結城友奈は勇者である~勇者と大神と妖怪絵巻~   作:バロックス(駄犬

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ようするにカリン塔です。






r_18ものに熱中してたら遅くなったぜェ、アヘェ..,


其ノ九、花凛と猫鳴の塔

「ふーっ…はーっ……しんど」

 

 

 讃州中学二年、三好夏凜の小さいため息。それは疲れ果て、地の底から湧いたようだった。

 肩で息をするように上下させ、全身を通して感じるダルさと戦う中で、夏凜の額から滲んだ汗が頬を伝って地面へ向かって落ちていく。

 

 

 しかし、その汗の雫は地面に落ちるのを夏凜は確認できない。

 落ちていった汗を見る暇などないのだ。なぜなら――――、

 

 

「なんで私がこんな訳の分からない塔のてっぺん目指して昇んなきゃならないのよ―――!!」

 

 

 三好夏凜の現在地は、バカでかい塔の壁。

 しかもただの塔ではない。

 四国の海に聳え立つこの塔はとても巨大で、下から眺めた時は雲にまで掛かっていて先が頂上が見えなかったくらいだ。

 

 

「スパイダーマンか私は!」

 

 夏凜は自身に突っ込みを入れながらも、このやたらと巨大な塔を登ることになった元凶を見つめ、叫ぶ。

 

 

「こーらぁイッスン!アマテラス!あんたらだけで前に進んでんじゃないわよ!」

 

 

『あーん?ニボシ娘ェ、なんか言ったかァ―――!?』

 

 

 夏凜がよじ登っている壁の位置から更に先、数十メートル先にいる存在、アマテラスとイッスンだ。

 

 

「はやすぎって言ってんのォ!」

 

『オイ、アマ公。ペースがちぃと早いってよ』

 

『アウ?』

 

 

 頭の上にしがみついているイッスンの声を聴き、アマテラスが首だけを動かして夏凜に視線を向ける。

 不思議とアマテラスの身体は壁から離れず、ぴったりとすべての脚が吸い付いている。まるで猫のようだ。

 

 

これは塔の全体に流れている「壁神の紋所」の力が働いているためだ。

壁にその力が働いている合間は手足が吸着し、落下することなく登ることが出来るのである。

 

 

 アマテラスとイッスン、夏凜は最近になって出現したこの塔の頂上を目指してよじ登っている最中であった。

 

 

 巷で噂となっている砂浜付近から『悲しそうな猫の鳴き声がする』という。その原因を探ってほしいという依頼が勇者部の依頼箱に寄せられていた。

 一通だけならスルーする類のバカげた内容の依頼だが、それが十通以上となるといよいよ怪しくなってくる。

 

 

 調査に乗り出したアマテラス達。目的地の海岸沿いを調べ始めたところ、突然の事だった。

 空が歪んだかと思うと、突如としてアマテラスたちの目の前にこの塔が姿を現したのだ。

 

 

 天へと真っすぐ伸びている塔からは猫の鳴き声が泣き止まない。

 アマテラスたちは、件の猫の鳴き声の噂がこの塔であるということを突き止めたのだ。

 

 

 そして、この猫の鳴き声が聞こえる巨大な塔を見たイッスンは思ったのである。

 この塔は、ナカツクニの両島原に存在していた『猫鳴の塔』ではないかと。

 

 

 絶景、両島原の海原にぽつんとそそり立っていたその塔。

 いたるところに猫がいて、自由気ままに暮らしている猫尽くしの塔。

 猫の鳴き声が日々木霊するその塔の頂上を登り切ったイッスン達を待っていたのは、筆しらべ『壁神』であった。

 

 

 なぜこの世界に猫鳴の塔があるのかは分からない。

 だが、同じ姿をしたこの塔があるということは、失われた筆しらべも近くにあるのではないか。

 そう考えたイッスン達は探索の為、猫鳴りの塔を登ることを決意したのだ。

 

 

「というかなんで私まで付き合うことに……こういうのは風とか友奈にやらせれば……」

 

『なんでって...風ちゃんは"そんなおっかない所意地でも行かないわよ!絶対行かないわよっ!"なんて言い出して動かねぇし、友奈ちゃんも他の部活の助っ人で手が離せねぇんだィ。いいじゃねぇか、お前の鍛錬場所から結構近いんだしよォ』

 

 

 そう、猫鳴の塔がある場所は夏凜がよく鍛錬している砂浜付近だ。

 故に近場でよく利用している彼女が探索に抜擢されたのである。

 

 

「たしかに車椅子の東郷には無理だし、樹は途中でバテちゃいそうだし……適任役は私しかいないってわけね。いいわ、完成型勇者の塔登りを見せてやろうじゃないの」

 

『……前から思ってたがなんでそんなに完成型にこだわるのかワカンねェな、なぁアマ公?』

 

 

 気合を入れて登り始める夏凜をイッスンは見つめる。

 アマテラスの鼻先から眺める彼は夏凜について、あまり良い印象を持っていなかった。

 

 

 勇者部の部室では基本喋ることはあまりなく、部室ではいつもニボシを口にしている。

 そして周りの勇者に対して棘のある言い方が目立ち、良く風やイッスンと衝突しがちだ。反りが合わないというか、犬猿の仲とでも呼ぶべきか。

 

 花凛は自身に対するストイックさも持ち合わせており、

 砂浜でのトレーニングや、徹底したサプリによる栄養補給したりと、強さへの探求に余念がない。。

 

 

 だが、その強さに対する姿勢は、ただ強くなる為だけではないものだとイッスンは思った。

 自身を鍛錬し、敵を倒し、更なる強さを求めるその姿には何か執念じみたものを感じるのだ。

 

 

『友奈ちゃんが言うには、”とってもいい子だよ!”って言っていたがァ……取り合えず、上へ進もうぜアマ公』

 

『……』

 

 

『どうしたィ、アマ公。ほれェ、とっと行くぞォ』

 

 

 何故か夏凜から視線を戻さないアマテラスをイッスンは不思議に思いながら先へと急かす。

 だが、気づいていなかったのだろう。アマテラスのその表情が、今の夏凜の状態を危惧していたことに。

 

 

『―――え?』

 

 

 アマテラスが危惧していた事態が起きた。同時にイッスンの目が見開かれる。

 

 

 夏凜が態勢を崩し、壁に掛けていた両手足が離れ、下へと落ちる光景が目に飛び込んできていた。

 

 

 

『アマ公ッ!』

 

 

 イッスンが叫ぶと同時、アマテラスが下に向かって駆けた。

 風を斬るように走るその姿は走るというよりも、落下すると例えたほうが正しい。

 一瞬にして落ちる夏凜に追いつくと、アマテラスは夏凜の勇者服の襟首へと噛みついた。

 

 

 ずざざざー、と塔の壁を擦るようにブレーキを掛けたアマテラスのスピードが緩み、やがて完全に停止する。

 

 

「……」 

 

 

 アマテラスに咥えられた夏凜の顔は青ざめていた。

 額からは汗が流れ、気を失っているのか先ほどの衝撃にも何も反応を示さない。

 

 

 

『オイ、ニボシィ!どうしたってんだよォ!』

 

 

 夏凜の頭に飛び乗ったイッスンが呼び掛けるも、彼女は応えない。

 先ほどまで元気だったというのに、これは一体どうした事なのだろうか。

 

 

 

 一抹の不安がよぎったイッスン達であったが、躊躇している暇はない。

 少しでも早く安全な場所に連れて行く必要がある。そう考えたアマテラスは夏凜を咥えたまま上へと昇っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『なにィ?体調が悪いだってェ!?』

 

「ちょ、うるさっ!あんま耳元で怒鳴んな!」

 

 

 夏凜が耳元でイッスンの大声が響く。

 いかに小さいコロポックルであっても、至近距離で叫ばれれば五月蠅いこと限りない。

 

 

 アマテラス達は相も変わらず塔の頂上を目指している。

 

 

 道中、休憩できる場所を探していたアマテラス達であったがナカツクニと同じ猫鳴の塔の構造だったことが幸いし、壁から真横に伸びた小さな広場もそのまま残っていた。

 

 

 一同はそこで夏凜を下ろして休憩をすることが出来たのである。その広場は人と犬、そして極小のコロポックルが居座るには充分であった。

 

 

『ワゥ……』

 

 

「あぁ、ごめんねアマテラス。疲れちゃったでしょ……迷惑かけたわね、ほら、にぼし食べる?」

 

 

『♪~♪』

 

 

 不思議な力で足が壁から離れて落ちないといえど、一人の少女を咥えてここまで登ってきたアマテラスは流石に疲れたのか、床に座る夏凜の膝上に顎を乗せ、身体を横たわらせている。

 自身の至らなさに迷惑をかけたと夏凜は謝りつつ、お礼の意味も兼ねてニボシを提供するとアマテラスは嬉しそうにそれを口に含んだ。

 

 

 

 夏凜が壁から落ちた理由。それは突然身体の自由が利かなくなったからだという。

 

 

 最近鍛錬をしている時や、学校生活でも突然身体がだるくなったり、眩暈を起こすことが多かったという。

 その時は大事に至らず、気にするほどではなくて、勇者部の面々にも相談していなかったのだが。

 

 

『ハハ~ン、さてはお前朝飯食ってきてねぇなァ?駄目だぜェ、ちゃんと"ケンコーカンリ"には気を付けなきゃよぅ』

 

 

「なっ!私が朝食抜くなんてありえないわッ ちゃんと毎朝、三食欠かさず食べてるっつーの!睡眠だって欠かさないし!日々のトレーニングだって!」

 

 

 イッスンの言葉を夏凜は自信をもって否定して見せる。

 彼女は勇者としての能力を発揮するために、またはその実力を伸ばす為に健康面、体力面では気を配っているほうだ。

 栄養の補填としてサプリやカルシウムを多く含んだにぼしなどを食べているのはそのためだ。

 

 

 

「なんか、あのでっかい蜘蛛と戦ってからかしら……あのあたりから症状が出て来てる気がするのよね……」

 

 

『でっかい蜘蛛って……女郎蜘蛛のことかァ? そういやァお前あの妖怪のケツの中に捕まってたんだっけェ……』

 

 

「ケツいうなケツ。正確にはつぼみの中でしょうが……今でも思い出すだけで気持ち悪くなってくるんだから……それに、"変な声"も聞こえて……」

 

『声ェ?』

 

「いえ、なんでもないわよ‥‥‥」

 

 

 以前樹海に現れた巨大な蜘蛛妖怪、女郎蜘蛛。

 待ち伏せされていた樹を庇ってその体内に閉じ込められたのを夏凜は思い出して顔を青くする。

 

 

『もしかすると、身体に"邪気"みてェなのが溜まってるんじゃねェかァ?』

 

「邪気?」

 

 

 

 

 おうよ、とイッスンは続ける。

 妖怪とは文字通り、「妖しく」、「怪しい」存在だ。

 人に危害を加えない無害なモノから、人の命を多く奪った残酷な妖怪と幅が広い。

 

 

 女郎蜘蛛は伝承においては多くの男を家の屋根裏に引き上げて、その肉を食らっていたと言われるほどの妖怪だ。

 そんな邪な存在の体内に居座り続けることで、悪影響が夏凜に与えられた可能性が高い。

 

 

『人間が人ならざるモノと触れちまうと大抵ロクなことがねェ。"触らぬ神に祟りなし"……妖怪の悪い気に充てられちまったせいで、"身体によく無いもの"が溜まってるのかもなァ』

 

 

「……治るんでしょうね?」

 

 

『さぁなァ、少なくとも身体が重くなったりして妖怪が憑かないくらいならお前さんの身体は大丈夫なハズだぜェ』

 

 

 身体の調子が悪くなる、邪気に乗っ取られる……といった症状はイッスンのいたナカツクニにおいては妖怪に身体を憑依されてしまっていると言って差し支えない。

 夏凜の不調が妖怪の邪気によるものかは断定は出来ないにしても、現時点で妖怪などを呼び寄せていないのであれば大事に至ることはなさそうだと、イッスンは判断した。

 

 

『とは言え、このまま無茶して塔から落下したら目も当てられねェ……オメェさんはここで引き返して―――』

 

 

「何言ってんの?私はまだ登るわよ?」

 

 

『ハァ?オイオイ、話聞いてたのかァニボシ娘!』

 

 

 アマテラスが夏凜の膝上で顎を乗せている、その頭の部分でイッスンがピョンピョンと跳ねる。

 

 

『途中まで完全に気ィ失ってたんだぜェ?それにお前ェ、アマ公が気づかなかったらあの時だって死んでたかも知れねェってのによォ!』

 

 

「完成型の私を舐めないで。さっきのはちょっとした油断よ、同じ過ちは繰り返さないわ」

 

 

『なんでいつもそう完成型ってヤツに拘るんだィ!そんなに躍起にならなくてもよォ、ここで引いたところで誰もお前の事を責めたりしねェって』

 

 

 

 

―――――オマエハ、ヨワイナ。

 

 

 

 

「――――!!」

 

『周りの奴はあんまり気にしたりしねぇよォ』

 

 

 

 

―――――オマエハマタ、ミステラレル。

 

 

 

 

「……っさい」

 

 

―――――ダレモオマエヲ、ヒツヨウトシナイ。

 

 

『え?』

 

 

 

―――――ダレモオマエヲ、ミヤシナイ。

 

 

 

(この声……またッ…!!)

 

 

 イッスンの言葉に被せるように聞こえる、淀んだ声が夏凜の脳内に響き渡る。

 響く声はひたすら夏凜の触れてはいけない、心の奥を容赦なく叩き上げる。

 繰り返される呪詛のような言葉は何度振り払おうと、忘れようとしても消せない記憶が、古井戸の底から蘇ってくる。

 

 

 

 

―――――オマエハ、イラナイコダ。

 

 

 

 

「うっさい!あんたみたいなちっこいのに何が分かるっていうのよ!」

 

『ワウ?』

 

『お、おい、どうしたんだよニボシ娘……』

 

 

 夏凜の発する突如の怒鳴り声に、イッスンは面を食らう。

 膝の上で顎を乗せていたアマテラスも思わず顔を上げた。

 

 

「知ったような口を利かないでくれる!?」

 

 

 まるで何か触れてはいけないスイッチに触れてしまったかのように夏凜は言葉をまくしたてる。

 

 

「私は完成型勇者なの!誰よりも優れていて、敵を殲滅しなきゃならないのよ! 勇者として結果を出して、鍛えて、バーテックスを殲滅しっまくって、結果を出して……絶対にアイツらを――――」

 

 

 そこから先、夏凜は慌てて口を閉ざした。

 沈んだ表情。

 何かに駆り立てられたかのように、沸き上がった昂る感情を抑えられず、思わず口にしてしまったかのようだった。

 

 

 

「――――ッッ!!」

 

『うぉぉいッ!どこ行くんだニボシ娘ェ!!」

 

 

 数秒程、押し黙っていた夏凜はバツが悪そうに立ち上がり、その場から飛び上がった。

 イッスンが慌てて追いかけ視線を上に向けると凄まじい勢いで塔を駆け、跳んでいく夏凜の姿が見える。

 勇者の力を持ってすれば、あの程度の動きなど造作もないという事かと、イッスン達は呆気にとられる。

 

 

 否、呆気に取られている場合ではない。

 

 

『一体どうしちまったんだよニボシ娘……しかし、どうにもアイツ、"フツーじゃなかった"ぜェ……』

 

 

 イッスンの目には夏凜の強さに執着するその姿に違和感を覚えた。

 憑かれたように苛立ちの言葉を口にする彼女は何か別の力によって"言わされた"ように見える。

 

 

 夏凜が完成型に拘ること。

 強さを求めること。

 そして勇者であること。

 その全てが先ほどの夏凜の言葉と繋がっている気がした。

 

 

 三好夏凜という少女の背景に何があったのかは分からない。ただ一つだけ言えることとすれば――――、

 

 

『このままニボシ娘を放っておいたらマズイ気がするぜェ……アマ公!オイラ達も急いでニボシ娘を追いかけようぜェ!』

 

『アウッ』

 

 

 女郎蜘蛛の戦闘から体調を崩し始めた夏凜の原因が邪気だとするらば、『何か良くないことが起きる』。

 アマテラスとイッスンは危惧の念を伴わせながら急いで塔を登り始めたのだった。

 

 

 

 

 




花凛の状態はアレです。 のわゆ編で精霊使いすぎて幻覚見え始めてきたちーちゃんの精神状態からだいたい2、3段階下のレベルです。

アマテラスの家庭訪問。誰の家にいく?

  • 結城さん家
  • 東郷さん家
  • 犬吠埼さん家
  • 三好さん家の花凛
  • 乃木さん家(病院)
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