蒼天のキズナ   作:劉翼

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ジム戦後という事で、特に目立った展開は無い第29話です。


第29話:真昼の怪奇現象

 ヤマブキジムでの激闘の最中、ナオはニャオニクスへと進化を果たし、その活躍によってツバキは見事ヤマブキジム戦を制してゴールドバッジを獲得した。

 翌日、昼前まで寝てしまったツバキは、ポケモンセンターのロビーで朝食兼用の昼食を取っていた。

 

「……えへへぇ……♪」

 

 サンドイッチをかじりながら、ガラにもなくニヤニヤと笑うツバキの視線の先にあるのは、バッジを納めるスペースの半分が埋まったバッジケースだ。

 

「半分かぁ……だんだんゴールが見えてきた気がするね、ポポくん」

 

 辛口ソースのかかったポケモンフーズをついばんでいたポポが、同意するように一声を上げた。

 

「皆がすっっっごく頑張ってくれたおかげだよ。本当にありがとう。……でも、言い換えればまだ半分……バッジが増えてトレーナーレベルが上がる度にジムリーダーさんも強くなるから、油断できないね。この先もちゃんと勝っていけるように、一緒に強くなろうね、皆!」

 

 他のポケモン達も思い思いに声を上げて、これからの道程に気分を高揚させる。

 

「起きていたかツバキ」

 

「あっ、お姉ちゃん」

 

 センターの自動ドアが開き、外出していたイソラが帰ってきてツバキへと近付く。

 

「お姉ちゃんはどこに行ってたの?」

 

「入れ替えた手持ちポケモン達を散歩に連れていっていたんだ。そろそろ全員の機嫌を直せそうだよ、まったく……」

 

 肩を竦めていかにも困っていますという風情だが、表情は困っているどころか晴れ晴れとしている。なんのかんの言っても、結局のところポケモンとの触れ合いが大好きなのだ。

 

「ところでツバキ、次はどこへ行くんだ? 東へ行けばシオンタウンだがジムは無い。すぐにでも次のジムへ行きたいなら、ここから北へ行けばハナダシティに直行できるぞ」

 

「うぅん……すぐにジム戦したい気持ちもあるけど……その前に色んな特訓もしたいし、それに寄り道は寄り道で、新しいトレーナーやポケモンに会えるかもだから、シオンタウンに行こうと思うの。……良い?」

 

 おずおずと上目遣いに尋ねるツバキに、イソラは優しく微笑む……というか表情が蕩けてる。

 

「はあぁ……ツバかわ……。じゃなくて、良いに決まっている。これはお前の旅で、私はあくまで勝手に付いていっているだけだからな。お前の思うようにすると良い」

 

「……うんっ!」

 

「(ぐっ! その笑顔……殺人的な可愛さだ……!)」

 

 何故にイソラが悶えているのかツバキには皆目わからなかったが、ともあれ目的地はシオンタウンに決定し、消耗品を買い足した2人と1体は、8番道路へと向かった。

 

「あれ? ツバキさんとイソラさんじゃないっスか? それに確か……ポポさん!」

 

「えっ? あ、リョウブさん!」

 

 そして、8番道路へ続くゲートに入ろうとしたところで、スリーパーの他にキックポケモン『サワムラー』を連れたリョウブに遭遇した。

 

「もしかしてもう次の街に?」

 

「はい。……リョウブさんは……?」

 

「自分は走り込みがてら街の見回りっス! こないだ物騒な事件があったばかりっスからね」

 

 ここでリョウブの言う物騒な事件とは、例のシルフカンパニー爆破未遂事件の事であろう。

 

「なるほど、ジムリーダー代理ともなると、そういった仕事もありますか」

 

「仕事でもありますが、個人的にも無視はできないっスからね! それじゃ、お2人とも道中お気を付けて!」

 

「はいっ! ありがとうございます!」

 

「リョウブさんもお元気で」

 

 爽やかな表情で手を振るリョウブに背を向けると、ツバキとイソラは歩き出し、ゲートへと入っていった。

 

「……うしっ! 今度は別ルートで回るっスよ、スリーパー、サワムラー! ヤマブキシティの平和は自分が守るっス!」

 

 ツバキ達を見送ったリョウブは、2体のポケモンを伴って再びヤマブキシティの喧騒の中へと消えていく。

 ……彼の行く先の体感温度が上がっている気がするのは、たぶん気のせいではないだろう……。

 

「あっ、見てお姉ちゃん。今日はバトルフィールドにたくさん人がいるよ!」

 

 8番道路を進むツバキが先日特訓に使った公共バトルフィールドを指差すと、多数のトレーナーと思われる人々が集まり、そこかしこからバトルの指示が飛び交っている。

 

「バシャーモ、“ブレイズキック”だ!」

 

「エルフーン、かわして“マジカルシャイン”よ!」

 

「ガブリアス、“アイアンヘッド”!」

 

「クレッフィ、“いばる”!」

 

 3つのフィールドは全て埋まり、周りには順番待ちや見物人が大勢集まっている。

 

「本当だ……この間空いてたのは運が良かったみたいだな。……それにしても、ああして大勢の人がポケモンバトルを楽しめるようになった辺り、ここの治安も良くなったものだ」

 

「昔は違ったの?」

 

「ああ。確かこの辺りは暴走族が多く蔓延って、それは目も当てられない状態だったんだがな……」

 

 しばし見物人に混ざってバトルを眺めた2人は、シオンタウンへの歩みを再開する。

 

「さっきのバトルすごかったぁ……! 見た事無いポケモンや技がいぃっぱい出て、迫力満点だったねポポくん!」

 

 ツバキは未知のポケモンがあまりに多く見られた事もあり、ポケモン図鑑を胸に抱いて興奮気味で、側を飛ぶポポも同様だ。

 

「そうだな。カントーのトレーナーが使うポケモンも随分と多彩になった」

 

「わたしもいつか、あんないっぱいのポケモンと会えるかなぁ……あっ、草むら! ポケモンいるかな……!」

 

「行ってみるか」

 

 知らないポケモンへの憧れが強くなった今のツバキは誰にも止められないであろう事は、イソラもポポも知っているので、あえて口出しせずに同行する。

 

「~♪」

 

 鼻歌を歌いながら草むらの中をずんずん進むツバキだったが、不意にその脚が止まる。

 

「……ねぇ、お姉ちゃん……なんだか寒くない……?」

 

「お前も気付いたか……これはこおりタイプのそれとは違うな……」

 

 突然の気温の低下に、一気に興奮が覚めて眉が八の字になったツバキは、無意識にポポを抱いてイソラの腕にしがみつく。

 その時、周りからすすり泣くような声が響き、少しずつ少しずつ大きくなってきた。

 

「な、何……? この声何……!?」

 

「……そういう事か。…………そこだオオスバメ!」

 

 ツバキとは対照的に、不気味な声に動じないイソラは、冷静に周りの気配を探ると、ボールからツバメポケモンの『オオスバメ』を出して草むらのある一点に突っ込ませた。

 すると、しばしの揉み合いの末、草むらから藍や紺といった色合いで、不定形のふわふわした身体のポケモンが飛び出してきた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「ポケモン……!?」

 

「よなきポケモンの『ムウマ』だ。人を驚かせたり怖がらせたりするイタズラ好きなポケモンだな。お前の怖がる心を吸収していたんだろう」

 

 ムウマはケタケタと笑いながら宙に浮かんでいる。

 

「しかし、普通ゴーストタイプは昼間は活動しないものだが……どうもかなり行動的な奴みたいだな」

 

「へぇ~、ムウマ……びっくりしたけど、可愛い子だね。……よぉし……! わたし、この子ゲットする!」

 

 怪奇現象の原因がポケモンとわかると、再びテンションの上がったツバキはモンスターボールを手にする。

 

「ムウマはゴーストタイプかつ特性《ふゆう》でノーマル、かくとう、じめん……3つのタイプの技を無効にする、なかなか厄介なポケモンだぞ。気を付けろ」

 

「うん……! お願い、ミスティ!」

 

 ツバキの投げたボールからミスティが飛び出し、くるくると宙返りを決めながら着地する。

 

「ミスティか。野生ポケモンを捕まえる上で状態異常にするのはかなり有効な手だからな。その点でミスティは、毒、麻痺、眠りと状態異常のエキスパート……それに、()()を試すつもりだな」

 

 ミスティは目の前の相手にやる気満々であり、対するムウマも戦闘態勢に移る。

 

「ミスティ、“しびれごな”!」

 

 ミスティが葉を揺らして“しびれごな”を撒き散らし始める。

 だが、ムウマの周囲で風が幾重にも吹きすさび、“しびれごな”を霧散させた上で渦となってミスティを襲った。

 

「ミ、ミスティ……! お姉ちゃん、あれは……!?」

 

「ゴーストタイプの技“あやしいかぜ”か……なかなか珍しい技を覚えている」

 

「風を使ってるけど、ひこう技じゃないんだ……。ミスティ、反撃するよ! “エナジーボール”!」

 

 “あやしいかぜ”から転がって脱出したミスティは、5枚の葉を開きかけの花のような形にすると、その中心に緑色のエネルギーを集めて大きな球状に成形し、ムウマへ向けて発射した。

 それは、ポケモンセンターを出る前に技マシンで覚えさせた“エナジーボール”だ。

 

「さすがはくさタイプだ。初めて使ったのに集束から発射まで完璧だな」

 

 イソラの言う通り、エネルギーの集束と球状への成形が非常に早く、射出も狙いが正確である。やはり自身と同じタイプの技故か、本能的に扱い方を理解しているようだ。

 迅速かつ正確に撃ち出された“エナジーボール”は、ムウマに回避の間を与えずに直撃した。

 

「よしっ……! ミスティ、“ねむりごな”!」

 

 仕上げとして“ねむりごな”を使おうとしたミスティだが、爆煙の中からムウマが猛スピードで飛び出し、眼前で目を見開き、大口を開けて驚かしてきたため、仰天して後ろに転倒してしまい失敗した。

 

「今のは“おどろかす”か。相手を怯ませて行動を妨害する技だな」

 

「うぅっ……! ミスティ、まだ行ける……!?」

 

 最も大きい葉を器用に使って起き上がったミスティは、「当然」と言わんばかりにブンブンと葉を振り回している。

 

「……本当に強気な奴だなミスティは。ポポに次ぐ古参でもあるし、姉御肌気質とでも言うべきか」

 

「それ、なんだかわかる気がする……。ミスティ、少し小さめに“エナジーボール”を連続して撃って!」

 

 ツバキに対して頷いたミスティは、5枚の葉を開いてそれぞれの先端に“エナジーボール”を生成すると、バラけるように時間差で次々に発射する。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「今だよ! ジャンプして“ねむりごな”!」

 

 退路を塞ぐように撒かれた5発の“エナジーボール”をよけるのに必死なムウマは、飛び上がったミスティに気付くのが遅れて高所から降り注ぐ“ねむりごな”を吸い込んでしまい、ふよふよと地上に降りて寝息を立て始めた。

 

「今っ! モンスターボール!」

 

 ツバキの投げたボールはムウマにコツンと当たり、その身体を収容し、スイッチ部分を点滅させながらカタカタと揺れ、その動きを2、3回繰り返した後に停止した。

 

「っ……! やった……! やったよミスティ! ありがとう~!」

 

 ツバキはムウマのボールを拾い上げると、ミスティを抱き上げてイソラの元へと駆け寄る。

 

「ああ、見事だ。……名前はどうする?」

 

「うぅん……イタズラっ子とかを名前にしたらかわいそうだし…………この子みたいな色ってなんて言うのお姉ちゃん?」

 

「ああ、体色か。藍色や紺青……ディープブルーとかプルシアンブルー、インディゴ……色は本当に僅かな違いで言い方が変わるからなぁ……」

 

 イソラは顎に手を当てて目を閉じるとしばらく思案するが、明確な答えは出ないようだ。

 

「そうなんだ……じゃあ……プルシアン…………ルーシア! ……って、どうかな?」

 

「ふむ、なかなか可愛らしいし、良いんじゃないか?」

 

「よぉし! ルーシア! 出て……」

 

 と、ルーシアをボールから出そうとした瞬間、そのボールが粒子状に分解されて空の彼方へと消えてしまった。

 ツバキとミスティは呆然と空を見つめ、イソラは「さもありなん」と見上げている。

 

「…………」

 

「…………」

 

「……ポルターガイスト?」

 

「いや、手持ちの所持限度数を超えたのでお前のボックスに転送されただけだ。ポケモンセンターかどこかで手持ちを入れ替えないとな」

 

 完全にすぐ触れ合う気でいたツバキはげんなりした表情へと変わり、うなだれる。

 

「あうぅ……」

 

「まぁまぁ、シオンタウンはすぐそこだ。向こうのポケモンセンターで入れ替えれば良い。さ、行こう」

 

「入れ替え……仕方ないけど、誰かを手持ちから外さなきゃいけないんだよね……」

 

 ツバキはミスティをボールへ戻すと、それを含めた6つのボールを外し、悲しそうな目をしてじっと見つめる。

 

「決まりだからな。それに、ずっと外すわけじゃないさ。機を見てまた遊んだり連れ歩けば良いだろう?」

 

「……うん……」

 

 トレーナーであれば、いつかは経験する事になる所持数限度。

 なんともやるせない気持ちになったツバキは、イソラと手を繋いで、シオンタウンへの道を再度歩き始めた。

 

 

 

つづく




今回も駄文落書きへのお付き合いありがとうございました!

実際のとこ、自動でボックスに送られるのってどんな仕組みなのでしょうね……。
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