蒼天のキズナ   作:劉翼

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タマムシジム戦からあまり間が空いていませんが、ヤマブキジム戦突入回の第26話です。


第26話:エスパータイプは拳で語る!?

「ケーン、“ひのこ”!」

 

「ガーメイル、“シャドーボール”!」

 

 8番道路に設けられたバトルフィールドを爆煙が舞う。

 朝から始めたヤマブキジム攻略に向けたツバキとイソラの特訓は、日が傾き始めてなお続いていた。

 

「良いぞ、ポケモン達も技の効率的な使い方が身に付いてきたようだな」

 

 イソラが褒める通り、ツバキのポケモン達は技を繰り返し使う事によって技のクセを学習し、体力やエネルギー消費の無駄が大きく減っており、同じ技でも以前より多く使えるようになっている。

 

「お姉ちゃんのおかげだよ、ありがとう!」

 

「お前とポケモン達の飲み込みが早いというのもある。もっと自分達を誇ると良いぞ。……ん、もうこんな時間か……暗くなってきたし、そろそろ切り上げるか」

 

「うんっ! 皆もお疲れ様、戻ってご飯……の、前にお風呂だね。ナオも今日ばっかりはちゃんとシャワー浴びなきゃダメだよ?」

 

 特訓を終えてみれば、ポケモン達は皆砂まみれで毛並みも乱れている。

 風呂嫌いなナオを除いた面々が返事として鳴き声を上げ、ツバキは順番にボールへと戻していく。

 

「ガーメイル、お前もご苦労だったな。……おーい、帰るぞケララッパー!」

 

 イソラもツバキの特訓相手を頼んだミノガポケモン『ガーメイル』を労いながらボールに戻し、周辺を飛び回るケララッパに声をかける。

 その声に応じてイソラの腕に降りたケララッパは、満足げな表情をしている。

 

「ふっ、アローラの空とはまた違う空気だっただろう? さぁ、ポケモンセンターに戻ったらお前もシャワーを浴びないとな」

 

 ケララッパをボールに回収したイソラは、ツバキと手を繋いでヤマブキシティへと戻り、ポケモンセンターでポケモン達の汗と汚れを落としてから食事を取る。

 

「お姉ちゃん、ポケモンフーズもらってきたよ」

 

「そうか。ではこれを」

 

 イソラが取り出したのは、それぞれ違うラベルを貼られた何本かのボトルだ。

 

「それは?」

 

「複数の木の実をブレンドしたソースだ。ポケモンフーズは手軽だが味気無いからな……かといって旅をしていると完全自作のフーズは手間がかかりすぎる。なのでソースを作ってポケモン達の味の好みに合わせて使い分けているんだ。ツバキもポケモンの好みを知っておいた方が良いと思ってな」

 

 イソラは5枚の皿にそれぞれ違うソースを少しずつ入れると、ツバキのポケモン達の前に差し出す。

 

「さぁ、好きな香りのする皿の前に集まってくれ」

 

 6体は何度か皿の間を行き来した後、それぞれの皿の前で止まった。

 

「ふむ……ポポは辛い味、ミスティは苦い味、ファンファンは酸っぱい味、ナオとケーンは渋い味、シェルルは甘い味が好きなようだな」

 

「へえぇ……! ねぇお姉ちゃん、あとでブレンドの仕方を教えて?」

 

「もちろんだ」

 

 好奇心で輝くツバキの瞳に、イソラは表情が崩れそうになるが、どうにか持ちこたえる。

 

「これをポケモンフーズの上にかければ良いんだよね?」

 

「ああ。ただ、満遍なくかけつつも量が多くなりすぎないようにな」

 

 ツバキは頷き、器に盛ったポケモンフーズの上から慎重にソースをかけていく。

 

「……こ、こんな感じでどうかな?」

 

「ああ、良い感じだぞ」

 

 盛り付けた器をイソラに見せて太鼓判をもらうと、ツバキは満面の笑みを浮かべてポケモン達の前へと置いていく。

 

「お待たせ皆。たくさん食べてね」

 

 ポケモン達はツバキの言葉を待ってましたとばかりに一斉にがっつき始める。

 

「す、すごい勢い……好きな味のソースをかけるだけでこんなに違うんだ……」

 

「人間と同じさ、好きな物を食べる時はテンションが上がるものだ。さぁ、私達も夕食にしよう」

 

「うん。……いただきます!」

 

「いただきます」

 

 ツバキとイソラはテーブルにつくと、両手を合わせて食事を始め、ポケモン達を眺めながら箸を進めていった。

 

「……それにしても、お姉ちゃんのポケモンはやっぱり迫力が違うね……」

 

 ツバキが視線を向けたのは、同じように食事を取るイソラのポケモン達。

 オニドリル、ケララッパ、ガーメイル、フワライド、ボーマンダ、シンボラー……捕まえたばかりというケララッパを除けば、いずれも相当に鍛え上げられているようである。

 

「まぁ、ひこうタイプ専門という縛りを自分で設けている以上は、それを補えるだけの実力が必要となるからな。精進は怠っていないつもりだ。……ごちそうさまでした」

 

「ごちそうさまでした! ……わたし達も、そのくらい強くなれるかな……」

 

 カチャカチャとトレイの上に食器を重ねながら、ツバキは不安を口にする。

 

「言っただろう? お前の才覚は私が保証する。お前のポケモン達の素養もだ。自信を持て」

 

「……うん……」

 

 その時、ツバキの脚をポポのクチバシが突ついた。

 

「ぁいたっ! ポ、ポポくん……?」

 

 見れば、ポポを筆頭にポケモン達がじっとツバキを見ている。

 

「……そうだったね。強くなれるか、じゃなくて……一緒に強くなるんだったよね。もっと皆を信じなきゃ、ね」

 

 ツバキはしゃがみ込み、ポポを抱きしめてその羽毛に顔を埋める。

 

「(……ポポそこ替われ……と言えるような空気でもないか……)」

 

 下心が口をついて出そうになったイソラも食器を重ねて片付けを始める。

 

「……お姉ちゃん」

 

「ん?」

 

 並んで後片付けをしながら、ツバキがイソラに声をかける。

 

「わたし……わたし達、いつかお姉ちゃんみたいに……うぅん、お姉ちゃんより強くなる。だから、わたしが自分に自信を持てるようになったら……わたしと本気でバトルしてくれる?」

 

「……ああ、約束だ。その時を楽しみにしているぞ」

 

 2人は指切りをすると、それぞれ個室へ戻ってその夜は眠りについた。

 そして翌朝、ツバキは日の出と同時に目を覚まして出かける準備を終えると、ポケモン達を目の前に出してその姿を眺める。

 

「ポポくん、ミスティ、ファンファン、ナオ、ケーン、シェルル……今日勝つ事ができれば、リーグまでの折り返し……頑張ろう!」

 

 ツバキの決意宿る瞳と声に応じるように、ポケモン達は一斉に声を上げる。

 部屋を出ると、イソラが待っていた。

 

「やはり今日行くんだな? ヤマブキジムへ」

 

「うん。……急ぎすぎかな?」

 

 ツバキの問いかけに、イソラは静かに首を横に振る。

 

「いや、そうは思わん。確かに急いては事をし損ずる、とは言うが、思い立ったが吉日とも言う。お前が何を思ったのかは知らないが、自信や決意が芽生えたのなら、すぐに行動するのは間違いではない……と、私は思う。勢いが大切な場合も往々にしてあるものだ」

 

「……ありがとう、お姉ちゃん。……昨日ね、ポポくん達の目を見て、すっごくやる気に溢れてるなって思ったの。それでなんとなくだけど、ここを逃しちゃいけない! って気になっちゃって」

 

「直感か……だが、直感も案外馬鹿にはできない。理性と思考だけが行動原理でないのは人間もポケモンも同じだ。ならば、お前はお前とポケモン達の直感を信じれば良い。……行こう」

 

「……うんっ!」

 

 イソラの後押しもあり、ツバキは自分達の気合いと直感を信じてヤマブキジムへと向かう。

 街の北東部に位置するヤマブキジムの前に到着したツバキは、ふとジムの隣に一回り小さい建物がある事に疑問を抱いた。

 

「……? ジムが2つ……?」

 

「確かこっちは……格闘道場だったか。見たところ閉鎖されているようだな……」

 

 確かに、来訪者を迎える明かりが灯るヤマブキジムに比べ、格闘道場は電気も点かず、人気も感じられずに静まり返っている。

 

「元々は今のヤマブキジムと公認ジムの座を取り合って敗れたそうだが……思えばあの頃からあまり勢いが無かったな……」

 

 一旦権威が失墜すれば瞬く間にこのザマ……現実は世知辛いものである。

 

「ああ、そうだツバキ。技マシンは持っているか?」

 

「え? うん、持ってるよ」

 

 ツバキはバッグを開き、ジムリーダー達からもらった技マシンをイソラに見せる。

 

「“10まんボルト”に“どくどく”、それと“エナジーボール”か……使ったのはミスティに“どくどく”を覚えさせただけだったな?」

 

「うん」

 

「実はニャスパー……ナオは器用なポケモンで、この3つの技を全て覚えられるんだ。様々なタイプへの対応力を上げるためにも、“10まんボルト”か“エナジーボール”を覚えさせてはどうだ?」

 

「でんき技もくさ技も使えるんだ……どうしようかな……」

 

 ツバキは顎に手を当て、しばらく唸った後、ナオをボールから出して技マシンレコーダーをセットする。

 

「ナオ、ちょっと残念だけど、“サイケこうせん”の代わりに、新しい技を覚えてほしいの。……良い?」

 

 ナオが頷くと、ツバキはレコーダーのスイッチを入れ、ナオの頭の中に技の情報をインプットしていく。

 

「……うん。覚えたみたいだね」

 

「これで今できる準備は全て終えたな。では、改めて……」

 

「ヤマブキジムに挑戦! ……だね」

 

 ツバキは息を飲み、静かに深呼吸をしてから、ジムの扉を開けた。

 ジムに入ると、受付にいた男性が顔を上げて近付いてきた。

 

「ようこそヤマブキジムへ。本日はどういったご用件でしょうか?」

 

「あ、あの、ジム戦をお願いしたくて……」

 

「かしこまりました。少々お待ちください」

 

 にこやかに応じた男性は、カウンターの電話を鳴らす。

 

「……あ、ジムリーダー、チャレンジャーの方がいらっしゃいました。……はい……はい……かしこまりました。では。……お待たせいたしました。それでは、あちらの扉の中へ入り、部屋の床にあるパネルにお乗りください」

 

 指示に従って部屋に入ると、床には大きな四角いパネルがセットされていた。

 

「ワープパネルか……懐かしいな。ポケモンの“テレポート”という技を応用したシステムで、離れた場所にあるパネル同士で瞬間移動ができるんだ。最も、まだまだ近距離ネットワークしか構築できていないようだがな」

 

「へぇ……乗っても痛くない?」

 

 未知の技術を前に、久々にツバキのへっぴり腰が発動してしまったようだ。

 

「さすがに危険のあるシステムをジムに設置はしない………………はずだ。さぁさぁ、行くぞ」

 

 一瞬、イソラの脳裏をイッシュ地方のとあるジムがよぎったが、今は忘れる事にする。下手な事を言ってツバキを不安にさせる事は無い。

 イソラがツバキの背中を押すように一緒にパネルの上に乗ると、激しく回転するような感覚と共に周辺の景色が歪む。

 感覚が正常に戻り、2人がゆっくり目を開くと……。

 

「押忍! ようこそチャレンジャー!」

 

 目の前にいたのは、頭に赤い鉢巻きを巻き、白い胴着を着た、いかにも格闘家な男性だった。

 

「……システムの故障か? 格闘道場へ来てしまったようだな」

 

「ごめんなさい、間違えました」

 

 踵を返して再びパネルに乗ろうとする2人を、男性が慌てて呼び止める。

 

「ちょちょちょっ! 合ってるっス! ここヤマブキジムっスから! 自分がジムリーダーのリョウブっス!」

 

 その言葉にイソラは怪訝そうな表情をして、リョウブと名乗る男性をまじまじと観察する。

 

「……エスパー?」

 

「エスパーっス。……いや、おっしゃりたい事はわかるっスよ? 自分でもそれっぽくないと思うっスから。ただ、自分は元々は格闘道場の門下だったので、そこは勘弁していただきたいっス」

 

「格闘道場って事は、かくとうタイプ使い……なんですよね? どうしてエスパータイプのジムリーダーさんに?」

 

 首を傾げるツバキに、リョウブはウームと唸り、ポツポツと事情を話し始める。

 

「ご存じとは思うっスけど、格闘道場はヤマブキジムとのジム争いに敗れたっス。その事で評判は落ちて門下生が一部離れ、その後も業績は振るわず、傷心の道場主・カラテ大王ノブヒコ様が修行の旅に出ている間に門下生はさらに減り、とうとう自分1人になってしまったっス」

 

「うわぁ……生々しい話だな……」

 

「1人じゃ建物の整備すらままならず、ついに取り壊されそうになってしまったんスよ。そこに助け船を出してくれたのが、ヤマブキジムのナツメさんだったっス。ジムリーダーとしての権限で、建物の管理を受け持ってくれたんス。曰く……」

 

「ノブヒコ氏は切磋琢磨する我が好敵手であり、その居場所である道場は自分にとっても必要な物だから」

 

「……だ、そうっス。格好いいっスよね。道場がナツメさんのおかげで取り壊されずに済み、自分は恩返しのためにヤマブキジムのジムトレーナーになったんスよ。で、他のトレーナーとはバトルスタイルが違うせいか、ナツメさんに目をかけていただき、いつしかこうして留守を任されるようになった……というわけっス」

 

「(ネリアさんもすごかったけど、この人もすごい経歴……)」

 

 ツバキは素直にその経歴に驚いていたが、イソラが気になったのは別の台詞だった。

 

「(他のトレーナーとは違うバトルスタイル……かくとう使いから転向したエスパー使いか……これは既存のエスパー対策は通用しないかもな……)」

 

「前置きが長くなってしまって申し訳ないっス。バトルの説明をさせていただいても良いっスか?」

 

「あ、ごめんなさい、お願いします! グレンタウンから来ましたツバキです!」

 

「付き添いのイソラです」

 

 挨拶を終えると、リョウブからジム戦の説明が始められた。

 

「まず重要なのは、相手を全滅させる必要は無い、という事っス。ツバキさんのバッジはいくつっスか?」

 

「3つです」

 

「という事はトレーナーレベル4……使用ポケモンはお互いに3体っスね。では、3対3を例に説明をさせていただき、ツバキさんのポケモンを大文字、自分のを小文字で表現するっス。まず、ポケモンAとポケモンaがバトルして、Aが勝ったとするっス」

 

 リョウブはホワイトボードに図を書き込みながら説明をしていく。

 

「次は当然bが出てくるっスが、ここで注意すべきは、b戦を含めた以降のバトルでは、どんなに体力が残っていようとAを使う事はできないという事っス。つまり、ポケモンは出したそのバトル限定で使える事になるっス。無論、入れ替えは不可。ただし、自分が出したポケモンを見てから、ツバキさんも出すポケモンを決めて良いっス」

 

「なるほど……相手を見てから有利なポケモンを出す事は許されるが、その後のバトルでは使えなくなるので、本当にそのバトルで出して良いかの見極めが大切と……」

 

「その通りっス。出すポケモンは手持ちから自由に選んで良いっスが、最終的に使ったポケモンは3体にせねばならないっス。そうしてバトルを重ね、今回の場合は先に相手を2体倒せば勝利っス」

 

 うんうんと頷くツバキは、要点を復唱する。

 

「入れ替え無し。ポケモンは3体選んで、バトルは各1回だけ。2回勝ちで終わり……」

 

「そうっス! 自分、説明は下手なんスけど、理解が早いっスね」

 

「この子は賢いので。……よろしければ、私が審判を務めましょうか?」

 

 イソラの提案にリョウブは嬉しそうに頷く。

 

「おお、それはありがたいっス! その雰囲気、どうやら手練れのトレーナーのようですし、ぜひお願いするっス! ……正直、審判呼ぶのめんどくさいっスから」

 

「わかりました。では、両者対戦位置に。……当然判断は公平にさせてもらうからな、ツバキ。お前は可愛い妹分だが、贔屓はしない」

 

「もちろんだよお姉ちゃん! それじゃリョウブさん、よろしくお願いします!」

 

「こちらこそっス! ……ジムリーダー代理・リョウブ! いざ、参るっス!! 押忍っ!!」

 

――――ジムリーダーのリョウブが勝負を仕掛けてきた!

 

 

【挿絵表示】

 

 

「出番っスよ、アサナン!」

 

 リョウブの投擲したボールから、小柄な人間のようなポケモンが現れて立ち上がる。めいそうポケモンの『アサナン』だ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 ツバキは図鑑を開いてタイプを確認し、目を細めて思案する。

 

「(かくとうとエスパー……有利なのはポポくんだけど、出したらこの後のバトルでは使えなくなっちゃう……唯一進化してるポポくんは切り札になるけど……ここは可も無いけど不可も無い他の子を使うべき……? でも……)」

 

「(……考えているなツバキ。それで良い。その後のバトルの流れをイメージしてポケモンを選ぶ事は、トレーナーにとって重要な事だ)」

 

 しばらく考え込んだツバキは、目を見開き1つのボールを手に取る。

 

「……決めました。わたしの1番手は……この子ですっ!」

 

 ツバキが放り投げたボールが、天井近くまで上昇した後に開かれ、ポケモンのシルエットが形作られる。

 ヤマブキジム戦……その火蓋が切って落とされようとしていた。

 

 

 

つづく




今回も駄文雑文落書きにお付き合いいただき、ありがとうございます!

リョウブの外見は各シリーズのからておうをモチーフにしています。
こんな暑苦しいエスパー使いは初めてだ……。
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