セキチクジム突破に向けて特訓を重ねたツバキ達。
翌日の昼……十分に英気を養い、いよいよ今日はセキチクジムへの挑戦の日だ。
「皆の体力満タン、ご飯も食休みも準備運動も済ませて、特性と技の再確認も終わり。……うん、大丈夫……!」
モンスターボールを腰のベルトに着け、バッグを肩からかけ、帽子を被り、その上にポポを乗せてジョーイさんにお礼を言うと、ツバキは意気揚々とポケモンセンターを後にする。
……が。
「……ジムの場所聞いてくるの忘れた……」
さっきまでの気合いはどこへやら、今さら戻ってジョーイさんに訊ねるのも恥ずかしいツバキは、うろうろし始めてしまう。
心なしかポポの表情にも呆れの色が見える。
「君、どうかしたのかね?」
と、ツバキが困っているのを察してか、道行く初老の男性が声をかけてくる。
「あ、その……えっと……す、すみません、セキチクジムの場所……ご存じですか……?」
「ああ、ジムなら……ほら、あそこだよ」
男性はポケモンセンターの三軒隣りの建物を指差す。
ジムというより忍者屋敷な風情であるが。
「あ、ありがとうございました!」
ツバキはペコリと頭を下げると、ジムへ向かって歩き出した。
「ふわぁ……クチバジムとはずいぶんイメージが違うなぁ……って、いけないいけない……!」
物珍しそうにセキチクジムを見上げていたツバキだったが、観光ではなく挑戦に来た事を思い出して、いよいよ足を踏み入れる。
「おや、挑戦者の方ですか?」
入り口付近には1人の男性が立っており、ツバキの来訪に気付くと丁寧に声をかけてきた。
「は、はいっ……!」
「かしこまりました。ではあちらの扉にお進みください」
男性が指し示した扉……障子を開けると、そこは一面の畳張りの部屋。
そしてその中央には、忍者装束に身を包んだ男性が瞑想するように佇んでいた。
「……挑戦者か。ファ、ファ、ファ……拙者の名はキョウ……トージョウリーグ四天王のキョウよ」
四天王キョウと名乗る男性の言葉に、ツバキは一瞬理解が追い付かず、目をパチクリさせている。
「え………………えぇぇーーーーっっ!? し、四天王さん!? な、なんで!? ジ、ジムリーダーさんじゃ……!?」
……と、ヘナヘナと腰を抜かすツバキを見て、キョウはクックッと笑いを溢した。
「く……くく……アッハッハッハ! いや、ごめんごめん! そこまで驚かす気じゃなかったんだけどね」
かと思うと、突然砕けた口調となり、懐から玉のような物を取り出して床に投げ付ける。すると大量の煙が発生し、キョウの姿を覆い隠した。
煙が晴れると、そこにはキョウの姿は無く、ポニーテールを靡かせた1人の女性が立っていた。
「え……? え?」
訳もわからず尻餅をついていたツバキは、ひたすら頭の上に「?」を浮かべている。
「ふふ……こっちがアタイの本当の顔。アタイはアンズ。四天王キョウの娘にして、セキチクジムリーダーのアンズだよ! 待ってたよツバキ!」
女性はツバキに手を伸ばして引っ張り起こすと、改めて挨拶をしてきた。……が、ツバキはその言葉に違和感を覚える。
「あ、あれ……? わたしまだ名前を……」
「何言ってんの、こないだ名乗ってくれたでしょ?」
と、アンズは再度床に煙玉を投げ付け、今度は網笠を被った修行僧に姿を変える。
「思い出していただけたかな?」
「あ……ああっ! こ、この前のお坊さん……!?」
ツバキが今日何度目かわからぬ驚愕の表情を見せると、三度煙玉が炸裂し、再びアンズが姿を現す。
が、同時にジリリリとけたたましく警報音が鳴り始めた。
「あちゃあ……また煙玉使いすぎて煙感知器が……」
「アンズさんまたやったんですか!?」
ワタワタするアンズに、入り口にいた男性が苦言を呈しにやってくる。
しばらくして警報は止まり、アンズは再度ツバキと向かい合う。
「こほん……改めてツバキ、アタイがジムリーダーのアンズだよ。あ、ちなみにさっきツバキにジムの場所教えたのもアタイね」
「えぇっ!?」
だとしたら一体彼女はいつの間にツバキより先にジムへ入って変装をしたのか……さすが忍者と言うべきか。
「で、この前のはまぁ、パトロールみたいな物でね。ツバキも見た通り、あの辺は夜になるとちょっと危ないポケモンもいるからさ」
「そ、そうだったんですか……」
立て続けにあれこれ発覚し、ツバキは完全に呆気に取られてしまっていた。
そんなツバキの心境を知ってか知らずか、アンズはぐいっと顔を近付けてくる。
「で、今日はジム戦だよね?」
「は、はい……」
「ふふっ、良いよ、すぐにでも始めようよ。あ、ちょっと離れてて」
アンズはツバキを畳の上からどかせ、自身もその場を離れて、それぞれ部屋の隅に寄る。
「忍法・畳返し!」
そして、アンズがパチンと指を鳴らすと、敷き詰められた畳がバタバタと裏返り、あっという間にバトルフィールドへと変貌する。
「わぁ……本当に忍者屋敷みたい……」
「えっと、ツバキは確かクチバジム突破で、バッジ1個だよね?」
「あ、は、はい、そうです」
「んじゃ、トレーナーレベル2っと。あ、サイゾウ審判お願い」
アンズは壁に備え付けられたコンソールを弄りながら先ほどの男性……サイゾウに指示を出し、露出した台座からモンスターボール2つを取り出す。
「わかりました。……それでは、セキチクジム、トレーナーレベル2のルール説明です。まず、使用可能ポケモンはお互いに2体となります」
「2体……」
お互いに使用数は同じ……すなわち、クチバジムの時のように能力差を数で補う事はできず、完全に戦術による勝負となるというわけだ。
「……ポポくん、ファンファン、悪いけど今回は見守って、応援してて?」
ツバキはボールからファンファンを出すと、ポポと共に見学に回す事にした。
「戦闘不能以外でのポケモン交代は挑戦者のみ認められ、先に相手のポケモンを2体とも戦闘不能にした側の勝利となります。よろしいですか?」
「は、はいっ!」
「うん、大丈夫だよ。」
「では、両者、最初のポケモンを」
アンズはモンスターボールを構えながら不敵に笑う。
「……ふふっ、どんなバトルになるか楽しみだねツバキ。惑わし、眠らせ、毒を食らわせる妖しの術……どくタイプの妙、とくとご覧あれ! ジムリーダー・アンズ、参る!」
――――ジムリーダーのアンズが勝負を仕掛けてきた!
「出番だよズバット!」
アンズの投げたボールから飛び出したのは、青い身体を持つこうもりポケモンの『ズバット』だ。
「ミ、ミスティお願い!」
それに対するツバキは、ミスティを繰り出す。
空中で1回転して着地したミスティは(手が無いのでよくわからないが)ファイティングポーズを取って、戦意十分のようだ。
それを見たアンズは、笑みを崩さず冷静にツバキの思惑を分析し始める。
「(なるほど、毒状態を防ぐためにナゾノクサで来たか。けど、ズバットはひこうタイプも併せ持つ……なら、くさタイプお得意の状態異常を狙ってくるはず)」
バサバサと羽ばたき宙に浮くズバットを、ミスティは強気な目でキッと見上げる。
ツバキの2つ目のバッジを懸けたセキチクジム戦……戦いの行方を占う緒戦がいよいよ幕を開ける。
つづく
毎度の事ながら、今回も駄文雑文落書きにお付き合いいただきありがとうございました。
アンズは原作通りの髪型にしようかとも思いましたが、マチスの顎髭に比べれば多少違和感がマシだったのでポニテにしました。
髪飾りはモルフォンの羽をモチーフにしました。