蒼天のキズナ   作:劉翼

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1歩ずつでも歩けば着実に進むものです。
そんなちょっとした寄り道な第9話をスタートさせていただきます。


第9話:あの子のたからもの

 次の目的地をセキチクシティに定めたツバキは、12番道路を南下し、13番道路へ入っていた。

 

「あっ、ポケモン!」

 

 ふと空を見上げたツバキの視線の先には、灰色の羽毛で身体を覆われた鳥ポケモンの群れが飛んでいる。

 すぐさまポケモン図鑑を取り出し、センサーを向けてデータ登録を行う。

 

「マメパトとハトーボーって言うのかぁ……あのポケモンも、昔はカントーにはいなかったのかな?」

 

 5年ほど前からだろうか。飛行機や船といった移動手段の発展に伴い、各地方の間で徐々に交流が増えていったのである。

 それだけならまだ良かったのだが、他地方から持ち込まれたポケモンの野生化と繁殖が進み、カントー地方の生態系は、10年前と比較して別物と呼べるほどに変化してしまったのである。

 特に空のファイアロー、海のサメハダーの影響は大きく、原生ポケモンの存続が危ぶまれた時期すらあった。

 

「こっちのポケモンは……へぇ~、ラッタかぁ……! こっちはゴーゴート…おっきいなぁ…」

 

 しかし、なんだかんだでポケモンは賢い生き物であり、人間が本格的に介入する前に、ある程度の住み分けの構図が自然に出来上がり、安定化していった。

 そのため、10年前の事など知らない上、グレン島から殆ど出た事も無かったツバキにとっては、今のカントー地方は元々カントーにいた種族も含め、未知の存在である多種多様なポケモンの宝庫でしかないのである。

 

「……あれ? ねぇ、ポポくん、あれなんだろう?」

 

 ツバキが指差したのは、20mほど先にある木の周り。

 帽子を被ったような頭と、真っ黒な身体が特徴的な鳥型ポケモンが2体、やかましく鳴きながらグルグル旋回している。

 くらやみポケモンの『ヤミカラス』だ。

 

「何かあるのかな……?」

 

 ヤミカラスの行動に興味を刺激されたツバキは、身を屈めて草むらに入り、ゆっくりと近付いていく。

 草の間から覗いてみると、ヤミカラスの眼下にいたのは、灰色の毛並みの猫のようなポケモンだった。

 

「あれは……」

 

 ツバキは、ポケモン図鑑を開いてそのポケモンのデータを確認する。

 

〈ニャスパー。じせいポケモン。エスパータイプ。制御の利かないサイコパワーを抑えるため、大きな耳で蓋をしている〉

 

「ニャスパー……あれ? あの子、何か抱えてる?」

 

 目を細めてよく見ると、ニャスパーは身体を丸め、守るように何かを抱いている。

 ピカピカと光るそれは、はっきりとは見えないものの、どうやら緑色をした石のような物らしい。

 と、その時だった。ヤミカラスの内の1体が、ニャスパーの背後から“つつく”で攻撃を始めた。

 そして、ニャスパーがそちらに意識を向けた瞬間、もう1体が素早く石を奪い取ってしまったのだ。

 

「あっ……!」

 

 お目当ての品を手に入れた2体はさっさとその場を飛び去るが、ニャスパーが慌てて追いかける。

 

「……大事な物……なんだよね、たぶん。……ポポくん」

 

 頭の上のポポに呼びかけると、ツバキの考えを読み取ったように短く鳴いた。これを同意と解釈したツバキは、ヤミカラスとニャスパーの去った方向に走っていく。

 ツバキが追い付いた時、ニャスパーは大きな木の根元で、上を見上げてウロウロしていた。

 その視線を追うと、先ほどのヤミカラス達が、枝の上でこれ見よがしに奪った石で遊んでいる。

 ツバキはその木に近付いていき、すぅっと息を吸い……。

 

「ヤ……ヤミカラス達! そ、それ、ニャスパーの大事な物みたいなの……! か、か……返してあげて!」

 

 精一杯の大声でヤミカラス達に頼んでみるが……。

 

「ギロッ」

 

「ひっ……!?」

 

 どうやらご機嫌を損ねてしまったらしく、2体のヤミカラスは枝から飛び立つと、ツバキ目がけて突進してきた。

 腕で顔を覆うツバキの上からポポが飛び立ち、突っ込んできた内の1体に“でんこうせっか”を浴びせる。

 これに一瞬怯んだヤミカラス達は、一旦距離を取って臨戦態勢に入る。

 

「うう……バ、バトルするしか……無いんだね……! 相手は2体で、ヤミカラスはひこうタイプ……それなら!」

 

 ツバキは腰に着けたモンスターボールの内、1つを投擲。飛び出したのはファンファンだ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「ポポくん、ファンファン、行くよ! ポポくん、“でんこうせっか”! ファンファンはもう1体に“じゃれつく”!」

 

 大きく上昇したポポは、旋回してヤミカラスに“でんこうせっか”を叩き込む。

 もう1体も相方に気を取られた隙に、突っ込んできて鼻を振り回し“じゃれつく”ファンファンに押し負ける。

 

「やった……!」

 

 しかし、これでヤミカラス達も本格的に怒ったらしく、纏う空気が変わる。

 1体が大きく羽ばたき、ポポに向かって真っ直ぐに突っ込んでくる。

 

「ポポくんよけて!」

 

 ポポは直線攻撃に対し横方向にかわそうとするが、ヤミカラスは寸前でピタリと止まり、回し蹴りの要領でポポにキックを当てる。相手を油断させ、本命の攻撃を必中させる“だましうち”だ。

 さらに、一呼吸遅れて飛んできたもう1体は、ぐらついたポポにさらなるキックを浴びせかける。今度は“ダメおし”である。ダメージを受けた後に食らうと、本来より大きなダメージとなる、厄介な技だ。

 

「ポポくんっ……! ファンファン、ポポくんを助けて! “じゃれつく”!」

 

 ブンブンと鼻を振り回して突撃するファンファンだったが、今度は空中に逃げられてしまう。

 

「ううっ……(落ち着いて……落ち着いてわたし……! 何か手が…………あっ!)」

 

 ツバキは周辺の地形を見て一計を案じ、ポポとファンファンに駆け寄って、考えた作戦を耳打ちする。

 

「ファンファン、“まるくなる”! そして“ころがる”!」

 

 身体を丸めたファンファンがゴロゴロと転がってヤミカラス達に突進していくが、これも先ほどと同様、空中に逃げられる。

 

「ポポくん、“でんこうせっか”!」

 

 一気に加速したポポが“でんこうせっか”を仕掛けるが、ヤミカラス達には当たらず……もとい当てず、その周りをビュンビュンと飛び回る。

 何をしているのかとその動きを目で追うヤミカラス達だったが……。

 

「今だよファンファン!」

 

 気付いた時には既に遅く、上空から高速回転するファンファンが落下してくる。

 最初の“ころがる”を回避された後、ファンファンは攻撃を止める事無くそのままの勢いで大木を駆け上り、木の反りを利用して飛翔。言うなれば“空中ころがる”を仕掛けたのだ。

 無論、ポポの“でんこうせっか”は、その動きを感付かれないための目眩ましである。

 “ころがる”は1体に当たり、さらにもう1体が巻き込まれる形でダメージを受けて地上に落下した。

 

「い、今なら捕まえられるかも……! モ、モンスターボール!」

 

 隙ありとばかりにツバキがモンスターボールを投げつける。

 ……が、まだヤミカラスには元気が残っていたらしく、飛んできたボールを、2体が翼を合わせるように打ち返し。

 

「へぶっ!」

 

 ツバキの顔面にヒットする。

 そして、負けを認めたのか飽きたのかは定かでないが、ヤミカラス達はその場を飛び去ってしまう。

 

「いたたた……うう、捕まえられなかった……。……まぁ、いっか……ポポくん、お願い」

 

 少し赤くなった鼻を擦りつつポポに指示する。バサバサと上昇したポポは、ヤミカラス達が枝の上に置いていった石を回収して降りてくる。

 それを受け取ると、ずっと観戦していたニャスパーの前で身体を屈め、目線を合わせて手渡す。

 

「はい、大事な物なんだよね? もう取られないようにね」

 

 ニャスパーは、受け取った石をじっと見つめていたが、どういうわけかそれをツバキに差し出してきた。

 

「え…………くれるの? ……うぅん、でも……」

 

 遠慮するツバキに背を向け、トテトテと走ったニャスパーは、ヤミカラスに弾かれて壊れたボールを拾って戻ってくる。

 そして、石とボールとを順番に指し示した。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「……もしかして、交換しようって事? でもそれ壊れてるよ……?」

 

 が、ニャスパーはそんなの関係ないと言わんばかりにギュッとボールを抱き締める。

 宝物の定義は人によって異なり、それはポケモンにも同じ事が言える。今のニャスパーにとっては、取られた宝物を頑張って取り返してくれたツバキのボール……これが新たな宝物となったのだろう。

 

「……わかった、ありがとう。大事にするからね。それじゃ、バイバイ」

 

 ツバキはニャスパーの頭を撫でると立ち上がり、ファンファンをボールに戻しながらその場を立ち去る。

 ……しかし、ニャスパーはそんなツバキの後をボールを持ったままトコトコと付いてくる。

 

「……えっと……一緒に……来る?」

 

 答える代わりに、ツバキの脚に身体を擦り寄せるニャスパーを抱き上げると、微笑んで語りかける。

 

「それじゃあ、ゲット……するね、ニャスパー。……ニャスパー……猫……」

 

 目を閉じて思案するツバキだったが、何か思い付いたのか、ハッとした表情を浮かべる。

 

「ナオって、どう? 猫はニャーオって鳴くから、ナオ」

 

 ツバキの付けたニックネームを聞いて、ニャスパーは初めてニパッとした笑顔を見せた。

 気に入ってくれたらしい事に安堵したツバキは、別のモンスターボールをニャスパーの額にコツンと当てる。

 本人が望んでのゲットなためか、掌に落ちたボールは、さしたる抵抗も無く捕獲完了となった。

 こうしてポポ、ミスティ、ファンファンに続く4体目の仲間としてナオを加えたツバキは、嬉しさをこらえきれずに綻んだ表情を浮かべつつ、セキチクシティへの歩みを再開するのだった。

 

 

 

つづく




いじめっ子みたいな書き方になってしまったヤミカラスのファンの方々に謝罪せねばならなそうな第9話おしまいです。ごめんなさい!

舞台はカントーだけど、色々なポケモンを出したいと思った結果、無茶苦茶な舞台設定となってしまいました。
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