結城友奈は勇者である~勇者と大神と妖怪絵巻~   作:バロックス(駄犬

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別に一万文字をノルマにしている訳じゃない……そう言う訳じゃないんだ…。
簡潔に言葉を選んで文章を作成できない、文才の無い自分が悪いのだ……。









うたのんとウシワカって絶対同じ波長だよね。


其ノ弐、大神と犬神

―――樹海化。

 

 それは、四国を守護する土地神の集合体である『神樹』が『バーテックス』との戦闘の際に行う、四国全土を樹木へと変化させる結界である。

 

 

 人類の敵、ウィルスに満たされた壁の外―――、神樹を滅ぼす為に刺客である『バーテックス』を迎え撃つのは『勇者』と呼ばれる無垢な少女たち。

 その閉鎖された空間の中では友奈を含めた勇者部の五人しか活動できない……筈なのだが、

 

 

『お、オイ……コイツァ一体、何がどうなってンだァ!?』

『ワウッ』

 

 

 一匹の玉虫の如き大きさの妖精と白い犬が状況を把握できずに目の前の姿に狼狽えていた。

 

 

『急に変な音が鳴ったと思ったらよォ~、辺りがぴかぴか光り出してェ……気付いたらこんなワケわかんねェ森みてぇな所に来ちまったぜェ!!』

 

 

 イッスンがアマテラスの上で軽快にもぴょんぴょんと跳ねている。

 無理もない、友奈たちなどは既に数回程この光景を見ているからか、もう驚きはしない。

 それでも一番最初の御役目でこの世界を見た時は驚愕と恐怖の感情を抱いた。

 

 

 そう考えれば、ただ驚愕しているというだけのイッスン達の反応はまだマシな方だろう。

 しかもイッスンは既に筆を取り出していて、

 

 

『あ、でもこの情景もナカツクニの神州平原、両島原に負けず劣らずの絶景……絵師としての血が騒ぐなァ!』

 

 

「そんなことよりも、よ!」

 

 

 夏凛がアマテラスの頭部で跳ねていたイッスンを摘んだ。

 人差し指と親指で玉虫の笠部分を掴まれたイッスンは文字通り、”宙ぶらりん”となる。

 

「なぁんでアンタたちも樹海の中で動けてんのよ!おかしいでしょ!」

『お、オイラがそんな事知るかってんだァ!つーか離せこの”ちんちくりん”がァ!』

 

 

 ちんちくりん。

 

 

 かつて友奈に自身が言った言葉を、まさか玉虫の如き、自分よりも”ちんちくりん”な存在に言われるとは思ってなかった夏凛。

 次第に顔から怒気を募らせ、イッスンの笠を摘んでいる指に力が入る。

 

 

 

「誰がちんちくりんだぁ~、だ・れ・がぁ!」

『うおぉお!? や、やめろィ! 笠割れる割れる!! 助けろアマ公ォ!』

『グゥ……』

『寝るなァ!!』

 

 

「な、なんだか緊張感無いわね……アンタたち、いい意味でだけど」

「私達の時は、あんな余裕もなかったですもんね」

 

 

 イッスンと夏凛のやり取りにどこか肩の力が抜けるような感覚になる風と友奈は、

 自分たちが一番最初にこの樹海で御役目を担う日になった事を思い出していた。

 

 

 イッスンとアマテラスにしては、これまでの旅路での経験もあるのだろう。

 謎の仕掛けが張り巡らされた遺跡での冒険、敵地の十六夜の祠での敵に成りすましての潜入捜査、魔の森ヨシペタイ、100年前の世界への遡行。

 

 

 そんな事を当然のように繰り返してきたアマテラスたちにとって、目の前の景色を見ては驚くのも一瞬の事で直ぐに順応できたのだろう。

 

 

「でもなんでこの子たちも樹海に来たんだろう……あ、この子の毛ふわふわしてて気持ちい……」

 

 樹が眠っているアマテラスを撫でては、その綿のごとき柔らかさを持った毛並に思わずうっとりしている。

 

 

 この樹海化した世界では神樹によって選ばれた無垢な少女限定の勇者という存在だけ。

 その法則に則って考えるとするならば、

 

 

「神樹様が彼らを選んだ……?」

 

 

 車椅子の上で思考を巡らせる。その姿は文字通り車椅子探偵であった。

 イッスンは妖精と名乗り、どちらかと言えば精霊の類になるからこの世界に来る理由としては100歩譲って分かるとしよう。

 

 

 だがこのアマテラスという白い犬はなんだ。

 勇者としても雄なのか雌なのか分からないこの存在は樹海に呼ばれる要素があまりにも少なすぎる。

 

 

 何かの手違いなのか、そう判断づけるなら、彼らの存在は完全にイレギュラーである。

 

 

 

「太陽神……大神、アマテラス…もしかして…」

 

 

 現在手持ちにあるあの犬に関しての情報というピースを組み合わせて、ある一つの予想に東郷が辿りつこうとした、その時だ。

 

 

「……っ!! 反応が……でも、これって―――」

 

 

 風が何かに気付いた。

 勇者一同が同時に携帯端末の画面を確認する。端末にはこの世界に対応した機能が仕込まれており、勇者達の現在位置と敵であるバーテックスの位置を教えてくれるのが本来の機能である。

 

 

 だが今回携帯端末が勇者達に伝えた情報は――、

 

 

「い、犬神!?」

 

 

 それぞれの端末の画面、風達がいる場所から数キロほどに点滅したマーカーに『犬神』と表記されていたのだ。

 

 

 犬神がこの先にいる。

 その事実に、風が一瞬安堵の表情を浮かべたのだが、

 

 

「でもこの犬神のまわりにある点ってなんだろう……」

 

 

 友奈の一言で再度画面を確認すると犬神を囲うように黒い点が数十ほど存在していた。

 

 

 風の表情が焦りが生まれる。

 この状況下で現れる個体としたらただ一つだ。

 

 

「犬神、まさか敵に囲まれてっ!?」

 

 バーテックスか星屑が、そのどちらかであっても犬神の危機には変わりはない。

 風が言葉とともにスマホを握りしめ、変身する。

 

 

 まばゆい光を放った風の身体から光が消え失せると、そこには制服姿とは打って変わった風の姿があった。

 彼女らしい黄色を基調とした花、オキザリスを想わせる勇者服を身に纏っていた。

 

 

「ああ! 風先輩待って!!」

「あの馬鹿ッ ”精霊が居ない状態”が勇者にとってどれくらいヤバい状況なのか分かってんの!? なのに一人で突っ走ってッ!!」

 

 友奈の制止を振り切り、猛然と犬神がいる方角へ飛び上がった風を夏凛が舌打ちした。

 すぐさま夏凛は残った三人に視線を送り、

 

 

「追いかけるわよ!!」

 

 

 その言葉に答えるように頷いて見せた直後、それぞれが端末の画面をタップする。

 風の時と同じくして、少女達が光に包まれると光が消えうせる頃には全員の姿が変わっていた。

 

 

 それぞれが身に纏う勇者服の色は

 

 

 友奈は山桜を思わせる桜色、

 東郷はアサガオのような静かで凛とした蒼色、

 樹は鳴子百合の色合いを持つ白と緑色、

 夏凛はヤマツツジ、レンゲツツジの色を程よく残す赤と白色、

 

 

『な、なにィ~~~~!?』

 

 

 姿を変えた友奈たちを目の当たりにしてイッスンが叫んだ。

 

 

『急に光ったと思ったら、皆の姿が変わりやがった! どうなってんだァ!』

 

 

 当然である。

 イッスンのいた世界、ナカツクニでも人という人種が変化の術を使用していたのはこれまで見たことが無かったのだ。

 

 

「説明は後ッ アンタたちはここで待ってなさい! あんな奴ら、すぐに殲滅してきてやるから!」

 

 驚愕をくりかえしてばかりのイッスンだが、その説明すら惜しいのか、夏凛は自身の武器である二本の脇差を構える。

 意を決したように目を見開いては、

 

 

「勇者部一同、殲滅開始ィ!」

 

 

 いつの間にか隣に現れた精霊の義輝が法螺貝を鳴らしたのを皮切りに勇者達は一斉に飛び出していった。

 友奈だけは呆けているアマテラスに向かって、

 

 

「待っててねアマちゃん、すぐ戻って来るからね!」

 

 

 満面の笑みで手を振ってから夏凛たちを追いかけるように飛び出していったのだ。

 

 

『……』

 

 

 呆けたように口を開けるアマテラスの心に何かが去来した。

 自身の心に響くような、

 何かを懐かしむような、そんな感じの想いが。

 

 

 とにかくアマテラスもじっとしている訳にはいかなかったのだろう。

 即座にその場から立ち上がると、友奈たちが飛んで行った方角を見つめた。

 

 

『あのにぼし娘はああ言っちゃいたがよォ……』

 

 

 いざ飛び出さんとしていたアマテラスの頭部にイッスンが飛び乗った。

 

 

『アマ公、気付いてるかァ? この場所に蔓延るイヤな匂いをよォ』

 

 イッスンが気付いたこの樹海に蔓延する匂い。

 実際の匂いとして現れている訳ではないのだが、長年この独特な匂いを持つ者達と戦ってきたイッスンだからこそ、判別できるのである。

 

 それは相棒のアマテラスもすぐに分かったようで、黒鼻をひくひくと動かした後で、

 

 

『ワウッ!』

『ああ、アマ公分かってるじゃねェか……オイラ達にとっちゃ分かりやすすぎる程の―――』

 

 

 そう吠えたアマテラスにイッスンは玉虫の笠をくいっとズラして、友奈たちが向かっていった犬神がいる方角を見て呟く。

 

 

『妖怪たちの匂いだ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なんなのよこいつ等」

 

 犬神の元に真っ先に辿りついた風は自身が思い描いていた戦況と大きく違っていたことに驚愕していた。

 

 

 たしかに犬神は居た。青い毛並の尻尾を持ち、宙に浮いているその姿は正しく風が知る犬神である。

 

 

 

 違っていたのは犬神の周りに居るのが星屑やバーテックスという勇者の共通の敵ではなく、

 二つのツノを頭から生やした顔に梵字の書かれた布を貼っている猿だったことだろうか。

 

 それがイッスン達が居た世界で言う緑天邪鬼だという事を風は当然だが知る由も無かった。

 

 

『キキッ キキッ』

 

 猿の如き奇声を上げる、者達はざっと20はいるだろうか。

 それぞれが武装をしており、槍や刀、弓矢などを持ち、犬神を囲んでいたのだ。

 

 光によってぎらつくその得物は偽物ではなく、本物だということを知らしめる。 

 風は思わず息を呑んだ。

 

『かかれー!あの犬を捕らえるべさー!』

 

 緑天邪鬼の一匹が合図を送ると”オォ!!””と威勢よく武器を構えて数十の緑天邪鬼が犬神めがけて飛び掛かる。

 

 

 捕らえるにしては些か説得に欠ける武器を用いる集団を、風が黙って見過ごすわけにはいかない。

 自身の精霊が狙われているのなら当然である。

 

 

「その子に触れるなぁ―――――ッ!!」

 

 右手に自身の大剣を呼び、肩に担いだ風が犬神の前方、その地面目がけて大剣を振り下ろした。

 質量に任せた自由落下の勢いを利用したその一撃は地面を容易く割砕き、飛び掛かろうとしてきた緑天邪鬼の集団を衝撃で吹き飛ばす。

 

 

『な、なんだべ!』

『親方ァ!空からおなごが!』

『ひ、怯むでねぇ!突っ込め!』

 

 

 運よく吹き飛ばされなかった者達にリーダーらしき者が再度突撃の命令を下す。

 今度は槍を横三列に構え正面から迫る事で逃げ場を極力なくした突撃。

 

 

 風目がけて迷いのない突進が繰り出される。だが、その速度は普段相手にしている星屑たちの動きに比べればまだノロい。

 彼女がそれに遅れを取るはずも無く。

 

 

「どっせぇえええええい!!!」

 

 両の手でにぎった体験を突っ込んでくる槍兵に向けて薙ぐようにして振り回す。

 まるで巨大な団扇で煽られたかのように、尋常ではない突風が吹き荒れると突っ込んでくる緑天邪鬼を吹き飛ばして、近くの樹木の壁に叩きつけた。

 

 

『ひ、ひぇえええ……ご、ゴリラ!』

 

 恐怖に染まった表情で緑天邪鬼が震えながら呟く、それに続く様に他の天邪鬼たちからも、

 

『ご、ゴリラだべや!』

『あのパワーはゴリラ!』

『ゴリラ!』

『ゴリラ!』

『ゴリラ!』

『ゴ・リ・ラッ ゴリラゴリラッ!』

 

 

 突如として湧き上がるゴリラコール。

 風はまだ十代の花の乙女、腕力の化身であるゴリラに例えられるのは我慢がならない。

 

 

『気をつけろ!クソ投げつけてくるぞ!』

 

 

「だ・れ・が・するかァァァァァ!!!」

 

 一喝するように風が叫ぶ。それだけでも緑天邪鬼たちは怯み、中には尻込みするものまでいた。

 どれくらい弱腰なのか。あまりの手ごたえの無さに拍子抜けした風である。

 

 

 しかし、油断をしている風の頬を掠めるように何かが通り抜けた。

 それは一瞬の出来事で、風の頬に小さく”傷を残し”、振り返れば壁に突き刺さっている”何かがある”。

 

 

 風が目を見開いて口にしたその物体は、

 

「――弓矢っ!?」

 

 視線を前方へ向けた風。だがその時既に敵の戦法は確立されていた。

 

 

 接近戦では圧倒的に分が悪いと踏んだ天邪鬼たちは遠距離戦へと切り替えたのである。

 

『射ぬくべー!』

 

 緑天邪鬼の一匹が合図を送ると同時、弓を構えた者達が矢を射かける。

 丘の上から放たれた矢は真っ直ぐに風へと飛んで行った。

 

「ちィ!」

 

 即座に大剣で自身の身体を覆い隠すように翳す。

 その質量から盾の役割を果たした大剣は、降りかかる矢を悉く弾き返した。

 

 

『怯むんじゃねぇ! もっと射かけるだー!』

『よこ!横からも射かけるべ!』

 

 

 大剣を構えた風の正面の防御は強固だ、と悟った天邪鬼たちの対応は意外にも早かった。

 三体程の緑天邪鬼が大剣の死角である右側面に一列に展開し、矢を放ってくる。

 

 

「なっ!こいつら……意外とセコイ!」

 

 

 流石に真横は無防備だ。

 正面と真横の矢に対応するべく、風は大剣の角度を変え斜めに構える事で凌ごうとしたのだが、それには限度がある。

 

 

「―――っ!!」

 

 

 斜めに角度を変えた分、正面の防御に隙間が生じ、その隙間を縫った矢が風の左大腿部を掠める。

 

 

 だが、今度は頬を小さく切った時とは違い矢が深く皮膚を裂いた為か鋭い痛みとともに赤い液体が伝うように流れた。

 

 

 

「バリアが機能していない…精霊が端末から離れてるから!?」

 

 

 

 もし通常通り犬神が戦いのサポートをしてくれていたならば、風の周りを精霊のバリアが包んで矢など簡単に弾き飛ばしてくれただろう。

 

 

 だが、近くに居る犬神がバリアを展開して護ってくれないという事は、完全に風の……勇者システムの管理から外れている。

 異常事態に風が苦悶の表情を露わにした。

 

 

「くそっ!このままじゃ……!!」

 

 

 動いて反撃しようにも、今まで自分を護ってくれいた安全の象徴であるバリアが無くては無理に動くことは出来ない。

 

 

 じっとしていれば攻撃は止むわけではない。正面と側面からの矢は激しさを増していくとともに、

 風の身体を掠める程度であっても勇者服を赤く滲ませる生傷が増えていく。 

 

 

 それでも、風は逃げてはいけない。

 

 

 犬神のため、

 樹のため、

 勇者部部長として、

 

 その部員たちをこの人外離れした戦いに巻き込んだ責任を風は人知れず抱え込んでいた。

 最愛の妹すらも巻き込んだ事に負い目を感じ、皆の日常を変えてしまった張本人が先にくたばるわけにはいかないのである。

 

 

 風は思う。まだ、死ぬわけにはいかないと。

 

 

 

 

 

 

「突撃ィィィイ!!」

 

 

 

 その想いに応えた者がいた。

 それは風の頭上を飛び越え、矢の雨を超え、風から見て正面の弓兵がいる集団のど真ん中に着地したのは双剣を構えた赤の勇者。

 

 

「せぇぇえええいッッ!!」

 

 

 三好夏凛が叫び、その手に持つ二つの刀を自身ごと円を描く様に振り回す。

 力任せに、独楽のように回転した夏凛の二振りは旋風と衝撃を引き起こし、その場にいた5,6の緑天邪鬼を空へと吹き飛ばす。

 

 

 

 

『お、親方ァ!また空からオナゴがァ!』

 

 

 風を側面から射かけていた緑天邪鬼が叫ぶが、そのすぐ真横で―――、

 

 

「勇者ぁ……!!」

 

 一列に横に並んでいる天邪鬼の真横、桜色の少女が拳を構えてタメを作っていた。

 結城友奈は流れる動作で足を踏み出し、腰を切り、肩、肘、腕へと力を伝えて最大にして最速の正拳突きを放つ。

 

 

「パァァァアンチ!!」

 

 

 次の瞬間、ボウリングのピンがストライクを決めたのをド派手にした感じで天邪鬼たちが吹っ飛んだ。 

 

「お姉ちゃん!大丈夫!?」

 

 遠くで樹のワイヤーが伸び、逃げ惑う天邪鬼たちを絡め捕り、捕縛していく。

 本来であれば絡め取ってからは樹が手繰り寄せるだけで敵を切断する威力をもつワイヤーが天邪鬼たちを切断せずに捕縛しているという事は、それなりにワイヤーの強度を弱め、調整しているのだろう。

 

 

「風先輩、私達が押さえます!今のうちに犬神を!」

『ギョエー!』

 

 背後から跳びかかってきた緑天邪鬼が槍を振りあげて友奈へと振り下ろす。

 

 

 

 だが、天邪鬼が持つ槍は破砕音を奏でて砕け散っていた。

 一発の青い光弾が細い槍の柄の部分を撃ち抜いていたからである。

 

 

「東郷さーん、ありがとー!」

 

 遠く、友奈と風からでも視認するには困難となる程の距離を空けた方向に友奈は感謝を示すように手を振った。

 この正確無比な狙撃を行えるのは勇者部には東郷しかない。恐らく、だが地面に伏せてスナイパーライフルで援護していたのだろう。

 

 

 それでも動く標的を数キロ先から、しかも武器だけ撃ち抜くとかゴルゴかお前は。

 

 そう思わずにはいられない風であった。

 

 

 

「さっさと退きなさい!今のアンタじゃ足手まといなんだから!」

 

 夏凛の尖った口調で言われると心寛大な風でも少しばかりイラつく。

 だが彼女の言う事はもっともだ。精霊バリアが機能せず、手傷を負っているとなれば今の自分の状況は足手まといと判断されても仕方ないか。

 

 

「……分かったわよ、犬神―――」

 

 内に湧き上がる負の感情を押しとどめ、風にとっての目標である犬神を見る。

 この喧騒の中、微動だにせずふわふわと浮かぶ姿に疑問を抱くが、無事であることには変わりない。

 

 

 帰ろう、一緒に。

 

 

 優しく微笑みかけるように、

 風が歩を刻み、眼前へと近づいてその青い毛に触れようとした、

 

 

 

 

 

 

 その時であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『グゥッ オォォゥッ…!!』

 

 

 

 風は耳を疑った。

 これまで言葉を発することが無かった犬神から言葉が発せられたのである。

 

 

 

 それは腹の底から、重く引きずるように発せられたその声はまさしく”獣の声”で。

 

 

「い、犬神……?」

 

 その豹変した姿を見た風が言葉を漏らし、思わず数歩後ずさった。

 素人の風でも察知した明確な危険という言葉と、目の前の犬神の異常さ。

 

 

 次第にそれは声だけでなく姿にも変化が表れ始めた。

 

『グォォォ……! ニ、ンゲ、ン…ニンゲン!!』

 

 碧く美しい毛並は荒く逆立ち始め、

 骨格が継ぎ足されていくように犬神の身体が膨張していく。

 

 

 

 風船のように膨張するのとは違い、膨らんだ犬神の腕や足に肉がポンプのように送り込まれ、胴体との比率を合わせるようにその肉体は肥大と縮小を繰り返していく。

 

 

「なに、よ……これ……」

 

 

 目を見開いた風の視界に捉えた犬神は、もはや彼女が知る”犬神”の容姿とは大きくかけ離れた姿となっていた。

 

 

 四足歩行となった足から伸びる爪は30~40センチをゆうに超えている。

 それが樹海の土を踏めば、何も動作を行わずとも沈み込む事からその尋常ではない自重を窺わせた。

 

 

『グルルル……!!』

 

 

 獲物を求めるかのような唸り声を発し、精霊の時には見る影も無かった鋭く生えている牙からは粘液性の高い唾液を伝い、怪しく輝いている。

 

 

 

 

 

 勇者部の誰もが信じられなかった。今目の前に居る獣があの犬神などだと。

 

 

 

『バオオオオオッッッ!!』

 

 

 荒々しい犬神の叫びが大地が割れんばかりに樹海内に響いた。

 

 それはそこにいた勇者だけでなく、敵である天邪鬼たちも動きを止めるほどの強烈な叫び。

 

 

「い、犬神…どうしたのよ、大丈夫なの……」

 

 ただ一人、風だけが禍々しい姿と化した犬神に近づいて、声を掛けている。

 だが、それは単に現実を受け入れ切れていない故の逃避行動だと誰が気付けようか。

 

 

 

「馬鹿ッ! 不用意に近づくなッ!!」

 

 

 まるで幽霊に魅せられ、吸い込まれるように犬神へと近づく風を視認した夏凛が声を飛ばすが既に遅かった。

 

 

『ルオォッ!!』

 

 

 犬神が駆ける。爪と剛直とも呼べる足で大地を蹴り、加速したその姿は一旦消えると瞬時に風の眼前へと姿を現す。

 

 まるで旬化移動したかのようなスピードにせまる犬神に風は指ひとつ動かせないでいた。

 

 

「……あ」

 

 

 何もかも遅かったのだと、風は思う。

 犬神は既にその鋭い爪が生えている腕を振りあげては風の頭部目がけて振り下ろしていたのだ。

 

 

 誰がどう見ても助からないタイミング。

 

 

 周りにいる勇者部の声すらまともに言葉へと形にならない程の一瞬の出来事。

 

 

 生を確実に死へと変える獣の爪が風を切り裂かんと眼前へ迫る、その最中で。

 

 

 

 風が意を決して目を閉じた、その瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 風は不意に自身の身体が浮いたのを感じた。

 

「……え?」

 

 目を閉じていたからか、謎の浮遊感のあとに耳にした地を穿つような轟音に思わずそんな言葉を口から漏らす。

 

 

 漸く瞳を開いて視野を明瞭にすれば、今の自分の現状が遅れながらも理解できた。

 

 

 既に風の身体は犬神から数メートルほど距離を開いていた。

 風が元いた場所には犬神の爪を覆い隠す程に地面へと突き刺さっており、まともにその爪を受けていたら間違いなく命は絶たれていただろう。

 

 

『ふぃー!危ねェ危ねェ、ちょっとでも駆けつけるのが遅れてたらよォ―――、オイラ達諸共ナマス切りされてたところだったぜェ!』

 

 耳元で聞こえるその声の主は玉虫のように小さく、風の肩に乗って飛び跳ねていた。

 そして風は自身の首元、襟の部分が何か強い力によって持ち上げられていることに気付く。

 

 

 少し風が振り返れば、白い毛並がすぐに映った。

 それが風の命を繋いだものだと悟った風はその者達の名を口にする。

 

「イッスン……! アマテラス……!」

 

アマテラスはゆっくりと風の身体を労わる様に地面へ置くとすぐに視線を犬神へと向け、低い姿勢で呻り始めた。

 

 

『ガウゥ……ッ!!』

 

 鼻息を荒く、犬歯をむき出しにするアマテラスは完全に臨戦態勢であった。

 だが、そのアマテラスの姿を見て風はある事に気付くのである。

 

「アマテラス……あんた、その姿…」

 

 風にとって、樹海に入る前のアマテラスの姿はどこかとぼけたような、"ただの白い犬"であった。それは記憶違いを起していなければ、確かな事実である。

 

 だが今のアマテラスの姿は違う。

 

 

 白い毛並は日の光を放つように輝き、その顔から身体に”紅い隈取り”が走り、

 背には鏡を模った円盤がゆらゆらと浮いている。

 

 

 ただの犬ではなく神――、アマテラス大神としての姿を風はその目に捉えていた。

 

 

『へっ……!なんでェ、アマ公も俄然ヤル気になってんじゃねェかァ!』

 

 猛き吐息をリズムよく吐くアマテラスの様子を見て血が騒いだか、イッスンも景気良い声とともにアマテラスの頭部に飛び乗った。

 

 

 

『グォオオオ……二、ニンゲ、ン…!!』

 

 

 忌々しく吐き捨てるように犬神が地面へと突き刺していた腕を引き抜く。

 地面がボコッ、と割れては抜け出たその手からぱらぱらと砂が零れ落ちた。

 

 

 そして犬神の鋭い眼は前方の風へと向けられる。風の姿を捉えては、

 再度低い唸り声を発してアマテラスとは比較にならない程の凶悪さを秘めた犬歯をむき出しにしてきた。

 

 

『血気が盛んなのはお互いサマかよォ―――、しかしこの犬神……なんか様子がオカシイと思ったら”そういう事”かィ』

 

 

 イッスンは特に怖気づいたような様子も無く、今にも飛び掛かってきそうな犬神の姿を見る。

 

 

 犬神の身体全体から、”どす黒く得体の知れない瘴気”が滲み出るのをイッスンは確かに目に捉えたのだ。

 

 滲み出る黒い瘴気は犬神とは”別の犬のような姿”を形取った後で、再び犬神の中へと戻っていく。

 

「あれは一体.....」

 

 それは風にも確かに見えていて、余りの不可思議な出来事に訳が分からず立ち尽くしていると、

 

『怨念さ』

 

 

 イッスンが一言そう呟いた。

 

 

『溜めに溜め込んだ怨念よォ…人に対する恨み辛み、極めて強い怨念に操られてるみてーだなァ』

 

「お、怨念? なんで犬神がそんなものに……」

 

 事実を告げられても、そこ至る理由が解らない風。

 

 

 知らないのかィ? とイッスンが風へと視線を向ける。

 

 

『犬神ってのは名前からして”犬の神様”って思っちまうかもしれねェが、それはとんだ誤解なんだぜェ……そもそも犬神ってのはァ――――』

 

 慣れた口調でイッスンは語りだすのである。風は黙ってその語りを聞くことにした。

 

 

 

 

 

 

 

―――――犬神。

 

 その由来はかつての時代に生まれた憑依現象、蟲術、呪詛を用いたれっきとした”呪術”である。

 

 特定の動物を使役するこの呪術は非常に人々に恐れられ、禁止令まで発行されたこともあるのだという。

 

 

 犬神の作り方には手順がある。それは諸説あるのでここで挙げるのはその一例だ。

 

 

 まずは犬を用意する。

 

 

 

 

 次にその犬を"頭部のみ出して生き埋めにし"、もしくは支柱に繋ぎ、ギリギリ届かない距離に餌を置き、数日ほど絶食状態にさせるのだという。

 

 

 そして飢餓状態の犬が餓死しようとした時にその頸――、つまり首を斬ると頭部は餌へ食いつき、これを焼いて骨とし、器に入れて祀った。この祀った骨を人々は犬神と呼んだのである。

 

 

 これを祀った者は永久に犬神に憑かれ、その家は栄え、祀った者の願望を成就させるとさえ言われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

『ようは人間の欲望の為に無残にぶった切られていった無実の犬の怨念が原因なのさァ』

 

「そんな……私はそんな事なんて一度も…」

 

 伝承を知らなかったとはいえ、風には犬を存外に扱った覚えはない。

 だが確かに目の前にいる犬神が口にしているのは、

 

 

 

『オマエ…モ、オレ、ヲ……キル、ノ…カ……オレ、ノ、クビヲッッ!』

 

 

 人に対する疑心と怨念を宿した言葉。

 となればイッスンの言う通り、犬神の異常の原因が人間の勝手な都合であるならば間違いではないのかもしれない。

 

 

 風は犬神から視線を逸らさず、警戒を怠らないままイッスンに訊くのである。

 

 

「イッスン……犬神を元に戻す方法はあるの?」

 

 犬神を助ける方法を。

 対してイッスンは、そうだな、と呟いた後で、

 

『へッ…あれくらいの怨念なんざァちょっと小突くだけで充分よォ!』

 

 

あっけらかんに言い放つ。

要はナカツクニ式、解決策"ぶん殴ってなんとかする"である。

 

 

『妖怪相手ならオイラ達の出番だぜェ、アマ公!』

 

アマテラスに呼びかけたイッスンが後方で音がしたのを聞き、振り返る。

 盛大な戦闘による音を奏でるのは二人の少女。

 

 

「アマちゃん! イッスンちゃん! 私たちも応援に行きたいけど、あの子達、さっきから逃げてばっかりなの!」

「樹海化の時間を徹底的に引き伸ばして現実世界にダメージを与える気だわ。以外に戦略的な奴らね...」

 

 

 蜘蛛の子を散らすようにひたすら逃げる天邪鬼達を友奈と花凛は手を焼いていたのであった。

 樹も捕縛している天邪鬼を見張らなければならないのか、その場を動けないでいる。

 

 

 ちなみに天邪鬼達にはそんな考えなど毛頭無く、ひたすら生きるために必死に走り回ってるだけである。

 しかし、このまま樹海の時間が長引けば風達の勇者側にとって不都合な事になるのは確かだ。

 

 

『アマ公聞いたかァ、どうやらオイラ達でなんとかしなきゃならねェみたいだぜェ......!

三年経って妖怪とドンパチするのも久々かもしんねェが、油断して100年前みたいにおっ死んだりするんじゃねェぞ!』

 

 

 

『ガゥァッ!』

 

『バァァァァアッ!!』

 

 アマテラスが睨み付けるように吠えると犬神もその巨体で圧を掛けるように、眼下のアマテラス達を押しつぶさんと怒気を込めて吠え返した。

 

 

 互いに視線を離さず、

 一定の距離と間隔を保ち、乱れの無い半円を描き続ける。

 ゆったりとした動作ではあるがいつでも早駆けによる最速の一撃を見舞わんと爪を土に食い込ませていた。

 今か、今かと機を窺っているのである。

 

 

 睨み合っていた獣たちは突如として足を止めて――――、

 

 

 

 

『行くぜェ……大神サマの初陣だィ!』

 

 

 不敵に笑ったイッスンが言葉を言い終えるのと、

 二匹の人ならざる者が飛び掛かるのは同時だった。

 

 




ストーリー要約
・犬神、乱心(犬の怨念に操られている)
・風先輩、精霊バリアがないのでガチでピンチ。
・天邪鬼、これから黄色い少女を見たらゴリラと思うようになる。
・大神と犬神のバトル(中ボス戦だと思ってくれれば…大神のゲーム風に初登場する敵キャラは妖怪絵巻とともに紹介される感じの映像を想像してください)






犬神:生まれは平安時代。犬の首斬り落として祀ったら家が栄えるらしいけど、自分のペットに試したら駄目だよ。犬神に憑かれた人は犬神憑きって言われるらしいよ(ついでに盛大にめんどくさい特典が付いてくる)
   数々の伝承によれば、犬神を祀った家は栄えるけど、貢物をちゃんとしないと犬神が居なくなってその家は没落していくらしいよ。
  

  そして奇妙なことに、犬神の伝承の本場は四国の高知県にあるらしい……。


  つまり弥勒家が没落した原因は犬神に捧げる貢物を倹約の為に怠っていた為に起きた説。弥勒さんは犬神憑きだった?


 犬神暴走の真相は次回にて簡単に説明するつもりです。
 欲望にまみれたグリードなので、感想や意見はいつでもお待ちしています。
 あと、簡単ですがアンケートにも答えてもらえると助かります。

アマテラスの家庭訪問。誰の家にいく?

  • 結城さん家
  • 東郷さん家
  • 犬吠埼さん家
  • 三好さん家の花凛
  • 乃木さん家(病院)
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