結城友奈は勇者である~勇者と大神と妖怪絵巻~ 作:バロックス(駄犬
Youtubeで白い犬の動画見てたらアマテラスにしか見えなくなってきた。
お昼休みも間近となった四時間目の体育、讃州中学ではちょっとした騒ぎが起こっていた。
校庭で授業を行っている最中の生徒たちが小さな驚きと悲鳴を上げている。
『ワウッ』
犬だ。犬がいる。
白き毛並みを持つ犬が学校のグランドを猛スピードで駆けまわっていたのだ。
当然、それがアマテラス大神だというのは既知の者たちもいるわけで。
「アマちゃん!? 牛鬼まで!?」
「ええ!? どうしてイッスンちゃんが鳥に捕まってるの!?」
授業中の友奈と美森にも女子生徒たちの間を突っ切って走るアマテラスの姿は確認する。
疾走するアマテラスは先にいる青い鳥を追いかける様で、イッスンが鳥に捕まっているのも。
一体全体、どうして鳥なんかに捕まったんだ、という突っ込みはいったん置いといて。
体育教師も犬を捉えようとするがあまりの速さに追いつけない。
その様子を見て、生徒たちも混乱していた。
「だーめーだーよーアーマーちゃーん!すとぉーっぷっっ!!」
三段階の加速を経たアマテラスの目の前に、友奈が立ちふさがる。
両の手を広げて逃げ場をなくした人間ネットが迫る。友奈はその手でアマテラスを捉えようとするが。
「うそ!?」
躱された。
まるで幻を掴むかのように友奈の手は空をきる。
全速力の状態から少しも速度を落とすことなくフェイントを突き、友奈の真横を抜き去ったそれはラグビーで言うところのスワープというテクニックに似ていた。
「アマちゃん待って――!!」
アマテラスは友奈に目もくれず、ただひたすら鳥を追いかけ続ける。
あくまで追い掛けっこという勝負に拘っているのか、鳥はアマテラスのいる地表すれすれを飛んでいたのだった。
しかし、追いかけっこという勝負においてナカツクニの絶対王者であるアマテラスは徐々に鳥との距離を縮めていく。
鳥はイッスンを掴みつつも一糸乱れぬ飛行を続け、女子生徒の間を身を横にし、または翼を畳んで針の穴を縫うように人という障害物を躱していく。
『うおおおおィ!やめろォおおおお!!』
ギリギリな飛行を続ける度に足に捕らえられているイッスンの叫びが聞こえる。
アマテラスも速度を上げて迫るが、縦横無尽に飛び回り、巧に障害物を利用する鳥の立ち回りに勝負を決する頭突きを決め手として繰り出すことが出来ない。
『あぁあああアマ公!さっさとオイラを助けやがれェ、このままだと、また…は、吐く…ウェプ』
アマテラスは感じていた。
この鳥はあのヨシぺタイの魔の森で戦ったオイナ族の娘、女王カイポク以来の強敵の出現だと。
『ワウッ』
血沸き肉躍るとはこの事か、闘志の溢れんと言わんばかりにアマテラスの身体に力が漲る。
頭に乗せた牛鬼を振り落とすかもしれないほどの加速の果てに、白の体躯が飛び上がった。
『――――!!』
『おおっ! アマ公そこだァ! いけぇ!!』
鳥の真上を取るほどの跳躍を見せつけたアマテラスに青の鳥にも焦りが見えた。
重力の落下によって生まれた加速、振り下ろされる腕は的確に鳥の身体を捉えている。
このままでは鳥の敗北が決定してしまう。
そう思考した鳥は意外な行動に出た。
『へ? なんで?』
ぶん、と身を捩るかのように捻った鳥はその勢いを利用し、アマテラスの腕を躱したのである。
真横に回りながら動く戦闘機の回避運動のような動きで。
だが勢い余ってか、鳥の脚から掴んでいたイッスンが零れ落ちてしまった。
咄嗟に身を屈めて地表と激突する痛みを耐えようとするイッスン。
しかし、イッスンが次に感じたのは衝撃でも痛みでもなく、
ぷにん。
「あ、あらあらイッスンちゃんったら……」
車椅子にて授業の見学をしていた美森のジャージの上、胸の部分に落ちていたのである。
清楚なクッションが衝撃を和らげていたのだ。
『ぶはっ! 助かったぜ美森ちゃん。そして御馳走様ァ!!』
「ええ!?それってどういう意味なのイッスンちゃん!」
女性特有の柔らかな山の上で飛び跳ねるイッスンの言葉に顔を少しだけ朱に染めた美森。
少しだけキリッ、と表情を決めている彼に対して怒りという物を覚えた。
『おお……この弾力、ホンモノだぜェ……オイラの予想を上回るまさに秘境エゾフジ―――ってのわぁ!!』
「きゃっ!!」
調子に乗って美森の胸の弾力にモノを言わせトランポリンのようにその場で跳ねるイッスンの元に再び青い鳥が現れる。
目にもとまらぬ速さで滑空して、まるで盗人がかすめ取るように通り過ぎれば、そこにイッスンの姿がなく。
『って、またかよォ!』
再び鳥の脚に捕らえられたのだった。
鳥は逃走を続け、都合よく解放されていた一階の教室の窓へと校内へと侵入していく。
アマテラスも、そんな鳥を追って教室の中へと飛び込んでいった。
その後の讃州中学の凄惨たるや、あまりにも多くて語り尽くせない。
「こらぁッ! 私のニボシ食い荒らしたの誰だァ!!」
「家庭科の授業でせっかく作ったうどんがひっくり返されたわ! どこ行ったアマテラスぅ!」
「お、お姉ちゃん!じょ、女子更衣室に白い犬と青い鳥が入ってきたよ~!」
突如として侵入してきた青い鳥と白い犬により、讃州中学はてんやわんやの大騒ぎ。
勇者たちや一般生徒たちの思惑から外れた人外同士の戦いは熾烈を極めたのだった。
――――そして数時間後、讃州中学を巻き込んだドタバタ騒ぎの戦いは終局を迎えようとしていた。
『……』
『……』
外は既に夕日が目立つ頃。
長大な渡り廊下にて睨み合う犬と鳥。
アマテラスは長きに渡る追跡の果てに、青い鳥を廊下の端、袋小路へと追い詰めることに成功したのである。
『――――』
『”な、長きに渡る戦いも…ウップ……ここまでのよう、だな、オエッ……アマテラス。 次で、オエッ…決着だ”』
逃亡劇の一番の被害者である捕らえられたイッスンは疲労困憊の身でありながらも最後まで鳥の通訳を止めない。
見上げた通訳根性である。
青い鳥もここまで来たら逃げるつもりはないらしい。
その鋭い眼光はいまだにアマテラスから逃げることを諦めておらず、この危機的状況ですら、面と向かって逃げ切る自信があるように思えた。
―――いざ。
意を決した二匹は図らずとも、同時に駆けだしていた。
両者ともに突撃。
だが、青い鳥はギリギリまでアマテラスを引き付けて直前で身をロールさせて躱す作戦だ。
対してアマテラスは真っすぐこちらに向かってくるだけ。
スピードと卓越した飛行技術を持つ鳥にとって躱すことなど造作もない。
勝った。
と、内心で勝利の二文字を浮かべた鳥がアマテラスと衝突する寸前、身を捩り回避運動を行おうとした時だった
アマテラスが大きく飛び上がったのだ。
青い鳥の頭上を飛び越えるほどの大ジャンプを。
目測を誤ったのか?
青い鳥は思わず目でアマテラスの姿を追う。
否、『追ってしまった』のだ。
アマテラスの頭には先ほどまでいた牛鬼の姿がない。
それに気づいたときには既に遅く―――、
『――――!!』
『ンガァ』
青い鳥が前方を見据えた時、目に飛び込んできたのは大口を開けて待つ牛鬼の姿だった。
そして次の瞬間。
がぽっ、と青い鳥は頭から牛鬼の口の中へと受け止められ、バランスを失った身体は牛鬼とともに廊下の床を転がっていく。
アマテラスは自分自身を囮に使ったのだ。本命は牛鬼である。
最後、二匹が接触する瞬間まで牛鬼はアマテラスの尻尾に噛り付いて、その身を隠していたのだ。
そしてアマテラスがジャンプすると同時に牛鬼は尻尾から離れ、鳥の視線がアマテラスを追う隙を突いて捕獲する。
その作戦に、鳥は見事引っかかったのだった。
『よ、ようやく…おわ、った……ぜ…ガク……』
地面に叩きつけられて床に倒れこんだイッスンは震える声でそう呟いた。
長きに渡る逃亡劇から、やっと解放されたのである。
〇
『ったく、偉い目にあったぜェ……オイこのトリ公! 焼き鳥にされる覚悟はできてんだろうなァ!?』
場所は変わって屋上。
イッスンが怒号を鳥に向かって愛刀・電光丸を構えている。元気を取り戻したか、今にも斬って掛かりそうな勢いだ
青い鳥はアマテラスの眼前に居る。
だが牛鬼が翼の部分に噛みついているため、逃げように逃げられない状態だ。
鳥も観念したように牛鬼の噛みつきを受け入れている。牛鬼の口は歯が見当たらないので噛まれたとしても痛くはないだろう。
『―――』
『あ?なになに……”すまなかった、お前に会えると思ったら歯止めが利かなくなってしまった”―――だとォ?』
鳥の意思を読み取ったイッスンが怪訝そうに腕を組んだ。
この不思議な青い鳥はやはり過去にアマテラスと面識があるらしい。
だが、アマテラスは相変わらず首を傾げていた。
『なぁなぁ、本当に会ったことがねぇかアマ公。このトリ公、だいぶ前からお前のこと知ってるみてェだが……』
イッスンは思った。
ナカツクニでも、このような人間臭い鳥は見たことがない。
この世界でもかなり異質なほうだろう。ならば、推測するにこの鳥は、アマテラスが四国に来て出会った者の一匹ではないだろうか、と。
だが、アマテラスが実際に覚えていないというのはどういうことなのだろう。
いくら恍けるのが得意なアマテラスでも、今回ばかりは本当に何も知らなさそうだ。
そんなアマテラスに対して鳥は続けるのだ。
『――――』
『”お前が帰ってきたと聞いて、飛んできたんだ。嬉しかったぞ……お前にはもう、会えないと思っていたからな……本当に――――”』
『……』
次第に感情を吐露する鳥の言葉は積もりに積もった年月を解消するようだった。
それほどまでに長い間、この鳥はアマテラスのことを想っていたのだろうか。
だがアマテラスは何も答えない。否、応えることが出来ない。
その鳥の語る言葉に返すことが出来る答えを持ち合わせていないのだ。
故に、無言を貫くしかないのである。
『嬉しかったんだ……!』
青い鳥は、いつの間にかその瞳から涙を流していた。
『お前とこうして、もう一度遊ぶことが……私の願いだったんだ……お前にはいっぱい助けられて、そのお礼もしたかったのに出来なくて……! この姿になった後も、絶対にお前のことだけは忘れたくなくて……っ!』
紡がれる言葉は、イッスンを介して伝わっているものだ。
だが、それを直に聞いているアマテラスはこちらを見つめて瞳を潤ませ、涙の粒を地面に落とす鳥の姿にあろうことか、一人の少女を幻視した。
『心行くまでお前と、遊んでいたかったんだ……アマテラス!』
アマテラスの記憶の彼方から靄がかかったように浮かんでくる。
刀を手に凛々しく佇む少女。
人一倍責任感が強くて、心が強くて。
だけど時折見せる照れ顔がとても可愛らしくて。
そしてこの地に住まう全ての生き物を守り続けるという誓いを掲げていた、
桔梗の花が良く似合う、一人の少女を。
『うぅ……っ!うぅ…っ!』
『―――――』
青い鳥から、嗚咽に似たような声が聞こえた気がした。
涙を流す鳥の横に居た牛鬼も、既に噛みついていた翼から口を離している。
そればかりか、泣いている青い鳥の頭を、今度は労るように手で撫でていた。
『……アマ公?』
そしてアマテラスも、青い鳥の傍に座ると顔を近づけて、未だに止まることのない鳥の涙を舐めとったのだ。
これまでの苦労を労るように、その過程で傷ついた心を慰めるように。
なぜだろうか、そうせずにはいられない。
だが涙を流しているこの鳥の姿を見ては、そうしてやることがアマテラスが自分自身にできる精いっぱいの事だと思ったのだ。
『は、はは……お前はやっぱり、優しいな』
一人の少女が、笑み浮かべてそんな言葉を言った気がした。
――――ありがとう、友よ。
その言葉を残して、青い鳥は去っていく。
自身が戻るべき場所へと向かいながら。
『アマ公……あの鳥、また来るってよ』
よほどアマテラスと遊べたことが嬉しかったのか、別れ際にイッスンは鳥からそんなことを聞いていた。
『今度遊ぶときは他所でやれよォ、アイツが来るたびにオイラが市中引き回し……もとい、校内引き回しみたいな目に遭うのはもうこりごりだからなァ?』
『……』
イッスンとアマテラスは既に飛び去って行った青い鳥の方角を見やる。
姿はもう見ることは出来ないが、彼はずっとその方向を見つめていた。
(あの鳥はアマ公の事を知っていた……口ぶりからして、かなり前から知っている感じだった……一年や十年じゃねェ、もっと遥か前からの知り合いみてェな――――)
『アウ?』
なんでもねぇよ、とイッスンは言う。
この四国と大神アマテラスの関係は思った以上に複雑そうだ。
ただ一つだけ言えること、それはどの場所に行ってもやはりアマテラスはアマテラスだという事だった。
世に生きとし生きる者たちを守る為に奔走し、たとえ分の悪い相手でも怯まずに立ち向かう大神アマテラス。
極め付きのお人よしでそれはナカツクニで死んで転生した後も変わらず。
時には陰ながら見守り、
時には直接人々を手助けする毛むくじゃら。
そんな神様に人々は皆感謝をする。お天道様に向かって両手を合わせながら。
あの青い鳥も同じなのだろう。
イッスンは、ここにいるアマテラスが自身の知るアマテラスであるということを再認識したのだった。
『ま、おいおい分かるこったなァ……よしアマ公、仕方ねぇから神骨頂一つ奢ってやるぜ――――』
イッスンが言葉を言い切る前に、身体がひょいと摘まみ上げられた。
冷気のように身体が冷える、ただならぬ殺気に恐る恐る振り返ると、
「ねぇイッスン?話があるんだけど」
そこには笑顔の風が。
『アウ?』
気づけばアマテラスも頭を鷲掴みにされている。
めきめきと逃がさないように力を籠める存在に身体を震わせながら振り返れば、
「アンタもよ、アマテラス」
引きつった笑みを浮かべる夏凜がいた。
その後、イッスンを含めたアマテラスが頭に角を生やした怒り状態の風と夏凜に学校で迷惑をかけたことについてこってり叱られたのは言うまでもない。
本篇に影響しないくらいに青い鳥の登場。
久しぶりにアマ公に出会えて、ほんとに嬉しかったようです。
さぁ次からじゃんじゃん筆神集めのお話続けていくぞォ!プロットだけは出来上がってらァ!文章書くだけなんだよォ……それがなかなか難しい。
アマテラスの家庭訪問。誰の家にいく?
-
結城さん家
-
東郷さん家
-
犬吠埼さん家
-
三好さん家の花凛
-
乃木さん家(病院)