コロコロと場面転換ごめんなさい。
13番道路でニャスパーのナオを仲間に加えたツバキは、14番、15番道路の境目で技の練習に励んでいた。
「ポポくん、“ブレイブバード”!」
大きく上昇したポポは、ある程度の高さまで来たところで急降下。翼を折り畳み、周囲の空気をオーラとして身に纏う。
そして、標的である大きな岩に向かって猛然と突進していく。……が、その速度は見る見る落ちていき、岩に当たる頃にはコツンという音がする程度になっていた。“たいあたり”にすらなっていない。
あからさまに気落ちするポポの肩を叩いて励ましながら、ツバキはこの結果を分析する。
「うぅん……やっぱり“でんこうせっか”のスピードを加えないと失敗しちゃうね……。あ、でも大丈夫だよポポくん! きっとたくさん練習すればできるようになるよ“ブレイブバード”!」
と、ここでツバキは、手元が妙に暗い事に気付く。
「あれ……? あっ、た、大変! もう夕日があんなに沈んで……」
そう、練習に夢中になっていたツバキは、時間の経過をすっかり忘れていたのである。
セキチクシティまでは、まだ15番道路を越えねばならないのに、今まさに日が沈もうとしているのだ。
「うう……近くにポケモンセンターも無いし……テントを張って野宿するしかないかな……」
自分の迂闊さを呪いながら嘆息するツバキだったが、突然背後から声をかけられる。
「……もし、そこの娘さん。何かお困りかな」
「ひゃあうっ!?」
驚いたツバキが飛び上がり、恐る恐る振り向くと、そこには網笠を被った僧のような人物が、錫杖を持って佇んでいた。
誰がどう見ても不審者なのだが、不思議と警戒心は湧かなかった。
「この辺りは夜になるとデルビルやグラエナの群れが跋扈する。早く家にお帰りなされ」
「あ、えっと……わ、わたし旅をしてて……予定では今日中にセキチクシティに着くはずだったんですけど、うっかりしちゃってて……」
網笠で相手の顔が見えないからか、ツバキの人見知りはあまり発動せず、思いの外すらすらと現状説明ができた。
「ふむ、それはお困りであろう。よろしい、拙僧もセキチクシティに戻るところ故、よろしければご一緒しましょう」
その言葉にツバキの顔がパアッと明るくなる。
「ほ、本当ですか!? あ、ありがとうございます……!」
「なに、旅は道連れと言うでな。では、急ぎましょうぞ」
ツバキはポケモン達をボールに戻すと、先を歩き始めた僧の後を付いて歩く。
しばらく歩くと、ツバキの緊張を解そうとしているのか、僧は世間話を持ちかけてくる。
「娘さんはどちらからいらした」
「えっと、グレンタウンです。ポケモンリーグに参加したくて、ジム巡りの旅をしてます」
「ふむ、グレンタウンからという事は、すでにクチバジムは突破なされたのかな?」
「かなり苦労しましたけど、なんとか」
「ふむふむ、それは重畳。では次がセキチクジムというわけですかな」
「はい、そうです。それでジム戦に向けて特訓してたんですけど……うっかりしてこんな時間に……」
「なるほど。なに、娘さんくらいの頃はむしろどんどん失敗なされよ。その経験も、必ずや後の助けとなるであろう。……む」
ツバキの話に相槌を打っていた僧が、突然足を止め、右腕を伸ばしてツバキを制止する。
ツバキも立ち止まって前を見ると、3体の獣型のポケモンが唸り声を上げながら近付いてきていた。かみつきポケモンの『グラエナ』だ。
「ひっ……!」
「下がっておられよ」
怯えるツバキを下がらせると、僧はモンスターボールを取り出す。
「参れアリアドス!」
投げたボールから姿を現したのは、巨大な蜘蛛の姿をしたポケモン。あしながポケモンの『アリアドス』である。
地面に爪を突き立てて軽快に着地したものの、グラエナの内2体に吠えつかれ、一歩後退りする。相手を怯えさせ、攻撃に力が入らないようにするグラエナの特性《いかく》だ。
「(《いかく》持ちは2体……という事は、残りの1体は《はやあし》かな)」
何事か考え込む僧を尻目に、グラエナ達が牙を剥いて一斉に飛びかかってきた。“かみくだく”だ。
「“ふいうち”」
しかし、アリアドスの姿が一瞬にして消え、上空からグラエナの1体に爪で攻撃を仕掛ける。
咄嗟の出来事に、グラエナ達は理解と対応が追い付かないらしい。
「今のグラエナに“どくづき”」
そして、間髪入れず毒の滲み出た爪による“どくづき”で追撃が入る。
「“とどめばり”」
さらに、アリアドスが口から吐き出した細い針がクリーンヒットし、最初の1体が倒れる。
その瞬間、アリアドスの纏う空気が先ほどまでと大きく変わり、闘気が身体から溢れ出る。
「今のは……?」
「“とどめばり”は、相手にトドメを刺した時、己の戦意を大きく高揚させる技。これで《いかく》はかき消した」
仲間が倒された事で激昂したグラエナは、左右に分かれ、片方は“かみなりのキバ”で、そしてもう片方は“ほのおのキバ”で同時に襲いかかってきた。
「ジャンプして地面に“ねばねばネット”」
アリアドスは地に付いた4本の脚を器用に使ってジャンプすると、直前まで自分のいた場所に口から粘性の糸を吐いた。
飛びかかっていたグラエナ達は当然“ねばねばネット”に突っ込む事になり、一塊になって身動きを封じられる。
「“どくづき”」
そして、ジャンプした姿勢から前傾姿勢となったアリアドスが、両前脚に毒を纏わせ放った“どくづき”が2体のグラエナを直撃し、ノックアウトとなった。
「よくやったアリアドス」
アリアドスをボールに戻した僧はグラエナ達に近付くと、懐から取り出したオボンの実を与えながら耳打ちする。
「これに懲りたら、もう人を襲うんじゃないよ?」
小声だったのでツバキにはよく聞こえなかったが、木の実を食べて起き上がったグラエナ達は、そそくさとその場を走り去っていった。
「す……すごいです……! もしかして有名なトレーナーさんですか!?」
「はっは、何を仰るか。拙僧はただの世を儚む修行僧よ。さ、セキチクシティは目と鼻の先……参りますかな」
やがて15番道路に設置されたゲートが見え、そこを通り抜けるとようやくセキチクシティへ到着した。
「ポケモンセンターはあちらの階段を上ってすぐ見えてくる。早く休まれるがよかろう」
「あ、ありがとうございました……! あの、わたしツバキって言います。えと、お世話になりました、さようなら……!」
手を振ってポケモンセンターへ駆けていくツバキに手を振り返しながら、僧はポツリと呟く。
「ツバキ、か。ふふっ、面白い子だな。……待ってるよ、ツバキ」
クスクスと小さく笑いながら背を向け歩き出した僧の姿は、やがて深夜のセキチクシティの闇の中に溶けていった。
つづく
今回も駄文、落書きにお付き合いいただきありがとうございました!
今回登場の不審者…もとい修行僧は、ちゃんと再登場します。