ヤマブキシティ……東にシオンタウン、西にタマムシシティ、南にクチバシティ、そして北にハナダシティと、4つの街へと繋がる交通の要所である。
ジョウト地方と結ばれたリニアモーターカーの駅も擁し、あちらからやってきた人々は、東西南北思い思いの方向へ観光に出かけられるというわけである。
シオンタウンにはカントーラジオ局、タマムシシティは大都会、クチバシティは港街、ハナダシティそのものには名所と呼べる場所は無いものの、近くにはカントー発電所が存在している。
そしてポケモントレーナー御用達の多様な道具を開発・販売するシルフカンパニーが本社ビルを構える、このヤマブキシティを中心とした一帯は、カントー地方の交通、通信、経済、電力と様々な面において非常に重要な位置付けとなっている。
「……ん……もう朝かぁ……ふわぁ……ぁふ……」
ポケモンセンターの個室で目を覚ましたツバキは、閉じそうな目を擦りながらシャワーを浴びて着替えると、ポポを連れてロビーに出る。
すると、パソコンを弄るイソラの姿が視界に映った。
「おはようツバキ。よく眠っていたようだな」
近付くと、ツバキが声をかける前に背を向けたままイソラが朝の挨拶をしてくる。
「お、おはよう……お姉ちゃん。……何してたの?」
「手持ちポケモンの入れ替えだ。私は基本的にひこうタイプを専門としているが、それに絞っても所持ポケモンの数が多いからな。たまに連れ歩くポケモンを替えないと、ポケモン達が拗ねてしまうんだ」
イソラがパソコンを操作し、備え付けられた装置にモンスターボールを置くと、光の粒子のように消え、次の瞬間には別のボールが戻ってきた。
「よし。……さて、ツバキ。クチバ、セキチク、タマムシとジムを勝ち抜いてきたのなら、今度はこのヤマブキでジム戦をするんだろう?」
1つを除いて入れ替えた5個のボールをベルトに着けながら問いかけるイソラに、ツバキは頷きを返す。
「うん、そのつもり」
「ヤマブキジムはエスパータイプを専門に扱うジムだ。今はどうだか知らないが、私の時はナツメさんという人がジムリーダーだったな……エスパータイプの強みを最大限に活かした、とんでもなく手強い人だった」
「エスパータイプ……ナオと同じタイプだね」
「そうだ。エスパーにはむし、ゴースト、あくタイプが有利だが……あいにくとお前の手持ちには、あまり戦闘向きでないシェルルだけだな……この辺りだとデルビルやムウマ、ゴースなどが生息しているが、捕まえてすぐジム戦投入ともいかんだろうな」
イソラは何世代か前のポケモン図鑑を取り出し、タイプを指定して周辺に生息するポケモンを確認する。
「(今はグラエナやアイアントも生息しているのか……本当に昔とは別物の生態系だな……ミツハニーとビークインのコロニーまで確認されているじゃないか……)」
自分の旅していた頃とは大きく様変わりした生態系に、イソラは鋭い顔付きになる。
「(ポケモン達が独自に安定させているおかげで大事とはなっていないが、人間のエゴの産物だなこれは……)」
「お姉ちゃん? どうしたの?」
「……いや、なんでもない。ともかく、新しく有利なタイプのポケモンを捕まえるよりは、今のメンバーを鍛えた方が早いな」
顔を覗き込んできたツバキにハッとしたイソラは、すぐさま表情を和らげて微笑みかける。
「じゃあ特訓だね!」
ふんすと鼻息荒いツバキの発言に頷いたイソラは、ふと思い付いたように柏手を打つ。
「お、そうだ……ツバキ、実は私も育てたいポケモンがいるんだ。そこでだ……私とバトルをしないか?」
「……えっ……えぇーーーーっっ!? む、無理だよ……わたしなんかがお姉ちゃんとなんて……」
あまりにも唐突な提案にすっかり腰が引けたツバキは、両手の指をもじもじと絡めて目を右往左往させてしまう。
「心配するな。ジムリーダーと同じように、私もお前のトレーナーレベルに合わせたポケモンを使用する。それなら問題は無いだろう?」
「う~……そ、それなら……」
特訓を兼ねたバトルをする事に決まった2人は、ヤマブキシティとシオンタウンを結ぶ8番道路へと向かった。
「ん? おお、公共のバトルフィールドがあるのか。私の頃には無かったが……さすがに変わるものだな……よし、ここを使わせてもらうとしよう」
「うん」
2人はジムなどの物より一回り小さいバトルフィールドで向かい合い、ボールを構える。
「お願いファンファン!」
「行けっ、ケララッパ!」
ツバキの出したファンファンの前に降り立ったのは、白と黒の体色に、黒、赤、オレンジの3色で彩られたクチバシを持つラッパぐちポケモンの『ケララッパ』だ。
「初めて見るポケモン……!」
「アローラ地方で捕まえたポケモンだ。捕まえたは良いが、なかなか育てる機会が無くてな。……どうだケララッパ、カントーの空は?」
羽ばたいて浮かび上がったケララッパは興味深そうに空中を3回ほど旋回し、嬉しそうな鳴き声を上げる。
「気に入ったようだな。だが、今はカントー初のバトルを楽しもう。遊びはあとで、な」
ケララッパは再度地上スレスレに降りると、ファンファンと対峙して睨み合う。
「さぁ、どこからでも来いツバキ!」
「う、うん……! ファンファン、“ころがる”!」
ジャンプと同時に身体を丸めたファンファンが、落下時のバウンドを利用してケララッパへ突進する。
「“かげぶんしん”」
ヒットの寸前、ケララッパの姿が10体以上に増え、ファンファンの身体はその1つをすり抜けてしまった。
「“みだれづき”」
「ファンファン、“まるくなる”!」
攻撃を外して地面に降りたファンファンへ、全てのケララッパがクチバシを突きだして殺到するが、身体を丸めての防御態勢が間に合った。
「(回避は困難と早々に判断して守りを固めたか……バッジ3つともなるとさすがにやるなツバキ。ならば……)ケララッパ、“いわくだき”」
ケララッパのクチバシが白く発光し、それまでの連続攻撃から一転、一撃一撃に力を込めてクチバシが降り下ろされ、見る見るファンファンの守りが崩されていく。
「ファンファン!?」
「“いわくだき”は相手の守りを崩す事に特化した技だ。さぁ、どう巻き返す?」
ケララッパに包囲されての集中攻撃に防御態勢が次第に解かれていくファンファンの姿を見て、ツバキはどうにかしなければと思考を巡らせる。
「……っ! ファンファン、“ころがる”で脱出して!」
ツバキの指示に従い、予備動作無し故に勢いは無いながらも転がる事でケララッパの集団の中から離脱するが、なおケララッパは追いすがる。
「…………今だよ! 振り向いて“じゃれつく”!」
あわやケララッパに追いつかれるという瞬間、丸まった状態を解除したファンファンは長い鼻を力強く振り回し、背後に迫っていたケララッパ達を薙ぎ倒していく。
分身が消えて本体に鼻がヒットし、ケララッパはコマのようにぐるんぐるん回りながら地面に落下する。
「(分身は所詮分身。本体と完全に独立した動きはできない……一点を直線状に追えば、分身が本体周辺に纏まってしまう事を利用して一網打尽にしたのか……!)」
決して考えつかない方法ではないながら、それをトレーナーとして日の浅いツバキが発想し、実践した事にイソラは驚かざるをえなかった。
「……この短期間でバッジ3つを勝ち取ったのは伊達ではないようだな、ツバキ! ケララッパ、“ロックブラスト”だ!」
起き上がったケララッパの口から、拳大の岩が5発撃ち出され、ファンファンに連続でヒットする。
「ファンファン、大丈夫!?」
じめんタイプのファンファンにいわタイプ技は効きにくいが、それでもそこそこの質量がそこそこの速度でぶつかったので、痛いものは痛い。
「立て続けに“ロックブラスト”」
空中から大量の岩が隕石のように降り注ぎ、ファンファンを追いつめていく。
「“まるくなる”!」
再度防御態勢に入るが、先ほどの“いわくだき”のダメージが残り、思うような防御効果が得られていないようにも見える。
「“ころがる”!」
今度は“ころがる”の回転も加える事で、ただ“まるくなる”を使った時よりは岩を弾けた。
とはいえ、一方的に攻撃されている状況は変わらず、空中の相手への攻撃手段の乏しさが浮き彫りとなる。
「……どうするツバキ? 今のファンファンの技構成では、飛んでいるケララッパにそうそう攻撃は当てられない。フィールドは平坦で、ジャンプ台になるような物も無い」
「うぅ……」
ツバキはなんとかできないかとフィールドを見渡す。
……と、視界に映ったのは地面に落ちた“ロックブラスト”の岩だ。
「……! ファンファン、あの岩に“ころがる”!」
ゴロゴロとタイヤのように転がったファンファンは、落ちていた岩を弾いてケララッパへ向けて飛ばし、反撃を試みる。
「そう来たか……その場にある物全て利用する……ポケモンバトルでは重要な要素だな。だがそうそう当たるものではないぞ」
その言葉通り、次々に弾き飛ばされる岩を、ケララッパはホバリングするように回避していく。
「ううん、これで良いんだよお姉ちゃん……! ファンファン、ジャンプ!」
ツバキの狙いは、ケララッパがこちらの攻撃を回避する事だった。
連続して飛ばされる岩をよける事に専念する内、ケララッパの高度は徐々に下がり、ファンファンがジャンプすれば捉えられる高さまで降りていたのだ。
「良い狙いだ。だがなツバキ……私がひこうタイプを得意とする事を忘れているぞ。急上昇」
ジャンプしたファンファンがケララッパの脚に鼻を絡める寸前、ケララッパが上昇し、ファンファンはあえなく落下してしまう。
「あぁっ……!」
「個体差はあるが、ひこうタイプポケモンの飛び方のクセや動き、指示から実行までのタイムラグ……ある程度は把握しているつもりだ。“みだれづき”」
落下するファンファンにケララッパのクチバシが連続して突き立てられ、勢いを増した状態で地面に叩き付けられてしまい、目を回してダウンした。
「ファンファン、ごめんね……」
ツバキがファンファンを抱き上げて謝っていると、イソラが歩み寄り、ファンファンにキズぐすりを吹きつける。
「お前の狙いは悪くなかった。が、私も馬鹿ではないつもりだからな。地面に引きずり下ろされないギリギリの線を把握し、キープしている。自分のポケモンの特徴を理解するのはもちろんだが、相手より有利な状況を維持できるポジションも常に検証し、把握しておくんだぞ」
「うん……やっぱりお姉ちゃんはすごいね……」
「いや、実を言うと……お前の発想力には私も驚かされた。洞察力もあるし、トレーナーとしての資質は十分にある。経験を積めば、私以上となる可能性も秘めている」
だんだんとイソラの語尾が上がって早口になり、ツバキが「まさか」と察した次の瞬間にはガシッとツバキの肩を掴んでいた。
「本当にお前はすごい子だツバキ! 可愛い上に賢く強く才能があってしかも可愛い妹でお姉ちゃんはすごく! とても! 嬉しいぞ! この可能性の怪物さんめ! あぁ~! ツバキツバキツバキ……!!」
掴んだ肩をガックンガックン揺らして、思いっきり抱きしめて頭を撫で回して頬擦りする。
「(治ってなかった……)」
ツバキはイソラを尊敬している。トレーナーとして、年上として、頼りになる格好いい人だと思っている。
……が、昔からこの行きすぎた溺愛ぶりにだけは少し辟易としていたのである。
再会してしばらくの間は兆候が無かったので、離れている間に落ち着いたのかと思ったが、どうも我慢していただけだったようだ。
「ツバキぃぃぃ~~~~~~っっっ!!」
イソラのそれまでに無いだらしのない声が大空に木霊した……。
つづく
今回も駄文雑文落書きにお付き合いいただいてありがとうございます!
本作のメインキャラにマトモな人はいません。