蒼天のキズナ   作:劉翼

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いよいよセキチクジム戦の第14話です。
クチバジム戦同様、いつもより長めになっておりますので、予めご了承ください。


第14話:侵蝕のセキチクジム、忍の毒牙!

 セキチクシティ……カントー地方の街の中では、離島であるグレンタウンを除けば最南端に位置している。

 西には大都会タマムシシティと繋がる自転車コース、通称サイクリングロードが広がり、南には海へと通じる19番水道が存在し、その浜辺は隠れた観光スポットとなっている。

 かつては多数のポケモンが放逐され、料金を支払った客が捕まえ放題というシステムで人気を博したサファリゾーンが存在していたが、現在は閉鎖されている。

 

 そしてポケモンリーグ公認のポケモンジム……セキチクジム。

 先代ジムリーダーの趣味で改装され、忍者屋敷を思わせる造りとなったこのジムは、敵を蝕むどくタイプの使い手達が集い、多くの挑戦者に状態異常の脅威を教え込んできた。

 今まさに、1人の挑戦者がこのジムに足を踏み入れ、ジムリーダー・アンズとの死闘に臨まんとしていた。

 

 

 

 大きな5枚の葉を揺らしてミスティが上方を睨む。

 視線の先にいるのは、目の無い顔で空を自在に飛び回るズバットだ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「これよりジムリーダー・アンズと、挑戦者・ツバキのジム戦を開始します。先鋒はそれぞれズバット、及びナゾノクサ……変更はありませんか?」

 

 審判を務めるジムトレーナー・サイゾウの問いかけに、アンズとツバキは同時に頷く。

 

「うん」

 

「はい!」

 

「それでは、試合…………開始っ!」

 

 合図と共に先に動いたのはアンズのズバットだ。

 

「お手並み拝見! ズバット、“ちょうおんぱ”!」

 

 視界が存在しないとは思えない素早い動きでミスティの頭上に移動したズバットは、口から“ちょうおんぱ”を放つ。

 ズバットは通常、人間に聞こえないレベルの周波数で“ちょうおんぱ”を放ち続け、その反応で周囲の状況を正確に把握するポケモンであるが、バトルで技として使う場合はさらに強烈だ。

 

「きゃっ……!?」

 

 脳に直接響くような感覚に、ツバキは思わず目を閉じて耳を塞ぐが、直撃を受けたミスティはそれどころの問題ではない。

 足元はおぼつかず、視線は上下左右に揺れ続け、完全に思考のまとまらない混乱状態である。

 

「ミ、ミスティ……!? しっかりしてミスティ!」

 

 ツバキの呼びかけが聞こえているかも怪しいミスティは、葉を使って自分を叩き始める。

 

「畳みかけるよ! “つばさでうつ”!」

 

 再びアンズの前まで戻っていたズバットは、バサバサと羽ばたいてまっすぐにミスティに突撃し、広げた翼を叩き付ける。

 足元がふらついていたところに打撃を食らったミスティは、大ダメージを受けてゴロゴロと転がってしまうが、おかげで混乱から覚めたようだ。

 

「ミスティ大丈夫!?」

 

 ツバキの声に答える代わりにニヤッと笑みを浮かべるミスティは、まだ心は折れていないらしい。

 その反応に頷きを返したツバキは、反撃の指示を飛ばす。

 

「うん……! ミスティ、“ようかいえき”!」

 

 ミスティは空中を飛び回るズバット目がけ、口から“ようかいえき”を連射する。

 だが、基本的に地上から空への攻撃は困難なもので、まして曲射を描いて飛ぶ“ようかいえき”ではなおのことだ。

 

「なかなかの連射速度だけど、ズバットを捉えるには足りないよ! ズバット、もう一度“つばさでうつ”!」

 

 次々放たれる“ようかいえき”を、旋回やきりもみ回転で回避しながら、ズバットがミスティに迫る。射撃密度が濃いため、翼や脚の先端を掠る事はあるが、直撃には至らない。

 しかし、ミスティの眼前まで迫ったところでツバキの次の指示が。

 

「“しびれごな”!」

 

「しまっ……!?」

 

 アンズが気付いた時には遅く、ミスティが自分の周りに撒いた“しびれごな”の中にズバットは突っ込んでしまう。

 “ちょうおんぱ”で人やポケモンを察知する事はできても、微細な粉塵までは対応しきれないのである。

 口から侵入した麻痺毒に身体が痺れたズバットは落下するも、バランスを崩しながらミスティに“つばさでうつ”を当てながら墜落する。

 

「ミスティ!」

 

 ズバットと諸共に倒れ込んだミスティは、フラフラと立ち上がろうとするが、体力の限界を迎えてしまった。

 

「ナゾノクサ戦闘不能! ズバットの勝ち!」

 

「ミスティ……ギリギリまで粘ってくれてありがとう……」

 

 ミスティを抱き上げたツバキは、ポポ達の待機するベンチへパタパタと駆け寄り、そこにミスティを寝かせると、ポポにオレンの実を預ける。

 

「ポポくん、ミスティに食べさせてあげて。……わたしとナオで、絶対に勝って見せるから!」

 

 そして再びパタパタとバトルフィールドの端へと戻り、向かい側のアンズに対してペコリと頭を下げる。

 

「ご、ごめんなさい、バトル中に……」

 

 だが、謝るツバキにアンズは手を振ってにこやかに答える。

 

「気にしないでよ。むしろ、トレーナーとしてポケモンへの愛情を感じて気分が良いくらいだから! さ、続きといこうか?」

 

「は、はいっ! ……お願いね、ナオ!」

 

 ツバキの投げたモンスターボールから、灰色の毛並みを揺らしてナオが姿を現す。

 出てきたナオは、抱いていた壊れたモンスターボールを超能力で浮かせると、ツバキの手元へ送る。

 

「うん、確かに預かったよ、ナオ」

 

 それを見届けると目を光らせ、今度は自身を宙に浮かせて戦闘態勢に入る。

 

「へえ、ニャスパーか。どく相手にエスパー……定石だね」

 

「準備はよろしいですか? ……それでは、ズバット対ニャスパー……試合、再開!」

 

 再開の合図と共に、今度はツバキ側が先手を取る。

 

「ナオ、“サイケこうせん”!」

 

 ナオの両手からピンク色をした毒々しい光線がズバットに向けて放たれる。

 ズバットは飛び上がってかわそうとするが、麻痺しているために思うように高度が上がらず、胴体にヒットしてしまう。

 

「ズ、ズバット!」

 

 煙の中からゆっくりとズバットが浮かび上がる。かろうじて持ちこたえたズバットだが、ダメージと麻痺で既に後が無い。

 

「(もう素早く接近するのも、“エアカッター”を出すために羽ばたくのも無理……なら!)ズバット、そこから“どくどく”!」

 

 満身創痍のズバットの口から紫色の液体がナオに向けて吐き出される。

 超能力で浮遊し、ふわりふわりと回避するナオだったが、地面に落ちた“どくどく”の一部が飛び散り、その身体の一部に付着する。

 

「あっ……!」

 

 わずかに付着しただけで猛毒による侵蝕がナオを襲い、その表情に苦悶が浮かぶ。

 

「お願い……もう少しだけ耐えて……! “ねんりき”!」

 

 毒に苦しみながらも“ねんりき”でズバットを持ち上げ、天井へと叩き付けると、さすがに限界だったのか、ズバットはダウンしつつ落下してくる。

 

「っ! ナオ、お願い!」

 

 地面に叩き付けられる前に、ナオの超能力によって支え、アンズの方へと移動させる。

 急いで戻そうとボールを取り出していたアンズは、一瞬呆気に取られたが、すぐにズバットを受け取り、ボールへ回収する。

 

「ズバット……あんたの戦ぶり、しっかり見届けたからね。……ズバットを受け止めてくれてありがと、ツバキ。でも、手加減はできないからね!」

 

「……はいっ!」

 

「よし……! 行くよアリアドス!」

 

 アンズの投擲したボールから、大型の蜘蛛が現れ、地面に脚を突き立てる。

 

「アリアドス……! あれ、でもなんだか……この前の子より小さいような……?」

 

「鋭いねツバキ。ご明察、この子はこないだのアリアドスの子供で、成長途中なんだ。でも才能は十分だから、甘く見たら痛い目に合うよ!」

 

 先日、修行僧姿で使用した個体に比べ、一回り小さいこのアリアドスはなかなか血気盛んなようで、ぶんぶんとツノを振り回してバトル開始を待っている。

 

「では、アリアドス対ニャスパー……試合、再開っ!」

 

「アリアドス、“こうそくいどう”!」

 

 試合が再開されると同時、アンズはアリアドスの素早さを引き上げる。その動きは残像が残るほどに高速化し、最高速で動けば目で追うのは非常に難しくなっている。

 

「“あくび”して、ナオ!」

 

 ナオはアリアドスに見せつけるように“あくび”をして眠気を移そうとする。……が、アリアドスはそんな事どこ吹く風とばかりに爪で頬を掻いている。

 

「残念だったね。この子の特性は“ふみん”。1週間寝なくたってへっちゃらなんだから」

 

「っ……! ナオ、“サイケこうせん”!」

 

 ならばと“サイケこうせん”で遠距離から仕留めようと試みるが、今のアリアドスに当てるのは難しい。

 

「ふふん、この速度、捉えられる!? “シグナルビーム”!」

 

 アリアドスは4本の脚を使って器用にステップを踏んで“サイケこうせん”をかわしながら、ツノの先端から“シグナルビーム”が発射される

 

「うっ……! ナ、ナオ、“ひかりのかべ”!」

 

 ナオの眼前に透明な板状の力場が発生し、“シグナルビーム”は透過の間に威力が減衰する。

 これによって致命傷を避けたナオだが、猛毒のダメージは依然として蓄積され続けている。

 

「やるね……! なら、これでどう!? “とびかかる”!」

 

 大きくジャンプしたアリアドスは脚の爪を交差させ、ナオ目がけ勢いよく落下してくる。

 

「(来たっ……!)まだ……まだだよナオ………………今っ!」

 

 “とびかかる”が当たる寸前、ナオは余計な力を抜いて不規則に浮遊し、アリアドスを受け流す。

 そして、ナオにかわされ地面に降り立ったアリアドスが、突然驚いたように飛び上がる。

 

「っ!? どうしたのアリアド……あっ!?」

 

 アンズが目を凝らしてアリアドスの足元を見ると、黒い液体が水溜まりのようになっている。

 

「ま、まさか……さっきのナゾノクサの“ようかいえき”!?」

 

 そう、それは連射しつつもズバットに回避され続けた、ミスティの“ようかいえき”だ。

 見ればアリアドスの周りには同じような水溜まりが多数存在し、さながら地雷原のような状態を作り出し、アリアドスの動きを大きく制限していた。

 

「(この子、まさか最初からこれを狙って……!?)」

 

 考え始めれば、アンズの頭の中ではここまでのツバキの行動に次々と合点がいっていた。

 空を飛んでいて当たりにくいズバットに“ようかいえき”を撃ち続けたのは、攻撃の裏でこのトラップを作るため。

 ナオに交代後、すぐに超能力で浮遊させたのは、地面から注意を逸らすため。

 “ひかりのかべ”で遠距離攻撃を封じたのは、接近戦を誘発してこの地雷原へと誘い込むため。

 そして、ツバキの性格から考えれば完全な善意だったのだろうが、落下するズバットを助けたのも、結果として視線を空中へと向けさせる事になった。

 

「動きが止まった! ナオ、“サイケこうせん”!」

 

 ツバキの攻撃指示にハッと我に返ったアンズは、負けじと迎撃の指示を下す。

 

「“シグナルビーム”!」

 

 ナオとアリアドスから同時に放たれた光線は空中で衝突し、異なるエネルギーが混ざりあって爆発を引き起こした。

 

「“とびかかる”で脱出!」

 

 地雷原から脱出してナオを叩き落とすべく、アリアドスは渾身の力を込めて跳ね上がり、爆煙の中からナオに襲いかかる。

 だが。

 

「えっ……いない……!?」

 

 煙から飛び出したアリアドスの爪は虚空を裂き、力無く落下し始める。

 そして、今まさに空中に残る煙の横を落ちる瞬間、煙の中に青い光がボウッと浮かび上がる。

 

「アリっ……!」

 

「“ねんりき”!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 大量の煙を吹き飛ばし、その中から姿を現した息絶え絶えのナオの“ねんりき”によって、アリアドスは本来よりも遥かに早い速度で地面に叩き付けられた。

 

「“サイケこうせん”!」

 

 そして、すかさず“サイケこうせん”照射の追撃が入り、アリアドスの背中を直撃した。

 煙が晴れると、目を回して倒れ込んだアリアドスが現れ、その横にはナオが立っているのがやっとの状態で佇んでいた。

 

「……アリアドス、戦闘不能! ニャスパーの勝ち! よってこのジム戦、勝者は挑戦者・ツバキ!」

 

 サイゾウの勝者宣言を聞いても、しばし思考の固まっていたツバキだったが。

 

「ツバキ。……おめでとう、あんたの勝ちだよ」

 

「……あ……」

 

 アンズからの賛辞を受け、ようやく現状を理解する。

 すなわちアンズに勝利し、セキチクジムを突破した……という現状を。

 ツバキは徐々に顔を綻ばせながら、足早にナオに駆け寄り抱き締める。

 

「……ナオ……勝ったよナオ……!」

 

「……ふふ。ツバキ、毒を治すモモンの実だよ。その子に食べさせてあげな」

 

「あ……ありがとうございます! ……ほら、ナオ」

 

 ツバキはアンズの投げた木の実を受け取ると、少しずつちぎってナオに食べさせていく。

 すると、ナオの青ざめた顔は見る見る元の色へと戻り、表情もにこやかなそれに変わる。

 ツバキが預かっていたモンスターボールをナオに返すと同時に、ベンチからミスティも駆け寄り、ツバキの腕の中へとダイブしてくる。

 

「あ、ミスティ! 良かった……ミスティも元気になったんだね……」

 

 ミスティとナオを抱き締め、ツバキの口からはひたすら感謝の言葉が紡がれる。

 

「ありがとう……ありがとうミスティ、ナオ……! 苦しかったのに頑張ってくれて……2人とも本当にありがとう……!」

 

 ツバキが2体を抱いている間、アンズもまたアリアドスの背中を撫でていた。

 

「お疲れ様、アリアドス。一歩届かなかったけど、あんたもすごく頑張ったね、ありがとう。あとでポケモンセンターに連れてったげるから、今は休んでて。……サイゾウ!」

 

「はい」

 

 アリアドスをボールに戻しながら、アンズはサイゾウからプラスチックケースを受け取り、ツバキ達へと歩み寄る。

 

「ツバキ。忍の裏をかく緻密な戦術、見事だったよ。あれを実現できた事自体が、トレーナーがポケモンを理解し、ポケモンもトレーナーに全幅の信頼を置いてる証拠……天晴れって奴だよ」

 

「あ、ありがとうございます! ……でも、2体目が地に足を付けないポケモンだったらどうしよう……っていう不安はありましたけど……」

 

「運も実力の内ってね。その賭けに勝って、アタイにも勝ったんだから、もっと胸を張りなって♪」

 

 ニカッと歯を見せ笑うアンズに、ツバキの表情も緩み、次の瞬間には満面の笑みへと変わっていた。

 

「……はいっ……!」

 

「うん、良い笑顔! それじゃ、ツバキ。これがポケモンリーグ公認、セキチクジムを勝ち抜いた証……ピンクバッジだよ。はい、受け取って」

 

 アンズはツバキの手を取ると、その手のひらに美しいピンク色のバッジを置いた。

 

「わぁ……! ……ありがとうございます、アンズさん……! ピンクバッジだって、可愛いし綺麗……」

 

 

【挿絵表示】

 

 

「それと、これはオマケ! “どくどく”の技マシンだよ。色んなポケモンが覚えられるけど、どくタイプのポケモンなら本能的に最適な使い方を理解してるから、より効果的なはずだよ」

 

「良いんですか……? ありがとうございます!」

 

 アンズから紫色のディスクを受け取り、ポポが持ってきたバッグへとしまう。

 そして、ピンクバッジも懐から出したバッジケースに忘れずにセットする。

 

「これでバッジ2つ……残りは6つ、頑張ってねツバキ」

 

「はいっ!」

 

 ケースの中で輝くオレンジバッジとピンクバッジ。

 それを見つめるツバキの瞳もまた、一歩近付いたポケモンリーグへの希望を実感するかのようにキラキラと輝いていた。

 

 

 

つづく

 

 

 

【ツバキの現在の手持ちポケモン】

 

■ポポ(ポッポ(♂))

レベル20

特性:するどいめ

覚えている技

・すなかけ

・かぜおこし

・でんこうせっか

・ブレイブバード

 

■ミスティ(ナゾノクサ(♀))

レベル17

特性:ようりょくそ

覚えている技

・ようかいえき

・どくのこな

・しびれごな

・ねむりごな

 

■ファンファン(ゴマゾウ(♂))

レベル17

特性:ものひろい

覚えている技

・かぎわける

・まるくなる

・ころがる

・じゃれつく

 

■ナオ(ニャスパー(♀))

レベル18

特性:マイペース

覚えている技

・ねんりき

・ひかりのかべ

・サイケこうせん

・あくび

 

【アンズの使用ポケモン】

 

■ズバット(♀)

レベル19

特性:せいしんりょく

覚えている技

・ちょうおんぱ

・つばさでうつ

・エアカッター

・どくどく

 

■アリアドス(♂)

レベル23

特性:ふみん

覚えている技

・どくどく

・こうそくいどう※

・シグナルビーム

・とびかかる

 

※レベル的には覚えないが、引き継ぎ技




はい、長文へのお付き合いありがとうございました!

この後に控えるジムリーダーは残り6人ですが、その内4人はオリジナルキャラとなります。
今回は2対2でしたが、今後対戦時のポケモン数が増えたら恐らく2話以上に分けます。
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