結城友奈は勇者である~勇者と大神と妖怪絵巻~   作:バロックス(駄犬

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一月経つ前になんとか投稿できたぜ…。
パソコン、新調しました!文字をラグなしで打ち込めるとストレスフリーで執筆が進む進む。相も変わらず時間は掛かりましたが一万文字超えてしまうのはもはや芸なのか。
また執筆を無理しないペースで書いていくつもりです。









劇場版ジオウはいいぞ(誰かの受け売り


其ノ伍、瀬戸大橋と笛の音

 アスファルトに塗装された道を悠々と歩く者がいる。

 それは人ではなく、白い犬であり、どこかとぼけたような表情だがその毛並みは純白と言ってもいい程の美しさだったこともあってか、すれ違う人々の視線をモノにする。

 

『ワゥ……♪』 

 

 太陽神こと、アマテラス大神だ。

 

 

 これが人という人種なら、恐らく天女ではないかと言うかもしれないが、その者は紛れも無く犬である。

 故に人々から向けられる視線と共に掛けられる言葉は―――、

 

「あら、可愛いワンちゃんだねぇ……」

「やだぁこの子の毛、フワフワしてるぅ! 触っても驚かないじゃん!」

 

 まるでマスコットが現れたかのような稀有な視線と、可愛い物を愛でる言葉の数々。

 恍けた表情と美しい毛並、そしてアマテラスの持つ愛嬌の良さがあってこそ起きる現象である。

 

 

 道行く人々が一度足を止め、アマテラスに近づけば、人はそれを撫でずにはいられない。

 そして差し出された人の手をアマテラスが拒むことがないので、周りの人も次第に『自分もやってみたい』と思って寄ってくるのだ。

 

 

 

 この調子ならアマテラスが香川県でちょっとしたマスコットとなるのも時間の問題だろう。

 

 

 

『しっかしィ、なんでアマ公ばっかりこう……人が寄って来るんだァ?』

 

 人だかりから離れて、歩くアマテラスの頭からピョン、と飛び上がる物がいる。イッスンだ。

 

 

『犬って生き物が万人から愛でられるのは常識かもしれねェが、オイラだって一応”妖精”なんだぜェ?

この世界だと妖精っていうのはそれなりに人気があるって友奈ちゃんが言ってたんだけどよォ……』

 

 友奈の話は勿論漫画の話である。

 一応コロポックルという妖精の名で呼ばれているイッスンは傍から見ればただの犬にしか得みえないアマテラスに人気を取られている理由に納得していない様子だった。

 

 

『まぁアマ公の人気も、いずれは落ちらァ。 そうなればこの素敵な妖精イッスン様が人々の、ひいては美女たちから囲まれて……グフフフフフ!!』

 

 友奈の言う、御伽噺の中の妖精の知名度で人気の逆転を図るイッスン。

 だが彼は知らないのである。

 

 

 世の中には自身を妖精、マスコットキャラを装っては少女を願い一つと引き換えに魔法少とは名ばかりの地獄の戦いの輪廻に放り込む、傍迷惑な妖精がいる事を。

 それを考えれば、妖精というのが人々にどのようなイメージで定着しているかで決まる。

 

 

 後はイッスンの頑張り次第で人気者になれるかが決まる。

 

 

 

 

 

 閑話休題。

 今、アマテラス達はイッスンと共に『ある場所』へと向かっている最中だ。

 その道中、彼らは目的地へと向かいつつ、お互いに何かを探す様に周囲を見渡している。

 

 

 暫くして、イッスンが何かに気付いた。

 

 

『お、あったあった……アマ公、出番だぜェ!』

 

 アマテラスの頭部をぱしん、と叩いて合図を送る。

 彼らの視線の先には一本の木。

 

 

 だがその木は根元から今にも圧し折れそうにひび割れていた。

 今は倒れる危険性は無いが、周囲には民家や通学路がある。もし倒れてきた時の被害の事を考えると放っては置けない。

 

 

『ワウッ!』

 

 アマテラスが一吠えと共に、自身の筆しらべが一つ、『画龍』の力を振るう。

 自身の瞳に映る世界を一枚の絵と見立てたその景色に自ら筆を加えるように、折れ掛かっている樹全体を黒い墨汁で塗り潰し、万物を修復させる『蘇神』の力を注ぐ。

 

 

 墨が弾け飛んだその場所には折れる前の活き活きとした木が力強くそそり立っていた。

 ひび割れていた個所などどこにも見当たらない。

 

 

『よーし、充分だぜアマ公! ……樹海が受けた傷っていうのは、こういう感じで現実の世界に影響を与えていくって訳かァ。厄介だぜェ』

 

 

 小さくため息をついたイッスンはその道中、眼に映る『画龍で直せそうなもの』を探してはアマテラスに頼んで片っ端から修復していた。

 

 

『お、あの物干し竿が折れてるぜェ、アレも頼むわアマ公』

『ワウ』

 

 

 犬神との戦いで自身の筆しらべ、画龍を取り戻したアマテラス達。

 その力で傷ついた樹海を修復していったのだが、被害箇所があまりにも多すぎて幾つか修復できないまま現実世界へと戻ってしまったのである。

 

 

 樹海が受けたダメージは後に現実世界へとフィードバックされ、自然災害となり影響を与える。

 今回は大部分をアマテラスによって修復したことで被害は最小限にとどめることが出来た。

 

 

 事故に遭遇した者もおらず、その事については風を含めた勇者部からはお礼が絶えなかった。

 

 

 

 勇者部部長、犬吠崎風は最初の約束通り、アマテラス達の筆しらべを探す手伝いをしてくれることになった。

 同時に、勇者達はバーテックスの他に現れるようになった妖怪や、精霊への対処をアマテラスと協力できないかとという提案があった。

 

 

 

 厄介ごとは御免だぜ、と如何に美女の頼みと言っても全ての意志は相棒であるアマテラス大先生の御意志によって決められる。

 結局、それはいつも通りのやり取りでアマテラスは勇者達の提案を受け、勇者と大神は協力関係になったのだった。

 

 

 その協力関係となった彼らの仕事が筆しらべ『画龍』による樹海が受けたことによって発生した現実世界の被害の修復だ。

 目的地にたどり着くまでに目についた戦闘が原因と思われ現実世界の傷を修復している最中なのである。

 

『さて、そんなこんなで歩いているうちにオイラ達の目的地が近くなってきたぜ。 

アマ公見ろィ、アレがこの四国でも有名な場所の一つ―――、”瀬戸大橋”だぜェ』

 

 

 

 

―――瀬戸大橋。

 

 

 

 四国、香川県坂出市の海を跨ぐように架かる巨大な橋のことである。

 かつて、まだバーテックスが現れる平和な時代だったころ、四国と本州を繋いでいたその立派なその姿は既になく、無残にも崩れ、そもそも本当に橋だったのかというくらいに壊れていた。

 

 

『なんでもこの橋を使って、ニンゲン達は四国と本州ってところを行き来してたらしいぜェ。

まるでオイラたちの世界、ナカツクニでいうところの平安京の跳ね橋ってところかァ?』

 

 

 アマテラスの頭上にいるイッスンは両の手を頭の後ろで組んでは大橋の先端―――、本来ならば人と人が行き来をしていたという本州があるはずの方角を見据える。

 

 

『なんでもここ数年で四国に起きた自然災害が原因で壊れちまって――――、

たくさんのケガ人が出ちまったって話だァ。 その時に必死に人を逃がしてた若い夫婦が死んじまったらしいけど、その夫婦のお陰で被害を抑えることができたとかなんとか……立派な夫婦だぜェ』

 

 

 もしかしたら、とイッスンは続ける。

 

 

『この”大橋がぶっ壊れた原因”も、もしかしてバーテックスとかの戦いが原因”だったりしてな! 

……しかし、この世界を滅ぼさんと壁の向こうからやって来るバーテックスかぁ、オイラ達にとっちゃァ謎が深まるばかりだぜ』

 

 

 風達が言う、人類の天敵であるバーテックスはまだイッスン達の前に現れていない。

 故に彼らは想像しようにも、その敵がどれほど恐ろしいものなか分からないわけだが。

 

 

 イッスンはいくつか疑問があった。

 それは、アマテラスとともに受けたバーテックスに関する説明である。

 

 

『そういやぁ、風ちゃんが言うには”壁の外は悪いウィルスで溢れていて―――、

”この国の生き物以外は全滅してしまっている”だっけか。んで、ウィルスが急に変化して生まれてきたバーテックスから四国を護っているのが土地の神様が集まってできた神樹サマと、それに選ばれた勇者たちってワケだが―――』

 

 

『ワウ?』

 

 

 アマテラスが首を傾げ、小さく唸る。

 

 

『オイラ達はそのバーテックスって奴らにはあったことが無いから分からねェけどよォ―――、バーテックスって言葉は”頂点”っていう意味があって、それぞれ星座の名前を与えられているんだとさ。

 

けどよォ―――、バーテックスは”ウィルスが突然変異した生物”……、要するにバイ菌だろォ?

なンだってそんな奴らに”頂点”とか、”星の名前”とか大層な名前付けてんだろうなァ……オカシクねェかァ?』

 

 

 菌が変化したという存在にしては不釣り合いな名を与えられていることにイッスンは疑問を持ったのだ。

 頂点、星座という言葉からは人の力など遠く及ばない、遥かなる次元の存在を思わせる言葉である。

 

 

 

 まるで天上に住まう高次元の存在、それこそアマテラス達のような『神』と呼ばれる者たちではないか、と。

 

 

 この世界は謎だらけだ。

 それはこの世界を襲うバーテックスだけでなく、神樹という土地神が守護するこの世界、四国の仕組みもその一つである。

 

 

『ウィルスに囲まれてるから壁の中の生活が切迫してるかと思いきや……ごく普通にニンゲン達も生活できてるってのに驚きだぜェ。

これだけの長い間、人々を生かす為に力を使ってて、疲れたりしないのかィ?』

 

 どれほど長くこの生活が続いているか気になったイッスンは同時に、神樹によるエネルギーが枯渇しないのかという疑念を抱いた。

 万物に無限という事象はあり得ない。彼の、イッスンのいた世界、ナカツクニもそうだった。

 

 

 人々が神の信仰心を忘れ、アマテラスの姿が見えなくなったように。

 神が住まう天上の国、タカマガハラが突然の襲撃で滅んだように。

 

 

 命が生まれれば、それと同じように命の死が存在する。

 盛者とは必ず衰え、次第に消えていく。

 

 

 その運命(さだめ)があるから人の世は移り変わり、新しく何かが生まれていくのだとイッスンは思うのである。

 

 だが、この世界には少しばかり不安を覚えた。

 何もかもが神という存在から『与えられる』ばかりで、人々に何も『求めない』仕組みの世界が。

 

 

 知らない間に何かを求められている?

 人々はどこかで神に何かを捧げている?

 しかもそれは、人知れず、平然と繰り返されてきているのだとしたら?

 

 

 疑念は尽きない。しかし、解決策が浮かぶわけでもなく。

 

 

 イッスンは次第に考えるのをやめた。

 

 

 

『それよりもアマ公! この瀬戸大橋、だっけかァ? お前の筆しらべだったら簡単に直すことだって出来んじゃねぇかァ!?』

『ワウ?』

 

 イッスンはかつては立派に壁の外まで架かっていたであろう大橋をアマテラスの筆技で直せないかと考えたのである。

 

 

『”画龍”の筆技に時間は関係ねェ!数年経った橋だろうがすぐ元通りよォ。 お前がチョイと橋を直してやればこの国の奴らも喜ぶってモンだァ!それに―――、

大橋が元通りになれば壁の向こう側が見えるかもしれねェ』

『……?』

『だーッ! 分かってねェなァこの野郎! もしかしたら””壁の向こう側にウィルスが蔓延してるなんて話自体、誰かが考えた迷信”かも知れねェじゃねェかァ!』

 

 

 首を傾げるアマテラスにイッスンは続け言うのだ。

 あくまで彼の推測の話ではあるのだが。

 

 

『バーテックスは実は”神様の遣い”で、その神様が大事にしている宝を守る番人で、

ニンゲン達が勝手に外に出てきて神様の宝を奪われないようにしてるってのがオイラの予想だィ!』

 

 

 昔の旅の時からだが、イッスンは欲に目がない。

 美女、お宝、冒険とあると彼はすぐさま飛びつきたくなるのである。

 

 

 それとは対照的にアマテラスには金などの金銭は眼中にない。

 当然、イッスンのこの提案には乗り気ではないだろう。

 

 

 だが、イッスンには秘策があるのだ。

 

 

 

『勿論、壁の向こう側にはそれ相応の美味いモンもあるかもしれねェなァ!?』

『アウッ!?』

 

 

 引っかかった。と、イッスンは口角を吊りあげた。

 

 

『想像してみろアマ公……油のタップリ乗った獣の肉に、甘くて頬っぺたが落ちちまいそうな木の実をお前が口にする姿をよォ!』

『……』

 

 

 口だけを開けているアマテラス。だが、その口からは洪水のように涎が垂れ、地面を濡らしていた。

 食い意地だけは張っているアマテラスを動かすなら、まずは物で釣る。

 

 

 意味は違うが、自身の釣りの腕前も相当上がったものだ。

 あのアガタの森でいつも釣りをしている少年、コカリにも教えてやりたいものだ、とイッスンは思った。

 

 

『よーし、アマ公もヤル気になったことだし―――、いっちょ大神サマの大仕事を拝ませて貰うとしますかねェ!』

『ワウッ!!』

 

 

 イッスンに乗せられたアマテラスは景気の良い返事をすると、壊れた大橋の姿をその目に映した。

 

 

 砕けた鉄の先端、圧し折られ、曲がりくねった鉄骨。 

 抜け落ちたかのように存在しない道。

 

 

 その全てを文字通り『塗りつぶす』ようにアマテラスが大橋全体に『画龍』の力を注ぐ。

 

 

 瀬戸大橋は瞬く間に壊れる以前の、力強く伸びたその先、壁の向こう側まで架かるその姿をアマテラス達の前に現す――――筈だった。

 画龍の力を振るおうとしたアマテラスの動きがピタリと止まったからである。

 

 

 

 絵描きがふと集中力を切らすと筆を止めてしまうように、中途半端に止まった筆しらべの力は橋を修復するものにはならず、ただただ霧散して消えていく。

 アマテラスが動きを止めている。

 

 

 それは単純な理由だった。

 笛の音が聞こえた。

 青空に響く緩やかで透き通るような笛の音が、アマテラスの動きを止めていた。

 

 

 

 

 

 どこかで聞いたことのあるような笛の音。

 その笛の音はまるで何百年も前から語られ続け、

 聴き入る者を優しく見守るかのような願いを込められる、不思議な音色。

 

 

 アマテラスの何かを、心の内を叩くような音。

 

 

 

『こっ、この笛の音は……このウサンクセェ笛の音は……ま、まさかッッ!!?』

 

 

 聞き覚えのある笛の音にアマテラスの頭上のイッスンも声を上げ、辺りを見渡した。

 端から聞いても美しい音色だが、イッスンの脳裏に浮かんだある人物の姿がこの笛の音をそう評価づけざるを得ない。

 

 

 アマテラスとイッスンが見上げる。視線の先、大橋の鉄骨の一部に佇んでいる、一人の男の姿を目に捉えた。

 

 

 奇妙な服装だった。

 まるで陰陽師あのような衣装にカラス天狗のようなお面、頭から腰に向かって伸びる鳥の羽のような独特な長髪。

 

 

「天呼ぶ 地呼ぶ 海が呼ぶ……」

 

 

 声色からして、確かに男の声。

 羽のごとき長髪が揺れ、男は笛を止めると徐に口上を述べ始める。

 

 

「物の怪倒せと我を呼ぶ……!!」

 

 

 まるで既視感のある光景を目の当たりにしているアマテラスとイッスン。

 だが、そんなことをお構いなしに男は一際大きく身を揺らし、何故か小指を立て、言い放つ。

 

 

 

 

「人倫の伝道師、ウシワカ――参上(イズ・ヒア)――!!」

 

 

 

 突如現れた、ウシワカと名乗る男は”いつものように”英語と日本語を器用に混ぜながらポーズを決めていた。

 

 

『て、テメェは……!! インチキ陰陽師のウシワカ!!』

 

 頭に驚愕の色を浮かばせたイッスンが視線の先で長髪を掻き上げる男の名を叫ぶ。

 

 

 人倫の伝道師、ウシワカ。彼はアマテラスやイッスンが元居た世界、ナカツクニの住人だ。

 自称陰陽師。

 京の都の上空に自ら創設した謎の組織、『陰特隊』の隊長でもある。

 

 

 神出鬼没にして、旅先で突如姿を現しては勝手に勝負を仕掛け、『奇妙な予言』を言い残して風のように去っていく。

 しかもさっきのように然程流暢でもない英語を中途半端に会話に交ぜてくる。

 加えて上から透かしたような態度。

 初対面の人物が彼に抱く第一印象は『とにかくうざい』で間違いないだろう。

 それがこの男、ウシワカである。

 

 

「インチキとはまた随分な言いがかりだね、ゴムマリくん。 久しぶりだけど、元気だったかな? ミーの方はこの通りさ!」

 

『誰もテメェの体のことなんざ聞きたくねェんだ!あと、いい加減そのゴムマリって呼び方止めやがれェ!』

 

 イッスンにとってこのウシワカという男と絡んでいたら碌な思い出がない。

 というか、旅先でトラブルに遭うときはこの男が原因だったりする。

 

 

 何度この男の行動に振り回されたことか。

 そう考えるとイッスンにとっては三年ぶりの再会でも、特に感動することなく、ただ怒りだけが湧いてくるのであった。

 

 

「アマテラス君もその様子を見ると無事にこの世界にカムバックしたみたいだね。会えて嬉しいよ、嬉しいけど……」

 

 呆けるように首を傾げいるアマテラスを見ては何かを感じ取ったか、ウシワカはため息をついて言うのである。

 

「まだ力を取り戻したワケじゃないんだね。 以前のユーから感じられた力も、今は全くと言っていいほど感じられなくなった……正直、がっかりだよ」

『な、何ィ~!?』

 

 自身の相棒を貶されては黙っていられなかったイッスンが叫ぶ。

 

 

『やいやいやい! 久しぶりに顔合わせたかと思ったら最初に遭った時みてェなイヤミ垂れやがってェ!テメェは確かアマ公と一緒に箱舟ヤマトで天の国、タカマガハラに旅立ったんだろォ?

なんだってアマ公とお前がこの国にいンだァ!? 説明しやがれェ!!』

 

 頭に湯気を立ちこませながら怒号を飛ばすイッスンに、やれやれといった表情でウシワカは肩を竦める。

 

「……その様子からすると、ゴムマリ君は今のアマテラス君(・・・・・・・・)を見ても未だに何も分かっていないようだね」

『―――っ!?』

 

 ウシワカの一言に、イッスンの胸がどきりと鳴った。

 この世界に来て最初に出会ったアマテラス。その姿を見て感じた違和感をイッスンは気づいている。

 だが、それが何なのかは分からない。

 

 姿かたちこそ、イッスンが知るアマテラスだ。

 どこか恍けていて、ポァっとしてるお調子者の性格は変わらない。

 長い間アマテラスと旅をしてきたイッスンが見間違えるはずもない。

 

 それでも積み重ねの日々とイッスンの感覚が的確な裏付けをしているのにも関わらず、イッスンは違和感が拭えない。

 決定的に何か(・・・・・・)が違う。イッスンは思っていた。

 

 

 ウシワカは、イッスンの感じているアマテラスの姿の違和感に気付いている。

 そして、間違いなくその理由を知っているのだ。

 

 

 だからイッスンは聞く。

 

『……テメェらが居なくなった”3年”の間、アマ公の身に何があったのか教えろィ!このインチキ陰陽師が!』

 

 おおよそ、人に物を聞く立場とは思えない態度のイッスン。

 これでも昔に比べればマシで、3年前は荒々しい口調とともに刀を抜いていた頃があった。

 イッスンも少しばかり大人になったのかもしれない。

 

 

「”3年”、か……ゴムマリ君からすれば確かにその通りだね。

たしかにミーは知っているよ。アマテラス君の身に何が起きたのも、そして“この国がどういう仕組みで成り立っているのか“もね」

 

 

 対してウシワカは自身の長髪を搔き上げては揺らし、余裕に満ちた表情で言う。

 

 

「でも、今は言わないよ。 必要がないし、いずれユーも知ることになるだろうから……ね」

 

 

 そう言うとウシワカは橋の上からとん、と飛ぶとまるで風を操るかのようにして宙を浮遊しながら、ゆっくりとアマテラス達のいる地表へと舞い降りた。

 

 

「ま、それとは別に今日ここでユーたちに会いに来たのは一つお願いがあったからなんだ」

 

 腰に手を当て、小指を立てながらウシワカは懐から長大な包みを取り出したのだった。

 

 

『こ、この野郎! またいつものようにケムリに捲こうって腹だなァ!? ちゃんとオイラ達に説明を―――』

 

「協力してくれたら、ユーたちの力になるモノをプレゼントするよ?」

 

 

 にっこりと、ぶん殴りたくなるようなスマイルを向けながらウシワカはその包みを解く。

 解かれた包みの中にあったのは―――、

 

 

『へし折れた刀に……割れた皿だァ?』

 

 イッスンが映したその二つのものに目を丸くする。

 折れた刀は白磁の柄と鞘に収まれていたもので、美しき玉鋼で打ち込まれたその半分の刀身からは僅かに鈍色の光を放っていて、その刀が名のある業物であると証明している。

 

 

 一方で、もう一つはイッスンから見ても見当がつかなかった。

 

 

 何か強烈な力で砕かれたその破片はつなぎ合わせれば美しい模様が彫られた皿のようである。 しかし、それは皿として使うにはあまりにも大きく、硬い。

 どちらかといえば、皿ではなく、まるで攻撃を防ぐ盾のような。

 

 

 目利きに対して自信を持っていたイッスン。

 片方が業物、片方が得体のしれない皿、というのは理解できた。

 

 

 それでも、このウシワカがアマテラスに何をさせようとしているのか、その意図だけは図ることができなかった。

 

 

「アマテラス君、既に”画龍”の力を持っているんだろう? それでこの刀と盾を直して欲しいんだ。

大丈夫、これはユーたちのこれからの旅路で絶対に力になってくれる……まだ全てを理解できていないユーたちには苦難かもしれないけれど、頑張ってもらわないといけない、なにせ――――」

 

 

 一層険しそうな顔になったウシワカは腕を組んで言うのである。

 

 

 

「あの伝説の大妖怪――、ヤマタノオロチが復活してしまったのだからね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――???

 

 闇のように深い森の奥で、うごめく巨大な影がある。

 その影は二つの妖怪のものだった。

 

 

『成ル程――、ソレジャア アタシガ其ノ樹海トヤラ二入リ込ンダラ、現レル勇者ドモヲ蹴散ラセバイインダネェ?』

 

 

 一つの影は巨大であった。

 声色はどちらかといえば、女のものだろう。

 五丈はありそうなその巨躯を揺らし、幾つも伸びている手(・・・・・・・・・)が地面を掴むことでその計り知れない重量を支えているのがわかる。

 

 

 複数の腕、胴体と繋がった大きく膨らんだ袋―――、その姿は蜘蛛を思わせた。

 

 

『……そうだ』

 

 もう一つの影は話し相手である蜘蛛のような異形を見上げ、そう答えていた。

 鞭のようで、それで大岩をも砕く威力を持つ尾をゆらりと揺らすその異形は目の前の蜘蛛よりは小さいが、それでも他の妖怪たちよりは大きい。

 

 

『お前の得意の待ち伏せでな。 別に勇者は殺してしまっても構わん……

オロチ様完全復活の妨げになる者はたとえ犬っころ一匹でも生かしておく理由にはならない』

 

 

『女ノ肉ハココ数百年、味ワッテ無カッタカラネェ……アァッ…! 

アタシノ腹デ溶ケテク女ドモノ柔ニクを想像シタダケデ涎ガ止マラナイヨ……』

 

 

 カチカチと牙のような物を打ち鳴らした蜘蛛の妖怪は嬉々とした表情を浮かべながら巨体に似合わない速さで動き、その場から消えていった。

 一人残った異形は蜘蛛が居なくなったのを見計らって呟くのである。

 

 

『……最悪、勇者一人を道連れか、戦闘不能にすれば御の字なんだがな』

 

 勇者というのは余りにも規格外だ。 

 その力は緑天邪鬼たちの情報通りなら、神樹の加護と精霊バリアというこの二つの要素がある限り、あの妖怪に勝ち目はないだろう。

 

 

 だから異形は考える。最悪、勇者に痛手を与えれれば良いのだと。 

 武器を振るう為の腕を食いちぎったり、

 駆けるための足を切り落としたり、

 戦力を大幅に削り取ることができれば何でもよかった。

 

 

 当面はあの精霊バリアに苦戦することになる。だが、異形は決して悲観しない。むしろ、未だに余裕の表情を浮かべている。

 

 

 理由は勇者たちが子供であり、年端もいかない少女だからだ。

 

 

 

 

 ヒトには心があり、それが強さとなる。

 かつては圧倒的戦力を誇っていた妖怪たちが、勇者たちを前に打ち返されたのは勇者たちの徹底的な連携と、意志の強さ故であった。

 

 

 時に助け合い、時にぶつかり合い、されど生まれた絆は彼女たちを不撓不屈の戦士とし、迫りくる妖怪とバーテックスを撃退して見せた。

 団結力というのだろう。

 それがヒトの強さなのだと異形は理解してる。

 

 

 

 しかし、ヒトには心があり、必ずそこには弱さがある。

 付け入る隙はどこかに必ずあるはずなのだ。

 

 

 異形は容赦なくその隙を突く。突かなければならない。

 そうでもしなければ勝利を得ることはできないと分かっているからである。

 

 

 そして何より――――、

 

 

『そのやり方は実に俺好みだ』

 

 

 二本の突き出た前歯をカチカチと鳴らした異形は外道の極みとも呼べる笑みを浮かべていた。

 

 

 

『あの~、旦那ァ。 今回アッしらはどうすれば……』

 

 笑みを浮かべていた後ろで待機していた緑天邪鬼がが恐る恐る声をかける。

 前回異形が尻尾で壁に叩きつけた天邪鬼だろうか、頭の部分には包帯が巻かれていた。

 

『当然、勇者達と戦うに決まってるだろう―――と、言おうと思ったが。

 前回の戦闘で貴様たちと勇者たちの戦力差は歴然、闇雲に戦わせれば無駄に天邪鬼の数が減るだけだ』

 

 

 無論、異形にとっての天邪鬼は戦うための駒である。火攻め、水攻め、待ち伏せ、戦の作戦を遂行するのは大将自らではなく、その基盤となっているのは小さな兵士なのである。

 それが減るというリスクを、彼は避けたいのだ。

 

 

『ち、ちなみに何をやらせるんで……』

『勇者の捕獲だ』

『ソレ戦って勝つより難しい奴じゃないですかー!』

 

 黙れ、と異形は自身の尻尾を地面へと打ち鳴らした。

 

『勇者だろうが元はニンゲンの女だ。付け入る隙はいくらでもある……なぁに、”それ用の道具”もちゃんと用意してやる』

 

 かっかっか、と異形は嗤っていた。天邪鬼はお面の下で顔を引きつらせながら、また聞くのである。

 

 

『ち、ちなみに……捕まえた勇者は…どうすれば?』

 

『――――犯せ』

 

 抑揚のない、掴みどころのない声で異形は言った。

 

 

『泣き喚こうが容赦なく犯し、自身が勇者ではなく力のないただの女子供だということを自覚させ、絶望させるのだ。

その後は捕えた勇者を利用して仲間の勇者を捕獲する……残りの勇者も当然同じく孕み袋行きだ』

 

 まるで機械が淡々と作業をこなすかのように紡ぐ言葉に天邪鬼は思わず息を呑み、同時に恐れた。

 怪力無双の勇者を堂々と犯せと命令する異形の言葉は冗談なのかも判断できない。

 

 だが、異形は念を押すように真っ赤な瞳を向けて、

 

『やれよ?』

『ヒィッ!? や、やります! やりますから!』

 

 今度は一転してドスの利かせた言葉で圧をかけてきたので天邪鬼たちは一層震えたのだった。

 最悪な性格をしているなと思いながら。

 

 

『まずは一人目だ。 相手の勇者は殆どは近接に特化した勇者が多い……貴様らでは歯が立たないだろう。 現状で一番捕獲しやすい勇者を狙うことにする……』

 

 

 右腕の伸びる剛爪で顎を搔きながら異形は考えていた。

 勇者たちのデーターはまだ全くと言っていいほど纏まっていないが、現存する勇者の中で虚を突きさえすれば、捕獲しやすい者がいるはずだと。

 

 

 卑しい笑みを浮かばせながら、異形は天邪鬼達に彼らの捕獲対象となる勇者の特徴を告げるのである。

 

 

『遠距離から火筒で援護している青の勇者がいると言ったな……まずはソイツからだ』

 

 

 

 




ウシワカの特徴とか抑えながら執筆してて思ったけど、これ男版うたのんじゃないの?
農業やり始めたらダブル農業王が出来て嫉妬みーちゃんが闇落ちしそう。
エロい展開は期待しないでくれ。
どこぞのヤクザ妖怪のTさんが勇者をぐへへするって公言したけどマジでやったら消されちゃうからね。危ない橋は渡らないよ(書かないとは言っていない)

イッスンって本篇でもセリフの中に冗談交えながらもそれがガチの真相だったりして、知らずのうちに答えを言っちゃってるキャラなので。でも本人は本当に壁の向こうはお宝にあふれた夢の世界だと思ってます。

ウシワカが持ち出した刀と盾の正体は察しのいい人なら既に気づいちゃってるかもしれない。






以下、用語と人物紹介。原作のネタバレ注意。



・ウシワカ
年齢不詳(200~?才)
ゲーム大神にて主人公アマテラスの旅先で遭遇する序盤の中ボスキャラ。戦闘にて勝利するとストーリーに役立つ情報を皮肉とともに教えてくれる旅先案内人。
戦闘時は脇差と愛笛・ピロートーク(どう見てもリ゛ボル゛ゲイ゛ン゛)をレーザーブレードに変形させて戦う二刀流。
アマテラスとは、イッスンが出会う前からの付き合いがあったため、顔見知りである。
年齢は不詳ではあるが、ゲーム大神時で200歳以上が確定しているのだがその姿は若い青年の姿から少しも変わらない。剣捌きはかなりのものだが、それ以外にも未来に起きることを予知する能力を持っている。
その正体はかつて滅んだ天神族の生き残りで、ナカツクニの人間ではない。
ゲーム終盤、ラスボスである常闇の皇を撃破後、アマテラスと一緒にタカマガハラの再建のために箱舟ヤマトに乗ってランデブーの旅に出た。



もっと詳しく書いてほしい場合、リクエストがありましたら追記しますが嫌な方は原作大神をプレイすることをおススメします。


感想や意見をもらうことが出来たら、潔く月に帰りますのでよろしくお願いします。

アマテラスの家庭訪問。誰の家にいく?

  • 結城さん家
  • 東郷さん家
  • 犬吠埼さん家
  • 三好さん家の花凛
  • 乃木さん家(病院)
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