タマムシシティ……カントー地方最大規模の大都会であり、建造物のスケールも他の街とは大きく異なる。
特にタマムシデパートはカントー唯一のデパートで、ポケモントレーナーのみならず、一般人も満足のできる豊富な品揃えやイベントで有名だ。
街の中心には多様なスロットマシンを擁するタマムシゲームコーナーが鎮座し、数多の強欲者達を虜にしてきた。
その他にもマンションやレストランなど、様々な施設が備えられ、他地方のジムリーダーがお忍びで訪れる事もあるという。
そんな喧騒賑わうタマムシシティの一角から爆音と光が溢れる。
「“やどりぎのタネ”だジャノビー!」
女性の力強い言葉と共に、命じられた蛇のようなポケモンの口から3つの小さな種が吐き出される。
それは飛翔の間にツタを伸ばし、対戦相手の猫のようなポケモンに絡み付く。
そう、ここタマムシジムでは、今まさにポケモンリーグ参加のためのジム戦の真っ最中なのである。
「ナオっ!」
絡み付いたツタは断続的にナオの体力を奪い、超能力のための精神集中を阻害する。
「(あらー、精神統一する事の多いエスパータイプに“やどりぎのタネ”とはえげつないなー)」
「(ねえねえラニーちゃん、あれじゃあのニャスパー“ねんりき”使えなくなっちゃうんじゃない?)」
審判兼観客のジムトレーナー・ラニーとアケビがヒソヒソとナオ側の不利を語り始める。
“ねんりき”で振り払うのは困難と判断したツバキは、やむなく他の技での継戦を選択して思案するが……。
「……そうだっ……! ナオ、“サイケこうせん”!」
「へへっ、そいつは食らわねぇよ。“グラスミキサー”!」
ナオの両手から放たれた光線は、またしても発生した葉の渦に遮られる。
しかし渦が消えると同時、ナオの姿がフィールドから消えていた。
「……! どこだ……!?」
ネリアはキョロキョロと周囲を見渡し、ジャノビーに“やどりぎのタネ”で吸収したエネルギーが送られていない事に気付く。
「(“やどりぎのタネ”が機能してねぇだと……? つまり戦闘不能になったって事か? いや、それならどこに……!?)」
「ナオ、“ねんりき”!」
ツバキの言葉に反応して、フィールド脇の茂みから葉の塊……ではなく、“グラスミキサー”の葉を“ねんりき”で纏ったナオが飛び出す。
葉を散らしたナオの目が光り、ジャノビーの身体は空中へと浮かび上がる。
「ジャノビー! くっ、“やどりぎのタネ”を振りほどいたのか……!? “ねんりき”無しでどうやっ…………! そうか、“グラスミキサー”……!」
カモフラージュとしてナオが身に纏っていた葉を見て、ネリアがその仕掛けを察する。
“サイケこうせん”を防ぐために“グラスミキサー”を使ったが、ナオは自らその渦の中へ入り込み、回転を利用して“やどりぎのタネ”を引きちぎったのだ。
結果としてダメージは受けたものの、継続ダメージと吸収は止める事に成功し、“ねんりき”も使えるようになった。
「味な真似しやがる……!」
「ナオ、そのまま投げ飛ばして!」
ナオは空中でじたばたともがくジャノビーを壁に向けて投げ飛ばすが……。
「“つるのムチ”!」
飛ばされるジャノビーの首回りから2本のツルが伸び、ナオに巻き付いて離れない。
その結果、ナオはジャノビーに巻き込まれる形で共に壁へと叩き付けられて床に落ちてしまう。
「ナオ!」
ラニー達が駆け寄り、2体の様子を確認する。
「ジャノビー、ニャスパー、共に戦闘不能ー、引き分けでーす」
ラニーとアケビがそれぞれナオとジャノビーを抱えて戻り、2人に手渡す。
「ナオ、ごめんね……ありがとう、ゆっくり休んでて」
「お前の根性、見せてもらったぜジャノビー。あとはオレと仲間に任せな」
2人は同時にポケモンをボールに戻すと、続いて2番の番号が振られた窪みから別のボールを取る。
「へっ、お前の事を見くびりすぎたみてぇだな。本当にこないだの奴と同一人物とは思えねぇぜ。だが、その勢いをこっから先も続けられるか!? 行けやリリーラ!」
ネリアの2番手はいわ・くさタイプのウミユリポケモン『リリーラ』だ。
「ファンファンお願い!」
対するツバキはファンファンをフィールドへと送り出す。
「ゴマゾウか……相性じゃこっちが有利だが、なかなかやる気に満ちた顔してやがるぜ」
その言葉の通り、ファンファンはリリーラに気後れする事も無く、ブンブンと鼻を振り回して真っ直ぐに見つめている。
「それではー、そろそろバトルを再開しますー。両者位置についてー。……リリーラ対ゴマゾウ……バトル、再開ー!」
「ファンファン、“ころがる”!」
ツバキが先攻を取り、身体を丸めたファンファンが猛然とリリーラへと突進して激突する。
「リリーラ! ……ちいせぇ身体にゃ似合わねぇパワーだな。“ねをはる”だリリーラ!」
リリーラは下半身から根を伸ばして地面に突き刺し、養分の吸収を始める。
「もう1度“ころがる”!」
フィールド中を転がりまくり、最初より勢いを増した“ころがる”がリリーラに迫るが、ネリアは慌てる様子は無い。
「“バリアー”だ」
リリーラの目が光り、前面に青白い障壁が現れる。
ファンファンの“ころがる”はどうにか障壁を破るが、かなり勢いが削がれていたため、与えたダメージは小さい。
そして地面に突き刺したリリーラの根が輝き、本体に体力を供給する。
「今度はこっちから行くぜっ! リリーラ、“エナジーボール”!」
リリーラの全身から顔の表面辺りに向けてエネルギーが集まり、見る見る内に緑色の球体を形作る。
「っ! ファンファン、“ころがる”で動き回って!」
ファンファンは回避のためにフィールドを転がり回るが、冷静にファンファンを捉えて発射された“エナジーボール”は逃げる事を許さずに直撃する。
「ファンファン!」
首の皮一枚といったところだが、ファンファンはギリギリでこれに耐え、吹き飛ばされながらも耳をばたつかせて姿勢を制御し、地面に降り立つ。
「苦手なタイプの特殊技に耐えやがるか……その根性は大したもんだぜ。だが、根性だけで勝てるほどバトルも喧嘩も甘かねぇ! リリーラ、もう1度“エナジーボール”!」
「ファンファン、リリーラの真正面から“ころがる”!」
リリーラのエネルギーチャージとファンファンの突撃は同時に始まる。
だが、十分な速度が出る前に“エナジーボール”が射出され、ファンファンにヒットして爆煙が辺りを覆う。
「ファ、ファンファン……!」
ネリアは目を細めて立ち込める煙を凝視する。
「……っ!」
直後、煙をこじ開けるように転がった状態のファンファンが飛び出してくる。その身体は一瞬、白いオーラを纏っているようにも見えていた。
これには観戦していたアケビも驚きを隠せない。
「ウソッ!? あのゴマゾウ、“エナジーボール”を2発も受けて平気なの!?」
「……いや、あれは“こらえる”だねー。倒れそうな攻撃を受けても、ギリギリのギリで気合いで持ちこたえる忍耐力の塊みたいな技だよー。ま、連続して使おうとすると、気合い疲れして失敗しちゃうみたいだけどねー」
土壇場で修得した“こらえる”で持ちこたえたファンファンは勢いを殺さずリリーラに向けて突進して衝突し、そのままリリーラの身体を駆け上るように空中へと舞い上がる。
「なんだとっ!?」
「“じゃれつく”っ!」
落下加速と全体重を乗せた捨て身の“じゃれつく”が真上からリリーラを襲う。
「“げんしのちから”!」
リリーラの周囲の地面が振動し、岩が抉り出されて落下するファンファンへ撃ち出される。
だが、重力に従って落ちるファンファンを止めるには至らず、お互いの技がヒットする。
「……やるじゃねぇか。だが……」
地面に落ちて目を回すファンファンに対し、リリーラは一瞬身体を竦めながらも、花びらのような触手を広げて自身の健在ぶりをその場の全員にアピールする。
「ファンファン……!」
「……リリーラの頑強さが上回ったな」
「ゴマゾウ戦闘不能ー、リリーラの勝ちー!」
駆け寄ったツバキは倒れたファンファンを抱え、その頭を撫でてボールへと回収する。
「……苦手な相手にすごく頑張ったね……お疲れ様、ファンファン……」
ファンファンのボールをワゴンに戻し、代わりに3番の窪みから次のボールを手にする。
「行って、ミスティ!」
ツバキの3体目、ミスティが闘争心を露にしてフィールドに降り立った。
「ナゾノクサか。こいつも気合い十分だな」
「では、リリーラ対ナゾノクサ。バトル……再開ー!」
「リリーラ、“げんしのちから”だ!」
今度はネリアとリリーラが先手を取る。
ファンファンの時のように地面から岩が飛び出し、一斉にミスティへと向かってくる。
「ミスティよけて!」
しかし、ファンファンより小柄な上に丸い身体をしているミスティは被弾面積が小さく、数が多いともスピードが早いとも言い難い岩にはそうそう当たらない。
ステップを踏むように回避したミスティは、リリーラへ向けて走り出すが、その間にも“ねをはる”によってファンファン戦のダメージを回復させていく。
「“ようかいえき”!」
走りながら“ようかいえき”を口から連射し、目眩ましをしつつリリーラに迫る。
「“げんしのちから”で迎え撃て!」
そこそこの大きさの岩を“ようかいえき”に対する盾に使う事で防ぐリリーラ。
だが身軽なミスティはその岩の隙間を掻い潜り、見事リリーラに肉薄する。
「(アンズさん、力を貸してください……!)ミスティ、“どくどく”!」
ミスティの口から猛毒の液が吐き出されてリリーラに至近距離で直撃し、見る見る身体が毒に侵される。
ミスティが修得していたのは、アンズからもらった技マシンで覚えた“どくどく”だ。
「ここで“どくどく”だと!?」
「離れてミスティ!」
バックステップによってその場から離れるミスティ。
「“エナジーボール”!」
毒に苦しみながらも、“エナジーボール”による反撃を試みる。
“ねをはる”の回復で毒が軽減されているのである。
「よけてっ!」
丸い身体を利用してごろごろと転がって回避するミスティだが、間近に着弾して爆風で吹き飛ばされる。
しかし、くさタイプとどくタイプを併せ持つミスティにくさタイプの“エナジーボール”は効果が薄い。
「そこから“ようかいえき”!」
高所へ吹き飛ばされたのをこれ幸いと、これでもかと“ようかいえき”の雨を降らせれば、根を伸ばして身動きの取れないリリーラに回避の術は無い。
「リリーラぁっ!!」
“どくどく”による猛毒状態は、時間の経過と共にそのダメージを増やしていく。
やがて“ねをはる”では相殺しきれなくなり、そこに降り注いだ大量の“ようかいえき”が決定打となって、頑強さを誇ったリリーラはついに萎びたように倒れてしまった。
「……リリーラ戦闘不能ー! ナゾノクサの勝ちー!」
ネリアはくたっと倒れたリリーラに歩み寄り、その身体を撫でながら起こす。
「良いガッツだったぜ、リリーラ。ゆっくり休んでな」
リリーラをボールへ戻したネリアは、とうとう3番……最後のボールを手に取る。
「おもしれぇ……こんなにおもしれぇチャレンジャーは久々だぜツバキ! オレはトレーナーレベル3の時はいつもこいつをトリに設定してるが……実際にバトルへ引きずり出されたのはしばらくぶりだぜ! ……出番だハハコモリっ!!」
投げられたボールから、むし・くさタイプを持つこそだてポケモン『ハハコモリ』が飛び出し、華麗な宙返りを決めて着地する。
優しげな顔とは裏腹に、鋭利なカッターとなった腕が振るわれる度に空気が裂かれる音がフィールド中に響く。
「(……タイプでは有利なポポくんとケーンが残ってるし、ミスティも入れて3対1で圧倒的に有利なはずなのに……なんでだろう、簡単には勝てない気がする……!)」
ツバキにはまだ見ただけで正確に相手の力量を計れるほどの経験も知識も無い。
そんなツバキですら眼前のポケモンに対して、決して一筋縄ではいかない雰囲気を感じ取っていた。
タマムシジム戦は、いよいよ最終局面へと突入しようとしていた。
つづく
第21話終了です、お疲れ様でした。
改めて見返すと、20話の時点で連載開始から1ヶ月だったんですね。うん、良いペースだ!(ストーリーが順調とは言ってない)
ジャノビーはもう少し活躍させてあげても良かったかもしれない……。