[東方現夢幻]死神と大学生と小さな夢の話 小野塚小町が現代入り 作:ダージリン
この雨の中、何時間歩いたことだろうか。
灰色の雨雲はいつしか闇に溶け、肌に打ち付ける雨は一層その冷たさを増した。日も暮れて肌寒さの増すこの街で、変わらず冷たいこの世界の人々が、心なしか少しだけ温かく感じられた気がするが、まぁそれもきっと気のせいなのだろう。
これだけの時間を歩いて得られたもの、それは言えても足の重さくらいだった。
雨でぐしゃぐしゃになった服が、冷たく素肌にまとわりつき、気持ちが悪かったが、今はもうそんなことは考える気分でもなかった。
「疲れたなぁ・・・」
その言葉が漏れると同時に、身体と心はこの疲労感を実感し始めた。
すると、まるで何かに憑かれたかのように、身体は近くの建物の、ちょうど腰かけられそうな扉と思わしきものに引き寄せられていった。
偶然にも屋根の下で雨宿りが出来そうだったので、そこに腰を下ろすと、今日一日の災難が脳裏に蘇ってくる。
サボって昼寝しようとしたら、突然知らない街にいて、なんの説明もなしにただ何時間も雨の中を歩く羽目になったのだ、こんな訳のわからない話があるだろうか。
「実際あたいもわかってないよ・・・」
もはや全身に行き渡った疲労は、あたいの意識を再び連れて行きそうだった。
実際、疲れ果てたこの身体にそれを拒む力なんて残っていなかった。
寒さに身体が震える。視界がぼやける。そんな意識と無意識の間で揺れる中、誰かと目が合ったような気がした。
一体誰だろう。声を掛けようにも身体が動かない。せっかく出会えたものの、もう限界だった。意識が離れていこうとした。
―――――瞬間。
「ギャアアアアアアァオバケエェェェェッ!!!!!!?」
「うわアアアっ!!???」
けたたましい何かすごい音あたいを現実に引き戻した。
ついでにあたいの心臓も握りつぶそうとした。
死ぬ。死神が死ぬ。
まったく冗談じゃない。
まぁ、そんな冗談はさておき、正気に戻ったあたいの目は、透明な傘のような物を投げ捨て、雨で濡れた泥の上にうずくまり、ひたすらに「ごめんなさい助けてごめんなさい」とお経のように唱えながらどんどん縮こまっていく少女の姿がそこにはあった。
とりあえず、話がしたい。
「ねぇ、ちょっといいかい?」
「ひいぃっ!!」
・・・・どうやら何かを誤解されてるようだ。
まずはここからひも解いていくべきだろう、でなければ話どころではない。
「あぁー、その、なんかわからないけど驚かせて悪かったね。あたいは小野塚小町。ちょっと尋ねたいんだけどさ・・・大丈夫かい?」
「ごめんなさい助けてごめんなさいお母さん助け・・・・へ・・?」
彼女は佐藤結月と名乗った。
どうやら「だいがく」とやらの帰り、家の前であたいがいて、オバケと見間違ったらしい。なんというか、そそっかしい子だ。
でも親切にも、家にまで上げてくれて、風呂まで浴びさせてくれた。まぁ、ぶっちゃけ「しゃわー」とかの使い方わからなくて迷惑かけたり、急にお湯が出てきたりでびっくらこいたけど。
でも知らないものだらけとはいえ、どの世界も風呂は気持ちいいもので、今日一日の疲れが洗い流れた気がした。
「いや、ほんとすみません、初対面であんなご無礼を・・・」
「いや、あたいこそ悪かったよ、それにこんな迷惑かけて」
「それにしても小野塚さん、さっきの話ほんとなんですか?別の世界から来たとか・・・」
結月に幻想郷の話をしたが、まぁ予想通りぽかんとされた。でもどうやら信じてくれてはいるらしい。半信半疑だろうけど。
死神だとは言ってない。この子のことだから、死神だなんて言ったらもっと手が付けられなくなりそうだ。
「あぁ、正直あたいも驚いてるよ。あ、あと小町でいいよ、敬語も使わなくていい」
結月は「わかった」とうなづいて、左手を顎にあてて、なんだか難しい顔をした。
「帰り方とか、あるの?」
そうだった。あたいは帰る手段がない。スキマ妖怪あたりがここで現れて、幻想郷に戻してくれでもしない限り、あたいはずっとここに居座らなければならないだろう。
「呼んだかしら?」
・・・なんて考えてたら向こうからおいでなすったようだ。結月は「今度は何!?」なんて悲鳴をあげてすっ転がっている。まったく、ややこしいタイミングで出てこないでほしいんだけどなぁ。
「まったく、いったい何がどうなってるんだい?早くあたいは元の場所に戻りたいんだけどさ」
「それについてなのだけど、少々厄介なことになっているの。こちら側で最近人を喰って回っている妖怪がいるようで、その妖怪は徐々に力を増しているの。それも人に寄生するタイプみたいで、無理に引き剥がす訳にもいかない。そんな中貴女は偶然影響を受けてこちらに引っ張られてきたようね」
ずいぶんと無茶苦茶な話だ。だいたいなんて迷惑な妖怪だろうか。今日一日どれだけ苦労したと思っているんだまったく。でも事情は理解した。
どうりで能力も力も使えなくなっているわけだ。とすると・・・
「今の貴女を幻想郷に戻すのは極めて危険よ」
「やっぱり、そうなっちゃうわなぁ」
つまり、この異変がなんとかなるまで、あたいはただの人間として、こっちで生活しなくちゃならないようだ、死神何があるかわからないよまったく。
スキマ妖怪は「これ、必要でしょう」といって、何か小包を取り出す。どうやら中身は、こっちで使うお金と、「ほけんしょう」とかいうカードのようなもの、他にも色々と入っていたが、ひとつよくわからないものが混じっていた。
「・・・だいがくあんないぱんふれっと?」
「寺子屋のようなものよ。貴女にも通ってもらうわ。詳しいことはそこで転がってる子に聞きなさい、同級生として仲良くできると思うわ」
あ、忘れてた。
結月は今もずっと腰を抜かしたまま、あたいらの会話をただぽかんと眺めていた。
するとスキマ妖怪は「それじゃあ頑張りなさい」と背を向けてスキマへ帰ったと思いきや、手だけを覗かせて「貴女、クビじゃないみたいよ」とだけ言い残して帰っていった。
「・・・えっと、仕事クビにならなくて良かったね?」
「・・・そこかい?」
完全に困惑しているようだが、いろいろと説明しなくてはならない。
とりあえず、あたいも大学へ通わなくてはならない旨を伝えると、驚きながらも「じゃあこれから同級生だ」と、歓迎してくれた。
「あ、じゃあ住む場所がいるよね、よかったら一緒にここ住まない?私も最近一人暮らし始めて寂しくなってきた頃でさ」
・・・これは驚いた。住む場所まで提供してくれるとは。嗚呼、なんていい子なのだ。この子は死後、きっと天国にいくだろう・・・おっと、縁起が悪かった。
「いいのかい?すまないね・・・じゃあ悪いけどこれからよろしく頼むよ」
「うん!こちらこそよろしく、小町!」
なんとか話がまとまったところで、玄関先でのあの莫大な眠気が再び襲ってきた。
「ふわぁあぁぁ~・・・」と大きなあくびをすると結月は察したように、「疲れたよね。もう寝ようか」と言って、まるでやれやれとでも言いたそうな笑顔を浮かべた。
「・・・ごめん、布団一個しかないや、一緒に寝ていい?」
・・・ほんとにそそっかしい子だ。当然断る理由も気力もない。あたいはノロノロとしたうごきで首を縦に振った。
誰かと一緒に寝るなんていつぶりだろうか。
結月の柔らかく、小さな身体は驚くほど強くあたいを夢の中へ引きづり込んでいった。
最近書いてて思いました。
小町の江戸っ子口調めっちゃ難しい。
お気に入り登録してくれている方がいてめちゃテンション上がりました(初心者
次の話もまたしばらくしたら上げますのでよければ読んでもらえるとうれしいです。