堂とかいう若造は、シドニーの空港で体調を崩した老人を救い、その礼に報いるためビジネスクラスへと招待されたらしかった。
褒められるべきではあるが、あんな貧乏臭いナリしてビジネスクラスに座るなど言語道断。かといって見つかっては機内で絡まれること間違いないため、不満を募らせまくるビジネスクラスのフライトとなってしまったのだ。
周囲の客もやかましい!と注意すれば良いものを、皆で若造を囲み酒盛りし始めたことも気に喰わなかった。どいつもこいつも、ビジネスクラスに搭乗する品格の無い連中ばかりだ。
「並」
ボソッとぶっきらぼうに注文したが、そんな客には慣れているのか、店員は黙ってオーダーを厨房に通した。それが腹に据えた。返事くらいすればどうだ。いったい、誰のおかげでここで働けていると思うのだ?
「うま!うま!」
隣で声がした。この底抜けに馬鹿そうな明るい声は・・・・。
「牛丼、うめー!」
あの三堂とかいう若造が近くに座っていた。
「あれ、おじさん?おじさんも牛丼食べに来たの?」
マズイことに気づかれてしまった。忌々しげにため息をついたが、彼には伝わらなかった。
「これもオージービーフなんだろうけど、やっぱこのタレと米が最高だよなあ」
当たり前だ、私が仕入れている牛肉だ。そう答えたかったが、こんな男とは口もききたくない。運ばれてきた牛丼をかき込んでさっさと会社へ行こう。
そう思った時、にわかに外が騒がしくなった。救急車かパトカーのサイレンが遠巻きに聞こえ、もっと先からは地響きのような音がする。
『羽田空港よりすべてのお客様へご案内申し上げます。ただいますべての出発便・到着便、並びにエアポートシャトルの運行を停止しております。お客様にはご不便をおかけしますが、次のご案内までお待ちください』
やれやれ・・・。食欲まで失せた。シャトルが動かないのでは、会社へも行きようがない。
丼を置き、スマホを取り出した瞬間、遠くから爆発音がした。
第1号埋立地の方角に、大きな火柱が上がった。
店内が騒然とする中、あの三堂とかいう若造は急に顔色を変え、席を立った。
「店員さん、お勘定。上手かったよ、とっても」
店員にこそ笑顔を見せたが、支払いを終えると、ヘラヘラした顔色を完全に失った、シリアスな表情を見せた。