結城友奈は勇者である~勇者と大神と妖怪絵巻~   作:バロックス(駄犬

19 / 19
久々執筆でございます。家で大神プレイしてたら書きたくなりました故。


其ノ十三、大神と友奈と一目連

 空がある。

 四国に吹き荒れる暴風を孕んだ空だ。

 禍々しく竜巻のように渦巻く黒雲は海を越え、山の木々を薙ぎ倒しながら進んでいく。

 

 

 傍目からは大型の『台風』と称されるこの暴風の正体はとある精霊によるものである。

 

 

 『一目連』。

 暴風を具現化させたせた妖怪、その仕業だ。

 その姿は片目を失った龍。

 西暦の時代、まだ日本が四国だけではなかったころ、伊勢という地で祀られていた神、それが一目連である。

 

 

 暴風や旋風の名を司る神であり、暴風神と畏れられる一目連は四国を守護する神樹のデータベースの中だけの精霊としての存在であった。

 それがどうして、実体を持ち四国の空を跋扈するに至ったのか。

 

 

 原因は300年の年月を経て復活した大妖怪・ヤマタノオロチの妖気である。

 神樹は四国の大地と繋がっている存在だ。

 神聖な神と大地を繋ぐ場所を霊脈というがその場所にヤマタノオロチの妖気が流れ込み、一部の精霊たちが暴走する結果となったのである。

 

 

 妖気に充てられた精霊は自身のかつての本来の元となっていた姿を取り戻し、実体化するまでに至る。

 そしてほとんどの者は理性を失い、暴れる。犬吠崎風の精霊、犬神のように。

 だが稀に例外が存在した。それがこの一目連だ。

 

 

 一目連は理性を失うことなく、暴れることもなく自我を保ったまま行動していた。

 移動するたびに波風が立ち、木々がへし折れていくがそれは一目連としての自然の摂理なので一目連からすれば問題は無い。

 

 

 自分が思うままに空を飛び、自分が思うままに風を吹かせる。

 この世界に顕現した一目連は自由気ままに吹きすさぶ風であった。

 

 

 

『射抜けー、射抜くべー!』

 

『下から腹狙え腹!撃ち落とすべ!』

 

 

 そんな一目連目掛けて、下から掛け声とともに放たれるものがある。弓矢。

 空を飛んでいる一目連に対して数十の天邪鬼が矢を放っていたのだ。

 

 

『あの妖怪を生け捕りにしてオロチ様に献上しなくちゃならねェんだァ!』

 

『今回ミスったら俺らの今月の飯なくなっちまうど!雑草煮込み汁はもう飽きたど!

 久しぶりに肉食いたいど!』

 

『で、でもよぉ!俺らの矢……まったく届いてねぇでねぇか!?』

 

『か、風の壁だべ!あの龍の身体の周りに風が吹いてるから矢が弾かれてんだ!』

 

 

 数十の天邪鬼から放たれる矢の数は同じく十を超えている。だが、その全てが一目連の肉体に届く前に地面へと落ちていた。

 

 

 暴風を纏う一目連を前では生半可な飛び道具など意味を成さない。

 一目連という龍が持つ存在が自身を守る障壁を作り出している。それが矢による攻撃を阻んでいた。

 

 

『ぎょわわああああ!!』

 

『ひええええええ!!!』

 

 

 天邪鬼達は一目連の怒りに触れてしまった。荒々しい唸り声と共に一目連が纏う暴風の障壁が広がり、勢いを増して地面と木と石を空へ空へと巻き上げていく。

 同時に響くのは暴風に巻き込まれ空へと舞い上がった天邪鬼達の断末魔であった。

 

 

 

『凄まじい力だ……流石は暴風を纏う神と呼ばれるだけはある』

 

 

 数十の天邪鬼が吹き飛ばされていく中、一体だけの妖怪が飛ばされず下から一目連を睨み付けていた。

 足元には大地に根深く刺さった尾のようなものがある。それはその妖怪の身体と繋がっているものであり、それが一目連よりも小柄な妖怪が暴風によって吹き飛ばされない理由であった。

 

 

 

 その妖怪は丸みを帯びた出で立ちだった。一目連からすればなんと矮小な姿だと思うことだろう。

 しかし研ぎ澄まされた爪と、如何なる硬さを誇る岩をも砕いてしまいそうな前歯が妖しく光り、その瞳は邪悪に染まった色をしている。

 

 見てくれに騙されてはいけない、本質はかなりの邪なる者であると、一目連は判断した。

 

 

 

 警戒心を強めた一目連は身に纏う暴風の守りを更に強固なものとし、その勢いはそこら一帯の大地を根こそぎ引っこ抜いていくものとなった。

 台風が通過、というよりはもはや天災レベルの被害である。

 しかし、やはりというか目の前の妖怪はその身を一ミリたりとも動かさない。

 妖しく笑い、佇むだけだ。それがやけに不気味であった。

 

 

 

『オロチ様の失われた妖力を取り戻すには“生贄”が必要だ。貴様ほどの力を持つ妖怪であれば、オロチ様の血となり肉となるのに相応しい……天邪鬼共では少しばかり荷が重すぎるな……今回は俺がやる』

 

 

 漸く、その妖怪は身体を動かした。

 右手に持っていた不思議と淡い紅の色を放つ槍を携えて。

 妖怪は暴風の神へと狙いを定める。

 

 

 ふんッ、と地を鳴らす程に踏み込んだ槍が妖怪の手から放たれる。

 紅色の光を放つ槍が稲妻の如く駆け抜け、一目連が纏う暴風の障壁へと衝突する。

 

 

 紅の稲妻と風が拮抗したのは、僅かな時間だった。 

 槍は暴風の障壁を掻き消す様に易々と突破して―――――、

 

 

 

 

 一目連の目へと突き刺さったのだ。

 

 

 

 

 

『――――――――――――――――――――――!!!!』

 

 

 

 直後、獣の叫び声が空に響いた。

 苦痛を表わしたかのように身を屈めた一目連は身に暴風を纏いながら、そのまま飛び上がる。

 

 

 台風の足は速いをそのまま表したかのような凄まじい速さで一目連はその場から離脱していった。

 

 

『逃げたか……まぁイイ。 呪いは打ち込んだ』

 

 

 大地が割れ、木々が飛び、辺り一面が平面と化し天邪鬼が悲鳴を上げている中でも妖怪はくつくつと笑みを浮かべていた。

 地面に差し込んでいた尻尾を引き抜いた妖怪はその尾を鞭の如く地面に向かって叩きつける。

 

 

『起きろ。いつまで寝てる?』

 

『お、起きろだなんて……まさかこのままあの龍を追うってわけじゃ……』

 

『当たり前だ。呪詛の槍を打ち込んだあの妖怪は次第に弱る……そうなればお前ら天邪鬼でも捕まえられるはずだ』

 

『お、親分……け、ケガ人が多くて、このまま追跡を続行したら死んじゃいますよ……せめて人員の補充をしてから態勢を立て直してからじゃないと……』

 

『チッ、まぁいい。動けない者は村へ戻れ。部隊を再編した後、一目連を追跡する』

 

 

 

 天邪鬼たちを率いる妖怪は忌々し気に吐き捨てる。

 この妖怪が一目連を相手にすることはなんら問題は無い。単騎で挑んだとしても、力でねじ伏せて見せることだろう。

 だがそれではリスクが高すぎるのだ。

 

 

 先ほど突き刺した呪詛の槍をもってしても、本来なら呪いの激痛で飛び上がることも出来ないはずなのに、一目連は逃げ切った。

 その底力にはこちらも、もしかしたら無事では済まないという危険が幾分かあると考える。そういったリスクは極力避けたい。この妖怪は自身が確実に勝利できるまでにその危険を冒さないのである。

 

 

 その為の、犠牲を承知で特攻させるために存在するのが天邪鬼隊なのだ。

 彼らには村の今後の待遇と食糧事情を融通させるという条件を元に雇っている。

 若い者が殆どおらず、過疎化の進む彼らの村にとって、食料の安定した供給は必要不可欠だ。

 

 

『あ、足が折れて……いてぇ……っ、いてぇよぉ……っ!!』

 

『お、オイ! コイツ息止まってんぞ!だ、誰か叩き起こしてくれ!』

 

『目……、俺の……目……どこだよぉ……なんも見えねェ……』

 

 

 だから、年老いて体力のない天邪鬼達は戦闘には向かない。

 だけど、その無理を通して戦う為、怪我が多いのだが、今回の相手は暴風を纏う神と崇められるもの。

 相手が相手だけにいつものような軽い怪我では済まず、重度の傷を負った天邪鬼が多かった。

 

 

 阿鼻叫喚に溢れる中、一匹の天邪鬼が指示を出す。 

 

 

 

『動けるヤツ!動けない奴らを抱えて村に戻るぞ! 壱、弐、参! お前ら若ェんだからきびきび動きやがれェ!重傷者はちゃんと持ってきた担架に乗せてやれよ!凸凹道は慎重に運ぶのをわすれるな!』

 

『『『へ、へい!』』』

 

 

『死なすな!皆で生きて村に戻んぞ!待ってるババァとカカァとガキどもの顔を思い出せ! 死ねねェだろ俺達!』

 

 

 

 だから生い先の短い老いた天邪鬼達は死に物狂いで戦う。命を懸けて。

 生きるため、村の未来の為に。

 

 

 その未来への活力を妖怪は利用する。

 なんと働き甲斐のある駒だろうか、自分なら他の村に行き、略奪するというのに。

 自給自足を意地でも貫く天邪鬼達にその妖怪は申し訳なく思い、彼らが思う村の為に、オロチ様の為に存分に働いてもらおうと思った。

 

 

 

 無論、死ぬまで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、お手!」

 

『アウ♪』

 

「わお!アマちゃん、お利口さんだねー牡丹餅あげちゃう」

 

 

 勇者部部室は珍しく部員がフルで待機している状態であった。

 部屋の端っこでは美森がせわしなくパソコンの画面と向き合い、事務作業に勤しんでいる。

 今しがた、樹がアマテラスとじゃれていた。差し出された牡丹餅を喜んで口にするアマテラス。

 

 

「あぁ……愛犬と戯れる我が妹も絵になるわね……動画サイトにアップすればきっとランキングにも乗るわ、癒し部門はトップ確定ね」

 

 

 その光景を見守る姉の風はにへらと笑っている。

 最愛の妹が動物と遊ぶ姿、というが、基本風という少女の目には樹が喋り、行動しているシーンが五割増しで可愛く見える謎のフィルターが常設されている。

 だから樹が視界に入ってさえすれば何もかもが可愛く見えてしまうのだ。

 

 

「いつからアマテラスはうちの部の愛犬になったのよ………いつの間にか部室に入り浸るのが当たり前になってきてるし……」

 

『しょうがねぇじゃねぇかニボシ娘よォ』

 

 

 ニボシがトレードマークの少女、ニボシの生まれ変わりとまで言わせしめる三好夏凜の傍、テーブルから聞こえる声。

 天道太子イッスンが小分けにされたニボシをぼりぼりと食していた。

 

 

『他の家に泊まり込むのもいいんだがよォ、なによりアマ公がこの場所を気に入っちまったんだィ。神様だって心気兼ねなく休める場所は必要だろォ?

 毎日毎日、筆しらべ探す為に走り回ってるんだからなァ これくらい見逃せってんだィ』

 

「別に私は気にしてないわよ。というか、なんでこの学校に出入りするのが当たり前になってるの?最初は注意してた教師も諦めて頭撫でたり餌与え始めたし……」

 

「他の生徒も見かけたら頭撫でに来るくらいアマテラスが人気出ちゃったから、夏凜は嫉妬してるのよイッスン」

 

「んなわけあるかっ!」

 

 

 風の言うことは一部は事実である。

 当初は追いかけまわしていた教職員も今ではアマテラスに食べ物を与え、癒しを求めて頭を撫でに来る始末だ。

 授業の迷惑にならないことを条件に讃州中学に居座ることを許されたアマテラスは完全にマスコットと化していた。

 新聞部などが記事にしたいと言って部室を訪れたのはつい最近の事である。

 

 

『キョウシ?って奴らの悩み事を解決してったら許してくれたぜェ? な、アマ公』

 

『アウ』

 

 

 アマテラスが樹にお腹を撫でられながらも応えて見せる。

 昨今、住む世界が違えど人々は何かしら悩みを抱いて生きている。

 この讃州中学に通う生徒、教師も例外ではない。アマテラスはそんな彼らを見過ごさず、慈愛の手(前足)を差し出すのである。

 

 

 

『巷の猫と犬のシマを回っては、喧嘩してる奴らの間に割って入ったり、

 花壇を荒らす巨大モグラを追い払ったり、

 

  

 ヤマダ先生がサトウ先生に"ぷろぽーず"するための指輪無くしたから探すの手伝ったり……

 2組のヨシダが1組のアイちゃんに手紙を渡すの躊躇ってたから後押ししてあげたり……いろいろとやってんだよ神様もなァ!』

 

 

「ちょっと待って!? 犬猫大戦争仲裁と迷惑モグラ退治はともかく、あの山田先生が佐藤先生にプロポーズ!?なに女子力高そうな話、ホントなのイッスン!?」

 

「あの吉田がねぇ……というか、やってることが勇者部染みてない?あんた達……」

 

「夏凜さん、勇者部でも生徒だけでなく先生の恋路を解決するなんて技量、うちの勇者部にはありませんよ……」

 

 

 それもそうね、と樹の毒に夏凜が頷く中、イッスンは胸を張って言う。

 

 

『へっへェ、オイラ達もただこの場所にいるわけじゃねェからなァ。人助けや失せ物(者)探しはお手の物よォ!』

 

「うぐぐぐ……本家勇者部として、イッスンとアマテラス達は強大な敵として立ち塞がりそうね……」

 

「勇者部が乗っ取られるのも時間の問題かしら?」

 

「それはないわ!私がいるときに限って、それは……多分……どうしよう、だんだん自信なくなってきたぁ」

 

 

 アマテラスが部長となり、部長席の上で堂々と昼寝をかます未来が何故か容易に想像できた風であった。

 

 

 

「……」

 

『おろ? どうしたんだィ友奈ちゃん。窓の外をぽけーっと見つめちまってよォ』

 

 

 イッスンが最後の牡丹餅を食そうとして、視線の先で、窓の向こうを見つめている友奈がいた。

 友奈はえ?と気づいたかのように振り向く。

 

 

「なんだかね、今日はすっごい風が強い日だよね……って」

 

『そうだなァ、ここに来る途中も木が何本か折れてたし、四国全土で強風の御触れが出てる見てェじゃねぇかァ』

 

 

 窓が外の強風に煽られてガタガタと揺れている。

 今朝ほどから続くこの強風は突如として表れたものだった。最初は強い風程度で学校へ登校するには問題はなかったものの、次第に勢力を強めて、現在は電車の運行停止や建物の看板が飛び家の窓を割ったという被害が出始めて気いるらしい。

 

 

「学校では午前中の授業で切り上げて生徒たちを早退させようって話が出てるらしいわよ」

 

『へぇ、そいつは良かったじゃねぇかァ。授業が無くなって、早く家に帰って遊べるぜ友奈ちゃん』

 

「う、うん……それはそれで嬉しんだけど……」

 

『だけど?』

 

「なんだろう、この風……少し変なんだ」

 

『へん?』

 

「うん。朝からなんだけど、この風……泣いてる気がするんだ……」

 

「ちょっと友奈、風みたいなこと言い始めてるけど大丈夫?体調悪いの?」

 

「か、夏凜!それどういう意味よ!」 

 

「友奈ちゃん!体調が悪いの!? どこ!?どこが悪いの!?お医者様に見せなきゃいけないわ!」

 

 いつも明るい友奈が怪訝そうな表情をしていることに誰もが心配する。

 パソコン操作をしていた美森が180度車椅子の向きを変えて、部室の入り口側から友奈がいる窓際までの距離を瞬きをする間で詰めてくるという程に。

 

 

 

 友奈自身に問題は無い。至って健康体だ。

 だけど、この外を見つめる度に胸の奥がざわつくような、不安になるような感覚に陥る。それは朝から感じていた事だった。

 

 

 風や、夏凜。樹や美森、そしてアマテラスやイッスン達には分からないが、友奈にだけは分かる事。

 何故か、友奈だけが分かる感覚。

 

 

 痛い、と叫んでいる気がする。

 苦しい、と叫んでいる気がする。

 助けて、と叫んでいる気がする。

 

 

 どこからともなく、そんな声が聞こえるような気がして友奈は胸が詰まる想いであった。

 

 

 そんな少女の胸中を他所に、耳に届く奇怪な音がある――――『樹海化警報』だ。

 

 

「樹海化!? 敵!?」

 

 

 戦いを告げる警笛が鳴り響き、少女たちの顔つきが変わる。

 そして同時にアマテラスたちもイッスン達も起き上がっていた。

 

 

「今度は妖怪かしら……もしかして、バーテックス?」

 

 

『どっちでもイイぜェ! どんな奴らが来ようとも、ぶっ倒してやるよォ!準備はいいかァ、アマ公!』

 

『ガウッ』

 

 

 威勢のいい、周りにいる者達にもその勢いを伝播させる勇ましいアマテラスの吠え。

 窓の外が光に満ち、視界を塞ぐほどに輝きだしていく。

 神樹による四国を守る防御結界が展開し、目に映る景色を勇者たちが迎撃するための空間へと作り替えていく光景は彼女たちには見慣れたものとなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 樹海化した四国にも、変わらず強い風が吹いていた。

 いつもの樹海の木は小さいものは空へと舞い上がり、根に張り付いている巨大な樹木はみしみしと幹が折れるのではないというくらいに痛む音を鳴らしている。

 樹海の中でも、比較的安全な高所に陣取った勇者とアマテラス達は信じられない光景を目にする。

 

 

 

 

 

「ちょっ、あれって……竜巻!?」

 

「あんな大きさ、私テレビでしか見たこと無いんだけど……」

 

 

 風と夏凜が呆気にとられるのも無理はない。

 広大な樹海の真ん中からじっと動かない超巨大竜巻があったのだ。

 一定に、決してそこからズレて動くことのない竜巻は天高く聳え立ち、樹海化した四国を強風に晒している。

 

 

「アレが今回の樹海化の原因……イッスンちゃん、どう思う?」

 

『何がどうなってんだか皆目見当つかないが、恐らくは妖怪関連の仕業に違いねェ。だけど、あんなバカデェ竜巻出せる妖怪……オイラ達の国でも中々居ねぇぜ!』

 

 

 美森が尋ねるとイッスンは答える。これは妖怪類の仕業だと。

 だとしても、この巨大竜巻を出せるような妖怪など、イッスンたちのいたナカツクニに存在するだろうか。

 

 

「今回も風先輩の犬神みたいにヤマタノオロチの妖気絡みで暴走した精霊、って考えていいのかな?」

 

「どうかしら、女郎蜘蛛の時みたいなヤマタノオロチの部下って考えられなくもないわ」

 

 

 友奈の考えを夏凜が待ったをかける。

 以前不意打ちで女郎蜘蛛の罠にかかった夏凜としては一つの考えに縛られることの危険さを身をもって知っている。

 あの竜巻に潜む者が意図的にこちらを襲う手はずを整えたオロチの部下であるという場合を考えていた。

 

 

「どっちにしろ、慎重にいくことに越したことはないわね。東郷、あの竜巻はアンタの武器で打ち抜けそう?」

 

「やってみます」

 

 

 狙撃銃を構えた美森がいくつかの戦況に対応した弾丸をセレクトし、装填する。

 装填したのは貫通力に特化した弾丸だ。バーテックスの御霊などを狙撃する時はいつも使用している。

 照準を竜巻の中心へと定めた美森が引き金を引き、青の光弾が銃の先端から放たれる。

 

 

 強風をものともせず、風も計算され正確に放たれた美森の貫通弾が竜巻の表面と真っ向から衝突して、

 バシュン、と一瞬だけ弾けるようにして掻き消えた。

 

 

「弾丸が弾かれた……なんて強力なの。まるで風の障壁……!」

 

「遠距離からは無理そうね……近接でアタシが試してみますか!」

 

「ちょっ、風ッ まさか竜巻ぶった斬ろうなんて考えてないわよね!?」

 

「?そのつもりだけど?」

 

 

 大剣を肩に担いだ風を見て、夏凜が叫ぶ。

 

 

「ばぁっかかあっ!!勇者の弾丸が弾け飛ぶ竜巻よっ!? アンタなんか細切れになっちゃうわよ!なに!?四国の土に肉片散らして文字通り土に還るつもり!?どこまでパワー型よ!」

 

「なにおぅ!?あんな竜巻程度、女子力で一刀両断してるわよ!」

 

「お姉ちゃん、自然現象を女子力で倒すのは無理があるよ……その女子力だってお姉ちゃん自身にあるかどうか分からないのに」

 

「最近妹が質素ォ!」

 

 

『なんでェ、戦いの最中だってのにィ緊張感のねェ奴らだなァ、なぁアマ公?』

 

 

「アンタらには一番言われたくないセリフだわ……」

 

 

『アウ?』

 

 

 

 ため息を漏らしながら肩をがくりと落とした夏凜にアマテラスが首を傾げる。

 敵を前にして大欠伸と悪たれをかましたり、眠りこけるアマテラスやイッスン達には絶対に言われたくない言葉だったのだろう。

 

 

『にしてもなァ……』

 

 うーん、とイッスンは思考する。その視線の先には巨大な竜巻。

 

 

『こんだけ周りが風ぶっ飛ばされるほどの強い風……作り出してるやつってのはどんなヤツなんだィ』

 

「さぁ…?でも、これまでと違って強敵なのは確かね」

 

 

 腕を組んでいるイッスンに夏凜が答える。

 時間は経過したが竜巻の勢いが弱まることは無い。むしろ更に勢いが増しているようにも見えた。

 まるで迫る者たちを寄せ付けないように、その風で自分自身を守るかのように竜巻は展開されている。

 

 

 竜巻は強力だ。風が試しに岩を竜巻に投げてみたが、数瞬の内に岩は細切れとなり、チリとなって消えていった。

 精霊バリアをもつ勇者が強引に入っても無事で済まないだろう。

 

 

「だけど、あまり時間は掛けられないよ。あの竜巻を止めないと、どんどん樹海が傷ついて現実世界に被害が広がっちゃう……」

 

 

 友奈の言葉に一同が険しい表情となった。

 樹海が戦闘で傷つけば傷つくほど、樹海化が解除した際に蓄積されたダメージは自然災害や事故となって影響を与える。

 それが一般市民を巻き込んでしまう可能性だってあるのだ。

 時間を掛けずに敵を殲滅することも勇者としての重要な役目であった。

 

 

『でもよォ、こんな竜巻相手にどうしろってんだィ……まったくよォ、竜巻の中にいる奴の顔を拝みたいぜェ』

 

「それだよ!」

 

『へ?』

 

 

 イッスンの何気ない一言に過大な反応を見せたのは友奈であった。

 

 

「風先輩、あの竜巻の真上まで私たちをぶん投げるってことは出来ますか!?」

 

「え、ちょっ、ちょっと話が見えないわよ友奈……案があるならまず全部話しなさい。そのうえで出来るかどうか判断するから」

 

 

「あっ……すいません。 あ、あのですねっ!」

 

 衝動のままに動こうとする友奈を風は諫める。

 無闇に動いて部員を気付つけないように心がけた部長である風らしい配慮だ。

 

 

「台風の真上って風が無いって聞くじゃないですか。もしかしたらあの竜巻の真上もそうなんじゃないかなって! あの竜巻よりも高く飛んで、飛び込めれば中に入れるかもしれないんです」

 

「いや、それ台風の話で……竜巻に関しては完全に中心が無風ってワケじゃないんだけど……」

 

「ええっ!?そうなんですか!!?」

 

 

 テレビで見た知識、台風の真上が無風というのはよく聞く話である。

 ならば竜巻のそうなのか、と言われればそれは言い難い。実際に旧世紀の時代において台風ではなく竜巻の中心を確かめるべく竜巻の進路上にカメラを置いて中心を撮影する実験があった。

 結果は中心でも完全に無風ではなかったという。

 

 

 友奈なりに知恵を振り絞った考えなのだろう。

 だが、竜巻の中心が安全だという確証がないままに部員を簡単に危険な目にあわすことは出来ない。

 そう思った矢先、

 

 

「友奈の考え、一理あるわね」

 

 隣に居た夏凜が呟いていた。

 

「あれだけ大きな竜巻だしてるんだったら、その竜巻を出してる本体もその中心で無事では済まないはずよ。

 あの竜巻に関しては、中心が無風だっていう友奈の作戦、考えてもいいと思う」

 

「夏凜ちゃーん!」

 

 何故か嬉々とした表情で抱き着く友奈を引きはがそうと夏凜の掌底が友奈の顔をぐいぐいと押す。

 その光景に美森が目を淀ませていたのは言う間もないが、誰も気づくことは無いだろう。

 

 

『へっへぇ!そんな妙案があるんなら任せな風ちゃん! オイラとアマ公が一緒に行ってやるぜェ!それなら問題ねェだろォ!』

 

「え?イッスン?」

 

「そうね、あんた等が付いてるならドジな友奈を安心して任せられるわ」

 

「え?夏凜?」

 

「む、無理はしないでね友奈ちゃん!」

 

「大丈夫だよ東郷さん!」

 

「東郷まで……おかしいな、私まだ一言も“やる”って言ってないのに……」

 

 部長である自分を無視して何やら流れのままに作戦が発動しようとしている

 頭を抱えた風の肩を妹の樹が手を置く。

 

 

「ノリと勢いに任せて動くお姉ちゃんの影響だと思うよ」

 

 

 妹ですら達観した顔であった。

 部長として、部員の安全を第一とするのか普段の自身の行いを模した勢いで戦いを進めるのか、二者択一を迫られた風は。

 

 

「あーもうっ! こうなったら勇者部五箇条!“なせば大抵なんとかなる!”よ!いきましょう!」

 

 

 三択目の五箇条を掲げて作戦の発動を決意した。

 部員一同が意を決した事にイッスンが拍車をかける。

 

 

 

『その意気だぜ風ちゃん、こういう時は“迷ったら飛び込め”だぜェ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「友奈ぁ、アマテラスー、準備はいいー!?」

 

 

 先ほどいた高所から移動した風は視線の先にいる友奈に声を掛ける。アマテラスも一緒だ。

 

「はーい!準備おっけーでーす!」

 

『いつでもいいぜェ!』

 

『アウ!』

 

 

 アマテラスを抱きかかえた友奈の腰には一本の『蔦』が巻かれている。

 その蔦は風の手元へと伸びていた。これはアマテラスの持つ筆しらべ、『花神』による『蔦巻』の力だ。

 本来ならば高所へ高所へと移動するために用いられる移動用の筆しらべの一部を使い、勇者部きってのパワーを持つであろう風に竜巻の真上までぶん投げてもらうというのが彼女たちの作戦である。

 

 

「いーくぅわーよぉぉぉ!!!!」

 

 

 ぐん、と風が手にもつ蔦を握ると力を込めて時計回りに回転を始める。

 浮いた友奈たちの身体は遠心力で引っ張られ、風の回転が続く限り加速を繰り返していく

 ぐん、ぐん、ぐうんと一際大きく五回、六回と回転を重ねて速度が頂点に達した瞬間。

 

 

 

「だりゃあああああああああああ!!!!」

 

 

 風は照準が竜巻の真上に来た瞬間を見計らって、握っていた蔦を手放した。

 友奈たちの身体がぶん、と勢いついて竜巻へと向かっていく。見事なハンマー投げであった。勇者の力のお陰もあるが、それ以上に風の投擲は完璧であり、その飛距離は当たり前だが旧世紀におけるオリンピックで金メダルを取れたことだろう。

 

 

「そういえばあんなにブン回してたけど、アイツら目回らないのかしら」

 

 

「あ」

 

 

 思い出したかのような夏凜の呟きに誰しもがその言葉を口にしていた。

 

 

 

 

「うわあああ!?まわるまわるまわるぅー!!」

 

『ひえぇぇえええええええあ!?!?』

 

 

 当然と言えば当然。必然と言えば必然。

 言うなれば予定調和というところか、風にぶん投げられて空中を飛んだ友奈たちは目まぐるしく移り変わる景色にすっかり目を回していた。

 右を向いていたら左を見ていて、下を見ていたら上を見ている。

 三半規管をこれでもかと破壊する凶悪な回転は思考力と判断力を奪っていく。

 これが生身の状態だったら失神していたことだろう。それを差し引いてもこの状態はかなりキツかった。

 

 

『オエッ、やば、吐きそう……吐き癖が…』

 

 

「吐き癖ってなにぃいいいいいいいい!!?」

 

 

 限界を迎えつつあるイッスンが嘔吐を催し、それに対する友奈の突っ込みは重力に従って生まれた自由落下と共に掻き消えていく。

 叫び声を上げならが落ちていた友奈たちは目を瞑っていたが、身体が何か柔らかい物体にぶつかった感覚に見舞われた。

 ぼっ、と肉にあたってトランポリンのように跳ね返った友奈の身体が地面にぶつかりそうになると今度は精霊のバリアが展開してその身を衝突から守る。

 

 

 アマテラスはあの大回転の中で一度も目を回すことなく綺麗に着地を決めていたが、イッスンに関してはゴムボールのように弾んでそのまま地面に伸びていた。

 

 

「おっとと……う~、まだフラフラする…アマちゃん、イッスンちゃん大丈夫?」

 

『アウ』

 

『あぁ、ヒミコ姉ェ……こんなところで出会うたァ、奇遇だなァ……』

 

『アウ、アウ』

 

 夢の世界にトリップしているイッスンをアマテラスが前足でバシバシ叩き始めた。起きるのは時間の問題だろう。

 

 

「んしょ……っと」

 

 

 腰に巻かれていた蔦を取り外し、平衡感覚がまだブレる感じがして頭を振る。

 勇者として三半規管が強化されているからか、すぐに回復した友奈は周囲を見渡してやっぱり、と驚く。

 

 

 竜巻の中心は無風であり、真上を見上げれば友奈たちを囲むように竜巻の壁の内側と綺麗な樹海の空が見受けられた。

 

 

『ガルルルル……』

 

 

 その傍に居たアマテラスから小さく唸る声が聞こえた。

 視線を戻した友奈の目にはそのアマテラスが警戒の唸りをする理由が存在している。

 

 

 

「……これって、龍?」

 

 

 

 アマテラスや友奈たちなど比べ物にならないほどの大きな龍がそこにはいた。

 翡翠の鱗と黎の翼をもち、長い髭と尾。頭に伸びた二本の角。

 絵本で見たことがあるその姿はまさしく友奈が知る龍であった。

 

 

 だがその龍の姿は異様であった。

 片側にしかない瞳には赤黒い槍が深々と突き刺さっている。身体には同じような槍や、弓がなん十本も突き刺さっていた。

 その刺さっている部分から流れている赤黒い血が龍の足元に零れ落ち、樹海の大地を染めている。

 

 

『……』

 

 

「……っ!」

 

 

 それでも、痛々しい姿を晒す龍は声を上げることなく佇んでいる。

 それを間近で見た友奈の胸がちくりと痛んだ。

 

 

「もしかして……あなたが?」

 

 

 もしかして、と友奈は思う。

 朝から感じていた風の異様な雰囲気はこの龍からの物だったのではないかと。

 苦痛と助けを滲ませた感情を発していたのはこの龍だったのではないかと。

 

 

 龍は眠っているようにも見える。

 疲れ切って動かないのか、本当にただ寝ているだけなのか。

 

 

 得体の知れない龍という存在だ。本来なら人が近づくことすら畏怖する。

 しかし、その龍を見た友奈は恐怖するよりも身体にある無数の傷を心配せずにはいられなかった。

 

 

「だ、大丈夫……きゃっ!?」

 

 

 近づこうとした時、龍が突如として腕を動かした。

 大きく振り上げられた翡翠の腕は真っすぐ友奈へと叩きつけるように振り下ろされる。友奈の身体は精霊が展開したバリアによって無事だが、地面にはクレーターが出来る程沈み込んだ。

 

 

 攻撃の理由は分からない。だが、一つだけ確かなのは龍が友奈たちを敵と認識している事だろう。

 

 

 

『―――――――――――!!!!』

 

 

 龍は吠える。まるで殺意の塊のような声を。

 それを聞いただけで背筋は凍り付き、動けることもままならなくなる。

 その隙を龍は容赦なく攻め、五指を広げた手を以って叩きつけてくる。

 

 

 龍は目を潰され、友奈の姿は見えないはずなのにまるでそこにいることが分かるように正確に攻撃を仕掛けて来ていた。

 身体を曲げ、跳躍して攻撃を躱していく友奈の姿に対して追うように顔を向けてくる。

 

 

「このままじゃ……っ! 勇者パンチ――――――」

 

 

 咄嗟の反撃に転じようとした友奈の手が止まる。

 これ以上、龍を必要以上に傷つけてどうするのだという考えが浮かんだことが友奈の攻撃を中断させていた。

 龍はお構いなしに腕を突き出す。

 友奈の身体一つ分ほどの大きさをもつ手が掌底となって迫る。

 

 

「しまっ―――――――きゃああああっ!!!?」

 

 

 衝撃が友奈を襲う。精霊の守りによって身は無事でも威力を完全に消し止めることは出来ずに友奈の身体が吹き飛ばされる。

 竜巻の壁と衝突しかけたところで白の閃光が走る。アマテラスだ。

 

 

『ガウッ』

 

 

 友奈が竜巻の壁へ直撃するのを防ぐためにアマテラスが駆け、己に宿る筆しらべの一つを解き放つ。

 

 

 

―――――――筆しらべ、"桜花・『蔦巻(つたまき)』"。

 

 

「うわっ!? なんか巻き付いて――――ぐへっ」

 

 

 あらゆる物体を斬り刻む竜巻の壁に友奈が叩きつけられる直前、その身体には無数の蔦が巻き付いていた。

 地面に残っていた樹木から伸びた蔦が吹き飛んでいく友奈の身体をギリギリ繋ぎとめる役目を果たし、蔦が伸びきり張力の限界を迎えると運動エネルギーを失った友奈の身体が重力にしたがって落下する。

 

 

「あ、ありがとうアマちゃん……危なかったぁ…」

 

『グルル……』

 

 

 窮地をアマテラスに救われ、感謝を述べる友奈だがアマテラスは警戒を強めたような低い唸り声を目の前の龍へと発していた。

 未だに翠の龍は息を荒々しく吐きながら友奈とアマテラスを睨み付ける。

 

 

『グゥ……ガゥ……』

 

「だ、だめだよ!動かないで……血がいっぱいでちゃうから!」

 

 

 まるで興奮を隠せない闘牛のように荒ぶる龍。しかし、その肉体が強張れば強張る程に槍が刺さった目と無数の矢が刺さった身体から血が滲み、垂れていく。

 樹海の大地を染め上げて、真紅の水溜まりを形成する如き流血する龍の姿に友奈は胸に再度痛みを感じてしまう。

 

 

 あんなにたくさんの傷があって、血をいっぱい流して苦しいはずなのに。

 安静にしてほしいと声を上げる友奈だが、龍は目は見えずとも友奈とアマテラスを認知し、的確な殺意と敵意を向けてくる。

 迫りくるものたちを敵だと認識しているのだ。

 

 

 

 救いたいと願う友奈、敵を追い払おうとする龍。

 決定的にかみ合わず、勇者と龍は戦うことを避けられず、戦闘が続く。

 

 

『――――――――ッッッ!!!』

 

 

「くぅ……っ!!」

 

 

 龍の右腕、左腕が交互に振られる。

 人の身であれば、易々と肉塊へと変えてしまうような鋭い龍の腕が一回、二回と唸りを上げて友奈へと迫る。

 

 

 友奈は回避に徹する。攻撃することが出来なかった。

 これ以上、龍を傷つけることなど出来なかった。

 

 

 精霊バリアが龍の攻撃を防ぎきれるほどの防御力を有していた事が幸いし、龍の攻撃は友奈への致命傷には至らない。

 しかし、威力を消しきれないためか龍の腕が友奈を掠めただけでも質量差で後方へノックバックする。生身なら確実に死んでいる。

 

 

 精霊がいなければ、自分はきっと死んでいたという認識を得て、友奈は思わず息を呑んだ。

 

 

 

『友奈ちゃん、あの槍だァ……』

 

 

「イッスンちゃん、もう大丈夫なの!?」

 

 

『お、オウヨ……昔の知り合いに会えそうになったがギリギリ踏みとどまって戻って来たぜェ……ウプッ』

 

 

 眩暈から復活したであろうイッスンが友奈の肩付近からひょっこりと顔を出す。

 イッスンはいまだに怠そうな表情で告げる。

 

 

 取り合えず肩に吐いたりしてくれなければいいやと、最低限の懸念を抱いて彼の話を聞く。

 

 

『あの龍……一目連っつー暴風の神様なんだけどよォ、あの目に刺さってる真っ赤な槍からものスゲェ妖気を感じる……呪いか祟りか、それに似た邪気が一目連を暴走させてるに違いねェ』

 

 

 妖怪博士、イッスン。もとい、ナカツクニで様々な妖怪に精通していたイッスンは瞬時に目の前の龍を識別し、対策を講じた。

 

 

 やることは分かった。まずは原因となっている槍を抜く。しかし、そう簡単ではない。

 暴れ狂う動きを見せる一目連の攻撃を躱し、そして深々と刺さっている槍を抜かなければならない。

 

 

「わかった!突っ込むけどいいかな、イッスンちゃん」

 

『の、乗りかかった船だィ!ど、どどどどーんと行けィ友奈ちゃん!』

 

 

 それでも友奈は立ち向かう。あの龍を、一目連を苦しみから救うために。

 イッスンを肩に乗せて、駆ける。

 一目連が爪を大地を巻き込んで掻くように祓う。

 巻き上げた土砂が友奈へ礫となって降り注ぐが、精霊バリアが全てを弾く。

 パンチにも似た一目連の腕が迫る友奈を押し出すように突き出される。

 友奈は格闘家の如きステップで最小限に一目連の攻撃を躱していく。

 一度でも当たれば、掠りさえしてしまえばまた距離を離されてしまう。だから最速で、最短に最低限の回避で確実に接近する。

 

 

『す、スゲェぜ友奈ちゃん! もう少し……もう少し!!』

 

 もともと武道を習い、勇者として感覚が研ぎ澄まさていただけでなく、ここ一番の集中力というものを友奈は持っていた。

 一目連と友奈の距離がどんどん近づく。

 

 

「いまッ!」

 

 

 機を図り、友奈が飛び上がる。一目連を狂わせる諸悪の根源、呪いの槍へと手を伸ばす。

 友奈の手がに触れようとした時。

 

 

 一目連の翼が大きくはためいた。

 今まで鳴りを潜めていた翼が広がると、一目連の前方に向かって風が生まれる。それが一目連の槍に手が届きそうだった友奈の手を押し戻す。

 

 

「くぅ……あぁ…っ!!」

 

 

 宙に浮いた友奈は踏ん張りも効かない。風から精霊バリアが展開してその身を護るが威力を殺せずに友奈の身体が後方へ吹き飛ばされる。

 このままでは吹き飛ばされる。一目連が翼を仕舞わない限り、豪風は続き、友奈の身体は奥へ奥へと距離を取らされる。

 友奈のこれまでの努力が無駄になる。

 このままではまずいと本能が告げる。

 

 

 でも、諦めないと決めている。友奈はまだ諦めていなかった。

 身体がある限り、命がある限り、友奈は助けると決めたら必ず助ける。

 

 

 

(もう、イヤなんだ。 犬神みたいな……精霊たちが苦しんでいる姿を見るのは!)

 

 

 犬神が暴走した時、友奈は何も出来ないでいた。

 怨霊が子犬となって姿を現し、ただ弱った、首だけしか動かせない犬神に友奈は何一つ救いになることをしてやれなかった。

 アマテラスが慈愛の手を差し出すまで何もしてやれなかった。

 

 

 勇者とはなんだろう、と友奈は思う。

 

 

 人を守るため、戦うのが勇者。

 生きる者、困っている者、苦しんでいる者がいれば手を指し伸ばすのが勇者部。

 

 

 勇者と勇者部。

 似ているようでどこか根幹が違う二つの役目を持つ友奈は複雑な感情を抱きながら、己の信念に従い行動する。

 

 

「まだ、まだァ……ッ」

 

 

『ガウッ』

 

 助けると吠える友奈にもう一つ声が聞こえた。アマテラスだ。

 友奈が吹き飛ばされる数瞬の間、アマテラスは彼女を救うべく、己の力を解き放つ。

 

 

 

―――――――筆業、“画点(がてん)”。

 

 

 それは筆しらべとは違う力。

 アマテラスが散っていった筆しらべを集める上で徐々に取り戻していった神としての力である。

 

 地面に対し、一目連を囲うように四つの墨を垂らしたような点を穿つ。

 その瞬間、地から生気溢れる大木がその場所から生え、そそり立った。

 

 

『!?』

 

 

 一目連は自身のを囲むように伸びた巨大な大木を見る。

 筆業・画点、その効果は地面に神の力を注ぎ、大木を生やすことが出来る。

 だがこれだけでは足りない。

 一目連にとって、出現したのはただの木。それ以上の以下でもない。

 尾を振い、腕を翳せば大木は容易くへし折れてしまうだろう。

 

 なればこそ、アマテラスは神の力・筆しらべの力を使う。

 その四本の生えた大木に向かって、

 

 

 

―――――――筆しらべ、“桜花・『蔦巻』”。

 

 

 

 四方の木から更に生えた蔦が無数。それが一目連の身体に絡みつく。

 腕に。

 首に。

 足に。

 腹に。

 そして翼に。

 

 

 囲んで聳え立つ木が地に深く根を張り、楔の役割を果たす。

 張力を持った蔦が筋肉の動きを抑制し、一目連は身動きが出来ない状態になる。

 

 

――――――筆しらべ、“桜花・『花咲(はなさき)』”。

 

 

 

 一目連の角に巻き付いていた蔦の一部に掛けられた花咲の力が桃色の花を咲かせる。

 イッスンやアマテラスが旅先で何度も見てきた植物、『桃コノハナ』だ。

 

 

 

――――――筆しらべ、“桜花・『蔦巻』”。

 

 

 

 桃コノハナの花弁が開き、そこから伸びた植物が吹き飛ばされる友奈へ絡みつく。

 ぴん、と伸びた蔦は強力なもので一目連の豪風でも引きちぎれることは無い。

 

 

「た、助かったぁ……」

 

『マジか、アマ公……友奈ちゃん、蔦巻の真骨頂はここからだぜェ!』

 

 

 これ以上距離を開かせることも無くなった友奈が安堵の息をついたのも束の間。友奈と桃コノハナを繋ぐ蔦が驚異的な力で友奈を巻き上げ始めた。

 

 

「うわぁ!?」

 

 

 まるで巻き上げ機が始動したかの如く、桃コノハナが蔦を吸い上げるように友奈の身体は一目連へ向かっていく。

 これこそ、筆しらべ『葛巻』真骨頂だ。

 そもそも、葛巻とは戦うためのモノではなく、道中に生えている特殊植物、『桃コノハナ』とアマテラスを繋げるものである。

 

 

 葛巻によって桃コノハナと対象を繋げると花は高速で対象を巻き上げる。

 高い場所や手の届かない宝箱の場所に行くためにはこの葛巻の筆しらべが必要不可欠。

 

 

 しかし、この世界に桃コノハナは存在しない。だからこそ、アマテラスは一種の賭けに出ていた。

 桜花・花咲の力を取り戻すとアマテラスは色々な花を咲かせることが出来る。

 なれば、元居た世界であるナカツクニの植物を咲かせることが出来るはずだと考えた。

 それにより、戦いを少しでも有利に進めることが出来ることも。

 

 

 そしてその賭けは成功した。

 友奈の身体は桃コノハナの巻き上げによって強制的に高速で一目連の顔付近まで接近している。

 

 

 

「あばばばばばばばば」

 

『あばばばばばばばば』

 

 

 高速移動による衝撃に戸惑う友奈たちが見えたが致し方なし、神はそう思って彼女を見送った。

 

 

『グゥ―――――!!』

 

 

 一目連は抵抗しようにも身体に絡んでいる蔦により抵抗らしい抵抗をすることが出来ない。

 目に刺さる槍が与える呪詛は凶暴性を高めるが、身体に毒を流し込まれたように徐々に体力を奪うものだった。

 自慢の風を使って敵を追い払うことが出来ない一目連の頭に友奈たちが着地する。

 

 

 

『グルルル……』

 

「―――ッ、怖がらないで……今……っ!!」

 

 

 警戒し、唸る一目連に物怖じせずに友奈が手を伸ばす。その手が呪詛を孕んだ槍へと触れた瞬間。

 

 

「あぁ……ッ!!」

 

 

 赤黒い稲妻が走り、槍に触れていた友奈が苦痛の声を上げた。

 電気のような痺れ。

 焼き鏝を充てられたかのような熱さ。

 喉からせり上がってきそうな吐き気。

 

 

 呪いとは伝播するもの。

 なれば、刺さった相手だけでなくそれに触れた者にも影響を与える。

 五体五臓六腑に突き刺さる激痛を友奈が受けていた。

 

 

「んぐぐぐぐうぐぅ……!!」

 

『ひ、ひぃぃぃい!ゆ、友奈ちゃん、手を離せェ!このままじゃ友奈ちゃんに呪いが移っちまうぞォ!』

 

「……いやだっ!!」 

 

 

 妖精であるコロポックルのイッスンはまだしも、人間である友奈にいかなる影響を与えるかは分からない。それを危惧したイッスンの叫びが耳元には届くが、友奈は聞かない。

 

 

「ぜったい、助けるッ……うおおおおおおおおおおお!!!」

 

 

 無茶を通して道理を蹴っ飛ばす友奈の怒号が一目連の肉に深々と刺さる槍を徐々に引き上げていく。

 引き抜く際に槍が肉を傷つけたことにより一目連の激痛から頭を振る姿が目に入り、友奈はゴメンと思った。

 

 

(でも、これがホントに最後の痛みだから!)

 

 

 

 と、心が裂けそうな思いで友奈が力を籠める。渾身の力で槍を引き抜く。

 ずぽっ、と。

 取り出された槍が樹海の地面にカランと落ちた。

 

 

 引き抜いた拍子に友奈の身体も一目連から離れる。

 地面に落ちた友奈は無事。イッスンも地面に転がるが無事。

 

 

「はぁ……はぁ……っ!!」

 

 

 だが友奈の身体は疲労困憊だ。

 まるでマラソンを限界まで走り切ったような疲労感。勇者になって体力は強化されている筈なのに、今は身体を動かすことが億劫になっている。

 槍一本を引き抜くのに体力を消耗させられた感じだ。

 

 

 

『友奈ちゃん!おい、大丈夫かッ! 頭大丈夫かッ!?』

 

「頭は……大丈夫。ただ、凄く……疲れちゃった、かな……へへ」

 

 

 倒れた頭付近にイッスン。その呼びかけに些か疑問を残しながらもいつものような笑顔で答えて見せる。

 

 

「――――――あ」

 

 

 しかし、その笑顔が瞬時に途絶えた。

 眼前には一目連の顔がある。その瞳にはもう槍はない。血を垂らしながら、頭を下げ、もう動けない友奈へ顔を向けていた。

 

 

 呪いはもうないはずだ。だが、自分は助けるためとは言え、一目連に痛みを与えている。

 敵を追い払う一目連にとって友奈たちは最初から敵であることに変わりがないのだとしたら、理性を取り戻した後になっても敵対象が変わることは無いだろう。

 友奈は今身体を動かすことが出来ない。

 イッスンが刀を抜いて応戦の意思を示す。

 

 

『アウ……』

 

「アマちゃん……」

 

 

 だがアマテラスだけが呑気にお座りをして友奈と一目連を見つめていた。

 彼が警戒を解いていることが問題はないと判断でき、友奈は安心することが出来るのである。

 呪いは解かれ、一目連は理性を取り戻していた。

 

 

 一目連は顔を近づける。捕食するためではなく、己を助けてくれた存在を確かめるように友奈の顔や体に鼻息を吹きかける。

 生暖かい風が少しばかりこそばゆかった。

 顔を上げた一目連は友奈たちを見下ろして、その大きな口を開いて―――――、

 

 

 

『あぁ……懐かしい風を、あなたから感じます……』

 

 

 

 とても優しい女性のような声色で喋るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 事件解決の数分前、竜巻の外では異変が起きていた。

 

 

「風……おいでなすったわよ……」

 

「そのようね……今回は数も多いこと……なぁんかデカいのも混じってるし……」

 

 

 風達がいる別方向、隊列を組んで風の中を進む者たちの存在が見て取れる。

 槍や弓、刀を持った天邪鬼達だ。

 

「これでこの竜巻の中にいるヤツが精霊だってことが証明されたわね……」

 

「あいつら、性懲りもなく……!」

 

 

 以前、犬神を強襲していた天邪鬼たちの動きから彼らの狙いは暴走した精霊を捕えるという事が調べで分かっている。

 彼らがここに現れたという事は確実に精霊がらみなのだろう。

 

 

 

 

『ククク……オロチサマニ仇名ス勇者ドモノ間抜ケ面ガココカラデモヨク見エルワ』

 

 

 天邪鬼の群れの中で一際大きい体躯を持つ者がいた。

 

 その姿は甲冑を纏う牛である。それ即ち異形の類。

 動物的な四足を生やしながらも二本の腕を持ち、その手には大刀。

 額の兜には『火』の文字。

 

 

『コノ四国ヲ焼キ払ッレクレヨウゾ……コノ“赤カブト”ガァ!!』

 

 

 赤カブトがその口から火炎をまき散らす。

 高熱線のように一直線に放たれた炎は樹海化した大地を灼熱大地へと変え始めた。

 

 

 

 

―――――赤カブト。それはアマテラスのいたナカツクニ、高宮平を牛耳っていた存在。そしてそれは、大妖怪・ヤマタノオロチの血より生まれた妖怪である。

 

 




筆しらべの章、メイン回。そんな感じ。



・一目連
暴風を纏う神。妖怪なのか神なのかよくわからない。
妖気を得て、自由の身となった。データー上の存在だけれども、いつしか自分を使役してくれた仲間想いの優しい少女が居たことを心のどこかで覚えている。そんな奴。



・赤カブト
ヤマタノオロチの血から生まれたヤベー奴。火吐けるし、刀も使える。おまけに地面から火の龍を出せる。甲冑を纏っているため異常なまでに防御力が高いが、攻撃を続けると甲冑は剥がれ、本体である牛の骨が現れる。しかしこの骨自体も炎を纏っているため、この炎を消さない限り、ダメージを与えることは難しい。ちなみに剥がれた甲冑は何故か時間が経過すると元に戻る。
炎を消すには神風を吹かすしかないだろう。



・桃コノハナ
大神ステージに存在するギミック。筆しらべ蔦巻でアマテラスを繋げると桃コノハナ地点まで高速で連れて行ってくれる。連続して移動しようとして場外に落下するのはゲームではよくあること。



アマテラスの家庭訪問。誰の家にいく?

  • 結城さん家
  • 東郷さん家
  • 犬吠埼さん家
  • 三好さん家の花凛
  • 乃木さん家(病院)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。