結城友奈は勇者である~勇者と大神と妖怪絵巻~   作:バロックス(駄犬

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愉快な奴らの登場です。


其ノ八点五、猿と大神

――――樹海にて大妖怪・女郎蜘蛛を打倒したアマテラス一行。勝利の勝ち鬨を響かせ、やることも無くなったかのように思えたが。

  もうちっとだけ、お話は続くのじゃ。

 

 

 

――――アマテラスの勝ち鬨が夜空に響くと突然と空が輝き始める。

  ……そう、失われていた筆神が復活し、アマテラスが力を取り戻す瞬間じゃ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『来た来たァ~!アマ公の筆しらべ復活の時間だぜェ!』

 

 

 イッスンがアマテラスの頭の上で飛び跳ねる。

 彼に言われるまでもなく、アマテラスは夜空へ星を書き加えて星座を作り出すと、樹海一帯が眩い光に包まれた。

 

 

「おお!アマちゃんの新しい筆しらべちゃんだね!」

「これまでは龍、鼠だったけど……今度は一体何なのかしら」

 

 友奈と美森がそれぞれ想いを馳せて、輝く空から筆神が顕現するのを待つ。

 アマテラスの持つ筆しらべはこれまで龍と鼠。

 筆神は全て動物を模した姿で現れるというのはイッスンから聞いている。ならば、この筆神も動物なのだろう。

 

 

 やがて光から何か飛び出してきた。

 アマテラス一行の前に飛び出してきた者の正体とは――――、

 

 

 

『キ―――ッ!』

 

 

「猿?」

 

 そう、猿である。

 白き体毛の猿が空より現れ出たのだ。その数、なんと『三匹』。

 それぞれ『楽器』を持った猿たちはお互いに見合うと、律儀に一匹ずつ地上へと飛び降りていく。

 まるで打ち合わせでもしていたかのように。

 

 

 まず一匹、和楽器で言うならば『笙』を手にした猿は飛び降りながら、片足立ちでコマのように回り始めた。

 優雅で、緩やかな回転をするその様はまるで一流のスケート選手の如く。

 それが樹の目前に着地する。

 

「―――ひぅ!」

『キッ!?』

 

 楽器を手に持ち、器用に回転ジャンプを決めてきた猿に樹が驚きの声を上げると猿も同じく驚き、少女の反応に少しだけ残念がって地面に座り、笙を吹き始める。

 

 

 

 続いて二匹目。

 最初と同じく和楽器である『横笛』を持った猿は足場のない宙を蹴るようにして飛び上がった。

 豪快に高く上がった猿は身を折りながら縦に回転し、落ちていく。

 まるで水泳でいうところの飛び込み競技のようだ。

 重力に従った落下と、回転に回転を重ねた猿の勢いは留まることを知らず、そのまま――――、

 

『ギャッ!!』

「いだっ!!?」

 

 ごちん、と。

 地上にて佇んでいた夏凜の頭部に顔面を衝突させていた。

 加速しすぎたことで目測を誤ったのだろうか、猿は眼を回しながら頭を振って気を取り直すと落下と衝突によるダメージをものともしないかのように笛を吹き始めた。

 

 

 

 最後の三匹目。

 他の二匹が失敗しているのを見て鼻を荒くするその姿は自信に満ち溢れているようであった。

 自身の楽器を手にした猿はそれを宙へと放り投げると、猿自身も地上へとダイブする。

 縦回転をしながら落下する猿は他の猿に威厳を見せるつけるかのように着地を決めた。

 寸分も狂うことなく、二匹の猿の間にしゅたっ、と降り立った猿は空の手を伸ばして、最初に投げた楽器、巨大な『タンバリン』の一つをキャッチして見せた。

 

 

「おおっ!」

『キッ!!』

 

 ノールックでタンバリンを掴んだ猿に勇者一同がどよめく。

 それに対して気を良くした猿はドヤ顔を決めていた。

 

 

――――他の二匹が和楽器なのに、どうしてコイツだけタンバリン?

 

 

 という疑問が勇者たちの頭の中で浮かんだのは言うまでもないだろう。

 しかし、それよりも気になることがある。

 

 

 先ほど投げたタンバリンの内、もう一つが猿の元へ落ちてこない。

 猿はずっと右手を構えているが、一向にタンバリンは振ってこなかった。

 猿が上を見ると、自身が投げたタンバリンが遥か後方へと飛んでいたのが見えた。 

 猿は慌てて走り出す。

 先ほどのドヤ顔を焦燥へと変え、あらぬ方向へと飛んで行ったタンバリンを追いかけ始めた。

 

 

 やがて樹海の木を飛び越えて、猿が見えなくなった時。

 タンバリンが樹木の影に隠れるのと同時に甲高い金属の音が響き渡った。

 

 

『……』

「……」

 

 

 勇者、アマテラス、猿たちの間に訪れるなんとも言えない静寂が訪れる。

 しかし数秒後、残った二匹の猿たちはそれぞれの楽器を構えて台本通りに最後に行うポーズを再度決めていた。

 

 

『キッ!』

『キッ!』

 

 

 しかもドヤ顔で。

 

 

「仕切り直すなぁぁぁあ!!!」

 

 その光景に勇者部一の突っ込み力を持つ夏凜が反応するのは当たり前の事だった。

 

 

 

『おお……我らば慈母・アマテラス大神……』

 

 もはや恒例となってしまったのか、異形の猿が喋り始めることに勇者たちはもう何も言わない。

 あの夏凜ですら突っ込むことを放棄している。

 

『長きに渡り物の怪に封じられし我らが身を――――

 御許の力にて救い給わり誠に恐れ多く候』

 

 

 ♪~♪(笙を吹く音)

 

 

『我らが桜花三神 御許の懐に帰り奉りて―――』

 

 

 ♪~♪(笛を吹く音)

 

 

『この枯れたる苦界を潤わさん!』

 

 

 

 バシン、バシン、バシン(シンバルを叩く音)

 

 

 

 

「喋ってる時くらい黙りなさいよこの猿たちは!

 なんなの!? 筆神ってこんな奴らしかいないの!? 最初はなんかまともそうだったのに!?」

 

 

 花神の猿たちが奏でるバラバラな楽器の音色に遂に夏凜のキレ突っ込みが炸裂した。

 筆しらべの数は全部で十三。

 アマテラスが取り戻した力は全部で四つ。残りは九つである。

 今のような花神のように、筆神には個性豊かな者たちが多く存在するのを後に夏凜は知ることになる。

 

 

 言いたいことだけ言い終えた花神たちはそれぞれ自身の姿を文字へと変えていく。

 

 

 笙を持った猿、蓮の花神は『蓮』へ、

 横笛を持った猿、咲きの花神は『咲』へ、

 シンバルを持った猿、蔦の花神は『蔦』へと。

 

 

 三つの文字は光となってアマテラスの身体の中へと吸い込まれていく。

 自然の力を主とする桜花三神の力の全てが、アマテラスへと戻ったのだった。

 

 

『しっかしいきなり三つも力を取り戻せたのはラッキーだったぜェ、

 今みたいに妖怪の身体の中に封印されてる筆しらべもいるかもしれねェから、そん時はオイラ達で助けてやろうぜアマ公!』

『アウッ!』

 

 

 筆しらべはその姿を多くはモノに憑く傾向にあった。

 鳥の彫像や人の像、夜空の星へと、様々である。

 しかし、今回のように妖怪の中に封じ込まれた筆しらべは初めてであった。

 

 イッスンは思う。

 恐らく、以前のようなナカツクニでの旅とは違い、色々と苦労する事になるだろう、と。

 

 

 分からないことだらけの旅がいつもの事だった。

 苦しいことがないことなんて無かった。

 それと同じく、楽しいことだっていっぱいあった。

 ならば、今回の旅だってそういう事が起きるかもしれない。

 

 

「ねえねえアマちゃん、イッスンちゃん! 今取り戻したお猿さんたちの力って一体どういうのなの!?見せて見せて!!」 

「友奈……ちょっとこれ以上私がリアクション取るような事態を引き起こさせるのはナシで……わ、私もう限界……」

「わー!夏凜が倒れたー!医者ァ!病院!ヘルプミー!」

「お姉ちゃん、落ち着こう!? あぁ!東郷さん、どうしたら!!」

「寝てるだけみたいね……もうすぐ樹海化が解けるわ。 そうしたら大赦の病院に連れて行ってもらいましょう」

 

 

 それでも今回の旅にはアマテラスだけじゃなく、こんなに頼りになる少女たちもいるのだ。

 いけ好かないキザ野郎(ウシワカ)もいる。

 

『オウオウ、落ち着きなって友奈ちゃんよォ。 桜花の筆しらべは機会があったらちゃあんとあ見せてやっからよォ!』

 

 

 不思議と笑みがイッスンから零れる。

 こんな賑やかな奴らがいるのであればどんな苦境に立たされても、思ったのだ。

 『なんか行ける気がする』、と。

 

 

 

 

 

 それが分からないことだらけの旅の中でイッスンがただ一つ、確信した事であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――瀬戸大橋付近、英霊之碑。

 

 

 どこか、ホールのような構造の建物の中心、舞台を囲うように多くの石碑が並び立っている。

 そこは戦いで落命し、

 或いは天寿を全うし、

 人類の為に尽力した歴代の勇者と巫女たちが最後に祀られている場所だ。

 

 

「まったく、最近の妖怪たちと来たら、か弱いレディを寄ってたかって襲う……実に低俗な輩になり下がったもんだよ。

 彼らの先祖があの姿を見たらさぞ嘆くだろうねぇ……」

 

 その英霊之稗にて、一人の男の声が響く。

 男は和装に、烏天狗のような被り物をしていた。その右手には和装とは釣り合わないバスケット、風呂敷を身体に巻き付けているその姿はまるでピクニックに来たかのようだ。

 

 

「まぁ下級妖怪の天邪鬼達にあんな的確な指示を飛ばす奴はさぞ強敵だろうね……アマテラス君たちは対処できるかな?」

 

 

 奇抜な服装の男――――、ウシワカは楽しそうに呟く。

 悠々と歩きながら言葉を虚空へと投げるその様は並び立つ石碑たちへ語り掛けているようだった。

 

「ああ、そうだった……今日はキミに(・・)見せたい物があってね……レッツルック!!」

 

 ウシワカは身に着けていた風呂敷を解くと一枚の盾と刀を取り出す。

 アマテラスが『画龍』の筆しらべで修復した神屋楯比売と生太刀だ。

 

 

 ウシワカは神屋楯比売を一つの石碑の前に立ち、見せつける様に近づけた。

 石碑には当時の勇者の名が刻まれている。

 

 

 

―――――『土井 球子』という名が。

 

 

「アマテラスくんの力のお陰で、ユーの武器はこうして元通りさ。

 いつまでも壊されたままじゃ申し訳ないと思ってね……今でも”神の力を宿した武器を直すにはアマテラス君の力が必要なんだ”。だから今日この日まで時間がかかってしまったよ……」

 

 そうそう、とウシワカは続ける。

 話題は犬吠崎姉妹についてだ。

 土井球子の石碑の隣に並び立つ、『伊予島 杏』の石碑にも語り掛ける様に、

 

 

「新しい勇者たちに仲がいい姉妹がいてね……まるで球子くんと杏くんを見ているようだった。

 もしかしたら、彼女たちはキミたち二人のソウルが生まれ変わった姿なのかもね……だとすれば、それはミラクルかも」

 

 

 ウシワカは二つの石碑に微笑みかける。

 二人の願いが現実となったのではないかと、その偶然に奇跡というものを感じながら。

 

 

「さて―――ん?」

 

 感慨に耽っているウシワカの元に、一羽の鳥が飛来する。

 青い鳥だ。 

 外来種という概念が存在しないこの世界では、こういった青色の鳥は大変珍しいものである。

 

 

 青い鳥はゆっくりとウシワカの真上を飛び回ると、やがて彼が手に持っている生太刀の柄に止まった。

 それを見てウシワカの表情が変わる。まるで数年以来の友と再会したかのような笑みを浮かべていた。

 

 

「久しぶりだね、マイフレンド。 キミの愛刀もこの通りさ、お礼はアマテラス君に言いたまえ。 

 彼は今、讃州中学という学校に住み着いているらしいからね、時間があれば会いに行くといい。

 ま、キミの姿はバードなワケでアマテラス君も流石に気づきはしないだろうけど」

 

 

 青い鳥は少しだけしゅん、と顔を俯かせたかと思えば直ぐに生太刀の柄から飛び上がる。

 翼をはためかせた鳥はウシワカの眼前にある一つの石碑へと降り立った。

 

 

――――『乃木若葉』と彫られた石碑へと。

 

 

「おっとっと、忘れてたよ。まったく、年は取りたくないものだね」

 

 

 その場から去ろうとして、ウシワカは何かに気付いたか、生太刀と神屋楯比売の事で夢中になっていたために地面へとおいていたバスケットを手に取った。

 中から取り出したのは、タッパだった。 

 彼の手製で、作り立てなのかフタを外すと香ばしさと一緒にむわっと熱気が立ち込める。

 

 

 それを一つの石碑の元へもっていき、ゆっくりと中身が零れないように置いた。

 

 

 

――――『三ノ輪 銀』という、少女の石碑の前へ。

 

 

「今回はミーと園子くんとキミの分だ。 須美くん……今は美森くんだが、二人ともいずれここに来れるようになるだろうさ。

 そしたら、今度は皆で一緒に――――」

 

 墓参りに行くよ。

 その一言を告げて、その少女がよくウシワカに振舞ってくれていた『焼きそば』の一つを食し始めたのだった。

 

 

「う~んデリシャス☆」

 

 自身が作り出した焼きそばに舌鼓を打ち、彼は彼女の料理の腕前を超えてしまっただろうと勝手に自画自賛した。

 

 

 焼きそばを食した後、ウシワカは箒やら雑巾をどこからともなく出現させる。

 頭の被り物の上から更に三角巾を被って気合を入れた彼は、勇者たちが眠る英霊之碑の間を一人で全て清掃し石碑の手入れを行っているのである。

 

 

 

 

 人類を存続させるために命の花を散らしていった少女たちを労り、少しでも自身の罪に対して贖罪するために。

 

 

「そういえば、銀くんの端末を受け継いだ子……ノッブ(春信)のシスターだったけ? ちゃんと見ていなかったなぁ、今度グリーチングしに行かなきゃ」

 

 

 鼻歌交じりにそんなことを呟くウシワカは四国の海の方角へと視線を移した。

 視線の先に映るのは、大橋よりも巨大で天高く聳え立つ塔であった。

 

 

 

 常時結界が張られている事により一般人からは『目視することが出来ない』その塔からは毎日毎日、『猫の鳴き声』が聞こえるという。

 香川県の海辺にはそんな噂が生まれていたのだった。

 

 

 

 




最初は木霊暴走させて桜花から登場させようと思っていた花神シリーズ。
でも花神の猿ってなぜか3匹いるし、全部全部書いてたら時間が掛かりすぎちゃうと思ったので女郎蜘蛛さんに封じさせて同時に三体getさせるという荒業に出ました。

 ちなみに最初のプロットは暴走した木霊に樹ちゃんが求婚されるという御話。
 タイトルは『樹の嫁入り』でした。

 
 今回手に入った筆しらべ解説は実際に使ったお話の最後に書きまする。



いつもの簡単な補足


青い鳥
・数百年間、四国に住む人々を陰ながら見守るバード。
その正体は精霊で、精霊になるまえは友人の耳かきが大好きな勇者様だったとか。
近々、知人?に会いに讃州中学へ行くつもり。


鳴き声のする塔
・最近現れ始めた塔。頂上からは猫の鳴き声が毎日聞こえる。謎の結界が張ってあって鳴き声に気付けても、塔の姿を普通の人間が感知することは出来ない。












アマテラスの家庭訪問。誰の家にいく?

  • 結城さん家
  • 東郷さん家
  • 犬吠埼さん家
  • 三好さん家の花凛
  • 乃木さん家(病院)
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