「う~む・・・・・・困った。ここは学園のどこなのだろうか」
校門をまっすぐ進み、正面玄関に向かったはずの転校生の青年、葵衣穹(アオイ ソラ)は大きなため息をついた。普通にまっすぐ歩いた筈だが、目的地にたどり着いていない事を悟ると割と真剣に頭を捻る。
「やはりアナタは相当のオバカですね」
「うぐっ・・・・・・うるさいぞアル!!ってか、気付いてたならさっさと言えよ!!お前も同罪だぞ」
「喧しいのはマスターでしょう?それとアホなのもマスターです。何でただまっすぐ歩けばいいだけなのに、こうも道に迷うんですかね?あれですか?あなたの神経には何らかの障害でも発生してるのでしょうか?」
やれやれと、穹の胸ポケットからひょっこりと姿を現した小さな妖精・・・いや、AIと呼ばれる存在が激しく罵倒した。AIとはいわゆる俗称であり、その存在は現代の人類にとってはいて当たり前のパートナーのようなものである。
今現在この世界に存在している人類は魔法を使うことができる、それは現在の常識である。しかし、何の仕組みもわからず魔法を行使しているわけではない。簡潔に言ってしまうと、人類単体としては魔法を行使することはできないということである。
ではなぜ人類が魔法を行使できるかということだが、そこで出てくるのが所謂AIと呼ばれる存在である。この存在は人間が生まれた瞬間に同時に誕生する生物であり、そしてその人間とともに成長する存在である。
姿かたちはそれぞれの個体により違いがあり、能力なども同じく違いがある。ただ、たとえ能力にどんなに差があろうともこのAIと呼ばれる存在の役割はその個体も同じである。その役割とは、この自然界に存在する魔力をパートナーである人間に供給することだ。
人間本人には生成できない魔力、それはAIがこの自然界に満ちる魔力を自身の内に取り込み、それからその魔力を人間が行使できるように変換して自分の主人である人間に供給する、それが人間が魔法を行使できる仕組みだ。
つまりAIの存在とは言ってしまえば、旧時代でいうところのコンバーターのようなものだった。AIが強力であればあるほどその人間が持つ魔力量は強大になり、しょぼければそれなりの魔力量になってしまう。
保持する魔力量が大きいということは、それだけパートナーであるAIが優秀であることをそのまま指す。ではAIがしょぼければ、永遠に魔力量が少ないままなのかといえばそうではない。
最初の説明にもあった通り、AIはパートナーである人間と同じように年を重ねれば成長する。ただし、この成長は偏ったものにはならない。主人である人間の成長速度によってそのAIの成長速度も上がるのだ。
何故人間とAIの成長が比例するかと言われれば答えは簡単だ。どちらか一方が優れているだけではその才能や能力を生かしきることはできないからだ。この現象は、現代社会のありとあらゆる法則に適例するといってもいい。
スポーツで例えるならば、幾ら才能があるからと言ってその才能を若いうちから完全に生かすことはできない。もしそんな無茶をすれば、まだ肉体が出来上がっていない体はあっという間に故障を起こす。
動力で例えるならば、幾ら元となるエネルギーが膨大にあったとしてもエンジンが貧弱であればエネルギーは使い切れず宝の持ち腐れとなる。そんなところだ。
もし片方だけが優秀であれば、起こるであろう悲劇は簡単に予測できる。AIの方が優秀すぎれば、持つ魔力だけが大きくて技術がまだ全然なのに魔法を行使し大爆発して事故を起こす。人間が優秀すぎれば、AIが貧弱すぎて魔力が全然供給されず行使できるであろう魔法が魔力不足で行使できない。
それでも無理に行使しようとして術式を破綻させ事故を起こす。そんなことが起きるであろう。だからこそ、このAIと人間の成長速度というのは比例した関係なのである。そしてこのAIという名前の由来でもあり、これは旧時代のいうところの人工知能の意味合いも含むところがある。
かつて人類が開発したといわれる人工知能の資料を見ると、確かに知識はどんどん学んでいくものの感情表現というものが乏しかったというのだ。
しゃべる言葉は機械的で、感情というものを感じえない。このAIについても大体が同じようなものだ。例外は極僅かであり、その例外とは能力が規格外に高いAIのことを指す。
ただし殆どのAIについてはやはり機械的な存在なため、そのような俗称が付けられてしまったというわけだ。穹のパートナーであるAIのアルは表情言動が豊かであるため、優秀だということがわかる。
先ほどから、やたらとムカつく態度や文句を吐き散らすあたり、穹からすれば機械的の方がいいなどと思っていたりもするが。
「・・・とはいえ、いつまでもこうしているわけにもいかんな。ここはつまらないプライドに頼らず、相棒に頼むことにしよう」
「初めからそうしていればいいんですよ。まぁ、ただまっすぐ歩くだけなのにナビが必要だというのはそれも問題ですが」
「うるさい黙れ」
「ほんっとに生意気ですね」
お互いに憎まれ口をたたく2人だったが、このままでは先に進まないと2人とも悟ったのかそれ以上の文句は言わなかった。アルは素直に道案内を始め、校門から学院内に入ること20分。
漸く2人は建物の中に入ることに成功した。すると入っていきなり、玄関の両脇に立っていた警備員2人が穹に向かって無言で歩み寄ってきた。
「失礼ですが見慣れない顔ですね?いちよう当学院の制服を着ているようですが」
「ああ、今日こちらに転入することになっている葵衣穹です。2年生の」
「私はそのAIのアルです。証明書は穹が持ってるので、とりあえず物騒な気は消してください」
「拝見します」
口数少なく、警備員の1人が穹に手を差し出した。穹は思わず手を握ってみようかなどと考えてみたが、サングラスに隠されてはいるものの半端ではない威圧感を醸し出す警備員に肩を竦め、手に持った鞄から書類一式を差し出した。
警備員は小さく頭を下げると、そのまま書類のチェックを始め2枚3枚と捲って読み終わったところで書類を丁寧に揃えて穹に返す。それから今までの非礼をわびるように頭を下げると、どうぞと先を進むように右手を奥のほうに向けた。
「お仕事お疲れ様」
「急ぐことです。ただでさえバカをして時間をロスしてるんですから」
「間に合ったんだからいいだろ?」
「口答えは無用です」
パカンと、穹の頭を叩くアル。警備員はそんな2人を見て少し驚いた風に眉を潜めたが、それ以上の反応は見せずもといた場所に戻って警備に勤しんでいた。下手なAIよりAIらしい姿だ。穹はそんなことを思ってみたが口には出さず、そのまま奥のほうへ歩いて行った。それから5分後のことだ。
「・・・・・・うむ、参ったな。ここはどこだ?」
「知りませんよ。あえて言うとしたら、ここは4階ですかね」
「・・・・・・職員室って、4階にあったっけ?」
「いえ1階です」
「おい」
むんずと、アルの頭を穹が鷲掴みする。アルは無表情のままため息をつき、自身を掴んでいる穹の手をタップした。
「何で教えないんだよ、このままじゃ遅れてしまうだろ?」
「自業自得ですよ。というか、1階にあるとわかっているのにあなたが階段を上り始めたのを見て言うのを止めました」
「だからなんで!!」
「滑稽だからです」
ドヤァと自信満々に言うアル。ビキビキと、穹の額に青筋が何本も浮かんだ。アルを掴む腕もブルブルと震え、込める握力も尋常ではないほどに膨れ上がるがアルは気にせず同じペースで穹の腕をタップする。
そんなアルの行動がますます穹の怒りを仰ぎ、いっそこのまま叩き付けてやろうと穹が決心しかけたその時だった。
「何をしているんだ貴様」
「「はっ??」」
突如第三者の声が2人にかけられ、2人はそろってそちらを向いた。いがみ合っていたとは思えないほどのタイミングである。ともあれ、2人が振り向いた先には学院の女子制服を来た黒髪の美少女が鋭い視線を向けていた。
「誰だ?アンタ」
「それはこちらの質問だが・・・まぁいい、先に名乗るが礼儀だな。私は当学院の3年Sクラス出席番号2番の黒峰紗雪19歳だ。ちなみにここの生徒会のメンバーでもある。次は貴様の番だ、とはいっても転校生なのだから私の紹介を詳しくしても意味がないかな」
「凄いな、俺のことを転校生だと初見で見抜いたのか。もしかしてアンタ、この学院の生徒全員の名前と顔を熟知してるのか?」
「当然だ、私は生徒会だからな」
冗談半分で聞いた穹だったが、紗雪と名乗った彼女の言葉を聞いて少なからず驚きを見せた。穹が知る限り、この学院は1年生から5年生までが存在し1学年には少なくとも1000人の生徒が存在する。それが×5であり少なくとも5000人以上はいるのだ。
それを全て覚えているというのだから、その事実だけでも驚きなうえに紗雪は生徒会のメンバーだといったのだ。驚く要素としては、十分すぎるほどでもあった。とはいっても、いつまでも間抜け面を晒すわけにもいかないため穹は咳払いを1つして頭を切り替えた。
「転校早々、生徒会のメンバーにお目にかかれるとは何ともラッキーなことだ。だが、生徒全員の名前と顔をチェックするぐらいマメなアンタのことだ。そんなら転校生という、最も目立つであろう存在の俺を知らないってのは変じゃないか?」
「バカなのか貴様は」
「何だと!?」
「そんなのは冗談だ、貴様のことはすでに知っている。ただ本人から聞きたいというだけのことだ、わかれそれくらい」
ハッと鼻で笑う紗雪。ブチッと穹の血管が切れかけるが、何とか鋼の忍耐力で歯を食いしばることで我慢する。ちっとも我慢できていない表情だが、アルは何も言わなかった。理由は簡単、いつものことだからである。
「で、貴様の名前は何だ?それとも私に言わせたいのか?」
「くっ・・・葵衣穹だよ、2年に転校してきた。年は18歳だ」
「私はそのパートナーのアルです・・・認めるのは嫌ですが」
「・・・何だ、随分とおかしなAIだな。表情やしぐさをみるところ、中々高い能力を有しているみたいだが・・・同族嫌悪というやつか?」
「ちげぇよ(ちがいます)」
「・・・・・・まぁどうでもいいか」
紗雪は勝手に自己完結し、若干呆れた風に2人に言った。2人は何か言いたげに口をもごもごさせたが、それ以上何かを言っても煽るだけかと、こちらも自己完結すると穹は掴んでいたアルをはなしポンポンとズボンを叩いた。アルもそれ以上何も言わず、おとなしく穹の胸ポケットに収まる。それを見て、紗雪は小さく肩をすくめると再び口を開く。
「で、その転校生はなぜこんなところにいるんだ?職員室に行かなくていいのか?」
「み、道に迷ったんだよ。気付いたら4階にいたんだ」
「・・・何の冗談だ?」
「冗談じゃないですよ。私のマスターは極度の方向音痴ですから。注意するのもバカらしくなります」
「難儀なマスターだな」
全くですと、ためらいもなくアルは頷いた。何やらすっかり意気投合した2人だが、そんなことで意気投合されても穹は全くうれしくなかった。とはいえ2人相手では分が悪いので、黙っておくことにする。
「仕方のない奴だが、迷える転校生を救うのも生徒会の役割だ。ついてこい、案内してやる」
「助かります。これ以上マスターに任せていては、冗談や比喩ではなく日が暮れますから」
「・・・言いたいことは沢山あるが、アルのいうことはもっともだからな。案内されてやるぞ」
「いちいち態度がでかいな貴様。これでも私は貴様の先輩にあたるわけだが」
「細かいことは気にしないほうがいいですよ?白髪生えるぞ」
ヒクヒクっと、穹の最後の一言に頬を引きつらせる紗雪。だがそこは先輩としての忍耐力を見せるためか、いちいち穹の言葉に対して反論はなかった。その代わりとして、心中で何十回と生意気な後輩をいたぶることで我慢する。穹はそんな紗雪の様子には気付いていないようで、フフンと得意げに笑みを浮かべていた。
お互いにそれ以上の問答は無用と悟ると、紗雪が先を歩き出したため穹は黙ってそのあとを追う。尤も、あまり距離が近いのはあれなので3メートル程距離をあけて穹が紗雪の後ろを歩く形になっているが。
それから5分としないうちに1階に辿り着き、階段を左に曲がったところで紗雪の歩みが止まった。そのまま180度反転して穹を見ると、ビシッと左手を挙げて教室の上についたプレートをまっすぐ指さした。
そこには職員室と、無駄に派手な色で描かれたネームプレートが光り輝いていた。
「成程・・・階段を上がる直ぐ傍にあったわけか・・・それは盲点だったな」
「マスターがバカなだけでしょう?」
「気付かなかったお前も同罪だって・・・これ何回目のやり取りだっけ?」
「知りませんよ。人生のログでも見てみたらどうです?」
「おい、ここまで案内してやった私に礼はないのか?」
「え?だって、転校生を案内するのも仕事だって言ってたじゃん」
何言ってんのお前と、割と真剣な表情をしていう穹にブチンと紗雪の血管が切れた。ズンズンと音を立てて穹の目の前までやってくると、そのまま胸倉を徐に掴んでグワングワンと揺らす。
そのまま投げ飛ばしてしまおうかと思う紗雪だったが、突如後ろから聞こえた悲鳴にその動作を止めた。穹と同時に声のしたほうを向き、床にべしゃりと倒れている女性を見てため息をついた。
「・・・何をしているんですか花宮先生」
「うぅ・・・見てわからないの?職員室のドアの溝に足を引っ掛けて転んじゃったのよ~」
「そうですか、では早急に立つことをオススメします。見ている側としては哀れに思えてしょうがないので」
「紗雪ちゃんヒドイ!!」
うぇ~んと、本気で泣き出す女教師の花宮。穹とアルはそんな花宮を見て頬を引きつらせ、来る学校間違ったのかなと口に出さず考える。そのまま5分ほどが経過し、紗雪がやっとの思いで花宮を泣き止ませると穹をみるなりアッと声を上げた。
「あなたが転校生ちゃんですね!!もう、8時30分までに来るように言ったはずですよ!!もう1時間過ぎてます」
「すいません、いろいろ道に迷ってしまいまして・・・」
「マスターが世話をかけます」
「わっ!!も、もしかしてAIですか!?こんなにハッキリとしたのは久しぶりに見ますぅ!!」
「花宮先生、いちいち女子学生みたいなノリはやめていただきたい。正直、現役女子学生の私からすればうざいです」
「ヒドイ!!」
また泣きそうに眼をこする花宮。このままでは拉致が明かなかった。穹は小さくため息をつくと先生と、花宮の肩をたたいて呼びかけた。
「は、はい何でしょうか!!」
「あの・・・これ以上遅くなるのもアレなんで、さっさと教室にでも案内していただけると嬉しいのですが」
「あ、そうですね。それじゃあ行きましょうか。え~と・・・」
「葵衣穹です」
「うん、葵衣君!!それと紗雪ちゃんもご苦労様!!」
やけにテンションが高い花宮に、穹はやや辟易する。これで教師なのかと、若干疑いの眼差しもむけてしまうが指摘するとまた長くなりそうなので言わなかった。
そのまま花宮の後をついていき、自分がこれから所属する教室へと向かう。3分とせず目的地に着けば、教室のドアを開く前にくるっと花宮が後ろを向いて穹を見た。
「それでは、これから葵衣君のここでの学院生活が始まります!!準備はいいかな!?」
「ええ、まぁ。というか遅れてきた自分がいうのもなんですけど、早くしましょう」
「うん!!では・・・いざ!!」
自分以上にかしこまって花宮が扉に手をかける。その瞬間、穹は過去の出来事を思い出しかけるがブンブンと首を振って頬を叩いた。これからあるのは過去ではなく未来だ。穹はそのことを思い直して、学院での第一歩を踏み出した。
何か文が変かもしれません。
気付いたことがあれば何でも言ってください!
感想ありがとうございました