自分に対するポケモン達の想いを悟ったツバキは、自身もまた彼らの覚悟に応えねばならないと思い至る。
様々な恐怖を乗り越え、共に克服する事を誓ったツバキに先日の男達が襲いかかるが、ポケモンを道具扱いする彼らに怒りが爆発し、毅然と挑んでいく。
そんなツバキの覚悟を形にするように、ポポはピジョンへの進化を果たし、男達を一蹴。
鬼気迫るツバキに逆に恐怖を植え付けられた男達は、心を入れ換えて警察に自首する事を誓った。
「ふぅ……本当に立派になったねポポくん」
翌日のニュースで、あの男達が約束通りに自首した事を知ったツバキは、隣に控えるピジョン……ポポの首回りを撫でる。
ポッポ時代よりも体躯は4倍近くまで大型化し、眼光も一際鋭くなっているが、ツバキを見つめる眼差しは変わらず優しい。
「あっ、ちょっと待って……? ポッポの時に付けた名前なのに、ピジョンに進化してもポポくんて呼ぶのはおかしいかな……? うぅん……ピジョくん、ジョンくん、ピーくん……」
新しいニックネームの候補をあれこれ溢すツバキの額を、一回り大きくなったクチバシが小突く。
「あいったぁっ!? な、何するのポポくぅん……!」
涙目になりながら思わず口を突いて出た名に、ポポが満足げに頷いた。
「……そうだね。どんなに姿が変わっても、ポポくんはポポくんだったよね。……うん、やっぱりポポくんのままが良いかな」
ツバキはポポの頭を撫でると、バッグを肩からかけ、モンスターボールを腰のベルトに着けて立ち上がる。
「それじゃ、そろそろ行こうかポポくん。いつもみたいに……」
と、いつものようにポポを頭に乗せようと手を伸ばして唖然とする。
そう、ピジョンへ進化したポポは頭に乗せるには大きすぎて重すぎるのである。
なにしろポッポの頃の体重は2kgにも満たなかったのに対し、今は30kgまで増加しているのだ。軽く15倍だ。
「……いざできなくなると寂しいねポポくん……」
実を言うと、ポポは15番道路での特訓辺りから自分が進化できそうな事を察していた。
しかし、ツバキの頭に乗るという、これまで当たり前だった日常が無くなる事を恐れて抑え込んでいたのである。
「でも、仕方ないね。それじゃあ……ここは、どう?」
ツバキは自分の右肩を指差し、ポポに提案する。
バサバサと羽ばたいたポポは指定された肩に掴まり、どうにかこうにかバランスを取る。
「うっ……ちょ、ちょっと重いけど……たぶん慣れる、はず……」
まだ少々アンバランスではあるが、どうにかその状態を維持してポケモンセンターを出る。
今日はタマムシジムへ挑戦し、特訓の成果を発揮しようと決めている日なのだ。
「……ここがタマムシジム……行くよ、ポポくん」
街の南西に位置しているタマムシジムの前に立ったツバキは、息を飲んで自動ドアから中へ入っていく。
すると……。
「……え?」
なんと、いつもなら受付カウンターなどがある、入っていきなりの部屋に森を彷彿とさせる緑豊かなバトルフィールドがあったのである。
そして部屋の左右の扉が開き、2つの人影が現れる。
「ようこそチャレンジャー」
「タマムシジムへ!」
出てきたのは、ツバキより少し大きな少女と、逆に少し小さな少女達。
「私はラニー」
「あたしはアケビ! ……チャレンジャーさんだよね?」
「えぇと……はい」
突然の登場と自己紹介に呆気に取られつつも、小さい方の少女の質問に返事をする。
「あー、ごめんねー。さすがにチャレンジャーかどうかは聞かなきゃ困るよねそりゃー。わかってるんだけど、ついつい気持ちが先走っちゃうんだよねー」
「えっと、あたし達はここでチャレンジャーさんとバトルして、ジムリーダーさんに挑んで良いか……ふ……古い……そう! ふるい分け! ふるい分けをしてるの!」
「どっちかと言えばふるい落としって感じだけどねー」
辿々しいアケビの言葉をラニーが補足する。
早い話が、彼女達とのバトルに勝利しなければジムリーダーの元へ行けないという事らしい。
「そーいう事だよー。まー、細かい話は抜きでバトルしよーよー」
「ルールはダブルバトル! あたし達が1体ずつ、チャレンジャーさんが2体をいっぺんに出してバトルするの!」
ダブルバトル……これまで野生のヤミカラスや、昨日の男達相手に経験があるが、公式戦では初めてだ。
「……わかりました。バトル、お願いします!」
「お、いーねいーね。それじゃフィールドの端に立ってねー」
ツバキとラニー&アケビコンビは、フィールドを挟んで向かい合う。
「改めて私はラニー。シンオウ地方はカンナギタウン出身だよー」
「あたしはアケビ! カントー地方シオンタウン出身の元気100万点ガール!」
「ただし頭はちょっと足りない子ー」
「グ、グレンタウンから来ましたツバキです! よろしくお願いします!」
挨拶を終えると、いよいよバトルスタートである。
「私から出すよー。おいでハヤシガメー」
「あたしはこの子! フシギソウ行っちゃいまーす!」
出てきたのは、それぞれ植物を背負った亀とカエルのようなポケモン。こだちポケモン『ハヤシガメ』と、たねポケモン『フシギソウ』だ。
図鑑でタイプを確認したツバキは、誰を出すかの判断を下すため思考を巡らせる。
「(どっちも弱点はほぼ同じ……ならここは単純な相性で……!)……決めました! ポポくん、ケーン!」
ポポが肩から飛び立ちフィールドに降り立つと同時、ボールから出たケーンも立ち上がる。
「ケーンは本格的なバトルは初めてだけど……大丈夫、わたしもポポくんも付いてるからね! 一緒に頑張ろう!」
目の前の相手ポケモンに後退りしそうになったケーンだが、ツバキの言葉に覚悟を決めたようで、背中から炎を吹き出す。
「(ふーん、無難なとこで来たねー。ポケモンへの気配りもOK……それじゃバトルの腕の方はどうかなー?)じゃ、始めようかー。私達2人のポケモンを倒せればあなたの勝ちだよー」
「それじゃあ、行くよー! バトル、開始!」
アケビの元気いっぱいの合図と共にバトルが開始される。
「行きます! ポポくん“たつまき”!」
先手を取ったのはツバキだ。
ポポが力強く羽ばたくと3つの風の渦が巻き起こり、周辺の木々を煽りつつハヤシガメとフシギソウを囲むように迫る。
「おー、こりゃすごいー。でもさせないよー。ハヤシガメ、“ワイドガード”ー」
フシギソウがハヤシガメの背後に隠れ、その周りを半透明の障壁が覆う。
“たつまき”は障壁に遮られ、ハヤシガメ達に全くダメージを与えられないままかき消えてしまった。
「っ!?」
「ふっふー、“ワイドガード”は2体以上の味方が攻撃される技にしか使えないけど、そのダメージを完全に防いでくれるんだよー」
「たとえばこんな技をね! フシギソウ、“はっぱカッター”!」
“たつまき”と“ワイドガード”が消えたと同時、ハヤシガメの背中から大きく跳ねたフシギソウが、背負った植物の根元部分から高速回転する葉を広範囲に射出してきた。
「ケ、ケーン! “ひのこ”で!」
ケーンが背中の炎を燃え上がらせ、口から吐いた“ひのこ”で飛来する葉を撃ち落とそうとするも、いかんせん数が多すぎて防ぎきれない。
撃ち漏らした“はっぱカッター”がポポとケーンに降り注ぎ、纏めてダメージを与えてくる。
「うぅっ……!」
「アケビちゃんしばらくよろしくー。ハヤシガメ、“のろい”ー」
ラニーの指示と同時にハヤシガメの動きが遅くなるが、それ以上に身体から発する覇気が大きく膨れ上がる。
自身の素早さを犠牲に攻撃・防御を引き上げる“のろい”によって、ハヤシガメの戦闘力は向上……力を蓄えて一気に決めるつもりのようだ。
「おっけー、ハヤシガメを守るんだね! フシギソウ、“つるのムチ”!」
「えっ? いや、突撃しろって意味じゃ……」
後衛に回ったハヤシガメに代わり、フシギソウが積極的に前に出て、伸ばしたツルをしならせ襲いかかってくる。
「ポポくん、脚で受け止めて!」
降り下ろされたツルをポポが自身の脚にあえて絡めた上で爪で掴み、空中へ舞い上がる。
しかし、フシギソウの方も足腰に力を入れて踏ん張り、両者は力比べの様相を作り出す。
「や、やるね……! だけどフシギソウだって見かけによらず力持ちなんだから! 負けないよ!」
「……でも……捕まえました! “かえんぐるま”!」
「あっ……」
そう、ハヤシガメが攻撃準備に回ってしまっているため、ダブルバトルでありながら実質的に1対2の状況となっていたのだ。
ポポの下をすり抜けて駆け出したケーンの炎が一層激しく燃え上がり、身体を丸めて突進すれば炎の車輪のように変化する。
ポポにツルを掴まれているフシギソウは逃れる事ができず、炎を纏って突っ込んできたケーンを真っ向から受け止める形になってしまう。
激しく燃え上がったフシギソウを、ポポが空中へ放り投げる。
「フ、フシギソウっ!」
地上へ落ちて火の消えたフシギソウは、目を回してダウンしてしまった。
「や、やったねポポくん、ケーン!」
「ありゃー、アケビちゃんやられちゃったかー……ちょっと急ぎすぎたねー。いつもなら接近戦は間違いじゃないけど、今日は相性が悪すぎたし、“はっぱカッター”の牽制くらいにしとくべきだったねー」
「うー……お疲れ様、フシギソウ……ごめんねラニーちゃん……」
フシギソウをボールに戻したアケビがラニーに謝るが、当のラニーは笑みを崩さない。
「まー、おかげで“のろい”を3回も使えたからー。さー、ツバキちゃん、アケビちゃんを倒したコンビネーションは見事だけど、パワーアップした私のハヤシガメには勝てるかなー? ハヤシガメ、“タネばくだん”だよー」
バトル開始時より成長した背中の植物から大きな種が2発撃ち出され、ポポの近くに着弾する。
直撃こそしなかったものの、“タネばくだん”の起こした大きな爆発と爆風によってポポのみならずケーンも吹き飛ばされる。
「ポポくん! ケーン! ……す、すごい威力……!」
“のろい”で徹底して攻防を強化し、直接動く必要の無い高威力の“タネばくだん”で動きの鈍さをカバーする……今のハヤシガメはさながら要塞状態だ。
木に叩き付けられたポポとケーンがフィールドに復帰するも、ダメージは大きい。
「ポポくん、“ブレイブバード”! ケーンは“かえんぐるま”!」
空中からは急上昇したポポが翼を折り畳んでオーラを纏った突撃を、地上からは炎に包まれたケーンが猛烈な突進をハヤシガメに叩き込んだ。どちらも効果抜群……なのだが……。
「なかなかの威力だねー。でも足りないねー。ハヤシガメ、ピジョンに“かみつく”ー」
ハヤシガメはどちらも平然と受け止めたばかりか、首を伸ばしてポポを大きな口で拘束し、脚を振ってケーンを蹴散らしてしまう。
ブンブンと振り回され、ポポの目が回り始める。
「ポ、ポポくんっ! ケーン、ハヤシガメの脚に“ひのこ”!」
ハヤシガメの右脚に向けてボウッと“ひのこ”が放たれ、その熱さにハヤシガメは思わずポポを掴んでいた口を離してしまう。
「(効いてる……? っ! そうか、“のろい”で強くなるのは物理技にだけなんだ! それに今の“ひのこ”……行けるかも!)ポポくん、ケーン、下がって!」
「おっ、仕切り直しー?」
「……いえ、これで終わりにするんです! ケーン、“えんまく”! ポポくんは翼で“えんまく”をハヤシガメへ!」
ケーンの口からもうもうと黒煙が吐き出され、それをポポが羽ばたいてフィールド中に拡散させる。
「げほっげほっ! すっごい煙……! 何をするつもり……?」
「目眩ましかなー? でも、それじゃそっちも見えないんじゃないのー?」
「大丈夫です。ポポくんの特性は《するどいめ》です。どんな状況でも、決して相手を見失いません!」
煙でお互いの表情は見えないが、ラニーはツバキがほくそ笑んでいるような気がした。
「……でも、それでどうするのー? “ブレイブバード”は効かないし、“たつまき”はせっかくの“えんまく”を巻き上げちゃうよー?」
「……こうしますっ! ポポくん、“でんこうせっか”!」
ツバキが指を鳴らすと、煙の中を“でんこうせっか”で突き抜けてきたポポ……と、その背に乗ったケーンが現れた。
「っ! その手がっ……!」
そう、あいにくとケーンには視界の悪い中で相手を捉える術は無いが、それならば捉えられるポポに案内してもらえば良いというわけだ。
ポポは“でんこうせっか”をハヤシガメに当ててそのまま離脱したが、ケーンはすれ違い様にハヤシガメの背中に降り立つ。
「連続で“ひのこ”っ!」
先ほどまでとは比較にならないほどに背中の炎を燃え上がらせたケーンから、密着状態で“ひのこ”を連射されてハヤシガメが悶え苦しみ、呻き声と共に地響きを立てて倒れた。
「……《もうか》かー……追いつめられた時にほのおタイプ技が強くなる特性だねー……ご苦労様ハヤシガメー」
「……やった……! ポポくん、ケーン、お疲れ様! 息ぴったりだったね!」
ハヤシガメをボールに戻しつつ、抱き合うツバキとポケモン達を眺めるラニーは穏やかな表情を浮かべる。
「(状況判断能力も、ポケモンの特徴を活かす発想力もなかなかの物……これは合格だねー)」
「ラニーちゃんもやられちゃったね……」
「いやいや、予想以上だったよこの子ー。おめでとうツバキちゃん。見事合格……ジムリーダーに挑むには十分だよー」
ラニーが拍手を送り、アケビもそれに続く。
「ありがとうございます……!」
「それじゃ、ポケモン達をポケモンセンターで休ませてまた来てねー。その時はフリーパスだよー」
「……! はいっ!」
ツバキは頷くと、肩にポポを乗せ、ケーンを抱いてジムを出ていった。
「……あの子ならネリアさんも満足できるバトルができるだろうねー」
「うんっ! 最近退屈そうにしてたもんね」
「ただでさえエリカさんが留守にしちゃってテンション下がってるのに、脳筋なチャレンジャー多かったからねー。さて、ツバキちゃんすぐ戻るはずだし準備しとこうかー」
ラニーとアケビは改めてツバキを迎えるべく、その準備のために手を繋いでジムの奥へと歩き去っていった。
つづく
今回も駄文雑文落書きにお付き合いいただきありがとうございました!
なんだか5000字オーバーがデフォルトになってきたような……。
ラニーの髪型や服装は、DPPtのミニスカートをモチーフにアレンジを加えた物です。