ジム戦ではありませんが、少し長めになっています!
――自分はどうするのが正しいのだろう?
昨日、荒くれ者の男達に危うく大切なポケモン達を奪われるところだったツバキ。
助け船を出してくれた女性のおかげで事なきを得たが、ポケモン達に人を傷付けさせないというスタンスが絶対的に正しいわけではないという言葉に頭を抱えていた。
「でも、あの時皆を止めなかったら、あの人達は……」
ポポ達は進化すらしていないとはいえ、それでも人間と比較すれば身体能力は高い。
クチバシと爪が凶器になりうるポポ、猛毒を吹き出すミスティ、怪力のファンファン、超能力を使うナオ、炎を吐くケーン。
いずれも人間を殺傷するには十分すぎる。まして主人を傷付けられる怒りに囚われていれば……。
「っ……! ダメ……そんなのダメ……!」
かといって何もしなければ、間違いなくポケモン達を失っていただろう。
この2つの思考が、昨晩からツバキの頭の中を延々と回り続けていたのだ。
「……ポポくん……わたし、どうすれば良いのかな……? またあんな人達に会っちゃったら……」
ポケモンセンターの個室でベッドに腰かけたツバキは、膝の上のポポに語りかけるが、ポポはじっと見つめるだけだ。
「お前が決めるんだ」と言うかのように。
「……信念を曲げるって……具体的にどういう事なんだろう」
昨日の女性に言われた事が脳裏を過る。
しかし、ツバキにはその言葉の意味がまだ理解できていない。
「……考えてばかりいても仕方ないね。タマムシジム挑戦に向けて特訓しに行こうか?」
気分転換も兼ね、ツバキはポケモンセンターを出てタマムシシティの東、ヤマブキシティとの間にある7番道路へと出かける。
「ファンファン、“ころがる”! ケーンは“ひのこ”!」
ファンファンが身体を丸めて突進し、手近な岩を粉砕する。
背中の炎を燃え上がらせたケーンから連射された“ひのこ”は、並べられたミックスオレの空き缶に次々にヒットし、缶が地面に落ちる音が閑静な道に響く。
ツバキはしゃがみ込み、黒焦げになった缶を眺める。
「うぅん……もう少し威力をコントロールしないと、長いバトルだと早くに息切れしちゃうかな……皆がどこからどこまで威力を調整できるのかも考えないと……」
粉々になった岩の破片を纏めながら、ポケモン達があらゆる状況下で上手く戦うにはどうすべきかをブツブツと呟く。
「あっ……!」
……と、考えながら動いていたせいで樹の根に足を取られて転倒しそうになるが、ナオが超能力で受け止め、ファンファンが器用に元の姿勢に戻してくれた。
「……ふぅ、ありがとうナオ、ファンファン。……わたしよりもずっと小さいのに、皆本当にすごいよね……」
ナオを抱いて頭を撫でながら、10歳である自分の腕にすっぽり収まる体躯で自分を助けてくれるポケモン達に感心する。
「……小さい……そっか……皆わたしより小さいんだよね……」
見渡せば手持ちのポケモン達は、大きめのファンファンでも自分の膝下くらいまで。
ポケモン達がとても頼りになるのでこれまで意識してはいなかったが、自分よりも遥かに体躯の大きい相手に挑みかかるのに、生物の本能として恐怖心は無いのだろうか?
「……ねぇ、ポポくん。もしかして昨日、あの人達と戦おうとした時……本当は怖かった……?」
ツバキと同じ目線の高さでホバリングしていたポポは、しばし考えた後、静かに頷いた。
「……そう、だよね……。なのにわたしを助けようと、勇気を振り絞って……」
勇気だけではない。もしかしたら皆は……特に長らく人と暮らしてきたポポは、人間を傷付ける事で立場が悪くなる事……下手をすればツバキと引き離される事や、殺処分すらあるかもしれないと理解もしているかもしれない。
それでもなお、ツバキを助けるためならと覚悟を決めていたら……?
「(だとしたら、そんな覚悟を皆にさせておいて、わたしは……?)」
「皆に人を傷付けさせたくない」「でも皆の好きにもさせてあげたい」。
ポケモン達を想っているとも取れるが、これは自分ですら答えのはっきりしない考えを、ポケモン達に押し付けているだけではないのだろうか?
「(……ああ、そっか……わたし……ズルい子だったんだ……。答えをうやむやにして見えないようにして……)」
そう自覚した瞬間、ツバキの中の何かが変化した。
ポケモン達に不必要な戦いをしてほしくないという部分は変わらない。
しかし、それまで「この形しか無い」と思い込んでいたパズルのピースが形を変えて組み換えられるように、思考が別の形へ纏まり直していくのを感じ取っている。
「……皆で一緒に強くなる……そう、一緒に……いつもわたしが言ってる事だったね」
ツバキは立ち上がると、ポケモン達の顔をゆっくりと見渡す。
「皆の好きにさせるんじゃない……皆とわたしで一緒に決めた事を一緒にするんだ。皆がわたしのために勇気を出してくれたように、わたしも皆のために覚悟を決める。それがポケモントレーナー……わたしなりのポケモントレーナー……だと思う。少なくとも、今は……!」
視線の合ったポポが力強く頷く。
「それで良いんだ」と。
「それがツバキというトレーナーなのだ」と。
「……人を傷付けるかもしれない……それは今も怖いよ。……でも、皆を失うのだって怖い。だから、そうならないように力のコントロールの仕方を一緒に考えて、一緒に試して、一緒に身に付けていこう! 皆とわたしならできるはずだよね!」
ポケモン達がツバキの言葉に応じるように鳴き声を上げる中、背後から草を踏む音が聞こえた。
振り向くと、昨日の男達が驚いたような表情で固まっていた。
「げっ、き、昨日の……! って事はアイツも……!?」
男達はキョロキョロと辺りを見回す。どうやらあの女性を警戒しているようだが、いないとわかった途端、下卑た笑みを浮かべる。
「ふ、ふんっ、さすがにこんな街外れまではいないか……ポケモンの鳴き声が聞こえたから来てみりゃ、また会うとはな」
「さぁ、今日こそポケモンと金を……」
「……い……嫌です……!」
ロクに喋る事すらできなかった昨日と異なり、まだビクビクとはしながらも、はっきりと拒絶の言葉を放つツバキに男達は目を丸くする。
「あ……あなた達みたいな悪い人に……わたしの……ううん、他のポケモン達だって渡しません……!」
「な……なんだよ……その目は……! 性懲りも無くガン飛ばすのかコラァ!」
昨日のように語気を強めるが、ツバキは引かない。
「……どうもちょっとばかし痛めつけてやんなきゃならねぇなぁ、おい!」
すると、業を煮やした男達は、モンスターボールを取り出す。
「やっちまえゴルバット!」
「思い知らせてやれデルビル!」
ボールから飛び出したのは、大きな翼と、胴体の大部分を占める巨大な口が特徴的なこうもりポケモンの『ゴルバット』と漆黒の身体にドクロのような額当てを付けた4足の獣、ダークポケモンの『デルビル』だ。
ツバキはポケモンバトルへ持ち込めた事に密かに安堵しつつ、ポケモン達を振り返る。
「ポポくん! ナオ! お願い!」
ツバキの指名に応じ、ポポとナオが前に出る。
「ほー、ニャスパーか。この辺りじゃ珍しいな。そこそこの値で売れそうだ」
「ポッポの方はまぁ、小銭程度にはなるか」
男達のその言葉を聞いた瞬間、ツバキは自分の中にプツンという音を聞いた気がした。
「……売る……? 小銭……? ……ポ、ポケモンを……そんな風に……!」
ツバキの纏う雰囲気が目に見えて変わり、男達は一瞬背筋が凍るような感覚に襲われる。
目の前にいるのは、まともな言葉すら紡げず震え上がっていた昨日の少女とはまるで別人だ。
「……許さないっ……!! そんな悪い人を懲らしめるのに躊躇いはありません!! ポポくん、デルビルに“でんこうせっか”!! ナオはゴルバットに“サイケこうせん”!!」
ポポから宙返りをしてからの高速突撃を食らいデルビルが弾き飛ばされ、ゴルバットは連射される光線を回避しきれず翼に被弾した。
ツバキの気迫を受けてか、ポポとナオもいつもより技のキレが良い。
「ゴルバット、“エアカッター”だ!」
「怯むなデルビル! ポッポに“スモッグ”!」
体勢を立て直したゴルバットが羽ばたき、空気の刃がポポ達に襲いかかる。
さらにデルビルの口から真っ黒なガスが吐かれ、視界を覆いながら迫る。
「ポポくん、“たつまき”! 相手の技を巻き上げて!!」
ポポがゴルバットに負けじと羽ばたき、周囲の空気を渦にして“エアカッター”と“スモッグ”を取り込み、空中へと霧散させる。
「ぐぐっ……!」
後手後手に回る男達は、何かを思い付いたように顔を見合わせて頷く。
「こうなったら……ゴルバット! ガキに“かみつく”!」
「デルビルは“ひのこ”だ!」
「えっ……!?」
なんと、彼らはツバキへの直接攻撃を指示したのだ。当然の事ながらポケモンバトルのルールに違反している。
故にそんな事は想定外のツバキはポケモン達への指示が遅れ、気付けばゴルバットの鋭い牙と高熱の“ひのこ”が迫っていた。
だがその瞬間、周囲を眩い光が包み込み、誰もが思わず目を閉じてしまう。
瞼の向こうの光が薄れ、ツバキが恐る恐る目を開くと……。
目の前には大きな鳥型ポケモンの背中が広がっていた。
大きさはポポの4倍近くはあるだろうか。頭部からはトサカのような赤く長い羽がなびき、2色の鮮やかな尾羽を揺らしてそのポケモンは羽ばたいていた。
「……ポポ……くん……?」
間違いない。ツバキの声に振り向いたその瞳は、ずっと近くにいてくれた彼そのものなのだ。
進化……特定の条件を満たしたポケモンの姿形や能力が著しく変化する現象だ。
主人の危機にとりポケモン『ピジョン』へと進化を果たしたポポは、“でんこうせっか”でゴルバットを吹き飛ばし、遥かに大きさを増した翼のひと振りで“ひのこ”を散らし、無法者達を睨み付けていた。
「……ポポくん……かっこいい……!」
ツバキのみならずナオもその勇姿に見とれ、動きを止めている。
「お、おい……」
「ビ、ビビるなよ! 進化したからなんだってんだ! ゴルバット、“かみつく”!」
まさかの進化に呆気に取られていたゴルバットだが、もはやヤケクソのような男の指示にポポへと牙を剥く。
しかし、ポポは一瞥してフンと鼻を鳴らすと急上昇して回避する。ポッポの時とは比較にならない瞬発力だ。
「こ、この速さ……もしかしたら……!」
その驚異の瞬発力と加速力を見て、ツバキはこれならばと指示を出す。
「……“ブレイブバード”!!」
指示を聞いた瞬間に、ホバリングしていたポポは軽く旋回してからゴルバットへ向けて突進。速度は瞬く間に上昇し、逆巻く空気が周囲にオーラを形成した。
「やった……!」
あれほど単独では失敗していた“ブレイブバード”だが、進化して全身の筋肉が発達した今のポポならば、“でんこうせっか”無しでも加速も持続も十分なようだ。
怒涛の突進を受けたゴルバットは、デルビルを巻き込んで男達の方へと飛ばされる。
「ぐえっ!」
「うわあっ!」
「ポポくん、“たつまき”! ……ちょっと抑え気味で!」
少し難しい注文ではあるが、ポポは翼の振りを調整し、軽く羽ばたく。
1つの大きめの“たつまき”の横に小さな2つの“たつまき”が発生し、男達をポケモン諸共空中へと持ち上げる。
「ひっ、ひえぇっ!」
「たっ、助けてくれぇ!」
風という不安定な物だけが支えになって空中へ放り出された男達は、顔面蒼白になって懇願する。
「も、もう悪い事しませんか!?」
「し、しない!」
「人にもポケモンにも誰にも迷惑を、か、かけませんか!?」
「かけないっ!」
「警察に行って、今までの悪い事全部話しますか!?」
「行きます! 話します!」
そこまで聞くとツバキは表情を緩め、ナオに視線を向ける。
「……ナオ、降ろしてあげて」
頷いたナオは超能力で彼らを持ち上げ、ゆっくりと地面に降ろす。
ようやく地面に降りた男達だが、腰が抜け、まだガタガタと身体の震えが治まらないらしい。
「……約束です。警察に行ってくれますね?」
歩み寄ったツバキの据わった目に怯える男達は、コクコクとひたすら首を縦に振る。
翌日、恐喝やポケモンの略奪、密売を行っていた2人組が自首し、その証言から各地で同様の活動をしていた不良グループ11名が警察に検挙されたというニュースが流れた。
この逮捕の切っ掛けが弱冠10歳の少女であるという噂がまことしやかに囁かれ、一時期話題のタネとなった。
つづく
今回も駄文と落書きにお付き合いいただきありがとうございます、お疲れ様でした!
良い子はトレーナーへのダイレクトアタックなんてせず、ルールとマナーを守って楽しくバトルしましょう。