そんな第16話スタートです。
セキチクジムでピンクバッジを獲得し、ジムリーダーであるアンズに別れを告げたツバキは、次なる街・タマムシシティを目指して18番道路を進む。
この先の16、17番道路は、通称サイクリングロードと呼ばれ、自転車またはバイクでスイスイとタマムシシティへ行ける事で有名だ。
そして道路や街を結ぶゲートに入り、ズラリと並ぶレンタル自転車を見た瞬間、ツバキの顔が青ざめる。
「…………わたし……自転車乗れない……」
そう、なんとツバキは自転車に乗れないのである。
というのも、元々運動神経が大して良いわけでない上、お世辞にも広いとは言いがたいグレンタウンでは必死になって乗りこなす必要も無かったからなのだ。
ツバキの視界に補助輪付きや三輪車が映るものの、見なかった事にする。さすがのツバキにもプライドくらいはあるのだ。
「あ、大丈夫ですよ」
意を決して自転車に乗れない旨をゲート係員に伝えると、実に軽い返事が返ってきた。
「実は自転車に乗れない人も少なくはないものでして。そういった人達のご要望が多かったため、2年前に拡張工事が行われ、自転車用と歩行者用で道を仕切ったんですよ」
「そ、そうなんですか……良かった……」
徒歩でも進める事に安堵したツバキは、ほうっと息を吐く。
「歩行者用道路へは、そちら、向かって右側の扉からどうぞ」
「は、はい、ありがとうございます」
親切な係員にペコリと頭を下げ、ツバキは言われた通りに扉を開けて進む。
なるほど、確かに進んだ先は背の高いフェンスが道なりに伸び、自転車用道路とは厳重に分けられている。
「これなら安心して進めるねポポくん」
元より空を飛べるポポには徒歩も自転車も……というかそもそも道路すら関係無いのだが、とりあえずポポは頭の上から同意の声を上げておく。
登り坂ではあるが、そこまで急な傾斜でもないので歩くのは大して辛くはない。……が。
「ふぅ……ふぅ……はふぅ~……」
それはあくまで大人の場合ならという話。
10歳の女の子であるツバキには、坂道&そこそこ長い道程はなかなかに堪える。
17番道路から16番道路に差しかかる辺りで休憩用のベンチを見つけたツバキは、座り込んで乱れた呼吸を整える。
「んく、んく……はぁ……この辺りで半分くらいかなぁ……」
自販機で買ったミックスオレで喉を潤すと、まだまだ続いている道を眺めてげんなりした表情を浮かべる。
と、そんなツバキの視界が、道の脇にある青々とした草むらを捉える。
「……! 草むら……ポケモンいるかな……? 行ってみようポポくん!」
疲労をポケモンへの好奇心が上回ったツバキは、ベンチから立ち上がって駆け始める。
まぁ、草むらに入る事にすらビクビクしていた頃に比べればマシではあるのだが、いずれ疲労を忘れて動き回った挙げ句に倒れてしまうのでは……と不安を抱かずにはいられないポポも後を追う。
そろりそろりと草むらを分けて進むと、空気がほんのりと暖かくなってきた。
「……? なんだろう……」
こそっと草と草の間から覗くと、正面が薄黄色で、背中側が黒いポケモンが丸まって眠っていた。
ひねずみポケモンの『ヒノアラシ』だ。
「わぁ……!」
ツバキが初めて見るポケモンに目を輝かせていると、気配に気付いたのかヒノアラシが目を覚まして視線がぶつかる。
「あ……ご、ごめんね? 起こしちゃ……」
ツバキが言い終わる前に、ヒノアラシが驚愕の表情と声を上げ、その背中から炎が吹き出して口から“ひのこ”が連射される。
しかも狙いが定まらずあちこちに散っていく。
「あわわわわわ……! お、落ち着いて! こ、こんな所で撃ったら火事になっちゃうよぉ~!」
それだけは避けねばと、ツバキとポポは草むらを出ようと走る。
視界の端にはマグマッグやポニータ、ガーディ……。
「なんでこんなにほのおタイプっぽい子がいるのここぉ~!?」
なぜか大量にいるほのおタイプ達をじっくり観察する間も無く、“ひのこ”に追われて転がるように草むらから這い出る。
そして少し遅れてヒノアラシも草むらから姿を現した。どうもまだ興奮状態らしく、鼻息荒く、背中の炎は燃え盛ったままだ。
「バ、バトルして落ち着かせるしか……! ポポくん!」
焼き鳥にされかけたからか、ポポもやる気満々でヒノアラシと対峙する。
ポポを標的と定めたヒノアラシは、再び“ひのこ”を連射してきた。
「ポポくん、“でんこうせっか”!」
近くに草むらがあるこの場所では、迂闊にほのお技を“かぜおこし”で跳ね返そうとしては、延焼の恐れがある。
ならばスピードで攪乱しての直接攻撃が最も安全かつ有効と言えるだろう。
飛来する“ひのこ”を小柄な身体を活かした旋回機動で回避しつつ、“でんこうせっか”を叩き込む。
すると、体勢を立て直したヒノアラシの身体が消え、次の瞬間、ポポの横腹に突進していた。
「む、向こうも“でんこうせっか”……!? ポポくん大丈夫!?」
起き上がったポポは、同じ技を返された事で対抗心が燃え上がったのか、さっきまでよりも闘争心に満ちた視線をヒノアラシに向ける。
ヒノアラシは追い討ちのように背中の炎を一際激しく燃やす。
「また“ひのこ”が来るよポポくん!」
発射された“ひのこ”に対し、ポポは翼を震わせて空に舞い上がると、通常の“かぜおこし”よりも翼に力を込め、一気に降り下ろす。
巻き起こった風は1ヵ所に集まり渦を巻き、天へと伸びてゆく。
「……!? これ、もしかして……!」
ポケモン図鑑を取り出したツバキがポポの個体情報を開くと、“かぜおこし”の部分が“たつまき”へと上書きされていた。
「ポ、ポポくんすごい! ドラゴンタイプの技だって……!」
“ひのこ”は“たつまき”に巻き込まれて上空へと消え、さらにヒノアラシ自身も飲まれて空中へ放り出される。
落下したヒノアラシは、ダメージは大きくフラフラと起き上がる。
しかし、頭が冷えたのかもう戦意は無いようで、落ちた時に打った腰をさすっている。
「…落ち着いた? それじゃあ、キズぐすりを付けるね。ポポくんもおいで」
ツバキはポポとヒノアラシの打撲部分にキズぐすりを吹き付け、手でしっかりと塗り込んでいく。
ヒノアラシはツバキの動きにビクビクしていたが、瞬く間に痛みが抜け、その場で跳ね回り始めた。
いつもの事ながら、ポケモン用キズぐすりの即効性と効果は驚異的だ。
「ねぇ、もし良かったらなんだけど……」
ツバキはヒノアラシの動きを見守りながら、自分の方を向いたところでモンスターボールを見せる。
「わたし達と一緒に来ない? ヒノアラシ。わたし達、いろーんな所を旅して回ってるの。もしかしたら、ここよりももっと広くてすごい風景が見られるかもしれないよ?」
ヒノアラシはじっとツバキの顔とポポ、そしてボールを見比べ、悩むように右往左往していたが、やがて意を決したように走り寄ってきてボールのスイッチを自らの右手で押した。
ヒノアラシの身体はボールの中へ収納され、2回3回と揺れたボールが動きを止める。捕獲完了だ。
「……ヒノアラシ、ゲットだね……! 出ておいで!」
ツバキはすぐにボールからヒノアラシを出して抱き上げる。
「これからよろしくね。一緒に強くなって、色々な場所を見ようね」
腕の中で両手と鳴き声を上げるヒノアラシに微笑むと、ツバキはポケモン図鑑でヒノアラシの情報を確認し始める。
「へぇ~、火山みたいなポケモンなんだねヒノアラシって……」
ツバキにとって火山はあまり良い思い出が無いが、当然その事と目の前のポケモンを結び付けて考えるつもりは無い。
「火山……火山は確か……ボルケーノ………………あっ! ケーン! ケーンてどうかな、あなたの名前!」
ツバキの付けたニックネームを気に入ったようで、ヒノアラシは拍手をするように両手を打ち合わせた。
「ふふっ、新しいお友達が増えたね、ポポくん。それに……かっこよかったよ、ポポくんの“たつまき”!」
ポポは頭を撫でられ褒められ、満更でもないという表情を浮かべ、照れ隠しのようにツバキの頭の上に乗る。
「えへへ……ポポくんは新しい技を覚えて、仲間も増えて……やっぱり今日は良い日だね! さぁ、タマムシシティまでもう半分くらい。頑張ろう……!」
ヒノアラシ……ケーンを胸に抱き、ポポを頭に乗せ、ツバキは再びタマムシシティへ向けて歩みを進める。
次に目指すはタマムシジム……ポケモンリーグへの3歩目だ……!
つづく
今回も雑文にお付き合いいただきましてありがとうございました!
作中では演出の都合で書き換えたけど、ぶっちゃけ“たつまき”より“かぜおこし”のままの方が汎用性ありそう。