結城友奈は勇者である~勇者と大神と妖怪絵巻~   作:バロックス(駄犬

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日曜日に投稿すると言っておきながら、感想もたくさんもらっておきながら約束を果たせないだらしない作者で済まない……。

 決してベストマッチしなかったからという訳ではない。


気合入れて書いてたらまた一万文字いきやがったんだ。どうにかしてくれェ。





仮面ライダービルドのOP見てて思ったんだけど、
冒頭のナレーション、東郷さんがやっても違和感ないような気がするのは私だけ?


其ノ四、犬神事変終局

「さて、と……戻ったら大変ねコレは」

 

 騒動が落ち着いた樹海内で風は頭を掻きながらそう呟く。

 

 現在は闘いが終わり、勇者達は樹海が解けるまでの束の間の休息最中だ。

 その中で眉をひそめた風が見つめるのは、目の前に広がる樹海の景色である。

 

 

 犬神との戦闘が激しく、長引いた事によって生まれた樹海の受けた傷は生々しく残っていた。

 神樹の結界、”樹海化”は完璧なものではない。

 

 

 現実世界を丸ごと入れ替えるように展開されるこの世界は、いわば鏡の世界だ。

 この世界で生まれた傷は、やがて樹海化が解けると同時に現実世界のダメージとして影響する。

 

 

 しかも時間制限によるダメージもあるため、バーテックスは迅速に殲滅することが勇者達には求められていたのだ。

 

 

 しかしバーテックス以外の敵も現れ、戦闘終了に時間が掛かってしまった。

 予想外の事が重なってしまった故だが、それは言い訳にならない。

 

 

 

 これまでの被害で怪我人は出なかったが、

 今回はあまりにも樹海内の損傷が多い。

 もしかしたら自分の友や、知り合いがそれに巻き込まれるかもしれない。そう考えると風は悔しさから下唇を噛んでいた。

 

 

『そういう事ならよォ、オイラの出番だぜェ!!』

 

 重苦しい雰囲気を切り裂く様に快活な声が響く。それはイッスンの物だ。

 

『ようはこの傷ついた樹木をどうにかして直せばいいってことだよなァ!』

 

 言いつつ、イッスンは樹海の樹を見据えた。

 その樹木には先までの犬神との戦闘で受けた深い深い爪痕が残っている。

 

 樹海のダメージとしては軽度なものである裂創に対し、イッスンは懐から筆を取り出した。

 

 

「……なにしてんの?」

 

 その様子を怪訝そうに風が見る。イッスンは不敵に笑い、

 

『これくらいの傷なんてオイラの”画龍”にかかればお茶の子さいさいよォ!』

 

 その手に持つ筆が墨による線を描く。

 樹木を抉った爪による切創を墨で浸して埋めるかのように、

 正確に、豪快に塗り潰す。

 

 

 ”筆魂”と呼ばれるものがある。

 ”活きのイイ手書きには魂が宿る”というイッスンが聞いた出所は分からないが有名な言葉だ。

 

 

 イッスンはアマテラスの持つ筆しらべの一つを修業により習得しているものがある。それが”画龍”だ。

 

 

 

 筆しらべ、”画龍”の力は、”失われた物の復活”である。

 一たび筆を走らせれば人的に、自然的に破壊された物には”蘇神”の力が宿り、

 物が壊れる前の姿へと戻るのである。

 

  

 かつては旅の途中に壊れた橋を、   

 圧し折れた物干し竿を、

 回らなくなった水車を直してきたこの筆しらべにはかなり世話になった。

 

 

 破壊された石像を”画龍”で直した事で封印されていた筆神を見つけたこともあったのを、イッスンは思い出しては懐かしんだ。

 

 

 そんな事を想いながらイッスンは筆を止める。

 満たされた墨が弾け、その下には真っ新で傷つく前の樹木がその姿を現す――――筈だった。

 

 

『アッレェ~おかしいなァ?』

 

 その光景を目にするイッスンの首が傾げられる。

 目の前には今もなお傷つき、深い切創を残す樹木が残っている。

 

 

 画龍の力が発動していなかったのか?

 そう思い繰り返して筆を走らせるが、何度やっても樹木の傷はもとには戻らない。

 

 

 試しに自身の服の袖を無理やり引きちぎってみる。

 そこにイッスンが筆を走らせれば、千切れた部分は蘇神の力が働き、千切れる前の状態に戻った。

 

 

『力が使えなくなってる……ってワケじゃあなさそうだなァ』

 

 

 自身から筆しらべの力が失せた、ではないとすれば考えられるのはただ一つ。イッスンの力が足りないのだろう。

 人が作った物程度ならイッスンの力でも事足りる。

 

 

 だが、この世界は”神である神樹”が作り出したのだ。

 そこに存在する全ての樹木には神の力が宿っている。

 

 

 イッスンの筆しらべの力は発動はしても、神樹の通力によって掻き消されていくのだ。

 

 

 神が作りし物、空に輝く星など、人の手に及ばない超常の事象に未だに手が届かない事を実感したイッスンはギリッと歯軋りをして悔しさを露わにした。

 イッスンは筆をしまうと風に対して申し訳なさそうに頭を下げる。

 

 

『すまねぇ嬢ちゃん、オイラの力じゃどうにも……デカい口叩いた癖に、面目ねェ!』

「……気にしなくていいのよ。もともと自分で捲いた種なんだしさ」

 

 砕けた笑みを向ける風がイッスンの身体を持ち上げる。

 

「最悪、始末書なり左遷なり、なんなりされてやるわよ」

「そ、そんな!勇者部の部長は風先輩しかいないんですから…!他の人なんて考えられません!」

「ま、人類を守護する勇者をそう簡単に交換したりなんて、大赦も出来ないと思うけどね……」

 

 

 勇者部の部長は風しかいない、

 友奈だけでなく、最近入部した夏凛もそれが解っているようである。

 

 

 そこまで思われる個人はそうそういないだろう。

 イッスンは風に、人望の厚さを感じた。

 

 

『ち、ちくしょう……歯痒いぜぇ。おいアマ公! お前も寝てなんかいねぇでなんか考えやがれってんだ!』

『アウ?』

 

 自身が何もできない、その憤りをアマテラスにぶつけるように視線を送る。

 恍けたような声で反応を見せたアマテラスが何をしてたかといえば―――、

 

 

『ゲ、ゲドウメー』

 

 

 夏凛の精霊、義輝を口に咥えていたのだった。

 

 

「うわぁ!ちょっと何やってんのよぉ! この腐れ犬畜生ぉ!」

 

 

 そう叫びながら口から義輝を引き剥がしにかかる夏凛を見て、

 勇者達はまるで部室で牛鬼が義輝を捕食していた一連のやり取りを思い出したのだった。

 

 

『こういう所もまったく変わらねェ奴だよな、ハァ……』

 

 和むようなその光景を見たイッスンが呆れたように肩を落とす。

 空を見上げては、漆黒の空に散りばめられた星が輝いている。

 

 

『……ホレ見ろィ、お星さまもオイラ達を見て笑っているみてェじゃねぇかァ』

「星……?」

 

 

 イッスンのぽつりと呟かれたその言葉に夏凛が首を傾げる。

 

『ん、どうしたィ煮干し娘』

「誰が煮干し娘よ……いや、そういう問題じゃなくって―――、樹海の空に星なんてあったかしら……?」

 

 そういえば、と風が同じく空を見上げる。

 

「いつも真っ暗だったからよく分かんなかったけど、ほんとね、私も初めて見た気がするわ」

 

 碧く、薄く輝く星は5~6個程のものであった。

 

『星を……初めて見た?』

 

 

 いつもは真っ暗でこの場所に星自体が現れることが普通ではないという事に気付き、イッスンが違和感を覚える。

 これは、どこかで見たような既視感だと脳に告げる何かがある。

 

 

 なんだっけかな、

 と腕を組んで唸る一方で、純粋に星を眺めてはしゃいでいた友奈が呟く。

 

「綺麗だねー、あの星と星を繋げると……なんか一つの”星座”になりそうな―――」

『……!!』

「でもおかしいなー、星座になるにはもう一個くらい、星がたりないみたい……せめてあと一個くらい”星が増える”みたいな事が起きれば―――」

 

 その一言にイッスンの既視感が確信のものと変わった。

 彼は隣で寝ようとしていたアマテラスを叩き起し、

 

『アマ公! 空だ! 空に浮かんでる星を見やがれェ!』

『アウ…?』

『いいから、黙って見ろォ! そんでもって、”お前の思った通りの事をやってみなァ!”』

 

 

 今に始まったことではないそのやり取りを前にして、アマテラスは言わるがままに夜空を見上げる。

 

 

 星が浮かぶ、綺麗な空だ。

 そう思いながらも、心の中で何かを感じ取って小さく唸る。

 

 

――――”なにか足りない気がする”。

 

 何かに引き寄せられるように、魅入られたように空に輝く並んだ星を見てそんな事を思ったか、

 アマテラスは続けて心の中で続けるのである。

 

 

 

――――”ここらへんに、もう一個星があったらいいのになぁ”。

 

 

 

 夜空に並んだ星の最端部分に、小さくぽつんと星を付け足すように”思い描く”。

 その瞬間―――、

 

 

 

 

 星が一つ、文字通り”現れて”、一本の星の線によって結ばれたその星座から眩い光が放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え、ちょっ!なにこれ!!」

 

 

 樹海は常に星の無い、気味の悪い夜だ、その常識にとらわれていた夏凛が驚愕の声を上げる。

 視界は白く、雲を浮かばせながら明るくなっていく光景が彼女たちの目に飛び込んできたのだ。

 

 

 浮かぶ雲の隙間を縫うようにして、”何か”がその姿を現す。

 それは大きく、長く、鰐のような頭をしていた。

 

 

 勇者部たちが凝視する姿はまるで”龍”のよう。

 というか、龍だった。

 

 

 唸るようにしてその姿の全貌を露わにする。

 白い髭、二本の角、絵本でよく見たことがある腕、

 そして、その龍は何故か腹の部分から絵巻きをぶら下げていた。

 

 

「な、なによコイツ……まさか、バーテックス!?」

 

 

 得体の知れない存在、龍の出現に夏凛を始め、勇者達が身構える。

 それを遮る様に、イッスンが前に出たのだ。

 

 

『敵じゃねェ! アレがアマ公の持つ筆しらべが一つ、散り散りになった姿……”筆神サマ”だァ!』

「アレが……筆神?」

 

 

 美森が呆気にとられている間に、白い龍はその長い胴体をくねらせ、アマテラスと勇者達を取り囲むようにその身体を地面に下した。

 白い龍はアマテラスを見つめて―――、

 

 

 

『おお……我が慈母アマテラス大神―――』

 

 

「しゃべったっ!?」

 

 

 くぐもった声を発する龍に口をあんぐり開けた友奈を余所に、龍は続ける。

 

 

『御元がこの世を去られてから幾星霜時代経て久しくなりにけるかも――、

この蘇神ひと時も欠くことなく今日の日を待ち申しけり』

 

 

 

「な、なんか難しい言葉喋ってるよぉ、お姉ちゃん……」

「樹、勉強だと思って聞きなさい」

 

 

 

 

『御許の御隠れの際に転び出でし十三の筆神は――――、この広い塵芥に惑い、散り散りになりけり。我は天の星座となりて生きながらえらるを―――

今一度御許に使わせ失せ物の蘇るを見継がせ給え!この力あらば傷つき神の樹木、忽ち”画龍”の力であるべき姿へと正さん』

 

 

 

 白い龍、蘇神と名乗ったその龍は姿を『蘇』の文字へと変えて、佇んでいるアマテラスの元へ。

 吸い込まれるようにその文字は光弾けるようにしてアマテラスの身体の中へと取り込まれていった。

 

 

 

 

 

『き、来たぜアマ公!お前の筆しらべが一つ、”画龍”がお前の所に戻ったァ!』

 

 

 まるで自分の事のように喜ぶイッスンが辺りを飛び跳ねて、最終的にはアマテラスの頭部に着地する。

 

 

『画龍の力は”そこには無い筈のものを存在させる力”……お前の力を今見せる時だぜェ!……お前の力ならこの神樹が作った結界の物なんてよ、ワケねぇだろィ?』

『ワウッ』

 

 

 アマテラスがその言葉に応えるように一吠えすると、樹木を深く抉った爪の裂創を見つめる。

 イッスンの力では何度繰り返してもできなかった傷跡を見つめアマテラスは意識を集中させた。

 

 

 

 アマテラスの瞳に広がる世界を絵と見立て、

 自身の神通力を、蘇神の力を注ぎ込む。

 

 

 絵画に筆を走らせるように、

 かつて空に太陽を描いた時のように、

 犬神によってつけられた裂創を墨で満たすように。

 

 

 するとどうだろうか、墨が弾けるように消し飛ぶと、その下から姿を覗かせたのは傷つく前の樹木の表面であった。

 まるで、そこには傷などなかったかのように樹木の表面が蘇ったのである。

 

 

「すごい……! 幻なんかじゃないわ、ちゃんと元の傷つく前の樹に戻っている!」

 

 自分の見ている光景が幻なのではないかと疑った風が樹木を触り、その感触を確かめていた。

 イッスンは自身の鼻を摩り、

 

『どうだィ! これなら元の世界には影響はでねぇはずだろ?』

「そうね、実際に現実の世界に戻って見ないと分からないけど、これで本当に解決できるのなら……イッスン、アマテラス!」

 

『な、なんでぃ……どうしたんだィお嬢ちゃ―――』

 

 

 言葉を詰まらせたイッスンとアマテラスが突如として柔らかい感触をその顔面に受けた。

 顔を見上げてその正体を探れば、風がイッスンとアマテラスを抱きしめていたのだ。

 

「ありがとう、ありがとう……!」

 

 目尻に涙を浮かばせて感謝の言葉を述べる風。

 勇者部、勇者のリーダーである彼女にとって、今回の不始末は自身が直接起こした事でないにしても、樹海が損害による現実世界へ与える影響に一番責任を感じていたのかもしれない。

 

 

『♪~♪』

『お、おっふ……な、なんというボ、ボイン……!』

 

 安堵の笑みを浮かべている風とは真逆に、イッスンは全身を包む女性特有の柔らかな二つの山脈の感触を堪能していた。

 勇者服越しに感じる彼女の胸部にはとても中学生女子のものとは思えない程の母性が詰まっており、その姿には彼のいたナカツクニのサクヤ姫にも劣らない。

 

 

 風は素直に感謝の意味のハグなのは確かだが、”男”として生まれてしまったイッスンはその性故に頭が焼けるような煩悩を叩きこまれる。

 

 

 煩悩を振り払え、と自身に言い聞かせたイッスンは彼を包む谷間から抜け出すと、風に顔を見られないように玉虫の笠を目深に被って、

 

 

『さ、さぁアマ公! まだまだ仕事は残ってんぜぇ、この世界が元の世界に戻る前にありったけの傷ついた樹木をお前さんの画龍で直してやるんだァ!』

『アウッ』

 

 もうしばらく、その女性特有の柔らかさに包まれ堪能していたいと駄々をこねようと思ったアマテラス。

 だが、相棒が我慢しているのであれば致し方ない、と名残惜しそうに風の胸元から抜け出す。

 

 

 

「……このエロ絵師」

 

 

 だが近くにいた夏凛には赤くなる顔とアマテラスを急かす理由を隠し通せなかったか、イッスンの背に小さくぼそっと侮蔑の言葉を浴びせられる。

 

 

『ぐっ…ぐおぉお! アマ公走れェ! 走れェ走れ走れェ!さっさと仕事始めねェかこの毛むくじゃらァ!』

 

 

 機関車が蒸気を吹かせるように頭から湯気を飛ばしたイッスンがアマテラスの頭をばしばしと叩く。

 意外にも力を込められていたのか、それに驚いたアマテラスは一目散に樹海の方へと駆け出していく。

 

 

 

『ワオォウッ!』

 

 

 

 理不尽な。

 

 そう思わせるようなアマテラスの短い吠えが、樹海に響くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――???

 

 

『それで……? お前たちは見事に失敗しました、と?』

 

 

 暗く、じめっとした洞窟の中にすすり泣くような声が聞こえる。

 地面に這いつくばる様にその身を伏せているのは緑天邪鬼たち。

 

 

 犬神を”捕獲”する為に、勇者とも戦う羽目になったあの天邪鬼たちだった。

 

 

『あ、あんなツエーおなごが出てくるなんてオラ達聞いてねェだ!』

『そ、そうだべ! 犬っころ捕まえてくる簡単な仕事だって言うから若い衆連れて行ったのに!』

『皆ぶっ飛ばされて怪我して帰ってきたでねぇか!明日からの仕事どうするべ!』

『もうゴリラの相手は御免だで!』

『ああ!ゴリラは無理だ!』

『ゴリラ!ゴリラ!ゴリラ!』

 

 

 頭を下げるようにしていた天邪鬼たちは今回の頼まれごとに対して不平不満を目の前に佇む者にぶつけていたのだ。

 

 

 

―――稼ぎが少なくて困っているようだな。いい仕事がある、なに、犬一匹を捕まえてくればいいだけの話だ。

 抵抗される可能性があるから、最低限の武器はこちらで用意してやる。

 

 

 そう言われた異形の存在の用件を天邪鬼たちは飲んだ。いや、飲まざるを得なかったのである。

 彼ら低級妖怪である天邪鬼たちは小さな集落で暮らしている。

 

 

 人間たちには住処を追いやられ、ひっそりと暮らしてきた彼らにとって食料の調達は不可欠な物だ。

 だが、過疎化の一途をたどる集落には若い天邪鬼よりも年老いた彼らのような天邪鬼が多い。自然と働き手は減り、老人たちが自身に鞭を打っていく。

 

 

 結果的に集落は維持できているものの、その全てを賄う為に必要な食料は確保できずにいたのだ。

 目の前の者はその苦労を少しばかり楽にしてやるという条件で今回の用件を頼んできた。

 

 

 

 しかし、実際にその用件の蓋を開けてみれば、犬は犬でも怨念を纏った凶暴な犬神。

 そして武装した集団であってもそれを遥かに凌駕する勇者達と謎の犬の存在が全力で邪魔をしてきた。

 

 

 邪魔をするという表現ではなく、下手をすればこちらの命の危機さえ感じていたほどである。

 命は助かったものの、働き手である老体と若い天邪鬼が怪我をしてしまうという結果になってしまった。

 

 

 それは同時に彼らの稼ぎ、つまり食料が安定して確保できなくなるという事態に繋がってしまう。

 

 

 

『も、もうこんな用件は御免ダニ!これっきりにして、アンタはもうオラ達には関わらないでくれよぉ!』

 

 

 天邪鬼たちは依頼主に対してこれでもかと言う程の不満をぶつけていた。

 自分たちの命がこの者のせいで危うく脅かされるところだったのだ、それを思えば当然の結果である。

 

 

 

『――――黙れ』

 

 低く、冷たい声色が洞窟を駆け抜けると同時にその紅い二つの双眸が妖しく光る。

 常軌を逸したドス黒い感情が見え隠れするそれをに見つめられた天邪鬼たちは瞬時に言葉を失い、動きを止めた。

 

 

『お前たちに拒否権があると思うか。 ”昔の戦い”、300年前の戦から”落ちこぼれた天邪鬼の末裔たち”よ』

 

 

 ドスン、と相撲で力士が四股を踏むかのように異形が地面を鳴らすと洞窟の天井から老朽化した石の破片が落ち、

 地面にいた天邪鬼たちは尾の打ちつけた衝撃で上へと弾む。

 

 

『貴様らに妖怪としての誇りはないのかッッ』

 

 

 邪気を込めて言い放つと、その者の背から伸びる、”尾のように長い物体”が鞭のように振るわれ、眼前の天邪鬼を弾き飛ばす。

 

 

『ギャンッ』

 

 

 まるで紙のように弾き飛ばされ、壁に直撃した天邪鬼は短く叫んではそれっきり動かなくなる。

 その一瞬の光景を目の当たりにした天邪鬼の、先ほどの勢いはどこへいったのか、ほぼ全員が吹雪の中に放り込まれたかのように身を震わせていた。

 

 

 異形は、天邪鬼よりも数倍はあるであろう巨躯を揺らして、天邪鬼の眼前に迫った。

 

 

『……貴様らの大事な者がああなっても(・・・・・・)いいのか?』

『……っっ!!』

 

 

 尾を揺らした異形は卑しい笑みを浮かべ、その口から尖った長い二本の”前歯”をカチカチと鳴らした。

 

 

『―――その肉を食らってやろうぞ。 貴様らの子と女の肉を……集落に残っている者達の未来、そう簡単に潰したくはないだろう?

抵抗しても殺す、無駄口叩いても殺す、逃げても殺す、寝返っても殺す――――さぁ、選べ』

 

 

 べしッ、と地面を尾が叩けば洞窟が揺れる。

 脅し文句と共に繰り出されたその一撃は、まるで主が動物を躾ける時のような威力を持つ。

 天邪鬼は布の仮面の下で歯を噛みしめながら、頭を擦りつけるように伏せる。

 

 

『た、頼むッ……ヨメには、子供には手を出さないでくれッ、 お、オラ達に出来る事があれば、な、なんでも、なんでもする……!!』

『足りないなァ……』

 

 

 そう言う異形は土下座の姿勢の天邪鬼の頭部に頭を乗せた。

 そして、即座に体重を込める。

 

 

『”お願いします”……だろぅ?』

 

 

 あまり力を、体重を込めてしまっては潰れてしまうため、死なないように潰れないように気を遣いながら。

 天邪鬼は地面と足に挟まれる激痛に耐え、拳を握りながら、

 

 

『お…ッ、お……おね、がいっ…しま…すっ!!」

 

 

 自身が抱く想いとは違う、服従を示す言葉を放つ。

 異形は満面の笑みを浮かべるとすっ、と天邪鬼の頭から足を離した。

 

 

『それでいい……それでいいんだ。 また暫くしたら仕事を持ってくる…それまでに怪我した者達が復帰できるようにな』

 

 

 その一言を告げて、異形は巨躯と、その長い尾を揺らして洞窟の出口へと歩いていく。

 異形の姿が見えなくなり、誰も恐怖を抱いて言葉を発せない深々とした中で、

 

 

『うっ…! ウウ……ッ! ウウオォォオッッッ!!』

 

 

 頭を下げながらにいた天邪鬼が怒りと悲しみの感情を孕んだ哭き声をその洞窟に響く。

 

 

『しかし、神樹に選ばれた勇者、か……厄介な』

 

 

 その慟哭にも似た鳴き声を洞窟の外で聞いた異形は意に介さないように呟く。

 

 

『精霊バリア……そしてあの力、オロチ様の為に対策を立てなくては』

 

 

 天邪鬼たちの報告にあった通りなら、勇者達には生半可な攻撃は通用しない。

 防御も攻撃も圧倒的なまでに上回る勇者の存在を異形は忌々しく思った。

 

 

『まぁ、やりようはいくらでもある……なんせ――――』

 

 

 だが、すぐに口の端を上げた異形は薄気味悪い笑みを浮かべていた。

 

 

『女子供が相手なのだからな』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――大赦本部、とある一室にて。

 

 

 

 

 四国、大赦という組織の本部はこの四国を支えている全ての恵み、神樹を祀る組織である。

 故に、神を敬うその組織の者達は皆仮面をつけて仕事をしている。

 

 

 傍から見れば四六時中仮面をつけた神官たちがあるく光景は異常な宗教団体を思わせるが、この世界では至って普通の光景である。多少疑問を抱く者達が居るかもしれないが。

 

 

 

 そんな四国最高組織、”大赦”の本部の最深部のとある一室。

 一人の少女がベッドにいた。

 

 

「……そっかぁ、やっぱり封印が解けちゃってたんだねー」

 

 

 朗らかに、陽気さも感じさせる少女はその部屋にぽつん、といるだけだ。

 その衣服は病人を思わせる患者の服であり、少女の身体の至る所には痛々しい程に包帯が巻かれていた。

 

 

 しかし痛みなど無いのか、健気に、ふわっと喋る少女の視線は膝の上辺りで浮遊する頭一つ分の大きさの”水晶”へと向けられていた。

 ぷかぷかと浮かぶ水晶に向かって、少女は一人話しかけているようである。

 

 

『ただならぬ妖気が空から見えたと思ってもしやと思ったけど――、大蛇神ヤマタノオロチの復活は本当のようだね……駆けつけた時にはもう――――』

 

 

 浮かぶ水晶からは”男の声”が聞こえる。

 遠い場所の景色を見渡せ、通信機能を搭載させた”サウザンドクリスタル(千里水晶)”からは鮮明にその男の姿を映し出していた。

 

 

 何故わざわざ名前が日本語表記でなく英語にしているのか、少女はその理由を知る由もない。

 この男の趣味なのか、それとも癖なのか。

 

 

 

『ま、お空の妖気はアマテラス君が無事に祓ってくれたみたいだから、これ以上暴走した精霊が増える事はないけど―――』

「既に妖気を浴びた精霊はどうにかしないといけない、でしょー?」

 

 

 水晶の中で腕を組み、意味不明に小指を立てる男に包帯少女は答える。

 彼女ならではの洞察力なのか、それを言い当てられて男は、

 

 

『ザッツ・ライッ! ここからはバーテックスだけじゃなくて、妖怪も複雑に絡んでくる実にハードな戦いが予想されるよ。

当面は”自我に目覚めたり、暴走したりしている精霊を元に戻す”のは勇者達にお任せしようかな』

 

 

 突如として甲高く指を鳴らした男は流暢に英語と日本語を混ぜ合わせて今後の展開を予想する。

 

 

『まぁ、タイミング的にもゴムマリ君も合流したようだし、ミーも本格的にムーブするとしますか。 まぁ、その前に――――』

 

 

 男は水晶の向こう側から、包帯少女が見える範囲で見せつけるように、一本の刀を取り出した。

 白く、鈍い青色の光を放つ刀は美しさを感じさせる。

 しかしその刀の”刀身が折れてしまっている”のが包帯少女には気になった。

 

 

『アマテラス君の”復活祝い”にちょっとしたプレゼントしちゃおうと思ってるんだ。 

”画龍”の筆しらべだけじゃ、この先苦労するだろうからね、ミーからのラブのあるプレゼントさ!!』

 

「わーお、素敵……信頼してるんだねー」

 

『そうだよ、”園子くん”。”ユー達”と一緒さ……ミーにとって大切なフレンドで、

パートナーなのさ……あ、予定通りに”例の盾”も用意してくれると嬉しいかな!』

 

 

 園子と呼ばれる少女は一瞬だけ言葉を詰まらせながらも、再び微笑みを水晶の男へと向ける。

 

 

「うん任せて……それにしても、”先生”?」

『ワッツ?園子くん』

「うーんとね、相変わらず”絶好調”だねって」

『そういうユーはどうなんだい?その……身体さ』

 

 男の水晶越しに見える怪訝な表情に園子は対照的だった。

 

『ぜーんぜん、大丈夫だよー』

 

 

 確信も、自信もないのに言い放つ園子の言葉は明るかった。

 水晶越しにもそれが伝わったのか、自然と男の表情にも笑みが戻る。

 

 

「身体は相かわらず戻らないけど―――、”呪い”の進行は比較的に緩やかだってー」

 

 

 そう言う少女、園子は無意識にだが自身の左腕を見つめた。

 一瞬だけ目を瞑ったが彼女は続ける。

 

 

「”まだまだ”持つよー。私は気にしないで、先生はお友達を導くことに専念してほしいのですー」

『園子くん……』

「あっ、でもぉ……時々構ってくれると助かるかなー、ウサギは寂しいと死んじゃうのでー」

 

 

 はっはっは、と園子らしいいつもの発言に男は笑った。

 

 

『園子君はいつからラビットになったんだい?』

「ウサギじゃおかしいかなー、じゃあ……戦車になろうー」

『”ラビット”に”タンク”……園子君、その心は?』

「私がこの手でビルドする!かなぁ」

 

 

 あっけらかんにそう言う園子はその後、他愛もない会話の後で水晶を手元へ納めた。

 するとテレビの電源が落ちたかのように男の姿は写らなくなり、遠隔地の景色を映し出していた水晶は園子の膝を映していた。

 

 

「”わっしー”、元気そうなんだってー……聞いてたセバスチャン?」

 

 園子の顔の横、いつの間にかその姿を現していた彼女の精霊、烏天狗が翼をはためかせることなく宙に浮いていた。

 

『……』

 

 烏天狗の視線は園子の左腕にあった。

 園子は少しだけ崩れていた包帯の下から見える、”黒い模様”を見て呟く。

 

「だいじょうぶ、だいじょうぶ……私はこんなことでへこたれないよー」

 

 自分に言い聞かせるようにした園子。

 時折身体を走る”鈍い傷み”に顔色ひとつ変えることなくいつもの園子であり続ける。

 

 

 園子の左腕、手首から窺える黒い模様は彼女の身体へ徐々にその痕を増やしつつあった。

 そして模様の痕が増える毎に、その痛みが増していく。

 

「あ……っ、うぅ……っ!」

 

 まるで”絡みついた蛇が締め付けを強くするように”、その呪いは次第に園子の幼い身体を蝕んでいく。

 

 

「わっしー……ミノさん……」

 

 

 

 

 やがて引いていく痛みに、園子は大切な親友の名前を口にして、眠る様に意識を手放すのだった。

 




いつもの要約
・復活ッ 復活ッ 蘇神復活ッッ
・イッスン、ボインさえあれば即落ちする説
・義輝はこれから牛鬼とアマ公のおやつ
・天邪鬼さん、ヤベーヤクザに家族を人質に取られ、働かされる
・月に帰れ登場
・そのっち登場、撫子スネイク状態。


 そんなこんなで、筆しらべは原作通り、順番に画龍から。
 恐らく一番まともな筆神サマ。初登場から怒涛の古語ラッシュに”お前、なんて言ってんだよ”と思ったのは私だけではない筈。

 天邪鬼さん達は300年前に、冒頭であったように西暦時代の四国を荒らしまわった妖怪一族の末裔です。なんでこんなに落ちぶれたかは後ほど。

 オロチ組ヤクザのTさん。
 Tとは彼の名を現すイニシャル。地の文とこれだけで正体分かった人には水晶のヘビイチゴあげます。性格はヤクザで、オロチサマからも一目置かれているヤベー奴。
 ガチで勇者システムに対する作戦をこれから考える模様。天邪鬼の家族を人質にとって働かせる。

 
 そのっちは序盤から中盤までにしっかり出番が用意されているので園子様ファンには申し分ない活躍を。その分、い っ ぱ い く る し ん で も ら い ま す。

 月に帰れさんにはもう何も言う事は無いでしょう。とにかく月に帰れ。





真面目な解説

画龍(がりょう)
・アマテラスが持つ筆しらべの一つ。動物の姿は龍。壊れたもの、あるはずのないモノを出現させる力を持つ。
ゲームでは度々壊れた橋や、天の川の復活など、物語を進める上でよくお世話になる力である。死んだ人とかの命は多分戻らない。物とかに対しての限定的な能力なので、ゴールドエクスペリエンスとかクレイジーダイヤモンドみたいな感じでイメージしてもらえれば。(身体は治せるが、魂までは戻らない。)
 樹海の樹木は神樹により作り変えられた物なので樹海化が解ける前に画龍の力で修復すれば、現実世界に影響はないと思った。
 これはバーテックスだけでなく妖怪とも戦うことで戦闘が長期化する可能性がある為。


・千里水晶
あらゆる遠くの景色を見渡せる水晶。ナカツクニで女王ヒミコが所持していたが最後は割れてしまう。園子が持っているのは月に帰れさんが作ったレプリカ。(スマホでよくね?という突っ込みは無しで)



というか、大神のスロットってあったんだ。
中身はほとんどモンハン月下雷鳴だけど、大神のストーリーとか映像はめちゃくちゃ綺麗で、マジで原作ゲームやってるようでした。


驚いたのはキャラクター全員に声が付いている事(スロットなのでナビ音声が必要)
今までホニャララララしか聞こえなかった彼らに声が付くのは嬉しかった。
多分だけど、
・イッスン(大谷育江)例:ピカチュウ
・オキクルミ(森久保正太郎):茂野五郎
・女王ヒミコ(茅野芽衣)暁切歌

こんな感じ。ちなみにスサノオとウシワカはめっちゃイケボだった。
本当に嬉しかったのはボーナス中の映像で大神キャラたちが神木村で酒飲んでるシーン。

フセ姫とか、オト姫とかヒミコが並んで酒飲んでるシーンは…で、でますよ(涙が)…。
自分の住んでいる地域にはもう一台しかないんだよなぁ…。


暫く箸休め的な感じで、2000~3000字くらいの短編混ぜたいなァ。
そんなことが出来ればと思ってる。


ウヴァさんみたいなグリードになりたいので感想や意見はいつでも舞ってます。

アマテラスの家庭訪問。誰の家にいく?

  • 結城さん家
  • 東郷さん家
  • 犬吠埼さん家
  • 三好さん家の花凛
  • 乃木さん家(病院)

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