結城友奈は勇者である~勇者と大神と妖怪絵巻~   作:バロックス(駄犬

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なんでこんなに張り切って書いてるんだ私は。
敵のモブキャラにも色濃いキャラクターたちがいる……それが大神。
いつのまにかゆゆゆいの生放送が来週予定されてますね、8/27日です。
皆さん、お忘れなく!


其ノ七、東郷と黒の3連星

「東郷さん……!!」

 

 結城友奈は樹海の樹木を足場に美森の元へと向かっていた。

 後ろでは女郎蜘蛛と交戦を始まったのか、ヒトならざる者の叫び声と破壊音が友奈の背を叩く。

 

 

 力いっぱい樹木を蹴り、友奈は飛び上がる。

 いつもより高く、

 いつもより早く。

 

 

 

 通信状況は相変わらず悪いため、連絡は取れない。

 一刻も早く、美森のいる場所へとたどり着かなければならなかった。

 もし美森の身に何かあったのだとしたら、

 それは友奈にとって耐えられないものとなるだろう。

 

 

「お願い、無事でいて……!!」

 

 

 かつて友人を守るという誓いを立てた。

 その約束を守るため。

 駆り立てられる思いを胸に秘め、友奈はさらに加速した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……やけに静かね」

 

 

 友奈たちがアマテラスと合流するより遥か前のこと。

 美森は遠く離れた場所からスナイパーライフルを構えていた。 

 彼女の勇者としての特性を考えれば適切な位置取りである。

 遠距離で、視界が開け、遮蔽物の見当たらず、風の影響も考慮したこの場所は遠距離で援護する彼女にとって最適の場所だった。

 

 

 スコープ越しに、勇者たちの状況を把握する。

 それぞれの勇者たちが索敵をしている最中だ。

 しかし通信状況が悪い。

 他の勇者たちと連絡が出来ないし、

 画面が砂嵐が起きており、マップ上にて自分や敵がどこにいるのかも分からない状態が現在起きていた。

 

 

「おかしい……今までこんなこと無かったのに……」

 

 バーテックスと戦っている時でさえ、通信状況への不具合が起きるなどということはなかった。

 しかも美森の端末は改造されていて、少しの電波の悪い場所でも通信が可能となっているのである。

 そのスマホが機能していない。 

 美森は推察する。

 何か、『よくない』ことが起き始めている、と。

 

 

「もしかして……あの蕾が? あの蕾が妨害電波のようなものを出してる? でもなんのために?」

 

 樹海にてその存在感を露にする巨大な蕾は不自然なものだと思った。

 今は動きは見せてはいないが、美森にとってはそれが不自然で仕方がない。

 きっと何かある。

 現状を生み出している要因をあの蕾と繋げると納得してしまう自分がいる。

 

 

 

 だからこそ生まれる疑問もある。

 だとすれば、勇者同士で連絡を付けさせない理由はいったい何なのか。

 

 

 

「蕾…陽動、電波障害、連絡手段の封鎖……孤立……これって、まさか」

 

 咄嗟に美森は思考した。

 今この状況で、誰が一番ヤバい状況なのか。

 

 

 敵がどこに潜んでいるか分からず、

 仲間と連絡することも出来ず、

 敵からすれば最も攻めやすい人物がいる。

 

 

「しまった……」

 

 

 味方から最も離れた自分が標的だと気づいたがそれは遅いことだった。

 直後、夏凜が蕾の中に飲まれ、女郎蜘蛛が目覚める。

 それと同時に。

 

 

『キキッ』

『キッ』

『キ―――ッ!!』

 

 

「誰ッ!?」

 

 

 美森の背後から、猿のような声をあげて現れる者たちがいる。

 イッスンが言う、天邪鬼と呼ばれる妖怪たちだ。

 その数3匹。

 しかし、前回見た天邪鬼とは違い、その装束は『黒い』。

 だが地肌は『緑色』であった。それに違和感を覚える。

 まるで『緑』なのに無理やり『黒』になろうとしているような、そんな感じがした。

 

 

 現れた3匹の黒い装束の天邪鬼は横一列に並ぶ。

 慣れたように真ん中の天邪鬼が声高らかに叫んだ。

 

『俺達ッ 天邪鬼村の特殊戦闘員が一人、その名を”(イチ)”!!』

 

 次に左の天邪鬼が続く。

 

 

『俺が”()”!!』

 

 

 最後に1匹が少しばかり不慣れな様子で叫ぶ。

 

 

『お、おおお俺が”(サン)!!”』

 

 

 一人だけ全身が震えながら名乗るのを気にも留めず、

 真ん中のリーダーっぽい天邪鬼が言うのだ。

 

 

『殺しの番号 壱、弐、参(イチ、二、サン)! 三人揃って――――』

 

 

『黒の三連星!』

『黒の三連星!』

『く、くりょの三連星!』

 

 

 

 最後にそれぞれポーズを決めると、天邪鬼の背後で爆発が起きる。

 飛んでくる爆風と火薬の匂いから、自分たちで用意したのだろうか。

 

 

 ただ一つだけ言えること、妖怪が編隊を組んでやってきた。

 ノリは完全に戦隊ものだろう。

 友奈が見たら目を輝かせて興味津々に飛びつきそうだ。

 

 

『お前が勇者だな? 大人しく俺達に捕えられろ!』

『そうだ!決して!決して悪いようにはしない!……多分嘘だけど!もっっすごいエロいことしてやるけど!!』

 

 

 壱と弐がそれぞれ欲に塗れたセリフを吐いているその一方で美森はというと、

 

「……」

 

 既に天邪鬼達へ銃口を向けていた。

 しかも無言で。

 

『えっ』

 

 次の瞬間、美森の銃口から火が噴き青色の光弾が発射された。

 光弾が天邪鬼の壱の真横を通過し、樹海の闇の空へと消えていく。

 

 

「……!?」

 

 光弾が逸れていったことに違和感を覚える美森。

 だが、その違和感を払拭するように目の前で天邪鬼達が怒りの声を上げた。 

 

『ここここここいつゥゥゥ!! いきなり撃ってきたぞ!』

 

 

『火縄を持ってるなんて聞いてねぇぞ! 勇者はにぼしが武器じゃなかったのか!?

 あと黄色のゴリラにだけ気を付けろって言ってたのに!』

 

 

 些か誤報のようで真実のような気がするその情報をいったい誰が伝えたのか。

 黄色いゴリラは……恐らくだが風の事だろう。

 我らが部長は敵に動物園の腕力の化身の名を与えられてしまっているらしい。

 気の毒に、と美森は思った。

 

 

『……』

 

 壱と弐がその場で慌てふためく中で。

 なぜか参だけが、無言のまま美森のほうを見つめて動いていなかった。

 

『参、お前何ボーっとしてんだよ!!』

『ご、ごめん兄ィ……そ、その…あの女の子、えらくべっぴんさんだなぁって思って』

 

 

 その参の頭をリーダーである壱がぱしん、と甲高い音を立てて叩いた。

 

 

『んなこと言ってる場合か!俺達の村を守るにはアイツの言われたとおりにやるしかないんだぞ!』

 

 

 今更ながら、会話の中で彼らが兄弟なのだと気づく。

 恐らく壱が長兄で弐が次兄、参が三男なのだろうか。

 

 

「村を……守る?」

 

 

 気になる会話の内容に美森が思わず呟いたのも束の間、

 天邪鬼が一斉にこちらへ視線を送った。

 

 

「……!!」

 

 

 来る。

 そう思い、三体同時に敵を相手にすることを余儀なくされた美森の思考は速い。

 この近距離では不利なスナイパーライフルをしまうと、短い二丁の銃を両手に取る。

 

 

 近・中距離に対応した武器を持った美森が天邪鬼へと狙いを定める。

 相手が動くより早く、まずはリーダー格の壱と名乗った妖怪へ引き金を――――、

 

 

「あ、あ……れ…?」

 

 

 銃から光弾は発射されなかった。

 故障したのか、と美森が真っ先に勇者システムの不調を予測する。

 しかし銃の故障とかシステムの不具合とかそれ以前に、

 実際のところ美森は引き金を引くことすら出来ていなかった。

 

 

 疑問の二文字を頭に浮かべる美森が自身の身体の異変に気付くのはその直後だった。

 

 

 

 引き金を引くための指に走る痺れるような感覚。

 それが銃を発射できなかった要因だった。

 腕だけではない。

 二丁の銃を支える腕にも痺れがあり、足を除いた全身にもそれが及びつつある。

 

「あっ…くぅ……こ、これは……」

 

 痺れによって手の感覚がなくなり、遂には握っていた銃そのものを地面へと落としてしまう。

 ふらついた視界のせいで動かない足の代わりとして機能している触手の制御が利かなくなり地面へ膝をついた。

 

 

『ようやく、”薬”が効いてきたみたいだな』

「く、くす…り…?」

 

 言葉を話すこともキツくなってきた美森が見上げた先、

 天邪鬼の壱が近づいてきた。

 その手には小さな巾着袋が握られていた。

 

『お前がいる方向にずーっと空中に流していた、この”しびれ粉薬”の効果が!』

『勇者を捕まえるために用意したヤツでさァ。 無味無臭で、昔はよく獣を狩るのに使われてたらしいけど』

『壱兄ィが胃腸薬だと思って間違って昨日飲んじゃったやつ……』

 

 

『おい参! 余計なこと言うんじゃない!!』

 

 参のボソッとしたつぶやきを見逃さない兄の壱がその頭をまた叩いた。

 次兄の弐が思い出したかのように、

 

 

『あ、動きが鈍くなるだけで別に死んだりはしないから! 後遺症とかも残らないクリーンな薬だし!』

 

 

 彼はああ言ってはいるが使用する用途としてクリーンどころか邪悪である。

 実際に体を動かそうとしてみる美森だが、最初よりも痺れが全身に回り、まるで全身を拘束されているかのように動きは鈍い。

 

 

 

(なんとかして、逃げなきゃ……)

 

 

 自身の足の代わりとなっている触手だけを動かしその場を逃れようとする。 

 ある程度は美森の意志で動かせるようになっているソレはぎこちないが、今の腕よりも機敏に動いてくれていた。

 その触手を使って飛び上がろうとした矢先、

 

 

『弐、参! あの触手を抑えろ!!』

 

 

 地面に接している触手に弐と参の天邪鬼が飛び掛かった

 二匹は触手にとりつくと、絶対に離さない意志を現したかのようにしがみついて離さない。

 たまらず美森はバランスを崩し、

 

 

「きゃっ!!」

 

 

 身体ごと地面へと落下する。

 続けざまに、天邪鬼の壱が指示を飛ばす。

 

『触手で腕と足を縛るんだ!』

 

 息をつかせる間もなく、天邪鬼達は動き出す。

 美森の身体を支えている二本の触手を手に取ると、

 片方は両の手を、

 もう片方で両の足を縛った。

 

 

 どんなに触手を動かそうにも、体と結ばれていては美森は移動することが出来ない。

 完全に身動き一つできない状態になってしまった。

 

 

『お前がこの触手で移動しているのは皆からの情報で把握している。

 もう体全体が痺れて動けなくなってきただろう……』

 

 

 地面に横たわる美森を天邪鬼達が囲む。

 首も指先も動かすことも出来ない美森が出来るのは顔の眉や唇を動かす程度だ。

 

 

 今思えば、先ほどの銃で天邪鬼を仕留められなかったのも薬の影響が照準を狂わせたのだと思った。

 気づくのは遅かったが。

 

『よし、準備は整った……こ、これから、お、おおお前を…傷モノにしてやる!』

『悪く思うな! これも俺たちの暮らしのためなんだ!!』

 

 

 キーッ!

 と天邪鬼が動き、横たわる美森を一匹が起こし背後を支える。

 もう一匹がゆっくりと手を美森の首へと伸ばした。

 

 

 白く柔い美森の首筋を天邪鬼が爪でなぞる。

 爪の先でかりっと皮膚にかかると美森がその身を震わせた。

 

「ひ…っ!い、い……や…っ」

 

 声を振り絞っても、掠れた程度の声量が限界である。

 首筋から体の線をなぞるように、天邪鬼の手が移動していく。

 

 首筋から下へ、

 肩へ、

 腰へと。

 

 

(い、いやっ! そんなところに触れないで!!)

 

 

 自身の大腿部に手が掛かったのを目視した美森が身を捩った。

 

 

 美森の両足には歩くという機能が失われている。

 感覚がないため、天邪鬼が手で触れているという感触はないのだが。

 自身の下半身を得体の知らない者に触れられるという目に見える恐怖が美森に口にし難い嫌悪感を抱かせ、必死の抵抗を行わせた。

 

 

 しかし、必死の抵抗も虚しく。

 身体全体に力の入らない美森の身体を天邪鬼は好きなようにする。

 

『なんて綺麗な肌だよ……』

 

 背後に回っていた天邪鬼が美森の黒髪の下から覗かせた首へ顔を近づける。

 鼻息を荒くした天邪鬼が口を開け、かぷっと柔肌を口に含んだ。

 

「ん……っ! ん゛ぅ―――っ!!」

 

(いや! いやあああああ !こんなの、いや……友奈ちゃん、友奈ちゃん助けて!!)

 

 心の中の叫びで、彼女の太陽である親友の名を二度呼ぶ。

 涙を目尻に浮かべながら身を必死に動かすが、薬と自身の触手で動きを封じられ、声もまともに発することも出来ない。

 

 

 背筋に走る悪寒と内側にため込まれる恐怖に美森は思うのである。

 

 

(……私、このままどうなっちゃうんだろう)

 

 助けも来ない、諦めかけた顔で、美森は失意の中に居た。 

 

 

 天邪鬼達は自分を傷モノにするといった。

 その意味は中学生女子の美森でも理解できている。

 

(誰も…助けてくれない。 助けに来てくれない……、私こんなに弱かったんだ。

 勇者になって、皆の力になれて、友奈ちゃんと一緒に戦えて強くなったと思ってただけだったんだ)

 

 

 全ては思い上がり、それがこの状況を招いたのだとしたら。

 もっと視野を広めていればこんな事にはならなかっただろうに。

 後悔を抱きながら、美森は全身から力を抜く。

 

 

 舌を噛み切ることが出来れば、迷わず自決を図る美森だが、

 口の器官は動く機能を失い、せいぜい息をするのがやっとの状態だ。

 

 

(ごめんね友奈ちゃん、私……もう……)

 

 

 諦観と後悔を浮かばせた表情で美森の瞳から光が消えていく。

 これから身に起きる惨事から目を背けるためだ。

 最後に、大切な友人の、友奈のやたらと眩しい笑顔をその脳裏に焼きつけながら心を閉ざそうとしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あ、兄ィ! もうやめてくれよ!』

 

 

 唐突に声が聞こえて美森の諦めかけていた瞳が開く。

 目の前で唯一美森に抱き着くこともなく手を出さなかった末弟の参だ。

 参は少し怯えた様子で、

 

『そ、その女の子泣いてるじゃないか!

 女の子が嫌がることはしちゃダメだって母ちゃん言ってただろ!』

 

 

『ば、馬鹿野郎! オマエ、自分が何言ってるのか分かってるのか!?』

 

 

 兄である壱も弟である参の予想外の行動に思わず声を上げた。

 

 

『こうでもしねぇと俺達の村が――――』

 

 潰されるんだ。

 そう言おうとした矢先、なりふり構っていられなかった参が叫ぶ。

 

 

 

『うるさいやい! 童貞兄ィ!!』

 

『な―――っ!!』

 

 童貞。

 その言葉に二匹の天邪鬼達は声を詰まらせた。

 

 

『壱兄ィも弐兄ィも……口だけばっかで、女の子と手を繋いだこともねぇじゃねぇか!!』

『ぶふっ!!』

『おいやめろ! そもそも俺達の村で女の子も居ないし、ババアしかいねぇのが悪いじゃねぇか!!』 

 

 

 次兄の弐が噴出し、長兄の壱が事実を突かれ、言い訳を行う。

 彼らの暮らしている村には若い者が少ない。

 ほとんどが老人ばかりで、女性の天邪鬼もほとんどが母親や老婆しかいないのである。

 

 

 

 故に、天邪鬼村随一の特殊部隊『黒の三連星』。

 なんとその三兄弟は童貞だった。

 

 

 しかし、兄である壱はその言葉に否定の声を上げて見せる。

 

 

『舐めるな! 俺は童貞じゃないぞ! 

 人間たちが暮らす街の河川敷で見つけたエロ本で、もうなん十冊も見て勉強してんだ!

 

 だ か ら 俺 は 既 に 童 貞 を 卒 業 を し て い る!!』

 

 

 悲しい妖怪がここにいた。

 一番のリーダーである壱はエロ本を読んだだけで童貞が卒業できるという幻想を抱いていたのである。

 リーダーである壱は馬鹿だった。

 

 

『あーあ、参に言われちゃったよ壱兄。 

 もう立つ瀬がないね、童貞リーダー』

 

 遂には次兄の弐に煽られる始末。

 

『ええい!そんな事を言うならお前から先に童貞を卒業させてやる!』

『え、ええっ!?』

 

 

 壱は頭を搔きながら立ち上がると参の身体を掴んで思いっきり、

 

『そりゃあ!』

 

 美森の方へとブン投げた。

 

『ぐへっ』

「きゃっ!!」

 

 もにゅん、と。

 それは参の顔が美森の胸に埋もれた音だった。

 マシュマロの如き柔らかさを持つ二つの山脈に顔をうずめた参が息苦しさからその胸から抜け出すと。

 

「あ……」

 

 思わず見上げた視線の先で、美森との視線を交わす。

 怯えているように震える美森とは対照的に参は、布のお面越しでも分かるくらいに顔を真っ赤にしていた。

 やがて彼は全身を硬直させ、

 

『……ぐふっ』

 

 頭から蒸気を噴出させて、その頭から地面に勢いよく倒れこむのだった。

 

『参、参――――!』

『くそ!やはり童貞には刺激が強すぎたか!! こうなったら、俺達二人で!』

 

 

 やるしかない。 

 良くわからない覚悟を決めた二匹が美森目掛けて同時に飛び上がる。

 言わずと知れた旧世紀のアニメで流行った『ルパンダイブ』というものだった。

 

 

「――――っ!!」

 

 

 今度こそダメだ。

 と、美森が瞳を力いっぱい閉じる。

 

 

 しかし、天邪鬼達の手が美森に届くことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヘイ、格下妖怪のキミたち? いったい何をしているのかな?」

 

 記憶にない、だけども『聞き覚え』のある男性の声。

 目を開いたそこにある光景に驚愕した。

 

「こんな可愛らしいレディー相手に二人掛かりで手を掛けようなんて……大分ナンセンスだよ」

 

 美森の前方に立つ、和装の長髪の男が、二匹の天邪鬼の頭を鷲掴みしていた。

 男は掴んでいた腕で天邪鬼を地面へ向けて放り投げる。

 

 

『なんだコイツ!いったいいつから!?』

 

 

 地面を転がり、起き上がったリーダーの壱が見たのは自身の笛を手に持っている男の姿だった。

 男は笛を吹き始め、樹海内に美しい音が響き始める。

 

 

 

(この音色……初めて聞くのに、どうして……)

 

 

 目の前で唐突に笛を吹き始めた男に違和感が絶えない美森。

 彼の声も、笛の音も、すべてがここで初めて聞いたはずなのに。

 

 

 彼女の心の中で僅かだが懐かしい、という気持ちがある。

 どこかで聞いたような、そうでないような。

 そんな美森を他所に、笛を吹き終えた男は口を開いた。

 

 

「天が呼ぶ 地が呼ぶ 海が呼ぶ……物の怪倒せと我を呼ぶ……

 

 人倫の伝道師、ウシワカ―――推参(イズ・ヒア)――――!!」

 

 

 決めポーズなのか、小指を立てて口上を述べる男。

 名をウシワカと名乗った。

 

 

『な、なんかヤバそうなの来たんだけど壱兄ィ』

『怯むな弐! 今こそ俺達”黒の三連星”の力を見せる時だ。』

 

 

 謎の強気を発揮する壱と弐が縦一列に並ぶ。

 その光景をウシワカが見て首を傾げた。

 

 

「ワッツ?」

 

 

『やるぞ…必殺…”痔江吐須徒利居無攻撃(じぇっとすとりーむあたっく)”!!』

 

 

 一列に並んだ天邪鬼が真っすぐウシワカ目掛けて突撃。

 もともとは複数いる仲間を一列にして一体に見せることで敵の視覚的油断を誘うのがこの戦法。

 

 

 一匹が攻撃を終え、二匹目が間髪入れずに次の攻撃に入り、最後の三匹目がトドメの一撃を見舞う。

 短時間で大きなダメージを与える必殺技だ。

 なお本来は三体で一緒に行う技なので威力はお察し。

 

「ふぅ……」

 

 ウシワカは迫りくる二匹の天邪鬼を見て、少しだけため息をついた。

 そして次の瞬間、風が吹いていた。

 

 

 まるで突風のような、一瞬の力強い風に思わず美森が瞳を閉じてしまうほどに。

 

 

「え、…な、なにが」

 

 何が起きたのか。

 突如の風に驚いた美森が視線を前へと戻す。

 

 

 そこには地面に倒れる天邪鬼の姿があった。

 

 

『な、なんだアレ……姿が見えなかったぞ!』

『壱兄ィ、こいつマジでヤバいって!このまま居たら殺されちゃうよ!』

 

 正面に居た天邪鬼達ですら目視することが出来なかったウシワカの動作に、 

 地面に倒れ伏した天邪鬼の一人、弐が告げる。

 

 この男、ウシワカと名乗る者のヤバさに。

 

 一瞬、風が吹いたと思ったら一発の『見えない』打撃を見舞われて地面に叩きつけられていた。

 いつの間にか手にしていた『鞘に収まった刀』を肩でトントンと叩きながらウシワカは二匹の天邪鬼の元へ近づくと、

 

 

 天邪鬼達の眼前の地面に抜身の刀を突き刺した。

 

『ヒェッ』

『ヒェッ』

 

 

「そう簡単にユーたちのハウスに帰すと思ったのかい?」

 

 眼前に突き刺さる刀は紛れもなく本物であった。

 それが光に照らされて、怪しくぎらついているのを見て天邪鬼は息を呑んだ。

 

 

「悪いけど、レディの中でもスペシャルな存在…彼女に手を出そうとしたんだ。 

 本当だったらこの刀でメンズとしての誇りを切り落とされても、文句も言えないんだけどね」

 

 その脅し文句に天邪鬼達が自身の下腹部を抑えて震えあがった。

 ウシワカは一瞬だが美森の方へ視線を送り、

 

 

「……まぁ、ミーとしてもユーたちの粗末なモノで刀の錆にするのは流石にバッドというか……

 それに、早い話がここユーたちを斬っちゃったら彼女にトラウマを植え付けちゃうかもしれないからね」

 

 

 だから、とウシワカは笑顔で言った。

 

 

「さっさと身を引いたほうが身のためだ。そこにいるブラザーを忘れないでね」

 

 

 笑顔で圧を掛けられた天邪鬼達は恐怖で一気に飛び上がると、地面に倒れて失神していた末弟、参を抱えて。

 

 

『逃げろォォォォォ!!』

 

 と、叫びながら一目散に逃げていったのだった。

 ウシワカは疲れたように肩を竦めて、

 

 

「まったく、とんだ腰抜け妖怪だよ。

 アレくらいのトリート(脅し)で即退散とはね……」

 

 そう言いながら、ウシワカは美森の方へ向かう。

 未だに動けないでいる美森へ身を屈ませると、彼女を縛っている触手へと手を伸ばした。

 ウシワカは触手を解きながら、

 

 

「……ケガは?」

「え、っと……ちょっとまだ体に痺れが……あって…それ以外は…」

「そうか…ふむ」

 

 美森の身体に大きな傷がないことを確認し、足の触手を解く。

 次は腕を縛っている触手を解きにかかった。

 

「……」

「……あ、あの」

 

 

 少しだけの沈黙の後、美森が口を開く。

 

 

「助けてくれて、ありがとうございます…貴方は一体……」

 

 感謝の念からその者の素性を聞こうとする美森にウシワカは困ったように頭を掻いた。

 

「さっきも言った通り、ミーは人倫の伝道師ウシワカ、陰陽師さ。

 分かりやすく言えば、アマテラスくんたちのお知り合いだよ」

 

 アマテラスの仲間。

 その一言で、美森の表情が安堵に満ちた。

 この世界で勇者たちの信頼というものをちゃんと得ることが出来ていることにウシワカはよし、と心の中で頷く。

 

「……どこかで、お会いしたことは……?」

「ないよ」

 

 不意に発した美森の問いにウシワカは即答する。

 

「ユーとミーは”ここで初めて出会った”。

 ボーイミーツガールが如く、ナイストゥミーチューだよ勇者・東郷美森くん」

 

 自身が勇者であることを知っている。

 美森は瞬時に、この男が大赦関連の一員なのではないかと推測した。

 

 

 

 ウシワカが腕の拘束を解いた時だった。

 付近の樹木の上に着地する少女がいる。

 

「東郷さん!」

 

 結城友奈だった。

 

 

「友奈ちゃん!」

 

 

 駆け付けた友奈の姿を見て、美森の顔に笑顔が戻る。

 一方でウシワカが友奈を見つめては自身の顎に手を当てて、

 

「そうか、ユーが……友奈くんだね?」

 

 意味深なセリフに当の本人はというと知らない人がここにいることに驚いた友奈はしどろもどろに答えた。

 

「えっ、ゆうがゆうな…? わ、私……結城友奈です」

 

 それを聞いて、ぶはっ、とウシワカは吹き出した。

 

「そ、ソーリーソーリ―。

 まさか、そういう返しが来るなんて予想できなくてさ……っと」

 

「あ……」

 

 ウシワカが美森の身体を担いだ。

 片腕で美森の両肩を抱くように、

 もう片方の腕で膝裏を支える。

 俗にいうお姫様抱っこの形で美森の身体が持ち上げられていた。

 

 

 そして跳ぶ。

 美森を抱えたまま、まるで足にバネがついているかのように高く飛んで友奈の目の前まで距離を縮める。

 着地したウシワカは佇んでいる友奈へ美森を差し出した。

 

「今は身体に痺れが残ってるけど、もう少しで効き目も無くなると思う。

 彼女が無事動けるようになるまで、ユーは一緒にここで残っていてほしい」

 

「あ、でも……向こうで風先輩やアマちゃん達が戦ってて……」

 

 後ろで未だに戦いを続けている風達の身を案じた友奈にウシワカは言うのである。

 

「ノープログレム」

 

 彼は続ける。

 

「ここはアマテラスくん達に任せておきたまえ。

 もうすぐ戦いも終わる……勇者たちの勝利でね。

 ミーの信頼する友がいるんだ……負けることはないさ」

 

 友奈が美森を受け取って、

 今度は友奈が美森をお姫様抱っこする形になった。

 その時の美森の表情は至福に満ちている様子であった。

 

 

 ウシワカはその表情を見て安堵すると一度の跳躍を行い、

 友奈と距離を取った。

 しかし去り際に、

 

 

「彼女の事をよろしく頼むよ。 

 少し融通が利かなくて、ここぞって時に危なっかしいところがあるから……じゃあね、レディたち!」

 

 

 言いたいことだけ言うと、ウシワカはその場からぱっと、消え失せた。

 まるでつむじ風になってその場から消え去っていったようであった。

 

 

 

「……えっと、待った?」

「……うん、遅刻だよ友奈ちゃん」

 

 少しむくれた様子で呟く美森に友奈はたはは、と苦笑した。

 すると美森の手が友奈の眼前に差し出される。

 彼女は少しだけ震えるが残る手を見つめ、

 

「まだ、ちょっと震えが止まらなくて……怖かったから…」

「うん……東郷さん、ごめんね」

 

 友奈が美森の手を優しくとる。

 それだけで、彼女の手の震えは止まっていた。

 しかし、それだけでは足りないと思ったのか、両肩を支えている手に力を籠めて美森の身体そのものを友奈の方へ抱き寄せる。

 

 

「ゆ、友奈ちゃん?」

 

 力強く、もしかしたら初めてこんなに強く抱きしめられたのではないかと美森が驚いた。

 美森を抱きしめながら、友奈は耳とで小さく囁いた。

 

「大丈夫……今は私がここにいるから。

 絶対、ここから離れないで東郷さんと一緒にいるから……」

 

 助けに間に合わなかった負い目もあるのだろうか。

 だが申し訳なさそうに言う彼女を美森は責めようとは思わない。

 

 

「なら、友奈ちゃん……もっと」

「うん……」

 

 暗に強く抱きしめてという美森の意志を汲み取ってか、友奈が頷く。

 お互いの不安を取り除くように、また強く友奈は美森の肩を抱きしめたのだった。

 

 

 




記念すべき東郷さん初のぐへへ回。
こういう系は前回の高嶋さんでやり尽くした感があったから、見慣れた光景だと思うかもしれない。すべては我の技量不足。
ウシワカが去って行って謎めいた感じで終わらせようとしてたのに、いつの間にかラストが友奈ちゃんと東郷さんの百合シーンで落ちてたのも、私の技量不足。

今のところ、これからも東郷さんぐへへ回しか思いつかないんだけどこれって一種の病気かな?
黒天邪鬼さんたちは見た目は黒の装束着てるただの緑天邪鬼。
ちなみに、天邪鬼さんたちは東郷さんの足が動かないのは知らない模様。
名前の元ネタは言わずも初代ガンダム知ってる人ならわかるやつ。

ちなみにウシワカの名乗り口上の元ネタは仮面ライダーストロンガー。
女郎蜘蛛編は次回で決着。さて、にぼっしーの運命やいかに。





・黒の三連星(壱、弐、参)オリキャラです。
黒の装束を着た緑天邪鬼の三兄弟。(壱から順に長男、次男、三男)
天邪鬼の里の貴重な若い戦闘員。兄弟故に息の合った連携による戦闘が出来、縦一列になって目標に突進する三位一体の必殺技『痔江吐須徒利居無攻撃(じぇっとすとりーむあたっく)』はすさまじい威力を持つ?
三兄弟状態ならなんでも出来るが、一人でもかけていると弱気になり極端に戦闘能力がダウンする。ちなみに、全員童貞。
兄弟のそれぞれの呼び名は必殺仕事人より登場する仕事人の名前。
部隊名と必殺技の元ネタは機動戦士ガンダムより、トリプルリック・ドムの黒の三連星から。



・しびれ薬。
オロチ組のヤクザTさんが用意してくれた秘密道具の一つ。
勇者も昏倒させるヤベー薬。
無味無臭で相手には一切後遺症が残らない。
効果は大体15分程度。
精霊バリアは致死攻撃をカットしてくれるから、相手の動きを止めたりする弱い状態異常系はバリアの範囲外だと考えた結果である。
ゆゆゆいのイベでも夏凜と球子がバーテックスのマヒ触手食らってたし。


感想や意見が貰えたら筆神としてアマ公の力の一つになろうと思います。

アマテラスの家庭訪問。誰の家にいく?

  • 結城さん家
  • 東郷さん家
  • 犬吠埼さん家
  • 三好さん家の花凛
  • 乃木さん家(病院)
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