蒼天のキズナ   作:劉翼

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サブタイ通りにヤマブキジム戦の決着となる第28話です!


第28話:決着の大将戦!迸る念動対決!

 ジムリーダー代理・リョウブとのヤマブキジム戦は、1勝1敗……決着は3体目のポケモンによる大将戦へともつれ込む。

 リョウブの投げた3つ目のモンスターボールが開き、地面に片膝を付いたシルエットが形作られる。

 そのポケモンは完全に固着すると立ち上がり、左手から垂らした振り子をヒュンヒュンと振り回して握り込む。

 

「いよいよお前の出番スよ、スリーパー!」

 

 黄色い毛並みに、白くフサフサした首回りの毛、狐のようなバクのような尖った顔が特徴的な、さいみんポケモン『スリーパー』である。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「(スリーパーか……数多いエスパータイプの中でも、超能力を用いた特殊戦闘はもちろん、物理戦闘、攪乱戦闘、防御戦闘と実に多彩な戦術を可能とするスペックを秘めた厄介なポケモンだな……どう戦う、ツバキ)」

 

「(今度はエスパータイプだけ……タイプで言えばシェルルが有利だけど……ここは……!)」

 

 ツバキの指が、腰のベルトに着いたボールを順番になぞり、その内の1つに触れて動きを止める。

 

「……お願い……! ナオっ!」

 

 選んだボールを空中へと放り投げ、中から灰色の毛を揺らしてナオが現れる。

 

「ニャスパー……あまり見かけないポケモンっスね! 目には目をの精神スか?」

 

「(なるほど、同じエスパー同士なら主力となるエスパー技は効きにくいが、それはこちらも同じ事……それ以外の技とトレーナーの戦術が物を言うバトルとなるか……?)……それでは、これよりヤマブキジム戦最終バトル……大将戦、スリーパー対ニャスパーを開始する。このバトルの結果によって勝敗が決定するので、両者悔いの無いバトルを。……バトル…………開始っ!」

 

「スリーパー、“ヨガのポーズ”!」

 

 スリーパーが目を閉じ、両手を合わせて右脚を曲げ、左脚のみで直立してピクリとも動かなくなる。

 

「……? よ、よくわからないけど、何か仕掛けてくる……! 落ち着いて……不用意に動かないで……!」

 

 突如奇妙なポーズを取り始めたスリーパーに対して警戒心を強め、距離を保ったまま様子を見る。

 

「(“ヨガのポーズ”は感覚を研ぎ澄まし、身体の底に眠る力を一時的に呼び覚ます技……あの後の物理攻撃は強力になる……! 慎重になりすぎているぞツバキ……!)」

 

 やはりというべきか、ツバキはまだまだ経験が浅く、実力こそそれなりに身に付けてきたが、特性や技は完全には把握できていない。

 その知識不足が大きな足枷となり、ツバキの積極的な行動を抑制してしまう場合があるのは致命的な弱点である。今、この時のように。

 

「行くっスよスリーパー! “れいとうパンチ”っス!」

 

 “ヨガのポーズ”を解除したスリーパーの目が見開かれ、その拳が強烈な冷気を纏う。

 ジャリッと地面を踏みしめたスリーパーは、姿勢を低くし、まるで滑るように飛ぶように走って距離を詰めてくる。

 

「来たっ……! 迎え撃つよ、ナオ! “10まんボルト”!」

 

 ナオの身体が帯電して毛が逆立ち、周囲の空気がバチバチと音を立てる。

 その音が一際大きくなった瞬間、強力な電撃がスリーパー目掛け発射された。

 だが、スリーパーはまるで電撃が見えているかのごとくステップを踏んで回避し、その拳をナオの身体へ叩き込んだ。

 

「ナっ、ナオっ!」

 

 ナオの小さな身体はいとも容易く宙を舞うが、超能力で態勢を立て直してそのまま空中に静止した。

 

「(近付かれると危険だけど、動きが素早い……! なんとか動きを止めないと…………なら……!)」

 

「(むむぅ、落ちてきたところへコンボを決めようと思ったんスが……自分が言うのもなんスが、エスパータイプは調子が狂うっスね……ならば……!)」

 

「「ね ん り き !!」」

 

 両者の指示は完全に一致し、ナオとスリーパーの目が同時に光る。

 同じタイミングで発動した“ねんりき”によって空気の流れが歪み、その場にいる全員を耳鳴りのような感覚が襲う。

 

「うぅっ……!」

 

「むむむ……!」

 

「(エスパー技同士の衝突……! 互いの超常の力が干渉し合い、周辺に影響を及ぼしているのか……!)」

 

 脳にも作用しているのか、見ている景色すらも歪んで見える。

 だが、この精神力のぶつかり合いはスリーパーが制し、ナオの思念を抑え込み、地面へと引きずり降ろす。

 

「精神力はスリーパーの勝ちっス! “れいとうパンチ”!」

 

 身動きの取れないナオに対し、連続して“れいとうパンチ”が打ち込まれ、その身体を徐々に冷気が蝕み始めた。

 

「ナオ! お願いっ! 動いてナオっ!」

 

「(氷状態になりかけているか……まずいな……)」

 

 やがてナオの身体は完全に氷の中へと閉じ込められてしまった。

 

「ナオ! 聞こえる!? “ねんりき”で氷を砕いて!」

 

 氷の中のナオの目が光り、氷の表面にヒビが入り始めたが、そう簡単に全身の氷を砕くには至らない。

 

「今の内にダメージを稼ぐっス! スリーパー、“ローキック”!」

 

 スリーパーは、いまだ上半身の凍ったままのナオを放り投げると、目の前に落ちてきたところを回し蹴りのようにキックを叩き込んだ。

 それはちょうど氷の砕けていたナオの右脚を直撃し、ナオの身体は砂埃を上げながら地面を滑っていく。

 衝撃で氷のほとんどは取れたものの、脚を痛めたのは大きく、立ち上がるのも辛いようだ。

 

「ナオ……! だ、大丈夫……!?」

 

 ナオは右脚を引きずりながらも、ツバキに笑いかける。

 

「これで終わりにさせてもらうっス! “れいとうパンチ”!」

 

 再度スリーパーの拳を冷気が覆い、ナオに向けて走り出す。

 満足に動けないナオは当然逃げるもよけるもままならず、あっと言う間に肉薄されてしまう。

 

「っ! “あくび”!」

 

 ナオは大きく口を開け、眼前のスリーパーに向けて欠伸を見せつける。

 突然の眠気に襲われたスリーパーは、無意識に動きを止め、頭を何度も横に振って目を押さえている。

 

「“ねんりき”で離れて!」

 

 ナオは自身に“ねんりき”をかけ、勢いよくその場から吹き飛んでいき、再び空中で静止する。

 

「ス、スリーパー! しっかりするっスよ! 頑張って目を開けるっスよ!」

 

 が、リョウブの激励も虚しくスリーパーの瞼は完全に閉じて寝息まで立て始めてしまった。

 

「今だよ! “ねんりき”でスリーパーを捕まえて!」

 

 意趣返しとばかりにナオの“ねんりき”によって空中へ拘束されたスリーパーは、まだ起きる様子は無い。

 

「“10まんボルト”!」

 

 至近距離から強烈な電撃を流され、さすがにスリーパーも目を覚ました。

 

「“ねんりき”には“ねんりき”! スリーパー! また押し返すっスよ!」

 

 拘束状態を解くべく、スリーパーも“ねんりき”を被せてくる。

 再度“ねんりき”同士がぶつかり合い、周辺の空気が歪み始める。

 

「頑張るっス、スリーパー!」

 

「ナオ……! お願い……! 負けないでっ!!」

 

 ツバキの叫び声が響いた瞬間、ナオの身体が眩い光を放つ。

 

「うっ……!?」

 

「ぬぉっ!?」

 

「……! この光……まさか……!」

 

 イソラはこの光を知っている。

 これまでの旅の中で幾度も目撃し、その度にポケモンという生命体の神秘に感動を覚えてきた光だ。

 光量が弱まり、眩んだ目が慣れてくると、全員の視線がただ一点へと向けられた。

 その視線を集めるは、白い毛並みに青がアクセントとして加わり、涼やかな雰囲気を醸し出すポケモン。

 そっと開いた吊り上がった目は、突然の光に思わず“ねんりき”を解除してしまったスリーパーを冷ややかに見つめている。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「……進化……した……!」

 

「……進化……ナオが……?」

 

 イソラの呟きに応じたわけではないが、ツバキも同じような言葉を口から溢す。

 

「……す……すっげえ! バトル中の進化なんてすっげえ熱いっス!」

 

 呆気に取られるツバキ。

 ささやかな感動にうち震えるイソラ。

 あまりの事に熱くなるリョウブ。

 それら全てをぐるりと見回すと、そのポケモン……よくせいポケモン『ニャオニクス』へと進化したナオは、ふわふわとツバキの前へと降りてくる。

 

「……ナオ……ナオ……! やったねナオ……! すごく格好良くて可愛いよ……!」

 

 その言葉を聞くと、ナオは大きな耳を嬉しそうにピクピクと震わせ、空中を踊るようにフィールドへと戻る。

 

「リョウブさん……こうなったからには絶対に負けられません……! わたしもナオの想いに応えたいですから!」

 

「……自分も突然の事に心が熱くなったっス……! ですが! 当然手は抜けないっス! 進化までして見せた気迫で自分という壁を超えてみるっスよ!」

 

「はいっ! 行こう、ナオ!」

 

「……では、スリーパー対ニャスパー……改めニャオニクスの試合…………再開っ!」

 

 バトル再開の合図と共にリョウブが動く。

 

「スリーパー! 動きを封じるっス! “ねんりき”!」

 

「ナオ! こっちも!」

 

 だが、ナオの予備動作は“ねんりき”のそれではなかった。

 額に両手を当てると、その手の中に円盤状のエネルギー体が形成され、それをスリーパー目掛けて投げつけたのだ。

 エネルギー盤は“ねんりき”を正面から破ってスリーパー本体を直撃し、一撃で昏倒させた。

 

「サイコエネルギーの塊……! あれは“サイコショック”だ!」

 

「“サイコショック”!? す、すごいよナオ!」

 

 サイコエネルギーでありながら物理的なダメージを受けたスリーパーは“サイコショック”の当たった頭をトントンと叩きながら起き上がる。

 

「さすがにパワーも上がってるっスね! ですが、まだまだスピードはこちらが上のはずっス! “れいとうパンチ”!」

 

 進化したとはいえ痛めた脚が治ったわけではない。

 歩くのはもちろん、痛みによって集中力が乱れ、超能力にも支障が出て浮遊もおぼつかない。

 そこへ飛び上がってきたスリーパーが凍てつく拳を降り下ろし、ナオを叩き落とした。

 

「ナオっ!」

 

「追撃の“ローキック”っス!」

 

 素早く地面に降りたスリーパーは、息もつかせぬ動きで“ローキック”を繰り出し、ナオを吹き飛ばす。

 ……が、起き上がったナオの雰囲気が一変している事に気付く。

 吊り上がった目はさらに鋭くなり、耳で塞いだ器官からエネルギーが溢れ始めたのだ。

 

「あれはまさか……特性《かちき》か……!? 相手に能力を下げられた時に、決して負けまいと自身を奮い立たせて特殊攻撃を強化する特性……。ニャオニクスであれを持っている個体は初めて見る……!」

 

「怯んだら負けっスよスリーパー! “れいとうパンチ”で決めるっス!」

 

 走り出したスリーパーは、両手を冷気で覆い、目にも止まらぬスピードでナオへと迫る。

 

「(たぶんナオはあと1発も耐えられない……! でもあのスピード……それならイチかバチか……!)」

 

 ツバキはごくりと息を飲むと、成否に関係無く勝敗を分かつであろう最後の指示を叫んだ。

 

「っ……! ナオ! “10まんボルト”っ!!」

 

 ナオもツバキの意図を察してか、目を閉じ、自身の全てを絞り出すかのようにエネルギーを全身に巡らせて電気を起こす。

 その帯電量は先ほどまでとは桁違いであり、周囲どころか、この部屋全体が痺れるような感覚に覆われている。

 スリーパーが両腕を降り下ろしたと同時に、ナオの全身の毛が逆立ち、進化の時とは異なる膨大な光が放たれた。

 

「ナオっ……!」

 

「スリーパー!」

 

「……っ!」

 

 音と光に支配された世界が崩れていき、静寂が戻ると、3人は顔を覆っていた両腕の隙間からフィールドを覗く。

 そこには、バチバチと帯電して倒れ伏すスリーパーと、2本の尻尾で震える脚を支えるナオがいた。

 

「…………スリーパー……戦闘不能っ! ニャオニクスの勝ち! ……よってこのジム戦、2対1でチャレンジャー・ツバキの勝利とする!」

 

 イソラの言葉を聞くや否や、ツバキはフィールドへ駆け込み、今にも倒れそうなナオを抱き止める。

 

「ナオっ! …………お疲れ様……本当にお疲れ様……! ナオ……! ありがとうナオ……!」

 

 うっすらと涙を浮かべながら抱き締めるツバキに、ナオはわずかに微笑んだ。

 それを見ていたイソラはツバキに近付くと、すごいキズぐすりを手渡す。

 

「お前の手で回復してやれ。ポポとケーンもな」

 

「お姉ちゃん…………うんっ!」

 

 ツバキは2体をボールから出してキズぐすりを吹きかけてしっかりと塗り込んでいく。

 

「ポポくんもケーンもお疲れ様! 勝ったよ、わたし達! ほら、ナオも進化したんだよ!」

 

「……負けたっスねスリーパー。しかし、お前は全力でやってくれたっス……お疲れっス……!」

 

 リョウブは抱き起こしたスリーパーと拳を突き合わせてからボールへと戻し、ツバキ達へと歩み寄る。

 

「押忍っ……! 見事でしたツバキさん! ポケモン達との信頼が感じられる、素晴らしいバトルだったっス! 自分……自分、胸が熱くなったっス!」

 

「リョウブさん……こちらこそ、ありがとうございました!」

 

 リョウブの差し出した右手を一回り小さいツバキの手が掴み、握手を交わす。

 

「そんなツバキさんならば、このポケモンリーグ公認、ヤマブキジム突破の証、ゴールドバッジを持つに十分すぎる資格をお持ちっス! さあ、どうぞ!」

 

 リョウブがバッジケースから取り出した金色のバッジを受け取り、ツバキは喜びの実感を噛み締める。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「~~っ! やったぁ! やったやったぁ! 皆のおかげでポケモンリーグ参加の道も折り返しだよ! 本当にありがとう~!」

 

「良かったな、ツバキ」

 

「うぅ~! わかる! わかるっスよツバキさん! 目標が着実に近付く嬉しさ! あ、そうだ!」

 

 リョウブは奥の部屋へと駆けていくと、2枚のディスクを持ってすぐに戻ってきた。

 

「素晴らしいバトルへのお礼っス! “リフレクター”と“かわらわり”の技マシン……受け取って欲しいっス!」

 

「2枚も……!? 良いんですか、リョウブさん?」

 

「もちろんっス! “リフレクター”は“ひかりのかべ”と逆に物理攻撃に強くなる技で、“かわらわり”はそのどちらもぶっ壊せる技っス! 汎用的なかくとう技として親しまれてるっスよ!」

 

 ツバキは2枚を受け取ると、改めてリョウブへと頭を下げる。

 

「ありがとうございます、リョウブさん!」

 

「いえいえ! ツバキさんの旅に役立ててもらえれば幸いっス!」

 

 ツバキとイソラの2人は、リョウブの見送りを受けながらワープパネルに乗り、ヤマブキジムを後にする。

 ポケモンリーグ参加に必要なバッジはあと4つ……まだ半分とも言えるが、もう半分とも言える。

 どちらにせよ確かな事は、この勝利がツバキの夢にとって非常に大きな1歩となった……という事である。

 

 

 

つづく

 

 

 

【ツバキの現在の手持ちポケモン】

 

■ポポ(ピジョン(♂))

レベル30

特性:するどいめ

覚えている技

・すなかけ

・たつまき

・でんこうせっか

・ブレイブバード

 

■ミスティ(ナゾノクサ(♀))

レベル26

特性:ようりょくそ

覚えている技

・ようかいえき

・どくどく

・しびれごな

・ねむりごな

 

■ファンファン(ゴマゾウ(♂))

レベル25

特性:ものひろい

覚えている技

・こらえる

・まるくなる

・ころがる

・じゃれつく

 

■ナオ(ニャオニクス(♀))

レベル25

特性:かちき

覚えている技

・サイコショック

・ひかりのかべ

・10まんボルト

・あくび

 

■ケーン(ヒノアラシ(♂))

レベル23

特性:もうか

覚えている技

・えんまく

・ひのこ

・でんこうせっか

・かえんぐるま

 

■シェルル(コソクムシ(♀))

レベル19

特性:にげごし

覚えている技

・むしのていこう

・すなかけ

・アクアジェット

 

【リョウブの使用ポケモン】

 

■アサナン(♂)

レベル25

特性:ヨガパワー

覚えている技

・みきり

・ねこだまし

・サイコカッター

・かみなりパンチ

 

■メタング

レベル27

特性:クリアボディ

覚えている技

・ねんりき

・ひかりのかべ

・かわらわり

・しねんのずつき

 

■スリーパー(♂)

レベル31

特性:せいしんりょく

覚えている技

・ねんりき

・ヨガのポーズ

・ローキック

・れいとうパンチ




今回も駄文雑文落書き長文にお付き合いいただき、ありがとうございました!

ナオがジム戦のフィニッシャー2回目……考えてみればこれは優遇というか贔屓……?
ニャスパー好きなので無意識に私情が入っちゃったかもですね……。
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