タマムシジム突破のため、ジムリーダー代行であるネリアに挑んだツバキは、ナオとファンファンを失いながらも相手の手持ち3体の内、ジャノビーとリリーラを倒して3対1の状況に持ち込む事に成功した。
しかし、ネリアの切り札たる3体目……ハハコモリからは、それまでに無い覇気を感じ取られていた。
「それではー、ハハコモリ対ナゾノクサ。バトル……再開ー!」
「ミスティ、“ようかいえき”!」
ツバキはハハコモリへの警戒心から速攻を仕掛ける。
弾幕を張るようにミスティの口から“ようかいえき”が連続で吐き出され、ハハコモリに降り注ぐ。
「“こうそくいどう”だハハコモリ!」
ハハコモリは一気にスピードを引き上げ、“ようかいえき”の攻撃範囲から外れる。
「っ! 速い……! ミスティ、フィールドに“ようかいえき”を!」
ツバキはセキチクジムでアリアドスを罠に嵌めた時の“ようかいえき”地雷原を張ってハハコモリの動きを妨害しようとする。
が……。
「“シザークロス”!」
一瞬にして距離を詰めたハハコモリが腕のカッターを交差させるように降り下ろす。
ミスティは接近するハハコモリへ視線を向ける前に吹き飛ばされ、部屋の壁へと激突してしまった。
「ミスティっ!?」
「……ナゾノクサ戦闘不能ー、ハハコモリの勝ちー!」
飛ばされたミスティの状態確認に向かったラニーが高らかに宣言し、ツバキの元へミスティを連れてくる。
「……お疲れ様ミスティ。頑張ってくれてありがとう」
ツバキはミスティをボールに戻し、残りのポケモンを置いてあるワゴンへ向かう。
「しかし、久々にあのハハコモリ見たけどー、相変わらずとんでもないパワーだねー」
「斬るってより叩き折るって感じで腕振り回すもんね。トレーナーレベル3であの子を倒した人ってあんまりいなかったよねラニーちゃん」
アケビは隣に戻ったラニーと会話を始める。
トレーナーレベル3のポケモン……搦め手のジャノビー、耐久のリリーラを破った者は、このスピードとパワーを併せ持つハハコモリと戦わねばならないが、このトレーナーレベルにおける切り札だけあって良く鍛えられており、数値化されたステータス以上の実力を持つ強敵である。
「んだねー。確かネリアさんがイッシュ時代から連れてたハハコモリの子供だっけー……かなり鍛えてあるからヤバいよあの子はー」
「ツバキちゃん負けちゃうかな?」
「どうだろねー。残りの手持ちがあの2体だろうし……それに、本人は気付いてないだろうけどトレーナーとしての才能がずば抜けてるっぽいからねー」
ラニーはツバキが自分達とのバトルで使った2体を温存しているであろう事を言及し、まだ勝敗はわからないと語る。
一方フィールドには、4番の窪みからボールを取ってツバキが戻っていた。
「……出番だよ……ポポくんっ!」
ツバキが高く放ったボールから、大きな翼を広げたポポが姿を現した。
「次はピジョンか!」
ラニーがフィールドに近付きながら、空中を羽ばたくポポを見上げる。
「(このピジョン……ツバキちゃんの相棒ポジションのはずだけど、4番にしたんだー)……それではー、ハハコモリ対ピジョン。バトル……再開!」
「ポポくん、“でんこうせっか”!」
ポポが加速して高速接近し、ハハコモリの横腹にまず一撃を入れる。
「っ! ハハコモリの反応が遅れた……すげぇスピードじゃねぇか! 負けてらんねぇぞハハコモリ! “めざめるパワー”!」
ハハコモリの身体から光の玉のような物が6つ放出され、その周囲を高速回転した後、ポポに向けて撃ち出される。
「ポポくん、“でんこうせっか”でよけて!」
瞬時に加速したポポを“めざめるパワー”が追尾して空中を乱舞する。
しかしそのスピードには追い付けなかったようで、1つ、また1つと空中分解していく。
「“くさぶえ”だ」
「っ!?」
“めざめるパワー”を振り切って安堵したポポだが、いつの間にか前方に回り込んでいたハハコモリが、腕を口に充てて一定のメロディーを奏で始める。
その音を聞いていたポポの瞼が徐々に閉じられ、完全に寝息を立てて地面に墜落してしまった。
「“めざめるパワー”は囮……当たれば良いな程度で、本命は“くさぶえ”かー……タイプで言えば圧倒的に不利な相手をここまで翻弄するとはねー」
「ポポくん! ポポくん起きてっ!」
「“めざめるパワー”!」
ツバキの呼びかけにも答えず寝息を立て続けるポポに、再びハハコモリからの“めざめるパワー”が放たれ、当然よけられずに全弾命中する。
「“シザークロス”だ!」
空中へと放り出されたポポに、ジャンプしたハハコモリの追撃が入り、“シザークロス”でお手玉のように弄ばれてしまう。
もはやただの呼びかけでは起きる事は無いだろう。
……と、ツバキは顔を赤らめ、チラチラとネリアやラニー達を見た後、息を吸って大声を張り上げる。
「……ポ…………ポポくんっ! 早く起きないと先にお風呂入っちゃうからねっ!!」
その言葉を聞いた瞬間ポポの目がカッと見開かれ、身体を捻って“シザークロス”を回避し、その場を離脱する。
その場にいた全員がポカーンと口を開け、ラニーとアケビは顔を見合わせている。
「……何その……何? 風呂?」
気の抜けたネリアの疑問に、さらに真っ赤になったツバキがぽつぽつと小声で答える。
「……ポ、ポポくんはわたしと一緒にお風呂に入って……身体を洗われるのが……好きなんです……ナオは嫌がるけど……」
「…………ぷふっ……!」
思わずネリアが吹き出すと、ラニー達も口を抑えて身体を震わせる。
「あ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙……や、やっぱりこの歳でポケモンと一緒にお風呂って……あうぅぅ……!」
恥ずかしさのあまり縮こまってしまうツバキに、笑い泣きの涙を拭いつつネリアが訂正を入れる。
「いやいや、それ自体は微笑ましいもんだ。ただ……くくっ……バトル中にそんな方法でポケモン起こす奴を初めて見たもんでな……くっくく……!」
ハハコモリですら困惑し、この場でまったく動じていないのは、起きたばかりのポポのみである。
「も、もうっ! バトル再開しますよっ!」
「ははっ、そうだな……くくっ、わりぃわりぃ」
恥ずかしさが限界を突破してとうとう怒り始めたツバキに、ネリアが手を振って応える。
「ポポくんっ、“すなかけ”っ!!」
なぜツバキが怒っているのかわからぬまま、ポポが翼を大きく振るい砂を巻き上げる。
「あんま笑ってばっかもいられねぇか。これじゃ見えやしねぇ……ハハコモリ、“めざめるパワー”で爆風を起こせ!」
ハハコモリは周囲に“めざめるパワー”をばらまき、次々に爆発させてその爆風で砂を吹き飛ばそうとする。
「“ブレイブバード”!」
だが、その前に砂の中を突っ切ってポポが猛突進を叩き込んでくる。
視界の悪い中で下手な動きのできなかったハハコモリは、両腕をクロスさせてダメージを軽減するのがやっとであり、相当なダメージを受ける。
「へっ、なるほどな、《するどいめ》か。やってくれるぜ」
しかし、これほどのダメージを受けてもハハコモリは膝を付かず、なお“めざめるパワー”による砂払いを継続している。
そしてとうとう砂が晴れ、両者が健在のフィールドが露になる。
「……4倍弱点の大技を受けて立ってるよハハコモリー……」
「タフってレベルじゃないよアレ……」
決着の一撃とはならなかったが、“ブレイブバード”は双方にかなりのダメージを及ぼした。
特に寝ている間に連続攻撃を受けていたポポの方は苦しそうに見える。
「……ポポくん、“でんこうせっか”!」
「ハハコモリ、“シザークロス”!」
ツバキとネリア、2人の指示が同時に飛び、ポポとハハコモリが立っていた場所は、ラニー達の瞬きの間に入れ替わっていた。
一瞬の沈黙。
ポポの身体がぐらつき、そのまま横に倒れてしまう。
「ポ、ポポくんっ……!」
「……ピジョン戦闘不能ー、ハハコモリの勝ちー!」
ツバキは慌ててポポに駆け寄り、抱き起こす。
「ポポくん……ポポくん大丈夫!? ……うん、残念だけど……」
ツバキの腕の中で目を覚ましたポポは、口惜しさと申し訳なさの込められた視線をツバキへと向ける。
「……ありがとう。ゆっくり休んで……そして祈ってて。わたしとケーンで頑張るから……!」
ポポをボールへ回収したツバキは、いよいよ5番の窪みから最後のボールを手に取る。
「……行くよ。ケーン、お願いっ!」
泣いても笑ってもこれが最後。
炎を燃え上がらせてケーンが飛び出した。
「最後はヒノアラシか……ちょいと腰は引けてるが、相手から目を離さねぇのは根性のある証拠だな」
「ケーン、これが最後。わたし達の全部をネリアさんに見てもらおう!」
ツバキの言葉に、ケーンはさらに炎をたぎらせて応える。
「では、タマムシジム戦最終戦、ハハコモリ対ヒノアラシ。……バトル……再開ー!」
「ハハコモリ、“めざめるパワー”!」
「ケーン、“ひのこ”!」
ハハコモリの発射したエネルギー弾をケーンの“ひのこ”が相殺する。
「そのまま“ひのこ”を連続で!」
絶え間無く撃ち出される“ひのこ”だが、“こうそくいどう”で素早さを高めたハハコモリにはなかなか当たらない。
「下手な鉄砲もなんとやらとは言うがよ、それが必ずしも成功に繋がるって保証はねぇぜ! “シザークロス”だ!」
“ひのこ”を次々かわし、距離を詰めたハハコモリの“シザークロス”がケーンを吹っ飛ばす。
「ケーン! うぅ、やっぱりあのスピードをどうにか……! ケーン、“でんこうせっか”!」
スピード勝負ならばと、こちらも“でんこうせっか”で追い付かんとする。
「落ち着けハハコモリ! 冷静に動きを見極めて“シザークロス”で迎え撃て!」
周囲を高速で移動するケーンを前に、ハハコモリはじっとその動きを観察し、方向転換時の脚の動きを見抜く。
そして自身に向けて突っ込んできた瞬間、“シザークロス”によるカウンターが入る。
「……そうだっ! ケーン! そのまま空中から“ひのこ”!」
くるくると吹き飛ばされたケーンはどうにか姿勢を変えると、ハハコモリに向けて“ひのこ”を雨と降らせる。
「ハハコモリのスピードをんな弾幕で抑えられると思うな! “シザークロス”!」
「(来た……!)“えんまく”!」
“ひのこ”から“えんまく”に指示が切り替わった瞬間、ジャンプして追撃を狙うハハコモリが眼前に現れる。
そして、その顔に“えんまく”が直撃し、視界が塞がれてしまう。
「何っ!? ハハコモリ!」
「やった……! ハハコモリはほのおタイプ技は苦手なはず……“ひのこ”を使えば、撃ち漏らしの怖い“めざめるパワー”での迎撃より、“シザークロス”で根本的に黙らせようとするって思いました……!」
そう、ハハコモリが1度に撃てる“めざめるパワー”のエネルギー弾は6発……それ以上の“ひのこ”が撃たれれば、迎撃をすり抜けて被弾する恐れがある。
そのため、ネリアは下手な迎撃よりも、スピードで回避しての接近戦によって本体を倒す戦法を重視しているのである。
ここまでのバトルスタイルからそれを悟ったツバキは、ケーンが吹き飛ばされた事を利用し、一度飛べば身動きの取りにくい空中へハハコモリを引き出して、至近距離での“えんまく”直撃を狙ったのだ。
「ハハコモリ! 敵が見えるか!?」
着地はできたものの、ハハコモリの視界は真っ黒に塗り潰され、目を開ける事もままならない。
「“ひのこ”!」
そこへ“ひのこ”が大量に発射され、ハハコモリの身体にヒットしていく。
「……! ハハコモリ! オレの声を聞けっ! 右に動け!」
ネリアの声に従い、飛んできた“ひのこ”を寸前で回避する。
「……!?」
「右! 右! しゃがめ! 左! 跳べっ!」
次々に飛ぶ指示にハハコモリも次第に対応し、“ひのこ”がまったく当たらなくなる。
「……まるでハハコモリの目になったみたいだねネリアさん……」
「動体視力がポケモン並みだねー……喧嘩で鍛えたのかなー……」
「“シザークロス”準備! 正面に走れハハコモリ!」
“ひのこ”を全て回避したハハコモリの両腕が光り、高速で走り出す。その先にはケーンの姿がある。
「ケ、ケーン! “でんこうせっか”!」
「左に軌道修正! ……そこだっ!」
“でんこうせっか”でよけようと試みるがネリアの指示は的確であり、逃げ切れずに“シザークロス”がヒットする。
「ケーン!」
「……ねぇラニーちゃん。なんか“シザークロス”がさっきより強くない?」
「たぶんハハコモリの特性《むしのしらせ》だねー。私のハヤシガメが倒された時の《もうか》……あれのむしタイプ版だよー」
《むしのしらせ》によってパワーアップした“シザークロス”を食らい、ケーンのダメージはかなり蓄積されてしまっている。
「ケーン……(もう後が無い……どうする……どうすれば……)」
無論、ネリアはツバキの答えが出るまで待ってなどくれない。
「決めるぞ! もう1度“シザークロス”! やや右に軌道修正して走れ!」
再びハハコモリがケーンに向けて走り出す。
「(や、やっぱり速い……! ……速い? それに目が………………これしか……無いっ……!)ケーン! “でんこうせっか”!」
かなりボロボロになってしまっているが、それでもどうにか“でんこうせっか”で走り出す。
しかしそのスピードは先ほどまでよりも落ち、ハハコモリとは比べるべくも無く距離が縮む。
「……終わり、かなー……」
「ツバキちゃん、頑張ったんだけど……」
腕を交差させたハハコモリがケーンの真後ろに迫り、もはやこれまで……。
そう誰もが思った瞬間、ツバキの声が響いた。
「急停止!」
「何っ!?」
ケーンが地面に爪を突き立てて緊急停止し、ハハコモリがその頭上を通りすぎていく。
スピードを出しきれなかったケーンと、スピードは万全だったハハコモリ……縮んだ距離は再び離れ始める。
これがネリアでなくハハコモリ自身の目であったならば、ケーンの急停止に対してもう少し柔軟な対応ができたであろう。
「“かえんぐるま”!」
そしてケーンが背中の炎を最大限に燃え上がらせ、その炎が身体を包んで車輪のごとく回転を始め、慌てて止まろうとしたハハコモリの背中目掛けて突進する。
無防備なハハコモリの身体は瞬く間に燃え上がると同時に吹っ飛ばされる。
「ハハコモリぃぃぃっっっ!!」
炎が消えると、ハハコモリは目を回して倒れ込んで動かなくなる。
様子を見に行ったラニーが、その状態を確認し……。
「……ハハコモリ……戦闘不能ー! ヒノアラシの勝ちー! よって、タマムシジム戦勝者は、チャレンジャー・ツバキー!」
ラニーの宣言に、ツバキはしばし思考が止まるが、アケビが抱き付いてきて……。
「ツバキちゃんっ! 勝ちだよツバキちゃんの! ネリアさんに勝ったんだよツバキちゃんとポケモン達がっ!」
その元気いっぱいの言葉がツバキを現実へと引き戻し、そして喜びを実感させる。
「勝った……勝ったんだ……わたし達……! ケーン!」
ツバキがケーンに駆け寄る間に、ラニーとアケビがツバキの他のポケモン達にげんきのかけらという薬を飲ませて回復させる。
「……は~……負けたか……さんきゅ、ハハコモリ。お前のおかげで熱いバトルになったぜ」
ネリアはハハコモリをボールに戻し、ケーンを振り回すツバキへと近付く。
「ツバキ。お前とお前のポケモン達……最っ高に熱いな! こんなに楽しめたのは、エリカの姐さん以来かもしれねぇ! ……ケーンだったか、お前もあっちぃな! 腰が引けてるなんつって悪かったな!」
ツバキとケーンの頭を少し乱暴に撫で回すネリアの服を、アケビがくいくいと引っ張る。
「ネリアさん、ネリアさん! これ! これ!」
そう言って差し出したのは、バッジケースだ。
「っと、そうだったな! ……ツバキ! お前達の熱いバトルに感謝と称賛を込めて、このタマムシジム突破の証……レインボーバッジを贈るぜ!」
ネリアからツバキへとバッジが手渡され、勝利の実感が形となってツバキの元へやってきた。
「~~~や、やったぁぁぁ!! 皆、本当にありがとう~!!」
ツバキは回復したポケモン達に、順番に頬擦りすると、天窓から射し込む光にレインボーバッジをかざす。
色とりどりのパーツは日の光を反射し、目に映る色を変えていく。
それはまるで、ツバキの未来の様々な可能性を暗示しているかのようだった。
つづく
【ツバキの現在の手持ちポケモン】
■ポポ(ピジョン(♂))
レベル26
特性:するどいめ
覚えている技
・すなかけ
・たつまき
・でんこうせっか
・ブレイブバード
■ミスティ(ナゾノクサ(♀))
レベル22
特性:ようりょくそ
覚えている技
・ようかいえき
・どくどく
・しびれごな
・ねむりごな
■ファンファン(ゴマゾウ(♂))
レベル21
特性:ものひろい
覚えている技
・こらえる
・まるくなる
・ころがる
・じゃれつく
■ナオ(ニャスパー(♀))
レベル22
特性:マイペース
覚えている技
・ねんりき
・ひかりのかべ
・サイケこうせん
・あくび
■ケーン(ヒノアラシ(♂))
レベル20
特性:もうか
覚えている技
・えんまく
・ひのこ
・でんこうせっか
・かえんぐるま
【ネリアの使用ポケモン】
■ジャノビー(♀)
レベル22
特性:しんりょく
覚えている技
・つるのムチ
・グラスミキサー
・やどりぎのタネ
・アクアテール
■リリーラ(♂)
レベル24
特性:きゅうばん
覚えている技
・ねをはる
・げんしのちから
・エナジーボール
・バリアー
■ハハコモリ(♀)
レベル27
特性:むしのしらせ
覚えている技
・くさぶえ
・めざめるパワー
・シザークロス
・こうそくいどう
はい、長文とのお付き合いお疲れ様でした!
文量が増えてきたので、書き溜めがだんだん難しくなってきました。
これまでは1日空けての2日連続更新が基本パターンとなっていましたが、これも変わるかもしれません。