結城友奈は勇者である~勇者と大神と妖怪絵巻~   作:バロックス(駄犬

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いろんな作品を進めるも時間が足りない模様。
もうタイトルである程度察しちゃいますねコレ。


其ノ八、樹海に響くは勝ち名乗り

 数百メートルを一飛びで移動するという常人離れした跳躍を行う少女がいる。

 巨大な樹海の木を足場に、犬吠崎 風が大きく一際大きく飛び上がるとその手に持つ大剣を担いで、狙いを真下へ。

 

 

「せぇぇええッッ!!」

 

 妖怪女郎蜘蛛の真上を取った風の大剣が脳天目掛けて振り下ろされる。

 高所からの位置エネルギーと大剣の質量、岩をも砕く勇者の力は並みの妖怪が食らうならば一溜まりもないだろう。

 

 

 しかし、それは相手が並みの妖怪であったらの話だ。

 

 

『舐メルナァッ!!』

 

 

 女郎蜘蛛は風の大剣を八本あるうちの腕の一つでその一撃を受け止めていたのである。

 一度受け止められて勢いを失った大剣はただの鉄の塊だ。

 大剣を直に掴み、風の身体がごと持ち上げるとまるで野球のピッチャーの如く振りかぶり、そのまま空へと投げつける。

 

「うおおおあああああ!!?」

 

 まるで絶叫マシーンに乗った時のような勢いで投げられた風は絶叫を上げながら宙をくるくると回る。

 樹木の壁に叩きつけられる直前、空中で姿勢を整えて木の上に激しく叩きつけられるように着地した。

 

 

「お姉ちゃん! 大丈夫!?」

 

 

 遠くで樹の声が聞こえる。

 自身の武器であるワイヤーを展開した樹はそのまま女郎蜘蛛の腕を絡めとる。

 それは一瞬ではあるがその巨体の動きを止めることに成功した。

 しかし、ワイヤーの数よりも向こうの腕の方が圧倒的に多い。

 

 

『小賢シイネェ!コンナ糸クズ如キ――――』

 

 忌々し気に吐き捨てた女郎蜘蛛は残っている腕二本で絡みついているワイヤーを掴むと自身の方へ手繰り寄せるように引っ張った。

 

 

「きゃあああああ!?」

 

 女郎蜘蛛側からすれば、軽く引っ張った程度で樹の身体が大きく地面から離れ、宙を舞う。

 魚が釣り上げられたかのように飛んだ樹は姉と同じく声を上げて、女郎蜘蛛の方へ引き寄せられた。

 

 

 樹はワイヤーで女郎蜘蛛の腕を絡めているため逃げようにも逃げ出すことが出来ない。そして逃げ出す手段もない。

 その樹に対して女郎蜘蛛は数ある手の一つで拳を作り、勢いよくその拳を突き出した。

 風の大剣を受けても傷一出来なかった硬さを誇る剛拳が樹へと迫る。

 

 

「樹――――!!」

 

 

 明らかに距離が離れすぎている場所からその光景を見ることしかできなかった風の絶叫が木霊する。

 駆け付けようにももう間に合わない。

 

 

『マズハ一匹―――――ムッ!?』

 

 

 女郎蜘蛛は自身の腕に違和感を覚えた。

 小さくとも、樹の重量を認識していたワイヤーからいつの間にか重さが消えていたのだである。

 視線を糸の先にやると樹と女郎蜘蛛を結んでいたワイヤーが切れていたのだ。

 

 

(え、うそ……なんでワイヤーが切れて……)

 

 

 それは突然の事で、ワイヤーを操っていた樹も不思議に思ったのである。

 樹から武器から伸びているワイヤーが数メートル先から急に『切断』されたように途切れたのだ。

 

 まるで「見えない刃」が振り下ろされたかのようにぷっつんと。

 

 

『樹ちゃん!こっちだァ!!』

 

 

 何が起きたと思考する中で、樹は聞きなれた声を耳にしてその正体をさがす。

 なんとか視界に捉えたのは白い犬、アマテラスがこちらに対して飛び上がっていた。

 そのアマテラスの上でイッスンが叫んでいたのである。

 

 

「イッスンさん!」

 

 姿勢が安定しない中、樹は苦し紛れにワイヤーをアマテラスに向けて伸ばす。

 伸縮自在に距離と強度を変えるワイヤーがアマテラスの首に巻き付いた。

 

『アマ公! 引っ張れェ!』

『ガァウッ!!』

 

 イッスンの指示でアマテラスが喉を見せる様に大きく身体を反らすとワイヤーがアマテラスの方へ引っ張られ、

 樹の進路が僅かに変化が起きる。

 そのお陰もあり、樹を狙っていた女郎蜘蛛の拳が樹の頭数センチ上を通り過ぎて樹海の地面を深く抉り取った。

 

 

「ふにゃああああああ!!」

 

 今日はなんだか叫んでしかいない気がする、そう思う樹はアマテラスに振り回されるように宙を大きく移動する。

 遠心力でぐるん、と宙を回った樹は眼を回しながらアマテラスがいる近くの地面に落ちた。

 

 

「い、樹! 大丈夫!?」

「ふぇ……お、お星さまがいっぱいいるよぉ……」

 

 駆け付けた風が倒れた樹の身体を抱き起すと、樹は瞳に渦巻きを浮かばせていた。

 樹の無事を確認して風は安堵の息を漏らすのだった。

 

 

『死ニ損ナイメ……コレデモ食ラエッ』

 

 しかし、安心したのも束の間だった。

 女郎蜘蛛が掌か紫色に光る球体を出現させ、それを投げつけてきたのだ。

 剛速球の如く放たれた毒々しい球体は真っすぐ風の元へ向かっている。

 

 

 まずい、逃げられない。

 

 

 樹を守るように、その体を一層強く抱きしめた時だった。

 

『アマ公! 一閃だァ!』

 

 一瞬の何が起きたかわからなかった。

 イッスンの掛け声とともに、球体が突然真っ二つにされていたのだから。

 割けた球体は風に直撃することなく、それぞれが明後日の方向へ飛び地面へ衝突した。

 

 

 球体はまるで腐った蜜たっぷりの果実をぶちまけたように地面に紫の色を濃く残す。

 そこからは異臭が漂い、色のついた地面は若干ではあるが溶け出していた。

 あれが風達にあたっていたら精霊のバリアがあったとしても防げたかは分からない。

 

 

「あ、アレに当たってたら危なかったわね……イッスン、今のは一体……」

『へっへェ! 今のアマ公の持つ筆しらべが一つ、”一閃”だィ!』

 

 イッスンは胸を張って堂々と言い放つ。

 アマテラスの力なのに自分の事のように誇らしげに言うのはなぜなのだろうか。

 

『その名の通り、アマ公が狙った場所にあるものをブッた斬っちまう筆技よォ!』

「あ、そうか……あの時のワイヤーが急に切れたのって……」

『オウよ、アマ公が樹ちゃんのワイヤーに向けて一閃を放ったのさァ!』

 

 筆しらべ、『一閃』はアマテラスが最初に手に入れた攻撃の筆しらべだ。

 その威力は全盛期のアマテラスには及ばない威力ではあるが岩や木、妖怪などを倒すには申し分ない。

 先ほどの攻撃を両断したり、打ち返したりすることも可能である。

 

 

「すごいわ……アマテラス、イッスン! これならあのクモ妖怪にも勝てるわよ!」

「そ、そうだよ! 今の攻撃を直接アレに叩きこんじゃえば……!」

『ま、まぁその通りなんだがよォ……』

「どうしたのイッスン、なにか問題があるのかしら?」

 

 

 言い淀んだイッスンに違和感を覚えた風が再度訊く。

 額に汗を流しているイッスンは申し訳なさそうに言うのだ。

 

『た、多分だがあの女郎蜘蛛には今のアマ公の一閃は効かねェ!』

「な、なんでよ!」

『女郎蜘蛛の身体はそんじょそこらの岩とか鉄よりも遥かに硬ェ……昔の……全盛期のアマ公の一閃の威力じゃなきゃアイツの身体には傷一つつかねェんだ!』

 

 

 『一閃』は万物を両断する刃ではない、とイッスンは言う。

 実際、小物妖怪ならば通じる一閃が女郎蜘蛛やヤマタノオロチなどの大物の妖怪やアマテラスの力が足りない場合は筆しらべは通じず、弾かれていたのだ。

 

 

 

「そ、それじゃあアイツを倒す方法がないじゃない! もうお終いよ!ここが四国の終焉! 私、もううどんが食べれなくなるんだわ~!」

「お姉ちゃん、世界の終焉の時もうどんの事を考えているんだね……」

 

 

 手の打ちようがない敵を相手に風が嘆き叫ぶ。

 その様子を見た樹は絶望的な状況でもブレない姉に感心しつつ、若干呆れたような視線を向けていたのであった。

 

 

 面白い姉妹だなァ、とイッスンが思わず笑いそうになるのをこらえて二人に告げる。

 

 

『待て待てお二人さんよォ……別に手がねェってワケじゃねえぜェ?』

「え?なになに!?ちょっと教えなさいよイッスゥゥゥン!」

『へっへェ……この策士、イッスン様に策ありだぜェ! ――――二人とも、アマ公、耳を貸しなァ!』

『アウ?』

 

 

 イッスンとアマテラス、風と樹はお互いに円陣を組むようにして――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『よーしッ 準備はいいかィアマ公! 風ちゃん、樹ちゃん!』

「ええ! 準備も女子力もオッケェよ!」

 

 イッスンの景気の良い声とともに、先頭に風が立ち大剣を構えている。

 

「え、えーっと……よろしくねイッスンさん、アマテラスちゃん!」

『アウッ』

 

 若干不安そうに言う樹にアマテラスが答える。

 まるで人の言葉で「おう」と言っているようだ。

 

 

 アマテラスはその背に樹を乗せていた。

 樹の武器であるワイヤーをアマテラスと自身の身体にを繋ぐように結んでいる。

 アマテラスの俊敏な動きを阻害しない程度に巻き付かれたそれは樹が振り落とされない役割を果たす。

 

『行くぜェ! この策は樹ちゃんが要だァ!早いトコあのせまっ苦しい所からニボシ娘を取り出してやろうぜェ!』

「う、うん……! 行こう、お姉ちゃん!」

 

 イッスンの言葉は樹を高ぶらせる物だ。

 何が何でも夏凜を救出する、その意志が表情には表れていた。

 

 

「我ながら嬉しい瞬間……樹が成長している……うぅ!」

 

 

 あの引っ込み思案の樹が勇ましい表情で戦いに赴こうとしている。

 風は妹の成長を涙なしで心から喜ばずにはいられない。 

 

 

「よっしゃあ行くわよ!犬吠崎姉妹の女子力、拝ませてやるわ!……突撃ィ!!」

 

 指揮官たる風の号令で勇者と大神は飛び出していく。

 先陣を切るのは風だ。

 真っすぐ女郎蜘蛛に向かって走る風を遠巻きに観測するように、アマテラスに乗った樹が距離をとりながら走る。

 

 

 その間、女郎蜘蛛が投げてくる毒の玉をアマテラスと樹が一閃とワイヤーで撃ち落としながら風を援護することで彼女に初手の一撃を担わせるのである。

 

 

 樹にも攻撃の手を緩めない女郎蜘蛛だったが、アマテラスが高速で周囲を走り回るため必死で腕と毒の玉で攻め続けるが素早いアマテラスを捉えることは難しい。

 

 

 風が飛び上がり、女郎蜘蛛の顔面目掛けて大剣を振り下ろす。

 質量と勢い任せの一撃など同じことだと、女郎蜘蛛の手で再び受け止められてしまう。

 

 

『甘イゾ、ニンゲンッッ』

 

 

 風の一撃を受け切った女郎蜘蛛が力任せに四つの拳を放つ。

 凄まじい勢いで放たれる拳の連打はまるでマシンガンのようだ。

 

 

「なん……のぉぉぉぉおおお!!!」

 

 その剛拳による連打を風は大剣を盾のように巨大化させて前へ翳して受け止める。

 ガツンガツン、と鉄と鉄が衝突する音が激しく樹海を震わせるように響いた。

 

 

「きッつううううううう!!!」

 

 

 強烈な振動が大剣越しに風へと伝わり、剣を持つ手がビリビリと痺れ始める。

 それでも風は大剣を手放さない。

 前衛を張ると決めたからには意地でもここで倒れる訳にはいかない。

 ここまで来たら我慢比べである。

 

 

 十、二十、三十にも及んだラッシュは時間にして1分にも満たないだろう。

 通常ならば、耐えきれずに身体全身の骨が砕けていてもおかしく無い。

 

 

『ナニ……?』

 

 

 女郎蜘蛛が目にしたのは剣を祓って平然と立つ、風の姿であった。

 嵐の如き拳の連打を、風は耐えきって見せたのである。

 

 

 

「アタシの方がァァァ!」

 

 

 巨大化した体験を掲げて風が叫ぶ。

 狙いはもちろん、幾度として繰り返してきた女郎蜘蛛の顔面。

 

 

「女子力は上ぇぇぇえええ!!!!!」

 

 淀み無い剛剣の一振りが呆然と立ち尽くす女郎蜘蛛の顔面を直撃する。

 ゴーン、とまるで寺の鐘を鳴らすかの如く打ち鳴らされた女郎蜘蛛の巨躯が大きく揺れる。

 

 

『ガァッ!? ―――コ、コノニンゲン、不死身カ!?』

 

 

 自身の拳の連打を受けて立っていた人間などいない。

 そう自負していた必殺の力押しが通用しないことに女郎蜘蛛は激しく動揺した。

 

 それを見た犬吠崎 風は高らかに言うのである。

 

 

「覚えておきなさいこの蜘蛛妖怪! アタシが四国の三大女子! 犬吠崎姉妹の姉が風!

 かわいい妹の名前は樹! 天下無敵の犬吠崎姉妹の名をしかとその目に焼き付けなさいってのッッ!」

 

 予想通り、というかなんというか。

 自身の名乗りにごく自然と妹の樹の名を混ぜる風に、妹の樹はアマテラスの上で恥ずかしさから悶絶しかけた。

 

 

『小癪ナァ! ナラバコレデモ食ラッテ命尽キ果テルガイイッッ!!』

 

 風の名乗りが効いたのか、女郎蜘蛛が雄たけびを上げる。

 奇妙な声を捻りだしながら、自身の蕾を真上へ向けるとその先端から巨大な卵をひりだした。

 

 

 え、なにあれキモイ……。

 と犬吠崎姉妹が同時に思ったのは言うまではない。

 

 

 女郎蜘蛛の卵は先ほど投げていた毒の玉など比べ程にもならない威力を持つ。

 毒と邪気を籠められ、着弾と同時に周囲にそれを振りまくあの卵はまさしく『爆弾』と呼ぶにふさわしい。

 その爆弾を食らえば、いかにタフな風であっても耐えきることは出来ないだろう。

 

 

『クタバレ――――――』

 

 しかし、巨大卵を発射する女郎蜘蛛へ接近する影があった。

 アマテラスと樹である。

 

 

『よーしッ ようやく隙を見せてくれたぜェ……アマ公!』

 

 

 イッスンは女郎蜘蛛が卵をひりだす瞬間をずっと待っていたのだ。

 アマテラスは女郎蜘蛛の卵目掛けて横一文字に軌跡を走らせる。

 

 

『ナ―――ッ!?』

 

 

 次の瞬間、『一閃』炸裂。

 蕾の上にあった卵は鋭利な刀で真横から斬られたかのような美しい断面を露にしながら両断された。

 それと同時に、卵爆弾が破裂し女郎蜘蛛の頭上で激しい破裂音が響き渡る。

 

 

 妖怪の耳を破るかのような強烈な破裂音に女郎蜘蛛の巨躯が一層大きく揺れ、前のめりになるように崩れ落ちた。

 そしてイッスンは追撃の手を緩めない。

 

 

『今だァ! 頼むぜ樹ちゃんッ!』

「う、うん……! いっけぇええええ!!」

 

 アマテラスの上に乗る樹が女郎蜘蛛へ向けてワイヤーを放つ。

 まっすぐに伸びたワイヤーは蕾の上に突出していた鉤爪へと巻き付いた。

 

 

 

 イッスンの予想が正しければ、あの女郎蜘蛛は彼の知るナカツクニの妖怪である女郎蜘蛛である。

 ならば、その倒し方は一緒の筈だ。

 女郎蜘蛛の弱点はあの巨大な尻の部分、蕾の中にある『目玉』だ。

 その弱点を攻撃するには、あの巨大な蕾を開かせる必要がある。

 以前なラ『桜花三神』の筆しらべ、『蔦巻』があればあの蕾と桃コノハナを結んで強引に開かせることが出来たが、今のアマテラスにはその力が無い。

 

 

 そこで救世主登場。我らが勇者部部長の妹、樹である。

 樹の勇者としての武器、ワイヤーは『相手と自分を結ぶ』という点は筆しらべ『蔦巻』と同じである。

 極限までワイヤーの硬度を上げて人の腕並みの太さを以って巻き付いた樹のワイヤーは並みの力では切断不可の鋼鉄のロープと化す。

 

 

 しかし、本来の樹が持つワイヤーの使用用途は捕縛と切断である。

 巻き付いてから自動的に手繰り寄せ、強引に蕾を開かせる機能は有していない。 

 

 故にここからは――――、

 

 

『樹ちゃん!思いっきり引っ張れェェェ!!』

 

 

 強引に次ぐ、強引な手段。

 樹がワイヤーを引っ張り、無理やり蕾を開かせるのである。

 力を込めて、両足で地面を踏ん張ってはワイヤーを引く。

 

「うーっ! こ、これ硬すぎるよぉ~!」

 

 しかし、一向に蕾は開かない。

 勇者として力を与えられている樹だが、もともとの非力さと女郎蜘蛛の蕾の硬さなのか、

 『葛巻』のように蕾を開かせるのは難しそうであった。

 

『こ、これじゃあ女郎蜘蛛のヤツが起きちまう! あ、アマ公~! オマエも一緒に引っ張りなってェ!』

 

 アマテラスも樹を援護するように勇者服の裾の部分を口に含んでは地面を擦るように引っ張るのだが、それでも足りないのか蕾は開かない。

 

「う~っ!もお……む、むりぃ……!」

 

 樹の顔は力を籠めすぎたのか既に真っ赤だ。限界も近い。

 急がねば気絶した女郎蜘蛛が起きだしてしまう、という最悪な状況を危惧したイッスンのもとへ、

 

 

「あーもう、何やってるの樹! アマテラスも!……ちょっと貸しなさい!」

「ふぇ―――? お姉ちゃん!?」

 

 樹の背後から風が抱きしめる様に手を伸ばし、その両手がワイヤーが伸びている武器を直接『鷲掴み』した。

 大きく息を吸っては吐いて、呼吸でタイミングを合わせながら風は眼を見開き、

 

「だっしゃあああああああ!!!!」

 

「わあああああ!お姉ちゃああああああん!!!」

 

 

 

 ガロンスロー。

 筋肉番付などの競技番組で重りを加えた木樽を後方へ放り投げるかの如く、樹を空へぶっ飛ばした。

 勇者服を咥えていたアマテラスとイッスンも同じように宙を舞う。

 その瞬間、女郎蜘蛛の鉤爪が強烈な力に引っ張られたことにより、最終的にはその花弁の一枚が『引きちぎられた』。

 

 

『ギャアアアアアアアアッッ!!!???』

 

 ビリビリッ、とまるで段ボールを強引に割いたような音と共に引きちぎられた花弁。

 女郎蜘蛛を襲う痛みは想像を絶するだろう。

 自身の身体の一部を無理やり開かせるどころか、引きちぎられたことに女郎蜘蛛の絶叫が樹海に響き渡る。

 背中の皮を引きはがされたようなものだから当然であろう。

 

 

 

『み、見ろィ アマ公! 風ちゃんのトンでもパワーで女郎蜘蛛の蕾の一枚がなくなったぜェ!

 ニボシ娘はあの中だァ! この手を逃すワケにはいかねェ、飛び込めェ!』

 

 

 ”迷ったら飛び込め”、彼らの信条とする言葉通りにアマテラスは地面から起き上がると一気に駆け上がる。

 女郎蜘蛛の蕾を構成する花弁が欠けた、大きく開いた穴のような場所に迷うことなく飛び込んだ。

 

 

『なんつー濃い瘴気だよ……こんなところに長く居たら頭オカシクなっちまうぜェ。

 

 ……でも見つけたァ! 思った通りでィ、叩いてくれんと言わんばかりにむき出しの目玉があらァ!!』

 

 蕾のなかへと入り込んだアマテラス達が目にしたのは、うねうねと動く触手の先にある巨大な目玉だった。

 その数、女郎蜘蛛の足の数と一緒で八つ。

 

 

『あ―――ッ! アレってもしかして……ニボシ娘かァ!?

 気ィ失ってンのかコッチの呼びかけにも応えやしねェ……アマ公!』

 

 蕾の中で中央と呼べる場所に、人の姿があった。蕾に飲まれた夏凜だ。

 蠢く触手が身体に巻き付いていて、宙に浮いている夏凜は身動きが出来ないようである。

 

 

 アマテラスが夏凜を縛っている触手に食らいつく。

 一際大きく触手はうねると拘束が弱まったのか、夏凜の身体が床へずり落ちた。

 

 

『ニボシィ、起きろォイ!こんなことでくたばる奴かよォお前はァ!!』

 

 ぱしん、ぱしんと夏凜の頬を叩くイッスンは反応が返ってくることのない夏凜に一抹の不安を募らせる。

 これほど濃い妖怪の瘴気の中に捕らえられていたのだ、常人の人間がこの中にいたら”何が起きるか分かったものではない”。

 もはや手遅れだったか、とイッスンが息を呑んだ時に、

 

 

「うっるさいわね……そんな大声で怒鳴らなくても、聞こえてるわ、よ」

 

 夏凜が目を見開いた。

 ぎこちない動きで起き上がった夏凜は本調子でないのか、肩で息をしながら頭を咄嗟に抑えている。

 

『オイオイ、ニボシ娘よぉフラフラじゃねェか!』

「ええ、そうよ。 さっきから頭ガンガン痛むし吐き気はするしオマケに身体中なんかヌルヌルしてるし、放っておいたら直ぐにでもぶっ倒れちゃいそう、つまり――――」

『つまり?』

 

 

「―――ベストコンディションよ、問題ない」

 

『えぇ……』

 

 威勢よく刀を手に持って振って見せた夏凜が気丈に振舞っているのは丸わかりだ。

 だがそれでも、闘志が燃え尽きず戦う余力というものが有り余っていることがイッスンには分かったのである。

 夏凜は完成型を自称するだけあって精神的にも肉体的にもタフであった。

 

 

「コイツにも色々と借り返さなきゃいけなきゃいけないし、もちろん倍返しよ……あの目玉を攻撃すればいいんでしょ?」

『お、オウよ!』

「そう、なら話は早いわね。 アマテラス、イッスン、あんた達も手伝いなさい」

『当たり前だァ!ここまで来て手柄独り占めにされるのは納得がいかねェ!

 アマ公!あのニボシ娘よりも先に、コイツを仕留めちまおうぜェ!』

 

 

 夏凜が、アマテラスが女郎蜘蛛の弱点である目玉を見据える。

 未だに動き回る触手をその視界に留めた一人と一匹の者たちはそれぞれの武器で妖怪女郎蜘蛛の戦いに最後の仕上げに入ったのだ。

 

 

 

「はあぁぁぁぁああ!!!」

『アマ公! 一閃だァ!!!』

 

 夏凜の剣が、アマテラスの不可視の斬撃が女郎蜘蛛の急所である目玉を切り刻む。

 気色を悪くした肉片が飛び散ると目玉付の触手は一層蠢いた。

 

 

 

 

『ギャアアアアアアアアアッッ!!!!』

 

 

 自身の急所である場所を切り裂かれる痛みに耐えきれなかった女郎蜘蛛の絶叫が再度響き渡る。

 再びその巨躯を揺らし、蕾の中にいる者たちを振り落とそうとしたが直ぐにその動きは封じられることになった。

 

 

 

「えーい!うごいちゃだめー!」

 

 樹の無数に伸ばされたワイヤーが女郎蜘蛛の足に絡みついてその動きを抑制する。

 もともと弱り切っていた女郎蜘蛛の抵抗は小さいもので、縛られたことによってその体は地面に沈んだ。

 

 

 再び起き上がろうとすると、

 

 

「こんのぉ! 大人しくしろぉぉぉぉお!!!」

『ギャンッッ!?』

 

 動きを封じられた女郎蜘蛛の脳天に風が容赦なく大剣を振り下ろす。

 巨大ハンマーのような強烈な一撃を受けた女郎蜘蛛の頭部を地面に激しく打ち付けることで逃がす隙というものを与えない。

 

 

 

 

 

「思い知れェェェ! 私のチカラァァァァ!!!」

 

『一閃一閃一閃一閃一閃一閃一閃一閃一閃一閃一閃いっせ―――やべっ噛んだ、いっせェェェェェん!!!!』

 

 

 その間にも女郎蜘蛛の急所は抉られ続ける。

 夏凜の、刃を取り付けた風車が暴れ狂うような太刀筋が容赦なく目玉と触手を肉片に変えていき、

 アマテラスの豪快な筆筋の一閃が、複数の目玉と触手を切り刻んでいく。

 

 

 勇者と大神の止むことのない嵐のような猛攻に流石の大妖怪、女郎蜘蛛も耐えきることが出来なかった。

 夏凜とアマテラスがそれぞれ最後の目玉と触手を細切れに刻んだのを最後に――――、

 

 

 

『ユ、勇者……オ、恐ロシヤ―――』

 

 

 この世に妖怪以上に恐ろしい存在がいるということを身をもって味わった女郎蜘蛛の動きが完全に沈黙し、身体は地に沈み、二度と動くことはなかった。

二百年間、四国の森深くに住み着いていた大妖怪は勇者と大神によって討ち倒されたのである。 

 

 

 

 

 やがて女郎蜘蛛の姿は黒ずんだ邪悪な色合いをそぎ落とすかのように光り輝いていき、

 樹海の地に大きな蓮の花が咲き誇った。

 それは、まるでアマテラスの力によって浄化された女郎蜘蛛が新たな命に生まれ変わったかのようであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――斯くして突如として樹海の世界に取り込まれたアマテラスと勇者の一行は、新たな敵である大妖怪 女郎蜘蛛を見事に打倒したのじゃった。

 

 

 

 

 

――――醜い姿だった女郎蜘蛛はその身を大輪の花に変え、四国の山奥深くで人々に知られることなく安らかに咲き続けることになったのじゃ。

 

 

 

 

 

――――その美しい花の中から助け出された勇者 夏凜も命に別状はなかったのじゃが……実はこの後ひと騒動起きてしまうわけで、それは別の機会に話すとしようかの。

  今回はこれにて一見落着―――――、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……といきてェところだが、その前に――――せっかく勇者の皆と一緒に大妖怪を討ち取ったんだィ。

 目覚めのイッパツ大神サマの勝ち名乗りと行こうじゃねェか!』

 

『アウッ』

 

 

 

 樹海全体を一望できる一際大きな樹木の上に立つアマテラス。

 イッスンが刀を抜き、合図するようにそれを天へと指し示すとアマテラスも同じように空へ向けて咆哮を放った。

 

 

 

 

 樹海の空と大地に割れんばかりの咆哮が響く。

 それは勇者と大神の勝利を知らしめる神の遠吠えであった。

 

 




妖怪女郎蜘蛛さんも勇者部の総出のリンチには成す術もなく……。

犬吠崎姉妹を前面に活躍させる感じで書いていったら、樹が拘束→風が巨大剣で殴りまくって抑え込む→アマテラスと夏凜で弱点ひたすら攻撃、という鬼畜コンボが出来上がった。

やっぱ女郎蜘蛛戦ということもあり、最後は勝ち名乗りで締めたかったのでやりました。
表現はまだまだだと思うので、回数を重ねて進化させることが出来ればと思ってます。
女郎蜘蛛編はこれにて終了ですが、ちょっとだけもう少し続きます。



今回の活躍者たち。



犬吠崎 風
・・・・女郎蜘蛛さんのオラオラッシュを受けたけど自前のタフネスと馬力で受け切った。踏ん張りとATKに振ってるからね、余裕です。 お返しとばかりに女郎蜘蛛の花弁を引きちぎってやった。多分、風先輩一人だけでも引きちぎれた説。やっぱりゴリラry


犬吠崎 樹
・・・・大神伝宜しく、キャラを乗せて戦うシステムを取り入れた結果アマテラスにライドする。女郎蜘蛛戦攻略に必須な『蔦巻』の筆しらべの代役を立派に務める。最終的な手柄は姉が持ってった。


三好 夏凜
・・・・触手プレイとかされてたわけではなかった。紳士たちには申し訳ない。
ただ妖怪の瘴気に長く充てられたせいでこの後色々とやらかすことになる。


結城友奈と東郷美森
・・・・絶賛ゆうみも中。遠くで爆発とか妖怪の絶叫が聞こえるけどお互いに見つめあって聞こえないフリをしている。


女郎蜘蛛さん
・・・・序盤は強キャラだった。でも後半の大神と勇者の連携、拘束、抑え込み、弱点突きの鬼畜コンボによってその生涯に身を閉じる。書いていた作者ですら可哀そうだと思った。
アマ公によって浄化されて大きな蓮の花となり、四国のどこかで人知れず咲き続ける。移動は神樹サマがやってくれました。


アンケートなど新しいのを設置する予定なので回答していただくと助かります。
感想や意見などいつでもお待ちしております。





アマテラスの家庭訪問。誰の家にいく?

  • 結城さん家
  • 東郷さん家
  • 犬吠埼さん家
  • 三好さん家の花凛
  • 乃木さん家(病院)
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