蒼天のキズナ   作:劉翼

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第2話スタートです!
頑張って失踪だけは避けねば…。


第2話:向かい風

 風を切り、波を掻き分け、海上を流線形の船が行く。グレンタウンとクチバシティを結ぶこの連絡船は、小型ながら最新型エンジンと空気抵抗の少ない形状によって、最高速力はあの高速船アクア号にも引けを取らない。

 

「わあぁ……これが船……足が付いてるのに飛んでるみたい……なんだか不思議な気分だねポポくん」

 

 デッキに立ち、手すりから身を乗り出した少女と、止まり木のように手すりに止まったポッポが、物珍しそうに空や海を眺める。

 

「~♪……あ、あれポケモンかな……?」

 

 鼻歌混じりにキョロキョロと見回していたツバキが、ふと空を行く影に目を止める。

 

「そうだ! ……カツラさんからもらったポケモン図鑑をポケモンに向けて…………へぇ、キャモメって言うんだ……! グレンタウンにはあんまり来なかったなぁ……。こっちは……マンタインとテッポウオ……あ、あれは知ってる、メノクラゲ! タッツー、ホエルコ、ママンボウ、それにそれに……!」

 

 少女の門出を祝福するかのように、多種多様なポケモンが顔を出す。

 

 

【挿絵表示】

  

 

 ツバキは図鑑のセンサーを向けて空を見上げ、海を見下ろし、興奮気味にポケモンのデータを記録していくが、さすがに身を乗り出しすぎたのか、ポポにニーソックスを引っ張られて我に返る。

 

「あ……」

 

 見れば周囲の乗客達は、初々しい新米トレーナーを、微笑ましい表情で見守っている。途端にはしゃいでいたのが恥ずかしくなったツバキは、赤くなってコソコソとその場を離れて行く。

 生来ツバキは、気弱で人見知りをする性質でありながら、好奇心旺盛だった。そもそもの旅立ちの理由の1つにも、見識を広めてそんな性格を矯正しつつ、たくさんのポケモンに会いたいという部分があった。無論、理由はそれだけではないのだが。

 

「間もなくクチバ港に到着いたします、お降りのお客様は……」

 

「あ、もう着いたんだ……すごく速いんだなぁ……行こう、ポポくん」

 

 忘れ物などの確認を終えると、帽子の上にポポを乗せ、港への到着を待って下船する。

 

「ん……はぁ……船の上だと速すぎて気が付かなかったけど、グレンタウンとも少し違う潮の香りがする……」

 

 1人と1匹は、深呼吸をして潮の香りを楽しむと、桟橋を降りて上陸する。

 

 クチバシティ……カントーの玄関口とも呼ばれるこの街には、大きな港が存在し、様々な地方から観光客や武者修行のポケモントレーナーが訪れる。豪華客船サント・アンヌ号の母港としても有名で、遠くホウエン地方の船乗り達にも知れ渡っている。北へ少し行けば、カントーとジョウトを結ぶリニアモーターカーの駅を擁するヤマブキシティもあり、この2つの街がカントーの観光経済にもたらす影響は大きい。

 港を出て街へ入ったツバキの視界に、ある建物が飛び込んできた。

 

「あ……もしかしてあれ……ポケモンジム?」

 

 多くのトレーナーが、栄えあるポケモンリーグへの切符を手にするため、避けては通れない登竜門、ポケモンジム。ポケモンリーグ参加が旅の目標の1つであるツバキには、見て見ぬふりをする理由は無い。

 

「……ちょっと行ってみようかポポくん? ポケモンバトルもやってみたいし、ね?」

 

 ポポは肯定の頷きを返し、揃ってクチバジムへと入って行く。……自分達のバトルへの認識の甘さなど、当然知る由も無い。

 ジムに入ったツバキを、入り口近くにいた男性が発見し、声をかけてくる。

 

「ん……チャレンジャーか?」

 

「ぅ……は、はい……」

 

 威圧するような、値踏みするような視線に、しどろもどろになりながらも、どうにか返答する。

 

「良いだろう、こっちに来い、バトルフィールドへ案内する。俺はクチバジムの門番、ゲント……ジムリーダーに挑む資格があるか俺が試してやる」

 

 ゲントと名乗った男の高圧的な態度に、ツバキの気弱な部分が目覚め、びくびくしながら後に付いていく。

やがてフィールドに着いた2人は、両端に立って対峙する。

 

「お、お願いします……! ……ポ、ポポくん、行くよ!」

 

 ぎこちなく頭を下げたツバキは、意を決してフィールドにポポを送り出す……しかし、それを見たゲントの顔が歪む。

 

「……あ……? ポッポ……だと……? ……ちっ……」

 

 心底つまらなそうな表情で、ゲントはモンスターボールを投擲する。そして、ボールから姿を現したのは、ポポの数倍はあろうかという体躯に、雷のような鬣を持つ四足獣…ほうでんポケモンの『ライボルト』である。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 ツバキもポポも、その威圧感たっぷりの姿に気圧されてしまう。

 

「え、えと……」

 

「ライボルト、“ほうでん”だ」

 

 初めてのバトルに怯えるツバキの事などお構い無しに、ゲントはライボルトに技を指示する。ライボルトの鬣が帯電したかと思うと、その電気は瞬く間に増幅しながら全身に広がり、一気に周囲へと放射される。

 

「っ! ポ、ポポくん逃げて!」

 

 ポポもハッと我に返り、咄嗟に飛び立つが、広範囲に広がる電撃が翼を打ち、あえなく墜落する。

 

 

「ポポくんっ……!」

 

「“かみなりのキバ”」

 

 ライボルトは、落ちてきたポポをくわえ込み、そのまま牙から電気を流して追撃する。やがて痙攣するだけとなったポポを、ライボルトは首を振って放り投げる。

 

「……ぁ……ポ……ポポ……くん……?」

 

 力無く足元へ転がったポポの姿に、ボロボロになって死にかけていた()()()の姿がフラッシュバックする。倒れたポポに弱々しく歩み寄り、震える手で抱き上げるツバキに、ゲントはさらなる追い討ちを掛ける。

 

「とっとと帰んな、ジムは子供の遊び場じゃねえんだ。弱い奴にはフィールドに立つ資格すら無いって事だよ」

 

「…………。」

 

 ツバキは答えず、ふらふらとした足取りでジムを去っていく。

 

「……お前また……今の子は初心者じゃないのか? いきなりライボルトなんて大人気が無さすぎるだろ……」

 

 ライボルトをボールに戻したゲントに、バトルを見ていた他の男性が声を掛けるが、ゲントは悪びれた様子などまるで見せさない。

 

「ポッポ1匹なんてナメた手持ちで来る方が悪い。あんな雑魚をジムリーダー直々に相手する意味なんて無いだろ」

 

「そうじゃなくてだな……! あ、おい!」

 

 なおも苦言を呈する男性に背を向け、ゲントはまたジムの入り口へと戻る。神聖なジムを汚す弱者を追い払うために。

 

 

 

 

つづく




初心者狩りダメゼッタイ。
第2話にして挫折を味わう、ハードモードなスタートを切ってしまいました……。
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