蒼天のキズナ   作:劉翼

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うーむ、せっかく盛り上がるポケモンリーグ編なのに月1投稿じゃいつ終わるかわからんぞ…。
まぁ、そんなわけでスカーレットVSガラムその2です。


第102話:攻める事激流の如く!水獣の猛撃!

 ツバキとのバトルに敗れ、選手用通路を進むベラの前に現れたシュルマこと幼馴染みのリード。

 ベラは彼に自身のポケモン達を任せ、警察に自首する旨を伝えるが、リードはなかなか承服しようとしない。

 業を煮やしたベラに胸倉を掴まれて目を瞑るリードだったが、彼女から贈られたのは鉄拳ではなく、頬への軽い口付け。

 それを報酬と称して改めてポケモンの事を託したベラは、ここまで付いてきてくれた彼に感謝の言葉を伝え、その場を後にした。

 一方でスタートしたスカーレット対ガラムの試合は、巨体を誇るアローラナッシーに対して繰り出されたエテボースが苦戦し、スカーレット劣勢というまさかの展開。

 弱小技の火力を増強する《テクニシャン》を駆使した戦術と素早い身のこなしで翻弄するエテボースだが、稀少な特性《しゅうかく》によってオボンの実を繰り返し使用するナッシーの耐久力と広範囲攻撃の嵐に次第にジリ貧となっていく。

 とうとう自傷も辞さない突撃を仕掛けられてエテボースは倒れ、スカーレットの方が先に手持ちを削られる結果となってしまった。

 だが、彼女をよく知るイソラは、大して慌てる様子も無くボックにこう語った。

 「ここからが本番だ」と。

 

 

 

「…………ありがとう。エテボース」

 

 戦闘不能となったエテボースを収納したボールを撫でたスカーレットは、次なるポケモンの入ったボールを手に取る。

 

「さぁ、先鋒戦で敗れたスカーレット選手の2番手は……!?」

 

 スカーレットはブルースの実況に促されるようにボールを握った右腕をまっすぐ前へと向ける。

 易々とは動かないその表情には今、小さく笑みが浮かんでいる。

 

「………………フローゼル」

 

 空中高く放り投げられたボールが開き、飛び出したポケモンは空中で身体を丸め、滞空している間に少なくとも10回は回転する軽快な動作を見せてから着地した。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 立ち上がったその姿で目を引くのは、首から背中にかけて存在する、浮き輪やゴムボートのように空気で伸縮する黄色い器官と、しなやかな胴から伸びる2本の尻尾。

 うみイタチポケモン『フローゼル』。

 海難救助にも活躍するほど達者な泳ぎを見せるポケモンであり、特徴的な浮き袋を活用して緩急をつける独特の泳法で有名だ。

 フローゼルは息を大きく吸って肩を回しながら、目の前の巨大な敵にも臆さず強気に睨んでいる。

 

「おいおい、くさタイプのナッシー相手にみずタイプか?」

 

 さしものガラムも、この選抜には首を傾げている。

 とはいえ、それは落胆や失望のそれではなく、単純にどのように対処してくるか予想ができていないといった意味合いが強い。

 

「(まぁ、みずタイプにゃサブウェポンとしてこおりタイプ技を採用する事が多いから、それが狙いか? だが……攻撃範囲の広い“タネばくだん”を中心に立ち回れば、まだまだ優位は崩れねぇはずだ)」

 

 仮にこおり技を覚えていても、使用するポケモンとタイプが一致しない以上、その威力はさして大きくはない。

 対するナッシーは3つの技がタイプ一致で、元々の能力の高さもあって技の火力はかなりのものだ。

 ナッシーのタイプ構成上、当たれば致命的だが、迎撃は十分可能であり、こちらは“タネばくだん”でじわじわと追いつめていけば良い……というのがガラムの筋書きだ。

 もっとも、相手が相手なので、予想を上回る事態が発生しないとも限らないため警戒は緩めないが。

 

「スカーレット選手の次鋒はフローゼル! ナッシーの巨体にもまったく怯む様子がありませんっ! タイプ相性の上では不利なこの選択が、どう試合の流れを変えていくのか!?」

 

「それでは、フローゼル対ナッシー。バトル…………再開っ!」

 

 ブルースが喋り終えるのを待っていた審判の声を合図に、試合が再開された。

 

「“れいとうビーム”」

 

 バック転して四つん這いになったフローゼルの口から圧縮された冷気が照射され、青白い光線がナッシー目掛け延びていく。

 

「(やっぱこおり技持ちか!)“りゅうのはどう”だっ!」

 

 ナッシーの3つの頭が正面を向き、中央の口から咆哮と共に放たれたエネルギー波に左右の口が放ったものが飲み込まれてその出力を強化する。

 思った通り、メインウェポンである“りゅうのはどう”は相手の“れいとうビーム”とわずかに競り合うと、すぐに押し返し始めた。

 複合タイプは単タイプよりも弱点が増えやすいが、その分攻撃の面においてはタイプ一致でより多くの技の火力が底上げされるのが利点だ。

 

「やはりタイプ一致は強いっ! “れいとうビーム”、有利なはずの“りゅうのはどう”相手に劣勢だぁぁーーーーっっ!!」

 

 そもそも身体のサイズに差がありすぎて、総エネルギー量が桁違いだ。

 力押しではフローゼル側が圧倒的に不利と言えるだろう。

 

「(駄目。やっぱり)……左」

 

 スカーレットとしては、ナッシー相手に必殺技となり得る“れいとうビーム”にどのような対応をしてくるかを測る目的の初撃だったので、変に粘るつもりは無い。

 フローゼルはジリジリと摺り足で左に動き、機を見てパッと華麗な側転で飛び退いた。

 

「ナッシー、一旦下がれ!」

 

 抵抗する力の消えた“りゅうのはどう”は、一直線に延びて地面を焼きながら破砕したが、隙を見せる事を嫌ってかナッシーはすぐに照射をやめてフローゼルを視界に収めつつ距離を取る。

 ここで照射状態のままフローゼルの動きを追う選択肢もあったが、“りゅうのはどう”×3は地面に当たって爆ぜる余波で自分の視界も悪化する欠点がある。

 小柄で素早いフローゼルを見失う恐れがある以上、過度の使用は厳禁と判断したのだ。

 

「今度は“タネばくだん”だっ!」

 

 後退しながら頭頂部から発射された種子が爆発し、何度もこちらを苦しめた子弾が降り注ぐ。

 

「…………待ってた。それ。“ビルドアップ”」

 

 フローゼルは自慢の素早さでよける……事も無く、その場で両腕を振り上げて力むと、全身の筋肉を膨張させ、受け止める態勢を整える。

 

「おぉぉっっとぉ!? フローゼルまさかの“タネばくだん”を受けるつもりかぁっ!?」

 

 筋肉を肥大化させると同時に表皮を硬化させて物理的攻撃力と防御力を向上させる“ビルドアップ”だが、フローゼルは元々耐久力に乏しいポケモンだ。

 果たして弱点技を受け止めきれるか?

 次の瞬間、ナッシーの周辺を除いたフィールド全域に連続して爆発が発生した。

 

「“タネばくだん”炸裂っ!! さすがの制圧力ですっっ!!」

 

 まるで空爆を受けているかのような迫力で爆風と爆炎が絶え間無く連鎖し、それが徐々に止んで静けさが戻る。

 フィールドを支配する黒煙の中を、ナッシーはフローゼルを探して左右を3つの頭で見渡す。

 

「どうだっ!? どうだっっ!? 弱点技を真っ向から受けたフローゼルはどうなったぁっっ!?」

 

 やがて煙が薄くなってくると、その向こうのある一点に何か光が灯っているのが見えてくる。

 

「あれは……!? なんと……なんとなんとなんとぉぉーーっっ!! フローゼルは……健っっ在っっ!! そしてそして! あの手に光っているのは……弱点保険だぁぁーーーーっっ!!」

 

 右手で光輝くカードを翳して煙の中から現れたフローゼルの姿は貫禄に満ちており、ナッシーも思わず息を飲んだ。

 弱点保険は一見すると名前通りの保険証のような形をしていて、ポケモンの持ち物としては珍妙だが、その実特異な能力を秘めており、所持ポケモンが弱点となる技を受けた時、物理、特殊の両攻撃力を大きく引き上げる強力なアイテムなのである。

 

「(弱点保険だと……!? 耐久の低いフローゼルに弱点保険なんざ、とんでもねぇ博打じゃねぇか……! ……いや、これもあいつのポケモンへの信頼の為せる業か……!!)」

 

 ガラムもまた、弱点技を受けながら弱るどころか威風堂々とするフローゼルと、そうなるのが当然という風なスカーレットに心底感服してしまいそうな心持ちだ。

 

「整った。準備。……“かみくだく”」

 

 弱点保険を使うために“タネばくだん”を待っていたが、これでようやくフローゼルは本気を出せるようになり、その場で軽いスクワットをする。

 そして、腰を落として姿勢を低くすると、地面を蹴って一気に最高速度まで加速し、歯を噛み鳴らしながらナッシーへと距離を詰める。

 

「(速いっ!)近付けるな! “タネばくだん”!」

 

 エテボースのスピードもかなりのものだったが、このフローゼルはそれ以上だ。

 狙って攻撃を当てるのは困難だが、速ければ速いほどコントロールは難しくなりがちなのが道理。

 絨毯爆撃を仕掛ければ、自分から爆発の中へ突っ込んでいく事にも期待できるだろう。

 ……だが、ガラムのその狙いは脆くも崩壊する事となった。

 

「な……何ぃぃーーーーっっ!?」

 

 驚愕に顔が引きつるガラムの視線の先。

 そこにいたのは、走りながらも視線を縦横に動かし、2本の尻尾で地面を叩いて身体ごと左右へ跳ねる事によって、眼前の爆発をほとんど減速無しに回避していくフローゼルだった。

 フローゼルの尻尾は進化前のブイゼル同様、水中で回転させて推進力を生み出せるほどに力強く、“ビルドアップ”で全身の筋肉も増強している事もあってこのような芸当が可能となっている。

 パワフルな2本の尻尾……ならばエテボースでもできそうだが、実際のところあちらは尻尾に身体能力の大部分を依存している都合上、本体の手脚で出せる速度がフローゼルに大きく劣っているのだ。

 

「速い! 速いっ!! 速ぁぁぁぁいっっ!! 降り注ぐ爆弾の雨の中、フローゼルまったく怯む事無く突き進むぅぅーーっっ!!」

 

 ブルースが叫んでいる内にフローゼルはすでにナッシーの懐へと飛び込み、ワニが大口を開いて飛びかかるようにそのガッシリとした脚へと噛み付いて強引に慣性を殺しつつナッシーへダメージを与える。

 “ビルドアップ”に弱点保険まで発動したフローゼルの攻撃力は凄まじく、サイズ差を考えれば蚊に刺されたようなものなはずのナッシーは、首を振り回して悶絶している。

 脚を踏み鳴らしてフローゼルを振り解こうともがくが、ドス黒く禍々しいエネルギーを纏った牙はしっかりと獲物を捕らえて離さない。

 そして、ナッシーが重い身体を動かして疲弊している内に、フローゼルは脚を伝って背中側へと回る。

 

「“れいとうビーム”」

 

 ナッシーの首を駆け上ったフローゼルは、頭部付近を蹴って後方へ跳ぶと、下を向いた状態で口から冷気を帯びた光線を放ち、そのままナッシーの背中から頭部までを縦に一閃するように首を動かした。

 

 

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 こちらも物理攻撃同様に弱点保険で強化された事もあって威力は絶大で、ナッシーはあっという間に尻尾などのほんの一部を除いた全身が凍結してしまった。

 ……相手が木の実を使ったしぶとさを持つのなら、その木の実を食べる間すら与えぬ強力無比な一撃で仕留める。それがスカーレットが導き出した《しゅうかく》ナッシーの攻略法だった。

 フローゼルが片膝立ちの体勢で着地すると同時に、ナッシーの氷が砕け散り、その巨体が唸りを上げて傾いでいく。

 やがて地響きと共に、無数の氷の破片が雹の如く降り注ぐ音が鳴り響いた。

 

「………………ナッシー……ナッシー戦闘不能っ! フローゼルの勝ちっ!」

 

 危険な雹が降り止むのを待っていた審判が、足元に注意しながらナッシーへ走り、その状態を確認した後、大声で叫んだ。

 

「圧倒的な巨体と回復力を武器にエテボースを降したナッシー! ついに敗れるぅっ! これでお互い残りは3対3の互角状態に戻りましたぁぁっっ!!」

 

 数の上では確かに互角だが、フローゼルは3つの技が明らかとなり、“ビルドアップ”でダメージを軽減したとはいえ弱点技をノーガードで受け止めており、情報アドバンテージもダメージレースもやや不利だ。

 一方で弱点保険による攻撃面の著しい強化もされ、元々かなり素早い事もあり、ガラム側は次のポケモンの選出には悩む事となるだろう。

 半端な耐久のポケモンでは一撃で勝負が決まりかねない。よほど高耐久か、フローゼルの技に強い耐性を持つポケモンでなければ。

 

「まさか……お前がこんなアッサリやられちまうとはな……ご苦労さん、ナッシー(……厄介な相手だぜ。さて、どうすっかなぁ……)」

 

 と、頭の中で迷うような言葉を浮かべながらも、指先はすでに次のポケモンが入ったボールを捉えていた。

 それはもはやトレーナーの本能が思考に先んじて最適な選択肢を示しているとしか表現のしようが無く、実際ガラム自身も無意識での行動だった。

 

「ん…………へっ、そうだな……確かにお前しかいねぇか。……頼むぜ、マシェードっ!!」

 

 ガラムは己の本能の選択に苦笑しつつも納得し、勢いよくフィールドへボールを投げ込んだ。

 中から現れたのは、白く細い胴体と、紫とピンクで彩られた、ゆっくり明滅する大きなキノコの傘を持つポケモンだ。

 

 

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 アローラ地方では森の中で最も出会いたくないポケモンとして知られる、はっこうポケモンの『マシェード』である。

 当然その理由はマシェードの生態にあり、マシェードはその特徴的なキノコから放つ胞子の発光によって獲物を森の奥深くへと誘い込み、胞子が持つ睡眠効果で昏睡させてから精気を吸い取ってしまうのである。

 遭難した上で体力も気力も著しく低下させられる事がどれだけ恐ろしいかは説明するまでもないだろう。

 キテルグマが恐れられる理由を直接的な危険性とするならば、マシェードは間接的に命の危機を引き起こすポケモンと言える。

 獲物を視界に捉えたマシェードは、指先に装着された鋭く光沢のある爪をカチカチと鳴らして威嚇している。

 これは先制の爪という道具で、素早さに乏しいポケモンでも、相手より先手を打てる事があるというもの。確実性は無いが、強烈な逆転の可能性も秘めた道具である。

 

「(……キノコのポケモン。多い。厄介なの。……油断できない)」

 

 ファンシーな色合いながらもどこか不気味さも醸し出しているマシェードに、スカーレットの思考は警戒の色を強める。

 マシェードに限らず、パラセクトやキノガッサなど、キノコを持つポケモンは“キノコのほうし”を始め状態異常を引き起こす技を豊富に習得する曲者揃いであり、対応を誤ればこちらの戦術をガタガタにされてしまう恐れがある。

 

「ガラム選手は2体目もくさタイプ! フローゼルは強力な“れいとうビーム”を持っていますが、どのような策を以てこれを破るつもりなのかっ!?」

 

 ブルースの言う通りだ。

 抜群の運動性に加え、弱点保険の強化を受けた射程の長い“れいとうビーム”を覚えているフローゼルは、くさタイプ始めこおり技を弱点に持つポケモンには悪夢のような相手である。

 それを踏まえた上でマシェードを繰り出したからには、その不利を覆す策を用意してあるのだろう。

 

「(さぁて……この博打に勝てねぇと後がキツいが……)」

 

 当のガラムはといえば、実はマシェードを出した上での勝機は、かなりの運否天賦の先にあるものだった。

 賭けに負ければ一気に形勢不利。だが、勝ちさえすれば相手方に傾きつつある戦局をこちらへ揺り戻す事もできるし、そこまでは行かずとも再び対等な状態に戻せるだろう。

 

「それでは、フローゼル対マシェード。試合…………再開っ!」

 

「“れいとうビーム”」

 

 初手で片を付けるべくスカーレットが動き、開かれたフローゼルの口に冷気が集まる。

 

「“ひかりのかべ”だっ!」

 

 対するガラムの指示は、特殊攻撃ダメージを軽減する障壁を展開する“ひかりのかべ”。

 やはり技の下準備が整うのはフローゼルの方が早い。

 と、思われたその時。マシェードの持つ先制の爪が太陽光を鏡のように反射し、フローゼルの目をほんの一瞬だけ潰した。

 この一瞬が致命的で、怯んだフローゼルの技の出が遅れ、マシェードに先制を許してしまった。

 フローゼルは眩しさに目を瞑りながらも、先ほどまで敵のいた地点へ向けて“れいとうビーム”を放つ。

 だが、すでにマシェードは周囲に透明な光の障壁を張っており、発射された光線はその壁に当たって一瞬静止し、直後に出力が落ちた状態で貫通した。

 元がかなりの威力だったため、障壁で軽減されてもなお無視できないダメージだが、耐久力を中心に鍛えたガラムのマシェードは見事これに耐える。

 両腕を交差させ、さらに大きな傘を正面に向ける防御体勢となっていたマシェードは上半身を振り回し、表面に付着した氷と霜を払い落とし、ガッツポーズを決めて健在ぶりをアピールした。

 

「耐えたぁぁーーーーっっ!! “ひかりのかべ”を駆使して、マシェード耐えましたぁぁーーーーっっ!!」

 

「…………お見事」

 

 これにはスカーレットも素直に称賛するしかない。

 これまで今の状態のフローゼルから弱点技を食らって耐えた相手は皆無であり、ガラムのマシェードはその第一号となったのだ。

 

「(最初の賭けは勝った! お次はどうだ……!)“ちからをすいとる”だっ!!」

 

 マシェードが両手を翳すと、フローゼルの両脇の地面から半透明な手のような物が伸び、まだ視界がチカチカしていて反応の遅れたフローゼルを掴む。

 そのままもがくフローゼルから何かを吸い上げるような挙動を見せた後、手は拘束を解いて地面の中へ消えていった。

 

「おぉっっとぉっ!! “ちからをすいとる”は、回復技っ! しかも、相手の攻撃力が高いほど多く回復し、その上で攻撃力を下げてしまう厄介な技ですっっ!! フローゼル、力が抜けてしまいましたぁぁっっ!!」

 

 体力的なダメージは無いのだが、全身の疲労感が急激に増してしまい、フローゼルは足元がおぼつかない。

 物理攻撃力の低下はもちろん、他の動きも若干鈍ってしまいそうだ。

 

「(…………)」

 

 元々使い手がそう多くはない技なため、スカーレットも実際に見るのはこれが初めてだが、確かに厄介極まりない。

 やはり未知の相手とのバトルは予想を大きく裏切ってくれるもので、それがまた楽しい。

 

「…………ふふ……」

 

 スカーレットの口元に笑みが浮かぶ。

 “れいとうビーム”の威力に変化は無いが、脱力させられて動作に力が入らないのは痛い、

 攻撃動作の初動が遅れ、相手との攻防に支障が出る可能性も大いにある。

 そんな危険な状況下にあっても、スカーレットはバトルが楽しくて楽しくて仕方無いのだ。

 

「…………“れいとうビーム”!」

 

 笑みを湛えた表情のままにスカーレットが指示を出すと、フローゼルは腰を落として足幅を開き、尻尾を接地させて口を開く。

 恐らくは直立状態では発射の反動に耐えきれないほどに筋肉疲労が深刻なのだろう。

 が、その隙を見逃すガラムではない。

 

「おせぇっ! “エナジーボール”っ!」

 

 マシェードが上半身を後方へ捻り、右手にエネルギー球を生成すると、見事な投球フォームでやや上向きにフローゼルへと投げ付けた。

 直後、フローゼルも口からマシェード目掛けて“れいとうビーム”を発射した。

 それはほんの一瞬の差であったが、先にも述べた通り、その一瞬は致命的。

 ポケモンリーグ準決勝を戦うほどのトレーナー達にとっては、速さにしろ、技の威力にしろ、ほんのわずかな差が勝敗を分けるほど重要な場合も珍しくない。

 2つのエネルギー体は激突……する事は無く、放たれた高度の差から“エナジーボール”が上、“れいとうビーム”がその下……と、それぞれの弾道を保ったまま敵へと向かっていく。

 だが、一足先に攻撃を終えたマシェードは、再び“ひかりのかべ”を盾にした防御体勢に入る猶予があったのに対し、出遅れたフローゼルはその攻撃体勢のままに放物線を描いて落ちてくる“エナジーボール”を浴びざるを得ない。

 

「(決まった……!)」

 

 ナッシー戦で消耗したフローゼルが、今また効果抜群の“エナジーボール”をノーガードで受ければ、間違い無く勝負は決まる。

 緑色のエネルギー球は、無防備な上方からフローゼルへ襲いかかり、着弾と同時に大きな爆発を起こした。

 一方のマシェードは、万全の防備によって“れいとうビーム”の被害を軽減して怪しく笑う。

 

「“ちからをすいとる”を受けた弊害かっ!? フローゼルこれまでかぁぁーーーーっっ!?」

 

「………………」

 

 スカーレットは瞬きもせずに横へ広がる黒煙を見つめる。

 そして。

 

「“かみくだく”」

 

 まったく変わらない調子のままに技名を口にした瞬間、大きく口を開いたフローゼルが、煙を引き裂いて弾丸の如く飛び出してきた。

 

「何っ!?」

 

 不意を突かれたマシェードは右腕に噛み付かれ、フローゼルの勢いもあってバランスを崩して倒れてしまった。

 

「マシェードっ! な、なんであんな…………っ!?」

 

 ガラムが視線をフローゼルのいた方へ戻すと、薄くなる煙の隙間から覗く地面がキラキラと光っているではないか。

 氷だ。

 地面が一直線の道を作るように凍っているのだ。

 

「ま……まさか……! あのやたら低い姿勢で撃った“れいとうビーム”は……!」

 

 あの腰を落とした体勢は技の反動を防ぐためでなく、この地面の凍結を狙ったもの……そして、その凍った地面へすぐさま飛び乗るためのもの。

 疲労しているにもかかわらずあれだけの速度で飛び付いてこれたのも、氷の上を滑ってきたならば納得がいく。

 

「くそっ! “エナジーボール”だっ!」

 

 頭の傘の大きさが災いし、仰向けに倒れた状態から起き上がれないマシェードは、状況を打開すべく手の中にエネルギー球を生成し始める。

 

「“アクアブレイク”」

 

 だが、完全にマウントを取る形となったフローゼルはそれを許さない。

 一瞬で両手の爪に水流を纏ったフローゼルは、払い除けるような動作で左腕を薙ぎ、生成途中の“エナジーボール”を弾き飛ばしてしまう。

 こうなってしまうともうタイプ相性などはまったく意味が無い。

 フローゼルは両腕を大きく振りかぶると、身体の倦怠感を振り払うかの如く“アクアブレイク”を連打し、もがくマシェードに怒涛の追撃を叩き込む。

 

「あぁぁーーーーっっとぉっっ!! 容赦無いっ! 容赦無いフローゼルの連続攻撃ぃっっ!! マシェード、腕で防御しますが、反撃する間も無いっっ!!」

 

 とはいえ、さすがにフローゼルも限界が近い。

 ナッシーからの連戦と“ちからをすいとる”で溜まった疲労と脱力感を強引に捩じ伏せて身体を動かしているので、筋肉や節々が悲鳴を上げ始めている。

 それを察したスカーレットも、締めに動く事にした。

 

「……“れいとうビーム”。持ち上げて」

 

 フローゼルは雄叫びを上げて両腕でマシェードを掴むと、今の自身が出せる渾身の力を込めて真上に持ち上げ、口を開く。

 マシェードもバタバタと暴れて抵抗するが、捨て身の覚悟であるフローゼルはよろめきつつもその手は放さない。

 そして、フローゼルの口内が光ったかと思うと、それまでで最大出力の“れいとうビーム”が発射され、マシェードの身体を凍結させながら空中へ押し上げていく。

 見る見る内に氷に閉じ込められていくマシェードの動きが停止すると、天高く伸びていた青白い光の柱が細くなっていき、フィールドにはキラキラと細氷が降り注ぐ。

 息絶え絶えのままに空を仰ぐフローゼルの背後に巨大な氷塊が落着し、右手に握り拳を作ったフローゼルが裏拳で小突くと、そこからヒビが広がった氷は粉々に砕け散り、中からぐったりとしたマシェードが現れてうつ伏せに倒れた。

 

「……マシェード戦闘不能っ! フローゼルの勝ちっ!」

 

 その宣言と、脚が震えながらも右腕を高く突き上げるフローゼルの姿に、客席から歓声が上がる。

 どう見ても立っているのがやっとというところである。

 

「……ぅし、強敵相手によくやったぜ、マシェード」

 

 ガラムはマシェードを戻したボールをしまうと、フローゼルをじっと見つめる。

 

「(エテボース戦の疲れもあったはあったが、あの状態から二枚抜きしやがるかよ……なんて奴だ)」

 

 ガラムは驚きが隠せないようだが、実はフローゼルは、スカーレットの手持ちの中ではミミロップに次いでゲットした古参ポケモン。

 『鬼の三本角(トライホーン)』の3体は別格だが、フローゼルもそれに次ぐ実力を持つポケモンだった。

 これまで弱点保険を発動したフローゼルが攻めきれなかった相手は少なく、その実力には絶対の自信と信頼があったからこそ、この結果にはスカーレットも驚かされたのだ。

 さらに興味深いのは、バトル開始から今に至るまで、ガラムの技の指示や考案する戦術が、驚異的な早さで正確さや鋭さを増している事。

 つまり、バトルの中での学習と成長が、異常なほどに早いのだ。

 

「(……面白い。本当に)」

 

 アローラという、自分にとって未知のエリアからやって来たこのトレーナーには、まだまだ潜在能力が眠っているに違いない。

 と、なれば期待を寄せるなという方が無理な話と言えるだろう。

 きっと彼はバトルが長引けば長引くほど手強くなる。できればどこまで強くなるかを見たいが……。

 

「(……できない。それは)」

 

 意図的に長引かせるとなれば、それは手を抜くという侮辱行為にしかならず、真剣勝負中のポケモントレーナーとしては忌避すべき行いである。

 何より決勝戦には是が非でも進みたい。そこには今、自分が最も興味を抱いているトレーナーが待っている。

 最初に出会った時は、ライバルが連れている小動物のような少女としか映らなかったが、その後は会う度にバトルセンスも性格も劇的な変化を遂げ、いつの間にかかつて鬼才として恐れられたトレーナーを破り、ポケモンリーグ初参加にして決勝戦にまで進出するほどのトレーナーとなっていた。

 その急激な成長は、まるでポケモンの進化のようだ。

 

「(…………ツバキ)」

 

 スーパーコンピューターのような判断力や思考能力を持つわけでも、ベテランの如き経験や風格を持つわけでもない。

 なのに不思議と興味を引かれるあの少女が、一足先に決勝戦へ駒を進めているのだ。

 当然の事ながら眼前の好敵手とのバトルも全力で楽しむが、真の目的はそれを踏み越えたさらにその先にある。

 

「(……全力で)」

 

 そう、全力だ。ガラムは全力で叩き潰すに相応しい相手なのだ。

 スカーレットはフローゼルのボールを取り出し、センサー部をその背中に向ける。

 

「…………お疲れ様。休んで。戻って」

 

 ボールから放たれた赤い光線に包まれ、フローゼルがフィールドから姿を消すと、入れ替わりに別のボールが握られる。

 

「おっと、このタイミングでスカーレット選手もポケモン交代のようです! さすがに消耗が大きいか!?」

 

「………………終わらせる。そろそろ」

 

 スカーレットはボールを持った右腕をゆっくりと上げ、ガラムへと向けながら、ぼそりと呟く。

 これはつまり、この1体でガラムの残る2体を撃破するという宣言も同然。

 それは決して、侮っているわけでも、驕りでもない。実力に裏打ちされた、絶対的な勝利への自信と宣誓だ。

 そして、とうとうスカーレットを『鬼』たらしめる三本の角の一角が出陣する。

 

「…………行くよ。……ルカリオ」

 

 

 

つづく




今回も駄文雑文落書きにお付き合いいただきありがとうございます!

なんか個人的にはフローゼルって「うーん、シンオウを感じる」ってな感じのポケモンなんですよね。
なんというかシンオウといえばこのポケモン!みたいな。
だから活躍させたい欲が溢れちゃうんですよねぇ…。
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