怪しい集団に単身挑んだツバキは、姉のような存在であるイソラとしばらくぶりに再会し、その実力の一端を垣間見る。
どうにか怪しい集団……ロケット団を撃退した2人は、彼らがヤマブキシティで奪ったモンスターボールを奪還し、警察に届け出る。
こういう時にポケモン図鑑は便利であり、個人情報の登録された図鑑を所持しているというだけで信用を得られる。
というのも、ポケモン図鑑は本来、ポケモン研究者の中でもオーキド博士やナナカマド博士といった、その道で著名な人物が、これと見込んだ有望なトレーナーへ託す物であるためだ。
案の定、2人は警察から簡単な聴取を受けた後、盗品奪還への協力を感謝されて釈放された。
「っ……ふぅ……やはり座りっぱなしは肩が凝るな……。しかし、これでようやくゆっくり話ができるな」
イソラは大きく身体を伸ばすと、隣のツバキに向き直る。
「ポポくん、覚えてるよね。イソラお姉ちゃんだよ」
「そうか、やはりお前はポポか。……ふふっ、立派なピジョンに進化したな」
イソラはツバキの肩に乗ったポポの頬に触れ、ゆっくりと撫でていく。
すると懐かしさもあってか、ポポはうっとりと気持ち良さそうに目を閉じる。
「良い育て方をしている。……ん、もう新たに4体も捕まえているのか」
「あ、うん! 皆、出ておいでっ!」
ツバキは腰のボールを空中へ放り投げ、ポケモン達を外へ出す。
「ミスティ、ファンファン、ナオ、ケーン。この人はイソラお姉ちゃん……わたしのいっちばん尊敬してる人だよ!」
「ナゾノクサ、ゴマゾウ、ニャスパー、それにヒノアラシか。なかなかバランスの良い組み合わせだし、しっかり育てられているようだな。……ところでツバキ、自分用のボックスは作ったか?」
手持ちポケモン達を褒めながらの質問に、ツバキは首を傾げる。
「ボックス?」
「……やっぱりか……」
キョトンとするツバキの反応から、どうやら答えはNOであると察したイソラは頭を抱える。
「現在、ポケモンリーグ協会が定めているトレーナーが携帯できるポケモン入りモンスターボールは6つまでだ。そして、ボックスはその問題を解消するためのポケモン預り所といったところだな」
「預り所……」
「そうだ。トレーナーになった時点で個人情報が協会のデータリストに自動登録され、所持モンスターボールや個人ボックスと結び付けられる。もしもボックスを作らずに手持ち6体の状態となった場合、新たにポケモンを捕まえようとしても、モンスターボールが機能しなくなるんだ」
「えぇっ……!?」
「……ポケモン図鑑にはマニュアル機能があって、ボックスの事も書かれているはずだぞ……」
イソラの指摘に、ツバキは苦笑いをしつつ目を逸らして明後日の方向を見る。
「はぁ……ボックスはポケモンセンターに設置されたパソコンからでも作れる。行くぞツバキ」
「はぁ~い……」
とはいえボックスの新規作成自体は簡単に終わり、2人は積もる話もあるので、そのまま併設されたラウンジでお茶をする事になった。
「私は12番道路を北に行って、シオンタウン経由でヤマブキシティ、そしてタマムシシティの順番で行くつもりだったんだ。お前がジム巡りをするつもりなら、南側のセキチクシティルートを通ると思ったので、後追いよりはこちらの方が合流しやすいからな」
「そっかぁ……でも、なんで7番道路……しかも森の方にいるのわかったの?」
「ツバキの匂……ゲフン、いや、“たつまき”が見えたので、何事かと見に行ってみたんだ」
ナニかを言いかけて咳払いをしたイソラに、ツバキはまたも首を傾げる。
「まぁともかく、ツバキに大事が無くて良かった。あまり危ない事はするんじゃないぞ」
「……でも、あの人達……」
「わかってる。お前は人一倍ポケモンが好きだからな……ああいう連中が許せないのはわかるが……」
ツバキを諌めようとするイソラだったが、その前にツバキが口を開く。
「お姉ちゃん……ロケット団て……あのロケット団だよね……?」
「…………たぶん、な。私も本物を見たのは久しぶりだからな……ジョウト地方で活動停止したと聞いていたのだが……。ともかくだ。奴らはただのポケモントレーナーとも、街のチンピラともワケが違う。無茶をするな、良いな?」
「……うん……」
と、その時だった。
ツバキの背中を、何かがサーッと駆け上った。
「うひゃうぅっ!? な、なに!?」
「あ、こら! また勝手にボールから出たな? ……まぁ、タイミングとしてはちょうど良かったが……ほら来い」
ツバキの頭の上からイソラの手の上へと飛び移ったのは、堅そうな甲殻に覆われた、平べったい虫のようなポケモンだ。
「お姉ちゃん、その子は?」
「これはそうこうポケモンの『コソクムシ』だ。主にアローラ地方で見られるポケモンだな。気が弱いが、本気になるとなかなか侮れない面がある……というのがツバキを思い出してな。お前と仲良くなれるんじゃないかと、思わず捕まえてしまったんだ」
「へぇ~……コソクムシかぁ……」
ツバキが顔を近付けると、コソクムシはビクッと驚いて、触角を畳んで身体を縮めてしまう。
その人見知りな様子が自分と被るのか、ツバキは思わず吹き出してしまう。
「……ぷふっ……! 本当にわたしみたいだねお姉ちゃん。……大丈夫、何もしない……怖くないよ。……おいで?」
ツバキがコソクムシと目線を合わせ、ゆっくりと指先を伸ばすと、恐る恐るといった様子でイソラの手から移動してくる。
そのまま抱くように優しく包み込み、右手で軽く背中を撫でると、すっかり気を許したようで大人しくなった。
「(……あの臆病なコソクムシがこうもあっさり心を許すとは……もう少し時間が必要と思っていたが……)……ふっ……」
あまりにも早く打ち解けた事に、イソラは思わず感嘆の息を漏らす。
「お姉ちゃん?」
「いや……どうやらポケモンと仲良くなる、という一点において、お前は天性の才能があるらしい。私は信用を得るまでに2日かかったからな」
「そう……なのかな……? 確かにポケモンと仲良くなれるように頑張ってるつもりだけど……」
「(まぁ、ツバキは行動にも言動にも裏という物が無い……その純粋さ故か……)」
相手と同じ目線に立ち、相手と向き合う時には自分の心の内まで全てさらけ出す。
その決して嘘の無い姿勢が、ポケモン達からの信頼を勝ち取る大きな要因なのだろうとイソラは考える。
「どうだツバキ。コソクムシもお前を気に入っているようだし、育ててやってくれないか? まぁ、臆病なわりに好奇心旺盛で、勝手にボールから出る事のある少し困った奴だが」
イソラの提案に、ツバキはコソクムシと顔を見合わせ、しばし同じような顔をして考え込む。
「コソクムシ。お姉ちゃんじゃなくて、わたしと一緒に来てくれる?」
コソクムシはイソラとツバキの顔を3~4回ほど交互に見ると、ツバキに向かって頷く。
「ふふっ、決まりだな。ほら、これがコソクムシのモンスターボールだ。新たにお前のポケモンとして登録すると良い」
「うんっ、ありがとうお姉ちゃん! よろしくねコソクムシ。……堅くて頼りになりそうな殻……殻……シェル…………シェルル。シェルルって名前、どう?」
「シェルルか。良いんじゃないか? ちょうど♀だし、それっぽい響きだ」
イソラが頷き、コソクムシも手の上でピョンピョンと飛び跳ねる様子から察するに、気に入ったらしい。
「えへへ、よろしくねシェルル! ほら、皆も」
ツバキが他のポケモン達の輪の中にシェルルを下ろすと、びっくりしてツバキの脚の陰に隠れてしまった。
「……ケーンよりも気が弱いんだねシェルル……皆、仲良くしてあげてね」
ツバキはシェルルをボールに入れ、持ち主をイソラから変更して登録する。
ポケモンセンターを出たツバキは、今日はやけにパトカーや警官を多く見る事に気が付く。
「……ねぇ、お姉ちゃん。なんだか今日は警察の人が多い気がするんだけど……」
「ああ。さっきのボール泥棒もそうだが、このヤマブキシティでは妙に事件が続いているようでな。看板や窓の損壊、ひったくり……そしてシルフカンパニーへの爆破予告とかな。これが本当に爆弾が見つかったので、ただのイタズラではないようだ」
「ば、爆弾!?」
「なんでも、シルフカンパニー1階の噴水の中に仕掛けられていたそうだ。ただ……予告状なんて挑発的な事をしたわりには、あっさり発見された上、作りもお粗末だったようだぞ。私としてはどうにもそれが気になるんだ」
イソラはヤマブキシティ中央にそびえるシルフカンパニー本社ビルを睨んで目を細める。
「社長室でも、研究区画でも、致命的な被害を与えられる場所は多いのに、大した効果の見込めない1階ロビーの噴水の中……まるで爆破自体は目的ではないかのようだ」
神妙な顔でビルを眺めるイソラの言葉に、ツバキは妙な不安感を掻き立てられるのだった。
――――カントー発電所
カントー地方の電気の大部分を賄う発電所……その入り口で、2人の警備員が談笑に興じている。
「はっはは! そりゃ災難だったな!」
「笑い事じゃないっての、まったく……ん? 風……?」
不意に風が強くなる。
よく見れば、発電所の明かりに照らされ、キラキラと光る粒子のような物が風に乗って飛んでいる。
そして、それを吸った2人は瞬く間に意識を失ってその場に倒れてしまった。
「もう良いわ。ありがとうフォーン」
物陰から1人の女性が現れ、どくがポケモン『モルフォン』をボールに戻す。
口には棒付きキャンディをくわえ、背後には30名ほどの黒ずくめの集団が控えている。
「行くわよ」
女性を先頭に、ぞろぞろと発電所前に集まり、眠ってしまった警備員達を縛り上げてモンスターボールを没収する。
しばらくすると、発電所の中から眼鏡をかけた男性が現れる。
「通信回線は、別枠の所長室を除いて遮断し、モニタールームの警備員には事前に睡眠薬入りの夜食を差し入れました。少なくとも2時間は目覚めません。で、これがカードキーです。セキュリティレベルBまでは開けられます」
「十分よ。じゃ、はいこれ」
女性は部下らしき男から厚みのある封筒を受け取り、男性に手渡す。
中身を確認した男性は満足そうに微笑むと、いそいそと懐にしまい込んだ。
「ところで、本当に設備には手を出さないんですよね?」
「もちろん。電気が無くなって困るのはアタシらも同じだもの」
「へへ、それを聞いて安心しましたよ。それじゃ失礼……」
こそこそとその場を立ち去っていく男性を見送りながら、一団の中の1人が女性に耳打ちする。
「消しますか?」
「ほっときなさい。確かに金の切れ目が縁の切れ目……でも、今さらあいつが警察に駆け込んだとしても手遅れよ。でしょ?」
「それはまぁ……」
「それに、今頃警察はあっちこちの事故や事件で手一杯……すぐには動けないはずよ。さ、無駄話してないでとっとと制圧するわよ。A班は所員の拘束、B班は『S』の捜索、C班は動力室を制圧して装置を充電。行きなさい」
「はっ、ウィルゴ様!」
黒ずくめの集団は、バラバラと発電所内に突入していき、女性も悠々とその後に続く。
「順調すぎてつまらないわねぇ……はぁ……」
女性の憂鬱そうな溜め息が、夜の闇へと消えていった。
つづく
今回も駄文と落書きへのお付き合いありがとうございました!
果たしてコソクムシに似てると言われて喜ぶ女の子はどれだけいるのでしょうね……。