今回からオリジナルジムリーダーが登場するようになりますのでご了承ください。
「おー、いらっしゃいツバキちゃんー」
「いらっしゃーい! 待ってたよー!」
前哨戦のダブルバトルを制し、見事タマムシジムリーダーへの挑戦権を得たツバキは、ポケモン達の回復を終えて再度タマムシジムへと踏み込んでいた。
それを迎えたのは、ダブルバトルの対戦相手だったラニーとアケビのコンビだ。
「あ、改めてジムバトルをお願いします!」
「はいはーい、こちらへどうぞー。」
「どうぞどうぞー!」
2人の案内によって、ツバキはまるで森の中のようなタマムシジム内を進む。
「あーんない、あーんない、みーちあーんなーい!」
くるくると踊るように歩いたり、ペースを上げて走り出すアケビだが、とうとうその首根っこをラニーが摘まみ上げる。
「アケビちゃーん、そろそろ落ち着きって物を身に付けようねー。お客さんの前なんだよー?」
「むぎー! そういうラニーちゃんだって、バトルの時は落ち着き無いじゃん!」
「バトルはバトル、それ以外はそれ以外だよー」
まるで姉妹のような2人の姿に、ツバキの緊張が解け、頬が緩む。
「ふふっ、お2人は仲が良いんですね。姉妹みたいです」
「そうー? でもねツバキちゃんー」
「あたし達、同い年だよ?」
「……えっ……?」
「14歳ー」
「14歳!」
「……えぇ……」
緊張の代わりに困惑が胸の内から湧いて出たツバキに、2人は揃ってピースをする。
「……っと、着いた着いたー。ここがジムリーダーの部屋だよー」
ラニーはジムの最奥部の扉を前に立ち止まり、ツバキもそれに倣う。
「ネリアさーん! チャレンジャーさんだよー!」
ラニーに摘ままれた猫のような状態のまま、アケビが部屋の中へ向かって叫ぶ。
しばらく部屋の中でどたばたという音が響き、それが収まると声が返ってくる。
「よよよ、ようこそいらっしゃってくださいましたですわ、どどどうぞお入りになりあそばして!」
その上擦ったすっとんきょうな声に、ラニーとアケビは顔を見合わせ「またか」と溜め息を吐きながら扉を開ける。
広まった部屋はこれまでの通路とは比較にならないほど鬱蒼とした森となっており、天窓から日差しが降り注いでバトルフィールドを照らし出す。
そして、部屋の中……入り口とは反対の位置にその女性はいた。
「ようこそでございます! わたくしがジムリーダー代行のネリ……ア……あ……?」
「……えぇっと……」
ツバキは目を丸くする。
目の前で引きつった笑顔を汗だくで浮かべて直立不動でいるのは、なんと先日ツバキを助けたあの女性だったのだから。
女性は赤から青、そして再び赤と顔の色を変化させ、両手で顔を覆ってその場にドカッと座り込む。
「…………なんでよりによって知ってる顔が来んだよ……あ゙あ゙あ゙あ゙めっちゃハズいぃ……! ……おいお前!」
「ひゃいっ!?」
耳まで真っ赤になって悶えていたかと思えば、声を荒げてツバキに呼びかける。
「忘れろっ! 今見た事をっ! 良いなっ!」
「は、はい……」
ツバキの素直な返事を聞いて安堵したのか、女性は立ち上がり、ボリボリと頭をかきながら歩み寄ってくる。
「ったく、とんでもねぇとこ見られたぜ……。つかお前、ジム巡りしてたのか」
「はい。あの、この間はありがとうございました!」
ペコリと頭を下げるツバキに、女性はあの時のように笑いながら応じる。
「というかネリアさーん。エリカさんらしくするなら、まず服装と髪型からどうにかした方がーっていつも言ってるじゃないですかー」
「おしとやかさの欠片も無い格好だもんね!」
「うるっせぇよお前ら。こいつはオレの信念が形になったみてぇなもんなんだからよ、簡単にゃ変えられねぇんだよ。見てな、いまにこの格好のままエリカの姐さんみてぇになってやっからよ」
からかうような2人に対して鼻を鳴らすと、再度ツバキに向き直る。
「……で、ここにいるってこたぁ、こいつはお前らを倒したわけか。人は見かけにゃよらねぇな」
「ですよー。……これは私見ですけどー、この子はひと味違いますよー? アケビちゃんより賢いですー」
「そうなんだよ! ……ん?」
さりげないラニーの毒舌にカメラ目線になるアケビを余所に、ネリアは興味深そうに目を細める。
「へぇ……なるほど、確かによーく見りゃぁこないだより良い目をしてやがる……よし、そんじゃ始めるとすっかぁ!」
腕を組み、ネリアは改めてツバキを真っ直ぐに見つめる。
「オレの名はネリア。エリカの姐さんの留守を預かる、タマムシジムリーダー代行だ。イッシュじゃゾクの頭を張って、ちったぁ名が知られてたんだぜ」
「ツ、ツバキです! グレンタウンから来ました! ……イッシュ地方ですか……ずいぶん遠くからいらしたんですね」
「おう。向こうのゾク連中をあらかた纏めたからよ、こっちでも名を轟かせてやるぜと意気込んで来たんだが、このタマムシでたまたま会った姐さんにケンカ売って返り討ちにあったクチさ」
その頃の事を思い出してか、ネリアは楽しそうな笑みを浮かべる。
「姐さんはすげぇんだぜ。見た目や喋り方はボケーっとしてんのに、ポケモンと心を通わせて滅茶苦茶つえぇんだ! ヤマトナデシコってのか? ともかく落ち着きがあって、おしとやかで、極めつけに超つえぇ! ……イカスぜ……って事で惚れ込んだオレは、ゾクから足洗って頼み込んで、このジムに置いてもらったってワケよ」
「す、すごいお話ですね……」
自分の場合ではまずありえないであろう経歴にたじたじなツバキの雰囲気を察してか、ネリアは咳払いをひとつ。
「コホン……ちょいと話が逸れちまったな。ところでお前、ジムバッジはいくつ持ってんだ?」
「今は2つです」
「つーこたぁトレーナーレベルは3か……よし」
ツバキの見せたバッジケースを覗き込み、うんうんと頷きながらネリアが端末を操作すると、フィールドの一部が裏返り、モンスターボールが3つ乗った台座が現れる。
同時に、ラニーとアケビが何やらゴロゴロと2つのワゴンを転がしてくる。
「お待たせー」
「お待たせー!」
その上には1から6までの数字が付けられた窪みがある。
「そんじゃルール説明するぜ。オレは3体のポケモンを使い、それに対してお前は手持ち全部使って良いぜ。ただしこのジム戦、ルールは勝ち抜き制だ」
「勝ち抜き制……?」
「今までのジムだとチャレンジャーはバトル中ポケモン交代が許されただろ? 今回はそれができねぇ。戦闘不能まで続けるってわけだ」
「なるほど……」
「さらに、ポケモンを出す順番はバトル前に決めなきゃならねぇ」
「えっ……!?」
バトル前に順番を決める……つまり、戦況に応じて適切なポケモンを出して有利に進める事はできないというわけだ。
「その代わり、お前には事前にオレが使うポケモンを教える。その情報を元にオレがどの順番でどのポケモンを出すかを予想し、お前も順番を決める。決めたらそこの窪みにモンスターボールを置くんだ。最初に出すポケモンを1として、2、3、4……と続くってこった」
「な、なるほど……」
「へへっ、トレーナーには分析能力、ポケモンには根性が要求される熱いバトルだろ? んじゃ、オレの使うポケモン3体を言うからよ、よーく聞いときな」
「は、はい……!」
「オレが使うのは……いわ・くさタイプのリリーラ、くさタイプのジャノビー、むし・くさタイプのハハコモリ……この3体だ」
「リリーラ、ジャノビー、ハハコモリ……」
教えられたポケモンの名前を反復するツバキに頷くと、ネリアは自分側に置かれたワゴンの1、2、3の窪みにモンスターボール3つをセットする。
「オレは決まったが、お前はもう少し考えてて良いぜ。途中変更はできねぇからよ、慎重にな」
「は、はいっ……!(どうする……? ラニーさん達の時と同じように有利なポポくんとケーンを先に出しても良いけど……気になるのはいわタイプのあるリリーラ……他のポケモンも、苦手なタイプの事をまるで意識してないとは思えない……)」
ツバキが悩んだのは5分ほどであろうか。
腰のモンスターボールを外し、窪みへ順番にセットしていく。
「決まったみてぇだな。なら1番のボールを取りな」
言いながら自身も1番のボールを手に取り、戦闘態勢に入る。
「行くぜツバキ。オレを熱くしてみろよ……! ……かかってこいやぁっっっ!!」
――――ジムリーダーのネリアが勝負を仕掛けてきた!
2人はボールを同時にフィールドに投げ込み、先鋒のポケモンが姿を現す。
「飛ばすぜジャノビー!」
「お願い、ナオ!」
緑色をした、手足付きの蛇のようなポケモン……くさへびポケモンの『ジャノビー』と、ナオが睨み合う。
「ではー、ジムリーダー代行・ネリアとチャレンジャー・ツバキの先鋒戦、ジャノビーとニャスパー……始めー!」
「“グラスミキサー”だ!」
「“サイケこうせん”!」
2人が同時に技の指示を出し、ポケモン達も同時に動き出す。
ジャノビーの周りに鋭い葉が逆巻き、列を成してナオを取り囲む一方、ナオから発射された光線がジャノビーに迫る。
「“ねんりき”で振り払って!」
「“グラスミキサー”で壁を作れ!」
それぞれ異なる軸方向へ回転する二重、三重の葉の渦がナオを襲うが、内側からの“ねんりき”で一気に吹き飛ばす。
そしてジャノビーの周囲に残っていた葉が正面に小型の渦を作り出し、“サイケこうせん”を受ける盾になる。
両者の第一手は、お互いに決定打を与えられずに終わる。
「……なるほどな、即座に“ねんりき”の指示を出して対処できる辺り、悪くねぇ発想力だ」
ネリアは満足げに笑みを浮かべ、ラニーらの言が正しい事を実感する。
「おもしれぇ……! 久々に熱いバトルができそうだぜ……!」
一方のツバキは、ネリアの気迫も相まってかなりのプレッシャーを感じ、まだ1体目同士のバトルだというのにいつの間にか汗が頬を伝っていた。
「(マチスさんともアンズさんとも違う……! イッシュの人だからってわけじゃないんだろうけど……!)」
両者とそのポケモンは、距離を取って相手の出方を窺う。
脇で観戦するラニーとアケビですら口を挟む余裕の無い、緊張が支配するバトルは、まだ始まったばかりである。
つづく
はい、今回もお疲れ様でした!
手持ちをイッシュポケモンで固めようとも思いましたが、炎と飛行の一貫性が酷い事になるのでリリーラにも加わってもらいました。