謎の僧の助力によって、どうにか野宿を回避してセキチクシティに到着したツバキ。
翌朝、少し寝坊した彼女はポケモン達と遅めの朝食を済ませた後、15番道路に戻っていた。目的はもちろん、セキチクジム攻略に向けた特訓だ。
「えっと、ナオの特性は《マイペース》で、使える技は“ねんりき”、“ひかりのかべ”、“サイケこうせん”、“あくび”……」
壊れたモンスターボールを抱いたナオを膝に乗せ、図鑑に登録したナオのデータを確認して思案する。
周りではミスティとファンファンが追いかけっこを始め、ハメを外しすぎないようにポポがそれを見張っている。
ツバキの脳裏に映るのは、昨夜の僧とグラエナのバトル。
「(昨日のお坊さん凄かった……3対1なのにグラエナの攻撃を全然受けないで勝って、その後ちゃんと木の実をあげる優しさもあって……わたしも、あんなふうに……!)」
気合いを入れ直したツバキは、ナオを撫でた後に地面に下ろし、後ろで遊ぶポポ達を振り返る。
「ポポくん、ミスティ、ファンファン! こっちに来て!」
ポポを先頭に、呼ばれた3体が戻ってくる。
「ナオが仲間になってくれたおかげで偶数になったから、今日は対戦する形で特訓したいの。相手の事を理解するのにも良いと思う」
真っ先に反応したのはミスティとファンファンだ。
お互いに距離を取って、やる気も準備も万端といったところか。
「あはは……や、やる気十分だね……。うん、じゃあ、まずはミスティとファンファンでバトルしよう」
葉を揺らしてファンファンを睨み付けるミスティと、鼻を振り回してツバキの合図を待つファンファン。
2体がしっかり見える位置に立ったツバキは、大きく息を吸ってバトルの合図を出した。
「まずは好きなように動いてみて。それじゃあバトル……始め!」
先に動いたのはミスティだ。大きく飛び上がって葉を揺らし、“しびれごな”を撒き散らす。
「そっか……高い所からバラ撒けば、より広い範囲に……覚えておかなきゃ」
対するファンファンは、身体を丸めて“ころがる”を繰り出し、“しびれごな”の効果範囲から急速離脱。そのまま着地したばかりのミスティに激突する。
「“ころがる”は攻撃だけじゃなく、歩くより早く移動するのにも使える……これも忘れないようにしないと」
ツバキの目的は、ポケモン達の自然な動きを観察し、それぞれにあるクセや、個々の発想を理解して実際のバトルに転用する事だ。ポケモンの個体ごとに合った戦い方でなければ、十分に実力を発揮できないという考え故である。
それでなくともポケモン自身が考えた動きは、初心者であるツバキにとっては新たな発見が多いのだ。
さて、バトルの方はと言えば、着地の瞬間に“ころがる”を受け、再度空中へ放り出されたミスティが、今度は“どくのこな”を自分の周りに振り撒いて、ファンファンの接近を防ぎつつ地面に降り立った。
「なるほど、ああやってジャンプ後の隙を埋めるのもアリなんだ……」
“どくのこな”が晴れるのを待つファンファンに、ミスティが反撃を開始。動き回りながら次々に“ようかいえき”をファンファンに吐きつけるが、ステップでかわされる。
「ミスティすごい……あんなに連続で“ようかいえき”を吐けるんだ。ん……?」
ツバキの目に映ったのは、ファンファンに回避されて地面に残った“ようかいえき”だ。
「……あれ、使えるかも……!」
ツバキの頭の中に、これを利用した新たな戦術が浮かび上がるが、その間も2体はヒートアップしてバトルを続ける。
と、その時だ。突然ミスティが動きを止め、プルプルと震え出した。
「……!? ミスティどうしたの!?」
心配して駆け寄ろうとしたツバキであったが、ミスティはキッと目を見開き、ジャンプしながら葉から青白い粉を噴出する。“どくのこな”とも“しびれごな”とも違う色だ。
動きを止めたミスティに油断していたファンファンは、もろにその粉を浴びてしまい、何回か瞬きをした後に目を瞑り、その場に倒れ込んでしまった。
「これは……!?」
急いで図鑑を開き、登録していたミスティの個体データを見ると、“すいとる”の代わりに“ねむりごな”を修得していた。
「やった、新しい技……! “ねむりごな”かぁ……!」
2体のバトルの中でまずまずの情報と、新たな技を得たツバキは、手を叩いてミスティとファンファンを止める。
その合図にミスティは、眠るファンファンを葉でペシペシ叩いて起こしてバトル中止を伝える。
「2人とも、頑張ったね! 今はそこまでにしよう。これ以上は怪我しちゃうかもしれないからね」
そして、バッグからキズぐすりを取り出すと、寄ってきた2体に順番に吹き付け、塗り込んでいく。
「次はポポくんとナオの番だよ。セキチクジムはどくタイプ専門らしいから、特にナオが鍵になるかもしれないよ!」
ツバキの熱意が伝わっているのかいないのか、ナオはクワァ~と欠伸をするが、バトルはちゃんとするつもりのようで、ずっと持っていたモンスターボールを地面に置いた。
「ミスティとファンファンの時と同じように、まずは好きに動いてね。じゃあ……始め!」
向かい合った状態から、ポポが素早く“でんこうせっか”を仕掛ける。
それに対してナオは、ふわりと宙に浮かび上がり、不規則な動きで回避した。
「す、すごい、浮いてる……これがエスパータイプ……! それにポポくんの“でんこうせっか”のスピードにも対応してる……!」
通過したポポに背後から“サイケこうせん”を発射するが、ポポも負けじと旋回してかわし、お返しに“かぜおこし”をお見舞いする。
突然の風にバランスを取れなくなったナオに、再度“でんこうせっか”で突進してダメージを与える。
「やっぱりポポくんは、“かぜおこし”から他の技に繋げるパターンが多い。あとは“ブレイブバード”をちゃんと出せるようになると良いんだけど、どうすれば……」
思案するツバキを余所に、ナオもいよいよ本気になり、三度“でんこうせっか”を仕掛けてきたポポを“ねんりき”で拘束する。
不可思議な力場に捕らわれたポポはバタバタと羽ばたくものの、その場から動けないようだ。
「ね、“ねんりき”ってすごい……! ヤミカラスの時もこれを使えば……って、あくタイプにエスパータイプの技は効かないんだっけ……」
素朴な疑問からタイプ相性を思い出したツバキは、1人うんうんと頷きながらバトルの行方を見守る。
ナオは“ねんりき”で捕らえたポポを持ち上げ、そのまま地面に叩き落とし、さらに“サイケこうせん”で追撃する。
だが、着弾寸前でポポは“でんこうせっか”で急速離脱。爆風に紛れて空に舞い上がり、遥か上空から空気を裂いて突撃する。“ブレイブバード”だ。
“ねんりき”で止めようとするナオだが、勢いがありすぎて抑えきれず、ギリギリで直撃は回避したものの、衝撃で吹き飛ばされてしまった。
「そこまで! ……うん、2人もよく頑張ったね! さ、キズぐすり付けるからこっちに来てね」
起き上がったポポと、置いておいたボールを回収したナオが歩み寄ってくると、ミスティ達と同様にキズぐすりを塗り込んでいく。
「高い所から落ちながら使うと成功するんだけど……やっぱりそれなりのスピードが必要なんだよね。つまり“ブレイブバード”単独で使うなら、素早くスピードを上げられるだけの体力や筋肉が必要って事なのかな」
クチバジムの時には“でんこうせっか”+落下速度だったので成功したが、全てのジムが落下だけで“ブレイブバード”まで持っていけるだけの天井の高さがあるとも限らない。
そういった予備動作無しでの“ブレイブバード”成功には、今のままではポポの体力が足りないのかもしれない。
「うぅん……筋力トレーニング? っていう話でもないかなぁ……」
ポポを持ち上げ、胸や翼の筋肉を指先で突つく。
「……まぁ、すぐにどうにかなる事でもないのかも。ジム巡りや特訓を続けてれば、自然と体力も付くだろうし……ゆっくり頑張っていこうね、ポポくん」
ポポの頭を撫でながら、ミスティ、ファンファン、ナオも抱き寄せる。
「ポポくんだけじゃないよ。ミスティも、ファンファンも、ナオも……もちろんわたしも。皆で一緒に強くなろうね。そのためにも、まずは目指せセキチクジム突破……! 力を合わせて頑張ろう!」
ツバキの言葉に思い思いの鳴き声を返す4体。
耳に聞こえる声は違えど、胸に響く想いは同じ……お互いに確かな団結の意志を感じ取ったツバキ達は、休憩を挟み、夕暮れまで特訓を続けたのだった。
つづく
今回はここまでとなります。お付き合いいただきありがとうございます。
タマゴ技や隠れ特性を持った野生ポケモン(ファンファン、ナオ)がいますが、ORASの図鑑ナビ機能で出てくるようなものとお考えください。