男の娘が冒険したって良いじゃない、寧ろしていけ 作:magunetto01
『この世界の人類史を語るにあたって絶対に避けてはならない戦いがある。それが幻獣戦役。その時代は数多くの英雄が生まれた時代。その中の一人、ギルザと言う男とそのギルザが率いる暁の傭兵団が幻獣王プロビデンスを打ち倒し人類の生存圏を勝ち取った正に人類史の礎と言える戦いだ』
アルケミスト養成学院の医務室で着替えを受け取って着替えた後、この世界の事を詳しく知るために学院の書庫でルゼットさんとルクレツィアさんの薦めもあり最初に『幻獣戦役』と銘打たれた本を読み始めた
その内容は後にギルサニアの祖と呼ばれるギルザと言う人が暁の傭兵団を結成する経緯と幻獣戦役、その最終決戦とギルサニアと呼ばれる国が出来るまでの出来事を描いた物語だった。天災と言われる幻獣達の王と一騎討ちで勝つなんて凄い!他にはどんな英雄譚があるのか知りたいし他の本も借りてこよっと
一週間後。ソウヤは書庫にある殆どの本を読み終え今はアルケミストについての本を読んでいる。私はその隣で紅茶を飲みながら見守っているだけだ
──やっぱりおかしいわ。パルガトラ火山で保護した時は気にする暇は無かったけれど今こうして思い返してみるとおかしな部分があった
医務室で出会った時、服はボロボロでもその綺麗な肌には傷一つ無かった。幻獣の攻撃を受けた筈なのにその身体は健康体そのもの。救護班の手当てによるものかと思ったけれどその救護班から手当ては特にする必要は無かったと報告が上がっている。なら何故服はボロボロなのに身体には傷が無かったのか?仮説は幾らでも浮かびはしたけれどどれも仮説の域を出なかった。結局の所幾ら考えても答えは出ず、真実は恐らくソウヤが忘れてしまった記憶の中にあるのでしょう
「わっ!ルクレツィアさん、何か出ちゃいました!」
ソウヤの驚いたような声に思考を中断して横を見ると薄く赤色に発光しているウサギらしき生物が浮いていた。いや、あれは生物じゃなくて
「えっ、それってまさか……法獣?」
いや、そんな訳が。でも法獣と同じようなエネルギーを感じるし……でもこんな直ぐに法獣が出せるわけ
「凄いですねこのアルケミスト入門書。直ぐに法獣?が出せました!」
「読んで直ぐに出せるものだったかしら……?」
頭の中をクエスチョンマークで埋め尽くしているとソウヤの法獣が私の膝の上に降りてきた。抱き締めてみるともふもふとした気持ちいい感触が伝わる
「そうだわ。ソウヤ、来年の認定試験を受けてみたらどうかしら?」
入門書を読んだだけで法獣が出せたのだからその秘めた才能は相当なものでしょう。幻獣にはまだ未知の部分が多い。それの解明には優秀な人材が必要だしソウヤみたいな将来有望な若者をこうして引き込んでおくことも必要でしょう
「アルケミスト認定試験、でしたっけ。その試験を受ける前に旅をしてきても良いですか?」
「旅?まあ次の試験が実施される一ヶ月ぐらい前までなら大丈夫だと思うけれど……どうして急に?」
「僕がこの世界について色々と知らなさすぎるのと本だけじゃなくて色んな場所の光景をこの目で見てみたいな、って思って」
なるほど。来年に向けてこの学院で鍛えるのも有りだと思うけれどソウヤがそうしたいのならば止める必要は無いわね
翌日。クリアランドと言う島に向かう船の甲板にある柵から僕の法獣ファウィスと一緒に海を眺めていた。潮風が気持ちいいね。前世でも前の世界でも船に乗る機会なんて無かったから新鮮な気分だなあ
──ん?おや?あれは……何だっけな。確かクラーケンの幼体だったっけ。それが群れを成して真正面から船に向かってくる。幾ら幼体とは言え幻獣、その群れがこのまま船に激突すれば船が沈むのは想像に難くない。ならばやるべき事は一つ
「ファウィス!」
肩に乗っていたファウィスが僕の頭上に移動し火炎放射を群れに向かって放つ。その傍ら火属性の初級魔法で弱ったやつを沈めていく
十分かそれ以上か。クラーケンの幼体の群れを全て駆除し終えた頃には魔力を使いすぎたせいで頭がフラフラし始めた
「ありがとうお嬢さん。おかげで沈没せずにクリアランドまで行けそうだ」
「そ、それは良かった……です……」
船長と思わしき初老の男性から感謝されたけどもうダメ、意識を保てない……
魔力切れを引き起こした僕は膝から崩れ落ちて初老の男性に僕の性別についての誤解を解けぬまま倒れ込み、気絶した
魔力はあらゆる生命に多少なりともあるそうです(東方の設定を参照。いやそもそも東方における魔力の設定ってかなり曖昧だったような気がするけどまあいいか)