結城友奈は勇者である~勇者と大神と妖怪絵巻~   作:バロックス(駄犬

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続けて文字数が一万いくなんね誰も予想できないよね...書いている自分がそうですもん。

キリよく終わらせようとしたらいつのまにかかえてるんですよォ!
2週目も無事クリアが近くなってきました。


其ノ壱、勇者と大神

『うおぉぉぉ!!走れェアマ公ォォ!!』

 

 四国、香川県讃州市の空にイッスンの叫びが声が上がる。

 相棒の呼びかけに応じるのは、前回の旅でも苦楽を共にした白い狼ことアマテラス大神。

 

 わん、とアマテラスが一吠えすれば即座に転圧されたグラウンドの大地を駆け出し始める。

 その速度はぐんぐんと上がり、見る物は目を張る様にして、とおりすがる際には小さな突風を巻き起こしては女子生徒のスカートが小さく翻った。

 

 

「まてぇ! この犬っころー!」

 

 なぜかイッスンとアマテラスは追われていたのだ。奇妙な服装をした男に。

 

 

 これまでの旅路を整理しよう、とイッスンは思う。

 神社から勢いよく”勇者”を探す旅に出たのは良かった。だが、ククノチが言う肝心の勇者がどこにいるのかが分からない。

 

 

 以前、ナカツクニでも情報収集は『足を使う』を念頭にしていたイッスン達。すると、道の壁に貼られていた一枚の張り紙が目に止まるのである。

 

 

 

――――『子猫の里親、探してます。御用があれば、讃州中学”勇者”部へ!!』

 

 

 

 あれ?これさっそく当たり引いたんじゃね?

 

 

 

 張り紙に書かれていた”勇者”という単語にイッスンはこの『勇者部』がある讃州中学へと向かった。

 その場所にいる”勇者”と呼ばれる者達に、この世界の事とアマテラスの筆しらべの力を取り戻す為に協力を仰ごうと思ったのだが。

 

 

『な、なんでェい!?”ガッコウ”ってのは犬一匹入ってきた程度で全力で追い出そうとする所なのかよォ!』

 

 イッスンは失念、と言うか知らなかったのである。

 学校に不法侵入してきた者は教師や、その他の関係者によって追い出されることを。

 

 

 それは、動物である犬、猫なども例外ではなく。

 アマテラスはそこに教育者として存在している教師に不法侵入者の扱いを受けて讃州中学の敷地内を追い回されていたのだ。

 

 

 たかだか犬一匹が入って来ただけでこの扱い。

 人の家に入って花瓶を割ったり、筆しらべを炸裂させても許された”ナカツクニ”とは随分と自由が利かない国だと思ったイッスンである。

 

 

「ま、まてぇ~……く、くそう、は、速いッ」

 

 

 だが、こと追いかけっこに関してアマテラスの右に出る者はいない。

 

 ナカツクニで名を馳せた飛脚たちの爆走レース、魔の森ヨシペタイの女王カイポクとのレースを制したアマテラスに勝てるものなど常人では考えられないだろう。

 

 最高速の走り込みから緩急を利かせた回転で教師の真横を抜き、鮮やかなスライディングで股を抜き、

進行方向の木を蹴ってからの三角跳びなどのアクロバティックな動きをされては追跡者である教師も根を上げざるを得ないか。

 

 

『お、オェッ ア、アマ公…も、もうちょい手加減して走りやがれェ…これじゃオイラ、また吐いちまうぜェ……オエッ…』

 

 同時に、頭にしがみついているイッスンへの負担もデカい。

 

『ど、どこかへ隠れようぜェ……変な男も巻いた事だしよォ』

 

 視界を暗転させ、脱力したような声を上げるイッスンを頭に乗せて、アマテラスが走るスピードを緩めた。

 隠れようとせず、ゆっくりと道を歩くのはイッスンが回復することを願ったアマテラスの気遣いだった。

 

 

『しかしまぁ……ホントこの国はよォ、よくわかんねェなァ』

 

 数分後、体調を復活させたイッスンが唸る様に呟いた。

 

『どこみても平和そうなツラしたやつらしかいねぇぜェ? ホントにこんな国でククノチの嬢ちゃんが言っていた”不吉な事”なんて起きてんのかねェ』

 

 

 この国に住む者達は別にナカツクニにいた頃のようにタタリや妖怪たちの脅威にさらされている様子は見受けられなかった。

 子供は遊び、大人たちは仕事をし、老人たちは集まって球を槌で打ったりしては遊んでいる。

 

 

 普段通り日常生活を送る人々の姿からはククノチが言う”不吉”とは程遠い光景だったのである。

 

 

『この様子だと”勇者”ってのがここに本当にいるのかどうかってのも怪しいモンだぜェ……見た感じ、ここにいるのは子供が殆どだしよォ――――、

さて、アマテラス大先生の御慧眼は?』

 

 地面に座り込んだアマテラスはくるん、と辺り見渡すように首を回してから程なくして、

 

『……アウ』

 

 首を傾げたのだった。

 

『だよなァ……そりゃァ誰もが”オキクルミ”みてェなヤツ、そうそういるもんじゃねェしよォ』

 

 ナカツクニでも北国である『カムイ』のオイナ族の村『ウエペケレ』に住む一人の青年の姿を思い浮かべては、何か違うなと一人腕を組むイッスン。

 

 

 流石に辺り一面にいる男が犬の仮面被って刀を帯刀していたらそれはそれで怖い。

 ”勇者”探しは予想以上に難航しそうだな、とイッスンは小さくため息をついたのだった。

 

 

『アマ公もいつの間にか眠りやがるしよォ……』

『クゥン……』

 

 

 アマテラスは既に横になって眠る体制へと入っている。

 下が芝生で日光も当たっているからか、その心地よさに探し物よりも眠る事を選んだのだろう。

 

 

 イッスンは仕方ない、と言った表情で、

 

 

『こういう時は……寝るのが一番だィ。ちょうど五月蠅いニンゲンも巻いた事だし、ここなら人目も付かねェ……休んでも大丈夫かァ』

 

 

 眠り始めているアマテラスの柔らかい部分、腹の部分に仰向けになると自身の頭にある玉虫の笠を目元まで被せる。

 煮詰まった時に動いてもただ体力と腹が減るだけであることを以前の旅で知っているからだ。

 

 

『一休みするだけだぜェ、アマ公…ちょっとしたらま、た…はじめる……ZZZ』

 

 

 ここまでの旅路でいろいろとあり過ぎたためか、溜まった旅の影響かこの時だけイッスンの寝つきの良さはアマテラス並みだった。

 イッスンが眠ると同時にアマテラスを囲うように地面から草木が伸び始めた。それは遠目からでは内側にいるアマテラスを隠すように全体を覆い始める。

 

 

 これもアマテラスの神通力が為せる業である。

 神通力を生命力として草木に与え、それを急成長させる。アマテラスは自身の周りにある芝に生命力を与えた。

 人に見つかっては面倒なことになることを悟ったアマテラスが咄嗟に取った行動であった。

 

 

 

 校内の敷地内で犬とコロポックルが眠っていることに誰も気づくことなく、ただ時間が過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どれほど時間が経ったのだろう。

 微睡の中から目覚めるように、アマテラスがその顔を上げた。

 

『くぅあ……』

 

 太陽は既に傾き、空は朱に暮れている。

 アマテラスは大きく欠伸をしては自身の腹の部分で眠ったであろう相棒へと視線を向けるが、

 

 

『グォオオ……サクヤネェちゃん、ぼいん、ボインがいっぱい、でェ……グッフフフ』

 

 

 奇妙な寝言を呟くイッスンの表情を見ては無理に起こそうとした気も失せるアマテラスであった。

 

 

 相棒が起きないのであれば仕方ない、とアマテラスが潔く二度寝を決め込もうとした時である。

 

 

 

 視線を感じた。

 

 

 

 

『―――?』

 

 

 これまでの経験からこの視線には覚えがある。人の視線だ、アマテラスの三角の耳がぴくぴくと動く。

 誰かが茂みに隠れているアマテラスたちを見ている様な気がしたのだ。

 

 

「うわぉ……こんな所にワンちゃんが」

 

 

 その声はすぐ真上から聞こえてきた。

 アマテラスは失態を犯したと思った。まさか寝入っている間に、こうも簡単に人間に接近を許していたことに。

 

 

 アマテラスはすぐに真上へと視線を移す。

 人の対応次第であっては、腹で寝ているイッスンをたたき起こす間もなく、この場所から離脱する考えを持っていたアマテラスであったが。

 

 

「およ……?」

 

 茂みに真上から覗き込んでいたのは、一人の少女だったことにアマテラスは動きを止める。

 

 

「お昼寝してたのかな? ごめんね、邪魔しちゃって」

 

 

 

 アマテラスに申し訳なさそうな笑みを浮かべて謝る、”赤毛の少女”。

 この建物に住む者達と同じ衣服を身に纏った少女がアマテラスを見おろしていた。

 

「……」

 

 アマテラスを見て、落ち着いた様子だと踏んだのか赤毛の少女は恐る恐る手を伸ばす。

 

 

 ぽん、とアマテラスの頭の上に少女の手が乗せられた。

 柔らかく、毛並みの整った頭を少女は優しく撫で始める。

 

 

 アマテラスは少女に対して抵抗を見せなかった。

 次第に毛を掻き分け、頭蓋の窪みを摩る様に動く少女の手は相手に痛みを与えるようなものとは真逆で、むしろ快楽さえ感じる物であった。

 

 

『アウ……♪』

 

 思わずそう声を漏らしたアマテラスを見て、少女の表情に笑みが宿る。

 

「落ち着いてるんだー、いい子だね、よしよしー」

 

 

 やけに明るい笑顔が印象的な少女であった。

 それは、アマテラスの内に眠っている『何か』を思い出させるように呆けさせるほどのもので。

 

 

 少女の手にされるがままだったアマテラスであったが、やがてその手の動きが止まる。

 懐から小さく音楽がなったからであった。

 

 

 小さく、四角い板のようなものを取り出すとその面を見つめ、

 

「あっ……”東郷さん”からだ。 またね、ワンちゃん、私もう行かなきゃいけないから……ごめんね?」

 

 アマテラスの頭から名残惜しそうに手を離した少女は小さく手を振ると、建物の中へと駆け出していった。 残されたアマテラスは頭に残った少女の柔らかき手の感触と花のようで温かな香りを思い出しては、すくっとその場から立ち上がった。

 

 

 同時に腹の部分で寝入っていたイッスンが地面へと転がり落ちる。

 イッスンは何事か、と身を起して自身の寝ぼけた眼を擦った。

 

 

『ど、どうしたんだィアマ公……人が気持ちよく寝てたってのにィ…一体何が――――』

 

 いつものようにアマテラスの頭へとイッスンが飛び乗った瞬間だった。

 突然、アマテラスが走り出したのである。

 

 

 芝生から飛出し、加速を繰り返しては先ほどの少女が入っていった建物の中へと。

 

 

『ちょ、ちょっと待てェ~アマ公!』

 

 

 今日一番の速さを出しているのではないかというアマテラスの走りに振り落とされることが無いようにイッスンは必死に耳の部分にしがみつく。

 勢いが良すぎて身体が浮き始めるほどだ。

 

 

 まるで探し物を見つけたかのような反応を見せるアマテラスにイッスンが問う。

 

 

『あ、アマ公! もしかして見つけたってのかィ、”勇者”ってヤツをよォ!』

『アウ!』

 

 

 その短い返事による吠えがイッスンの問いに答えるものだったかは定かではない。

 だが、アマテラスの直感を信じてイッスンの身に気合が入る。

 

 

『よォし、なら早速案内してもらうぜアマ公! 周りなんて気にすんじゃねェ! ただ真っ直ぐソイツの場所まで走りやがれェ!』

 

 

 イッスンの号令に応じるようにアマテラスはまた一段、加速して建物の中を疾走するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――讃州中学、勇者部部室。

 

 

 

「こんにちはー!友奈、東郷はいりまーす!」

「こんにちは」

 

 『家庭化準備室』と『勇者部部室』と書かれている部屋の扉が少女の声と共にゆっくりと開く。

 

 

 

 一人は赤毛の少女。その少女が押している車椅子にも黒髪の少女が座っている。

 

 

「お疲れ様です。友奈さん、東郷先輩!」

「あら、二人とも遅かったわね……掃除当番?」

 

 

 金髪の少女が二人いる。

 テーブルにてカードを手にこちらを振り向いた小柄な少女と、雰囲気を似せた長い髪の少女だ。

 

 

「えへへ、ゴミ出ししていたらすっかり遅くなっちゃいまして、あっ、途中で可愛いワンちゃんに会ったんです!その子ともちょっと遊んでて~」

「友奈ちゃん・・・・・私に呼ばれなければずっとその犬と遊んでたでしょ?」

 

 

 友奈と呼ばれた少女ははにかみながら自身の後頭部に手を回していた。

 

 

「ときどき抜けてるところがあるから心配だわ、友奈ちゃん」

「と、東郷さんも大げさだなぁ~大丈夫だよ」

 

 

 一番の親友である東郷へと笑いかける友奈。

 親密に成り立っているその関係からか、彼女からの言葉はときどき優しさと厳しさを兼ね備えたものがある。

 

 

「で、でもでも! 可愛い犬が居たら一緒に遊びたくなっちゃいますよね風先輩、樹ちゃん!」

「ここで私たちに振って来たわね」

「激しく同意を求める友奈さんの心の叫びが聞こえます……」

 

 

 同じ部員である友奈のヘルプに、犬吠咲姉妹の風と樹がお互いを見合う。

 仕方ないと言った表情でそのヘルプに応じる事にした。

 

「まぁ、アタシくらいの女子位になれば男だけじゃなくて犬も寄って来る? 万物の生命も引き寄せる、それがアタシの女子力!」

「お姉ちゃん、その理論だとゴキブリとかも寄って来るけど……いいの?」

「やっぱヒト限定で」

 

 

 妹の鋭い指摘に自身の意見を変えるとともに、部員のヘルプに応じられない無力さを風は心苦しく思ったのであった。

 

 

「まったく、揃いも揃って能天気な会話をべらべらと……」

 

 

 部室の窓際に一人佇んでいる少女がいる。

 普段から威嚇でもしているかのように鋭い目つきとショートのツインテールが特徴的な少女は口に何かを運びながら苛立ちを込めてはその台詞を口にした。

 

 

「夏凛ちゃん……また煮干し食べてる…」

「なによ。悪い? 煮干しは最強の栄養食なのよ」

 

 

 友奈は相変わらずスナック菓子感覚で煮干しを頬張る夏凛という少女を見ては呟いた。

 この夏凛と言う少女は部室、というか教室でも隙さえあれば煮干しを口にしている。

 

 

 

 しかも家には大量に備蓄しているという大の煮干し好きだ。

 香川にとっては”うどん”こそ至高のソウルフードなのだが、夏凛にとってはうどん=煮干し>サプリ、とその存在は偉大なのである。

 

 

 

 

 

 それよりも、と夏凛が言葉を放った。

 

 

 

「私達……悠長にそんな事してる場合じゃ、ないでしょう?」

「まぁ、そうなんだけどさ……」

 

 

 夏凛の一言に下を向いた風と同じくして、一同のいる部室内の抑揚のあった雰囲気が一瞬にして静まり返った。

 

 

「風先輩……」

 

 部室の床を見つめる風に友奈もそれを見ては自然と土の中に埋没していくような気分になってしまった。

 

 

 そうなってしまっているのには”原因”がある。

 その”原因”を解決しない限り、この勇者部の部長である”いつもの犬吠崎風”が戻ってくることは無いだろう。

 

 

 暗く、淀んだ雰囲気となった部室の様子に友奈は無意識に胸の服を握った。

 

 

 この状況をどうにかして、前向きに持っていかなければ、

 

 

 

「あの――――、」

 

 

 そう思って声を発しようとした時だった。

 友奈が入ってきた扉から、小さく、音が聞こえてきたのである。

 

 

 それは止まることなく、しかししっかりと耳に聞こえるようにカリカリ、と。

 

 

「依頼の人かな?」

 

 まるで爪で引っ掻くような音に物怖じもせず友奈が扉へと手を掛ける。 

 横にスライドする形式の扉がゆっくりと開かれたその瞬間――――、

 

 

『ワウッ!』

 

 

 白く、大きな何かが友奈の眼前へと飛び掛かって来た。

 

 

「わわっ!」

 

 

 勢いよく、友奈目がけて飛び上がった白い者はそのまま友奈の身体にしがみつく。

 友奈はあまりの勢いに態勢を崩し、部室の床に後ろから倒れてしまった。

 

 

「うおぉあ! な、なななに!? て、敵襲!?」

 

 煮干しをぽろりと手から落とした夏凛が近くにあった箒を二本手に持ち構えている。完全に戦闘態勢だ。

 

「け、警報も鳴ってないわ! 星屑よ!星屑が直接攻め込んできたわ!」

「ちょ、ちょっと冷静になりなさい夏凛! これ、犬よ!」

 

  

 白の体躯を持つ物体を夏凛は普段から見慣れてしまった”星屑”と勘違いしてしまった訳だが実際は、

 

 

 犬。

 

 その単語を改めて聞いた夏凛の目が大きく見開かれる。

 目の前の光景を検証するかのように目を細めるとそこには、

 

 

「あははっ…! ちょ、ちょっとくすぐったいって~、んふ、はははっ! 」

 

 

 眼前にいる白い物体は確かに三角の耳があり、黒の鼻がある。どこからどう見ても犬。

 

 

 その犬が友奈を床へと押し倒し、顔面をひたすら舐めまくっていたのだ。

 

 

「んぅ、そ、そんなにぺろぺろしちゃダメだよ~!あははっ!」

 

 ひたすらじゃれつかれている友奈を見た風は腕を組んで一言。

 

「……樹、止めるわよ」

「え? この犬、ただじゃれてるだけじゃ……」

「あたし達は大丈夫なんだけど、その、東郷が」

「あ」

 

 

 と、何かに気付いた樹が視線を東郷へと向ける。

 その目はどこか虚空を眺めるように黒く、どこか淀んでいたのである。

 

 普段の冷静さを保っているかのような表情だが、その手は確実にスマホの画面へ手を伸ばそうとしている。

 

 

「・・・・・」

 

 

 東郷は完全に”勇者システム”を起動させる気満々であった。

 

 

 

 これはいけない。

 

 

 

 ことの重大さに気付いた樹は姉である風と連携し、即座に友奈を舐めまわしている犬を引き剥がしにかかろうとした、

 

 

 その矢先―――、

 

『うおィ、アマ公!いつまでお嬢ちゃん舐めまわしてんだィ!そろそろ離れねェかァ!』

 

 犬の身体からぴょっこりと飛び出した小さく、玉のような身なりの姿を風と樹は同時に目に捉え、

 

「え?」

 

 状況が状況だけに思考を停止させたかのような一言に、その小さき者も、

 

『え?』

 

 

 と同じように言葉を発したのだった。

 

 

 

「ひやぁ! そこはダメだって~、ふふ、はははっ!」

 

 静まりかえる部室を余所に、犬に舐められ続ける友奈の声だけが部室内に響くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「太陽神、アマテラス大神ぃ?」

『おうよォ!』

 

 

 風の素っ頓狂な声が響く。

 落ち着きを取り戻した部室内では玉のように小さなイッスンを勇者部の面々が囲んでいた。

 

 

 風は再度横にいるアマテラスを見ては、

 

 

「この犬が神様?」

『だから何度も言ってんじゃねェかァ!』

「ぜんっぜん見えないんだけど、どこからどう見ても普通の犬なんですけど……」

 

 

 風と夏凛が互いに腕を組んでは唸る。

 

 

「ほらほら、ビーフジャーキーだよ♪」

『♪~♪』

 

 

「やっぱり全然見えないわ」

 

 

 件のアマテラスは相も変わらず友奈にべったりで、差し出されたビーフジャーキーを嬉々として食べている。

 イッスンだけの説明ではとてもこの白い犬が神様だという事を信じ込ませるには説得力足りなかった。

 

 

「それにアンタ……神の威光を知らしめるために絵を描く天道太子、とかなんとか言ってるけど、そんな身なりで絵なんて書けるの?」

『ば、馬鹿にスンナァこの野郎ォ! 見てなァ、天道太子イッスン様の筆業をよォ!』

 

 

 夏凛の一言にイッスンは怒りの籠った声をあげた。

 すぐに懐から筆と紙を取り出して見せた。

 

 

 イッスンは数秒程辺りを見渡すと、筆を持ち、紙を見据えては、

 

 

『ハァッ!!』

 

 

 力強い筆と墨の軌跡が白い紙を駆け抜けていく。

 一筆一筆のなぞりは閃光のように速く、荒々しくも正確な筆遣いで紙は墨によって満たされていく。

 

 

『できたぜェ!オイラの名筆、目ん玉かっぽじってしかと見なァ!』

 

「はやっ!」

 

 

十数秒と満たない程の時間で、イッスンの絵は完成していた。

 しかもその出来はかなりもので、殴り書いたものとは思えない美しい女性の姿が描かれていたのである。

 

 

 勇者部一同からそのイッスンの実力に感嘆の声が上がる。

 ここで絵を見ていた友奈が何かに気付いた。

 

 

「あれ? この絵の女性って、もしかして東郷さん?」

 

 イッスンの書いた女性は黒髪が特徴的な女性で見覚えがあったのである。

 

「あら、本当なの?」

『ああ、そうだぜェ。 そこにいるお嬢ちゃんを書かせてもらったァ』

 

 

 東郷の問いにイッスンが鼻を鳴らして見せた。

 

 

『黒髪で美人ってのはァ絵になるもんだァ。 オイラの創作意欲がグンと湧いたぜェ!』

「そ、そうなの? ふふ、嬉しいわ」

 

 

 戸惑いながらも、容姿を褒められては少しだけ照れくさそうに東郷は顔を赤くした。

 自身の容姿を美人と言われて嬉しくない女性などこの世にはいないのである。

 

 

 イッスンがナカツクニで培った褒め殺しのテクニックだ。

 

 

「ありがとうね、イッスンちゃん」

『い、イッスンちゃん!?』

 

 素直に礼を言われ、イッスンの身体が文字通り真っ赤になった。

 東郷は黒髪で白い肌をもち、その冷静そうな佇まいからイッスンがどこから見ても紛う事なき美少女である。

 

 

 そして、普段あまり絵に関して褒められたことが無かったイッスンにとってそれを東郷のような美少女に褒められるということは、

 素直に嬉しく思える事であり、それと同じくらいに照れることであったのだ。

 

 

「あ、コイツ今めちゃくちゃ照れてるわよ」

「そうね、女子に褒められて照れるなんて案外カワイイところもあるじゃないの、このこの」

 

 

 真っ赤になって俯いているイッスンを夏凛がけらけらと笑い、

 風に関してはイッスンの頭を人差し指でつんつんと突っついている。

 

 

『だぁーッ!うるせぇ!』

 

 

 自身の感情を言い当てられたイッスンは風の指を振り払うと蒸気機関車のように頭から湯気を噴出させた。

 先ほどよりも、真っ赤になったイッスンは両腕両足を組んでは机の上にどすん、と座り込む。

 

 

『これでオイラが本物だッてェのが理解できただろォ……オイラ達の頼みも聞いてくれねェか』

 

 明らかに拗ねている様子だったのでこれ以上おちょくるのは止そう、と風が咳払いをする。

 

「私達もアンタたちの”筆しらべ”? っていうのを探したいのは山々なんだけどさ……アタシ達も今”問題”にぶち当たっててね」

『問題? なんでェ、もったいぶらずに言えよォ。 力になれることがあるかもしれねェぜェ?』

「それは……」

 

 

 イッスンの言葉に風は言い澱む。

 それは明らかに得体の知れない正体不明の存在に自身が抱えている”悩み”を打ち明けても良いモノなのだろうか、という疑念だ。

 

 

「風先輩……」

 

 言うか、言うまいか、と悩む風に東郷が声を掛けた。

 

「この者達、片方の犬が神様かどうかはさておき、イッスンちゃんが”コロポックル”という妖精である種の”精霊”的な存在であることは確かです。……話してみる価値は充分アリかと」

「……そうね」

 

 

 どこか確信めいた目の力強さを持つ東郷に風は一抹の望みを掛けるようにして頷いた。

 

 

「私達、勇者部はね、あまり人には言えない秘密を持っているの……みんな!」

『秘密?』

 

 

 首を傾げるイッスンを余所に、風が部員全員に合図を送る。

 友奈、東郷、樹、夏凛がそれぞれスマホを取り出すとその中から小さく光が飛び出てきたのだ。

 

 

『うぉお!?』

 

 イッスンの声には驚愕と当惑の調子が籠っている。

 スマホから飛び出した光はそれぞれ四つ。光は形を作り出していく。

 

「牛鬼!」

 

 友奈の頭乗っかったのは背に小さな羽が生やした白い牛。

 

「青坊主!」

 

 小さく、少しだけ割れた卵のような物が東郷の周りをゆらゆらと浮遊している。

 

 

「木霊!」

 

 樹の肩の辺りを浮遊する黄色い苗。

 

「義輝!」

『ショギョオムジョオ……』

 

 武者の姿を模った者が明らかに人語でそう話した。

 

 

「これが私達、”勇者”が持つ”精霊”……私達の行動を色々とサポートしてくれる存在なの」

「ちょっと待てェ!」

 

 

 説明を続けようとした風をイッスンが怒声で遮った。

 

 

『”勇者が持つ精霊”って―――、まさかここにいる奴ら全員が”勇者”だってェのかァ!?』

 

 

 イッスンは明らかになった事実に驚愕を隠せない。

 彼の中での”勇者”とは神木村の”大剣士、スサノオ”のようなオッサンでなくとも、せめてオキクルミのような凛々しい青年を想像していたのだ。

 

 それがまさか、こんな幼い少女たちだったことにイッスンは面食らったのである。

 

 

『しかも精霊ってェ……木霊はともかく、”牛鬼”とか”青坊主”って明らかに妖怪じゃねェかァ、そんなの使役して大丈夫なのかィ!?』

 

 

 浮遊している精霊に囲まれたイッスンが思わず息を呑む。

 すると、友奈が牛鬼を抱えて、

 

 

「怖くないよ? ほら」

 

 

 ぐいっ、と腕を伸ばしてイッスンの眼前に牛鬼の貌が迫った。

 イッスンが額に汗を垂らして一歩後ずさる。

 

 

『……』

 

 

 白く、閉じられることのない丸い瞳がイッスンを捉えている。本当に妖怪に名を馳せたあの”牛鬼”なのか疑わしい容姿である。

 誰しもが見ても可愛い、と言わざるを得ないその姿にはイッスンも少なからずそう思っており、

 

 

『お、おう・・・・・よ、よく見りゃぁ可愛いじゃねぇか―――』

 

 

 がぷ。

 

 

 

 苦笑いを浮かべながら触れようとしたイッスンを、牛鬼が頭から丸齧りするまで秒もかからなかった。

 

 

「うわああああ! 牛鬼ぃ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……取り敢えず、話を元に戻そうかしら」

『オウ……』

 

 

 牛鬼の口の粘液でべとべとになっているイッスンを風は苦笑いでごまかし、本題へと戻した。

 

 

 一番の被害者であるイッスンは体裁を取り繕って冷静に振る舞って見せるのだが内心は湧き上がってくる怒りを抑えるのに必死だという事を勇者部の全員は知る由もない。

 

 

「一応、ここにいるのがそれぞれの勇者が持つ精霊、ね。他にもいるんだけど……」

『ん?そういやァお前さんの精霊だけいねェじゃねェか』

「そう、私にも精霊はいるの……いいえ、正確には”いたのよ”……犬神って名前でね」

 

 

 犬神、これもまた聞いたことのある妖怪だ、とイッスンは内心で思ったのだ。

 

 

 風は明らかにトーンを落とした沈痛な声で言うのである。

 

 

 

「その犬神がね……居なくなっちゃったの」

 

 

 

 

 

 ある朝のことだったという。

 いつもなら家のキッチンにて食事の準備をしていると風のエプロンを掴んで餌をねだってくる犬神が一向に姿を現さなかったのだ。

 

 

 

 最初は、今日は虫の居所が悪いのか、そういう日もあるのだろうと楽観していた。

 だがそれが2,3日も続くのであれば話は別である。

 

 

 

 

 勇者が持つ端末に呼びかけても出てこない犬神を心配した風は勇者システムを管理している”大赦”に連絡をするのだが――――、

 

 

 

 原因は不明、だが勇者システムの一部が異常を起している可能性がある、とのことだった。

 

 

 

 他の部員である勇者の端末は正常に作動している。

 風の端末だけ、精霊が現れなくなったのだ。

 

 

 

 

 犬神が居なくなってから1週間が経つ。

 勇者部としても張り紙で目撃情報は無いか呼びかけてはいるものの成果は無く、

 

 

 このままでは”勇者としての御役目”にも支障が出てしまうと、部員全員が焦っていたのだった。

 

 

 

 

 

『聞いたかアマ公?』

『アウ?』

『オメェはいつまで干し肉食ってんだァ!』

 

 

 友奈の膝元で未だにビーフジャーキーを咀嚼していたアマテラスにイッスンが一喝。

 

 

『どうやら勇者サマは色々とお困りのようだしよォ、ここはいつものようにお節介でも焼いてやるとするかィ?』

『ワンッ』

 

 

「お、お節介って……な、なにするつもりよ」

 

 

 それは確かにイッスンの提案に乗っかる、承諾する意味を持った返事の吠え方であった。

 流れるように話が進んでいくのに付いていくのが精いっぱいな風は思わず再度聞き直す。

 

 

 イッスンは自身の玉虫の笠をくいっと持ち上げると、

 

『へっへっへ……、こう見えてもオイラ達はナカツクニで数々の難事件を解決してきたんだぜェ?

ならず者の妖怪退治から窃盗モグラ叩き、平安京のスリ退治、水脈探索、魚釣り、人探しから犬探し―――、たかだか犬っころの精霊探すなんてよォ、オイラ達にかかればチョチョイのチョイだィ!』

 

 

「イッスン……」

『へっへっへ、悩んでる美人を放っておくなんてオイラは出来ねぇんだァ。 こっちには大神サマも付いてるんだからよォ、大船に乗ったつもりで期待してろってんだァ!』

 

 意気揚々と語るイッスンにこれまで固く、失意に沈んでいた風の表情が綻んだ。

 

「もう、馬鹿ね……褒めたって何も出ないわよ?」

 

 その自然とした笑みに小さく笑みを浮かべて見せたイッスンが更なる条件を追加する。

 

『その代わりィ! ちゃんと犬神ってのを見つけたらアマ公の筆しらべ集めの手伝いをしてもらうぜェ!』

「はいはい、分かったわよ! 勇者部の部長に二言は無いわ! それに私の人生で神様の手伝いが出来るなんて、それはそれで光栄じゃないの」

 

「お姉ちゃん、一応私たちの御役目も神様のお手伝いになるんじゃ……神樹様の勇者なんだし」

「細かいことは気にしないの!女子力が磨かれないわよ樹ィ」

 

 

 鋭い妹の意見を跳ねのけるように樹の肩をぱしんぱしんと叩く。

 その様子を見ていた友奈は―――、

 

「よかった……」

「友奈ちゃん?」

 

 小さく呟いた友奈に東郷が首を傾げる。友奈はううん、と首を振ると笑み浮かべて、

 

「いつもの風先輩だなって」

「……そうだね」

 

 精霊は決して、勇者の行動をサポートするだけの存在ではない。

 主人に対して餌を求めるように自主的な行動をする精霊たちを、勇者部の誰もがプラグラムされた存在とは考えなかった。

 

 

 風も気づけば犬神を家族として認識してたのかもしれない。

 だからこそ、いなくなってからの風は何か大切な家族が居なくなったと思い、心にダメージを感じたのだろう。

 

 

 今目の前で笑っている風はいつも勇者部をぐいぐいと前へと引っ張ってくれている頼りがいのある犬吠崎風だと、友奈思ったのだ。

 

 

 

『さて、じゃあ早速精霊探しに繰り出すとしますかァ、アマ公行くぜ――――』

 

 

 

 

 イッスンがアマテラスに呼びかけようとした時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 音が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦いの刻を知らせる警笛が。

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ッ! 樹海化警報ッ!!?」

 

 

 風が思わずスマホの画面を見る。

 そこに浮かんでいた"樹海化警報"文字を見ては苦虫を噛み潰したような顔になった。

 

 

 

『え、な、何がどうなってんだァ! なんだこの音はよォ!』

『ワウッ!』

 

「ちょ、あ、アンタたち、なんで今動けるの(・・・・・)!?」

 

 平然と静止している筈の時の中で動くアマテラスとイッスンに夏凛が驚愕する中、鳴り止まぬアラームと共に地鳴りが起き始めた。

 それはだんだんと近づいてくるもので、

 

 

 窓から見える世界は光に飲まれていくように、その姿を変化させていった。

 本格的な”樹海化”の始まりである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大神と天道太子の旅は新たな局面を迎えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ストーリー要約。
・讃州中学へ勇者探しするアマテラス一行
・アマテラス、結城友奈と運命の出会い
・友奈とイチャつくアマテラスに東郷さんの嫉妬の炎が
・イッスン、黒髪フェチ疑惑
・風の精霊、犬神が行方不明に。アマテラスと勇者部で協力して探すことに
・突然の樹海化警報、何故か動けるイッスンとアマテラスたち。

花凛加入後なのでこの時間軸だとバーテックスはカプリコーンまで倒されてます。
そんな時期なので花凛もまだツンツンが抜けきれてない時期。
ただひたすら友奈がアマテラスにぺろぺろされるのがメインのお話。
イッスンが東郷さんを選んだのはナカツクニでの登場キャラが殆ど黒髪なのと、容姿が大和撫子そのものだから。
あとボイン。

ちなみに、精霊がいないとバリア張れない設定だったと思うので風先輩、今ガチでヤバい状況です。

樹海化って確か四国が直接戦いの被害に遭うのを避けるために神樹様が行う簡易的な処置でしたっけ。

つまりバーテックス以外の脅威が来ても、四国が傷つかないようにする為に樹海化が起きるのでは?

時間があれば大神世界の簡単な用語説明をできればと思ってます。
色々突っ込みたいところもあるかもしれませんが何かありましたらいつでも感想に書き込んでくれると嬉しいです。

アマテラスの家庭訪問。誰の家にいく?

  • 結城さん家
  • 東郷さん家
  • 犬吠埼さん家
  • 三好さん家の花凛
  • 乃木さん家(病院)
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