結城友奈は勇者である~勇者と大神と妖怪絵巻~ 作:バロックス(駄犬
今週は色々と忙しくあります……疲れからか、執筆中にベッドで横になっている。
ぐんちゃんとかの周囲の環境が酷すぎて隠れがちだけど、三好家の夏凜を取り巻く環境もだいぶヤベー部類だと思うの。自分なら絶対にやさぐれて非行に走る自信がある。
「ちくしょう、ちくしょう、ちくしょうッ!!!」
古びながらも美しい造形を保つ石の壁を駆けあがる赤の勇者服。
三好夏凜は天へとそそり立つ猫鳴の塔を猛然と駆け上がっていた。
(私……なんで、あんな事をッッ)
先まで苛立ちを募らせていた時とは打って変わって、酷く冷静な思考。
だからこそ夏凜は先の言葉を発してしまったのか疑問に思っていた。
いや、理由は分かっている。それは、夏凜の頭の中に語り掛けている声。
――――オマエノコトナンテ、ドウデモイインダ。
「――――ッッ」
まただ、声が聞こえる。泥のように、酷く濁った声が。
その言葉は的確に夏凜の心を侵食していった。
――――『父』モ『母』モ、オマエノ『兄』シカ、キョウミガナインダ。
三好夏凜には一人の兄がいる。途轍もなく優秀な兄だ。
成績、体力、他者からの信頼も厚く、その若さで大赦の職員として働いている夏凜の兄は三好家の宝と言ってもいいだろう。
そんな兄を見て、夏凜も頑張った。
人一倍負けず嫌いな夏凜だ。勉強も、運動も、絵画、様々な分野で兄を追い越そうと努力した。
しかし夏凜がいかに頑張っても、彼女の兄がそれを塗り潰すような成果を上げてくる。
結果的に夏凜の成果はかき消され、両親は優秀な兄の評価だけを常に見ていた。
夏凜がテストで良い点を取っても褒めてくれない。
運動会の競技で一位を取ってもそれは同じで。
絵のコンクールで賞を取っても、家に飾られるのは兄の絵だけ。
三好家の基準はいつも夏凜の兄であった。家族の中心は兄だった。
父や母が羨望の眼差しで兄の一挙一動を見つめ、まるで花を愛でるように褒め称える。兄の功績こそが、三好家の最大の幸福なのだ。
そして夏凜に対して、両親の反応は特になかった。
夏凜を見て幸福になることもなければ失望することもない、あるのは『無関心』という静寂のみ。
確かにそこにある個人の存在を否定されたかのように夏凜は三好家の中では『どうでもいい』扱いとなっていた。
その家庭環境が幼少の三好夏凜に影響を与え、大きな反骨心が生まれた事など夏凛の両親は知る由もないだろう。
絶対に、何が何でも見返してやる。その一心で……。
そしてある日、夏凜の元に知らせが来る。兄が務める大赦からの通知だ。
――――――三好夏凜に勇者としての適性アリ、と。
「はぁ…っ!はぁ……っ!!」
広がるのは青い空。
雲すらも身近に感じる天に向けて荒い息を吐きながら、額から流れる汗を拭う。
一心不乱に塔を駆けあがった夏凜はいつの間にか猫鳴の塔の頂上へとたどり着いていた。
全身を襲う気怠さに耐え、頭に響く『声』を振り払うように。
塔の頂上へと向かう夏凜を地の底へと引きずり込もうとする手から必死になって逃れるように。
雑念を振り切った夏凜は見事、猫鳴の塔を踏破したのだった。
呼吸を落ち着かせた後、仰向けになっていた身を起こして周囲を見渡す。
頂上と呼ばれる場所とは言っても、そこにあるのは大きな猫の彫像のみ。それ以外は見渡しても雲の海ばかりだ。正直、先ほど休憩していた場所と広さはあまり変わらなかった。
「頂上までたどり着いたのはいいけど、イッスンが言っていた"筆神"なんてどこにも見当たらないわね……ハズレだったって訳かしら?」
この場に居ない者たちの名を口にして、自身が登ってきた方を見つめる。
イッスンとアマテラス達はまだ塔を登っている最中なのだろう。
夏凜たち勇者の跳躍力は凄まじく、一度の跳躍で数百メートルも飛ぶことが可能なのだ。これくらいの差を付けられて当然の事なのである。
目的の『筆しらべ』が見つからなかったとイッスン達が知ったら、いったいどんな顔をするだろうか。
彼らの旅が十三の筆しらべを集めるのが目的だとすれば、酷く落ち込んでしまうに違いない。
(ま、もししょげてたりでもしたらフォローしてあげるとするか……ニボシもあることだし)
そもそも前向きなのが取り柄なイッスン達が落ち込んでいる姿など想像できないのだが、と夏凜は少しだけ頬を緩ませた。
非常食のニボシもまだ残っている。気休め程度かもしれないが、ここまで登ってくる彼らを労ってやる準備はしておこう。先ほど醜態を晒してしまったということも謝罪することも忘れてはいけない。
休憩の意味も兼ねて、ニボシを口に含みながらアマテラスが登ってくるまでの間、何をしようか考えていた夏凜。するとそこへ、
『ミィ……』
「え……ね、猫?なんでこんなところに……」
自身の足元に三毛色の猫が身体を寄せている事に夏凜が気付く。
まだ成長途中で小柄な猫は自身の頬を夏凜の脚に擦るようにしていた。
「……」
キョロキョロと周囲を見回した夏凜。それは、本当にこの場にいる者が自分だけなのかを確認するためであった。
前後左右を把握して、この塔の頂上に存在するのが夏凜だけなのだと理解した彼女は身を屈ませると慣れない手つきで足元の猫に手を伸ばす。
「う、うぅ……」
(どうしよう、かわいい……っ! 触ってもいい、かな?)
恐る恐る、震える手を自身でも気色悪いなと思いながら夏凜はその手をゆっくりと近づけた。
しかし、猫に身体が触れる寸でのところで夏凜の手がぴたっと止まった。
触れようとして逃げられたらどうしよう、怖がられたらどうしよう。
他者からの拒絶に敏感な夏凜だからこその反応である。
『……ミィ』
「う、うわっ!ちょ、ちょっと!」
しかし、干渉を躊躇する夏凜に対して猫は自ら頭部を両の手に乗せるように預けてきた。
咄嗟の出来事に慌てふためくが、猫は逆に冷静で暴れることなくむしろ顔を押し付け、夏凜の手のひらを擦り始めた。
空気を含んだかのような柔らかさと、体毛越しに感じる確かな体温が程よい感触を作り出し、まるで生きている綿を掴むような感覚にうっとり。
「ふわぁ…やわらかぃ……」
頬を緩ませきった夏凜は堪らず子猫を抱き上げる。
そのまま胸と自身の頬を使い、全身で子猫の柔らかさを堪能するかのようにきゅっと抱きしめていた。
前足を優しく手に取ると形の良い肉球のぷにぷにとした感触に夏凜は幸福を覚える。
これはまさしく人をダメにする魔性のものだ。
力はそこまで掛けていないが、抱きかかえられるという行為は本来動物にとって慣れていなければ行えない。
ましてや見知らぬ相手ならばなおさらだ。
だというのに、この猫は夏凜を相手に驚くことなくむしろその行為を受け入れてさえいる。
人懐こい猫なのだろうか。
「あれ……アンタ、ケガしてるじゃないの!?」
『ミィ?』
抱きしめていた夏凜が自然と視線で猫の頭部を見ると、近距離で見なければ分からない程度だが、その耳が小さく欠けているのが分かった。
他にも身体に傷があったり、と明らかな外的によるものが目立つ。
こんな高い所にいるのだから、鳥などに襲われたのだろうか。
対格差のある生物なら鳥は猫や犬ですら襲ったりすることもあるらしい。
この場所で一匹だけいる無防備な猫は鳥などの外敵には格好の的だったのだろう。
「それに、ちょっと弱ってる……こんな寒くて高い塔にずっと一匹で居たのね。何か、なにか食べるものを……そうだ、ニボシは食べるのしから……あぁでも、子猫のエサにニボシは塩分が高すぎるから……」
あの手、この手で、思いつく限りの方法で子猫の状態を良くしようと考える夏凜であったが、そんな焦る夏凜を他所に猫の様子が変化した。
目を細め、暖を取るように夏凜の手の上で丸くなった猫は寒いのか、その小さな体を震わせている。
こんな場所にどれほど居たのか分からないが、少なくともこのまま放置していたら間違いなくこの猫は危ない。
知識がない夏凜でもそれを本能的に察知することは出来た。
「そ、そうだ……アマテラス達なら!」
あの白い犬をダメもとでアテにしても良いのだろうか、と夏凜に一抹の不安がよぎる。
しかし、それで判断を遅らせるわけにはいかなかった。アレでも『一応』は神様なのだ。
負傷している子猫を癒す、そんな魔法のような力を持っているかもしれない。
神頼みにすがるしか、夏凜には方法が無かった。
「も、もうアマテラス達は何してんのよ!こうなったらこっちから向かうしか――――え?」
猛スピードで突き放しておいて良く言う、という風のような突っ込み役が不在の為に夏凜に届く訳もないが現状アマテラスが来ないことには何も始まらない。
そう考え、向こうが来なければこちらから出向こうとした時だ。
「な、なに……コレ」
夏凜の視界に闇が映った。
辺りの空気が淀んだかのように夏凜の眼前で瘴気のような煙が立ち込め、それが大きくうねりを上げて一か所に集中すると弾けるとともに謎の異形が姿を現す。
『クエェ……』
異様な姿に夏凜は思わず息を呑む。
赤の酒器を頭部に被り、鳥の翼のような手。
朱色の和服を着こなし、黒の長髪は女性を思わせるが、その首はまるで妖怪ろくろ首のように長い。
赤の番傘を肩でくるくると回し、着物の裾を動き辛そうに地面に引き摺る姿はとても不気味であった。
『ミィ……ミィ…』
「その姿、妖怪!! お前か、この子をイジメたのはッッ!!」
抱きかかえた猫が一層悲壮な声を上げて震えだす。
それは目の前に現れた異形が原因となっていることを夏凜は瞬時に理解した。
ならば即時即応。
この子猫を傷つけた報いを受けさせなければならない。
夏凜は刀を召喚し、右手で持つと異形相手に戦闘態勢へと入る。
「掛かってきなさいッ この完成型勇者・三好夏凜が相手よ、この傘持ち首なが鳥妖怪ッ」
異質なネーミングを口にした夏凜は意識を集中させて刀を構えた。
刀を前に、身体を半身にして肩を相手に見せつけるような姿勢。
(もう油断はしないわ……どんな手を使われようと、叩き潰すッ)
左手に抱えた子猫を危険に晒さない為に夏凜が行う攻守を含めた構えだ。
猫を手放して自身の得意とする二刀で攻めるのが得策だが、あの異形が猫を狙わないとも考えられない。
以前待ち伏せという敵の作戦に痛い思いをした夏凜の脳内はそういった対策が出来る程に冷静であった。
相対していた異形は遂に動きを見せる。
『……』
羽のように揺れ動いていた背に生える扇子を畳み、『
下半身の着物が異形の足元を隠しているが、その身の屈み方からするに股を大きく広げている可能性があった。
(あの『傘』で攻撃するってワケか……こっちの視線から得物を見えないように隠している辺り、コイツ……中々出来るヤツね)
あの番傘が異形の武器だと推察した夏凜。
それは身を低くして、長物である傘を自身の大きめの着物に重ね、正面の夏凜の視点から見えないようしている異形の行動がそれを物語っていた。
しかし、夏凜には疑問が残る。それは異形の構え方だ。
勇者として刀を持つ夏凜は二刀を自在に扱う訓練を受けていたが、それに伴い刀の扱いについては授業で習い、または独学で研究をしていた。
例えば剣術における様々な流派の存在や、それぞれの刀の構え方の種類や攻撃方法など。
今まで勇者となるべく様々な剣術を研究していた夏凜は目の前の異形の構えに見覚えがあったのだ。
まさしくそれは居合術ではないかと、夏凜は神経を研ぎ澄ませる。
今の傘を畳んで構える動作が居合術で言う所の『鞘引き』の動作なら、異形の攻撃態勢は既に整っている。
この状態で無策で攻め込むのは余りにも危険すぎる、と自身の危機感が警笛を鳴らしている。
居合とは迎撃のための技、それ故にこちらからの攻めが無ければ睨み合いだけが続く筈だ。
その間に異形を倒す術を見出そうと夏凜が思考するその刹那、異形が突然、何かを放り投げた。
丸い形でこちらへと向かい、無造作に投げられた物体を見て夏凜は驚愕する。
「―――――!!?」
異形が夏凜へと投げつけたのは髑髏であった。明らかに、人間のモノ。
緊張感の高まる最中に一手を投じた、それは異形の次の攻撃のための布石だったのだろう。
ふわり、と浮かんだ髑髏に視線が釘付けとなった夏凜は異形の次の動作を察知することが出来なかった。
「しまっ―――――」
夏凜の瞳が番傘の柄から光るものを捉えた時は既に遅く、視界には光が弾けて空気を裂くような短い音が聞こえた。
今日の妖怪
・姑獲鳥(うぶめ)
ゲーム大神より登場。鳥のようで、女性のようで首が長く、赤い番傘を持った妖怪。傘の柄は仕込み刀であり、懐から取り出した髑髏を相手に投げつけると同時に繰り出される抜刀はヤバい速い。背中の扇子をつかって空を飛ぶことも出来る。傘は筆しらべためや溜め3宝剣の一撃を防ぐことが出来る程の硬さを持つ。伝承だと産女(うぶめ)と呼び名がある。いずれも妊婦が死んだ後に埋葬されて妖怪となった姿らしい。子供が生まれず妊婦が死んだ場合は、腹を裂いて胎児を取り出して母親に抱かせたり背負わせたりして葬るのが供養になるとか怖すぎィ!!
中国の姑獲鳥(こかくちょう)と日本の産女(うぶめ)の名前が江戸時代あたりで産婦にまつわる伝承が混同して同一視された結果、姑獲鳥(うぶめ)となったらしい。
アンケートはゆーゆとそのっちが大接戦。ゆーゆはゆるゆる……ぎゅん、そのっちはぎゅるんぎゅるんって感じの家庭訪問になりそうですね。
そうですね、比率的にはゆーゆが7:3でそのっちが2:8ですかね。
何が?とは聞かないで。
アマテラスの家庭訪問。誰の家にいく?
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結城さん家
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東郷さん家
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犬吠埼さん家
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三好さん家の花凛
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乃木さん家(病院)