蒼天のキズナ   作:劉翼

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あれぇ……何をどうしてこんなに長くなっちゃったんだ……?
という感じの第30話です。


第30話:シオンタウンの再会、100万点の笑顔

 寄り道をしつつハナダシティを目指す事にしたツバキ達は、シオンタウンを当面の目的地として8番道路を進み、その道中で野生のムウマを捕まえてルーシアと名付ける。

 ……が、既に手持ちが6体となっていたツバキの手からモンスターボールが転送され、触れ合いはおあずけとなってしまう。

 ずっと一緒に頑張ってきた手持ちポケモンを入れ替えねばならない事に気落ちするツバキを、イソラとポポが励ましながら道なりに進み、一行は夕方になってようやくシオンタウンへと到着した。

 

「ほら、シオンタウンに到着だ。とりあえずミスティも休ませなきゃならないし、ポケモンセンターに行こう、ツバキ」

 

「……うん」

 

 顔を上げたツバキの目に飛び込んできたのは、縦長の大きな建物……カントーラジオ局だ。

 

「わぁ……立派な建物だね、お姉ちゃん」

 

「うん? ああ、カントーラジオ局か……ポケモンタワーを改築して再利用したんだったか」

 

「ポケモンタワー?」

 

 聞き慣れない言葉にツバキが首を傾げると、イソラは少しばかり目を逸らす。

 

「ああ……ポケモンタワーというのは、昔のあの建物の呼び名だ。早い話がポケモンの集団墓地でな……7階層から成る建物の中には、数えきれないほどのポケモンの墓があったんだ」

 

「お墓……」

 

「ただ、時代の流れ……と言われれば仕方無いが、その墓を移転してまでというのは個人的にどうもな……」

 

 バツの悪そうなイソラは、ラジオ局に背を向けてポケモンセンターへと歩き出し、ツバキもそれに続いた。

 

「お待たせしました! ナゾノクサはすっかり元気になりましたよ!」

 

「ありがとうございます、ジョーイさん」

 

 ジョーイさんから回復したミスティを受け取ると、ツバキは頭を下げてイソラの座る席へ戻る。

 そしてテーブルの上に手持ちのモンスターボールを並べると、うんうんと唸り始めた。

 

「うぅ~~~~ん……ルーシアと誰を入れ替えよう……お姉ちゃんはこういう時どうする?」

 

「そうだな……優先的に育てたいポケモンを手元に残したり、入れ替えてもパーティのタイプバランスがあまり変わらないように調整したりするかな」

 

「優先的に育てたい……タイプバランス……」

 

 ツバキはじっとボールを見つめると、40秒ほど考えた末に1つのボールを手に取り、パソコンへ向かう。

 

「……ごめんねナオ……しばらくボックスで待っててね」

 

 パソコンの脇に設置された装置の窪みにナオのボールをセットすると、それは光の粒子として消え、代わりにルーシアのボールが現れた。

 

「……出ておいで、ルーシア!」

 

 ツバキがボールを開くと、ルーシアが勢いよく飛び出し、ケタケタと笑いながらツバキの周りを飛び回り始める。

 

「わっ、わっ、わっ……!」

 

 目で追おうとしたツバキの目が回りかけてくると、パッと帽子をくわえて取ってしまった。

 

「あっ! わ、わたしの帽子……!」

 

「……やっぱりイタズラ好きな奴だな」

 

 イソラは飛び回るルーシアの頭をむんずと鷲掴みにすると、帽子を回収してツバキに返す。

 

「しばらく苦労するぞこれは」

 

「うん……でも、これもルーシアの個性だから。……ルーシア、イタズラも良いけど、やりすぎはダメだよ。……わかった?」

 

 ツバキはイソラから渡されたルーシアを両手で掴んで目線を合わせると、珍しく怒った表情で注意する。

 ……当のルーシアは視線を逸らしてはいるが、一応は頷いて見せた。

 

「さて、ここからハナダシティへ行くとすると、イワヤマトンネルを抜けて10番道路と9番道路を通っていく事になるな。なかなかに長い道程だ」

 

 ポケギアのタウンマップを確認したイソラが、ハナダシティまでの道筋を説明する。

 

「あ、イワヤマトンネルの出口にポケモンセンターがあるね。ここで1回休んだ方が良いかな?」

 

「そうだな。無理に進んで野宿するよりは、余裕を持って行動した方が良いだろう」

 

 ツバキもルーシアを胸に抱きながら、自分のポケギアで確認して、相談しながら旅の予定を決めていく。

 話している内に時間は過ぎていき、2人は日がとっぷり沈んでいる事に気付くと、急いで夕食とシャワーを済ませた。

 

「…………ぁふぅ…………」

 

 イソラと別々の部屋に分かれたツバキは、口を押さえ、小さく欠伸をしながらベッドへ潜り込むと、3分とせずに微睡みの中へと沈んでいった。

 その晩、ツバキは夢を見た。

 立派なスタジアムのバトルフィールドで、2人のトレーナーがピジョットとオニドリルをバトルさせる夢を……。

 

「…………ん……まぶし……」

 

 カーテンの隙間から射し込む光が瞼に当たり、その眩しさにツバキは目を覚ました。

 

「あれ、でも確かカーテンは閉め…………シェルル……」

 

 窓際に歩み寄ると、カーテンの隙間でシェルルが日の光を浴びながら寝息を立てていた。

 

「もう……勝手にボールから出て…………ふふっ」

 

 いつもの臆病な挙動が嘘のような、安らかで穏やかな表情で眠るシェルルに、ツバキは勝手な行動を怒れなくなってしまい、しばらくその寝顔を観察していた。

 やがて目を覚ましたシェルルは、目の前にあったツバキの顔に驚き、窓に頭をぶつけてしまった。

 ツバキはそんなシェルルを抱いて、その頭を擦りながらロビーへと向かう。

 すると、一足先に起きてグランブルマウンテンというコーヒーを飲んでいたイソラが、こちらに気付いて軽く手を振る。

 

「ん、おはようツバキ。……シェルルはどうしたんだ?」

 

「ボールから出て日向ぼっこしてたんだけど、起きた時に頭をぶつけちゃったの」

 

 イソラもシェルルの頭を撫でようとしたが、驚いて触角を縮めてしまう。

 

「……ツバキにとても懐いているのは良いんだが、元々のトレーナーの私に怯えなくても……」

 

「お姉ちゃんてひこうタイプ使いだから、むしタイプのシェルルには怖いんじゃない?」

 

「……むぅぅ……」

 

 ツバキのちょっとした意地悪な発言に、あながち間違いでもないためか、イソラは難しい顔をして黙ってしまう。

 その後、ポケモン達と朝食を済ませた2人は、ポケモンセンターを後にする。

 ……と、その時、8番道路の方からズシンズシンという音が近付いてきた。

 

「あれれ? ツバキちゃんだ! やっほー!」

 

「えっ、アケビさん……?」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 大きな花を背負ったポケモンに乗って声をかけてきたのは、タマムシジムのジムトレーナー・アケビだった。

 ツバキ達の前で止まったアケビは、ポケモンからよじよじと降りると、ツバキに抱き付いてきた。

 

「ここにいるって事は、ヤマブキジムでも勝ったんだね! おめでとー!」

 

「あ、ありがとうございます……。あ、こっちはイソラお姉ちゃん……わたしの尊敬する、お姉ちゃんみたいな人です。お姉ちゃん、こちらタマムシジムのトレーナーさんのアケビさんだよ」

 

 ツバキは抱き付かれた事に困惑しつつ、2人にそれぞれ相手を紹介する。

 

「イソラです。……こんなに小さいのにジムを手伝っているのか……偉い子だな」

 

 軽く頭を下げたイソラは、アケビの頭を撫で回す。

 

「……あ、あはは……アケビだよ! よろしくねイソラさん!」

 

「……お姉ちゃん、あのね。アケビさんはわたしより年上……14歳なの」

 

「……えっ……」

 

 イソラの手が止まり、「やってしまった」という顔になる。

 

「……失礼した。いや本当に……」

 

「あは……気にしないでよ! 周りの子より小さいのは知ってるし、間違われるのも慣れてるから!」

 

 と、言いつつもその笑顔はひきつっている。

 

「でもアケビさんどうして……あ、そういえばご出身が……」

 

「うん、このシオンタウンにあたしの家があるんだよ! 今日はジムお休みなの! そだ、ちょっとうちに寄ってく? ポケモンたっくさんいるんだよ!」

 

「っ! お邪魔します!」

 

 たくさんのポケモンという言葉に反応したツバキが即答し、イソラも特に異存は無いのでついていく。

 再びあのポケモン……たねポケモン『フシギバナ』によじ登ったアケビがのしのしと進み、ツバキ達はその脇を歩く。

 

「しかし立派なフシギバナだ……高齢だが、かなり育てられているようだ」

 

「えっへへ、ありがと! ……といっても、ここまで育てたのはあたしじゃないんだけどね!」

 

 なるほど、確かにこのフシギバナは、ツバキが図鑑で確認した姿よりも体躯自体は縮んでいるものの、背中の植物の茎は長く太く、花びらも1枚辺りが大きいようだ。

 と、そんなとりとめの無い会話をしている内に、フシギバナが歩みを止める。

 

「とうちゃーく! ここがあたしの住んでる、『魂の家』だよ! 入って入って!」

 

 フシギバナから木の実の入ったバスケットを降ろし、フシギバナをボールに戻したアケビは、2人の手を引っ張るように建物へと入る。

 

「みんなー! お土産アーンドお客さんだよー!」

 

 その声に応じて、たくさんのポケモン達がわらわらと集まってくる。どのポケモンも人懐こいようだ。

 ……だが、ツバキ達の目を引いたのは、ポケモン達ではなく……。

 

「……お墓が……たくさん……」

 

「……もしかして、ここがポケモンタワーから移転した……」

 

「うん、そう。元々は身寄りの無いポケモンを預かってたらしいんだけど、移転の話が出た時に家を大きくして、お墓の一部をここに移したって、フジおじいちゃんが言ってた」

 

 アケビがバスケットから木の実を種類別に分けて保存容器に入れていき、入りきらなかった残りを味ごとに別々の皿に置く。

 

「フジおじいちゃんは今日はお出かけの日だから、あたしがポケモン達のお世話してるんだ! さー、ご飯だよー!」

 

 アケビが皿を並べると、ポケモン達は自分の好きな味の木の実を手に取り、食べていく。

 

「……っと、久々に帰ってきたし、あっちにも行かないと……ごめん、ちょっとだけポケモン達見ててー!」

 

 何かを思い出したのか、アケビはツバキ達にポケモンの世話を任せると、庭に通じているらしい扉から出ていった。

 

「は、はい……あっ! わ、わたしの帽子ー!」

 

 ツバキは気を抜いた隙に、ムックルに帽子を取られてしまい、慌てて追いかける。

 

「……昨日見たような光景だな……お、大丈夫か? ……あまり急いで食べるんじゃない。よーく噛むんだぞ」

 

 ムックルと追いかけっこを始めたツバキを眺めていたイソラだが、木の実を食べていたコラッタが喉に詰まらせたのに気付くと、背中を叩いて吐き出させる。

 

 やがてアケビが「ごめんごめーん!」と戻ってきて、テキパキとポケモンの世話を始めた。

 ツバキもだんだん慣れてきて、ポケモン達に囲まれて幸せそうな表情を見せ、それを見たイソラがだらしない表情を見せる。

 しばらくすると、ポケモン達はお昼寝タイムに突入し、一息つく。

 

「お世話手伝ってくれてありがとー! これはお礼! 木の実で作ったミックスジュースと、シャーベットだよ!」

 

「わあぁ……! キレイな色……!」

 

「手際も見事だ。いただきます……んくっ…………ふむ、配合もバランスが良く飲みやすいな」

 

 アケビのもてなしに、2人はそれぞれに感嘆の声を上げる。

 

「えっへへー、でしょでしょー? ラニーちゃんにも「頭と身長は足りてないけど、バトルの腕となぜか女子力だけはあるよね」って褒められてんだからー♪」

 

 それはさりげなく馬鹿にされているようなのだが、本人は気付かずに満足そうなので、2人は黙っている事にする。

 

「ところで、フジさん? 帰ってきませんね……ご両親も」

 

「おじいちゃんはグレンタウンに行くって言ってたから、しばらく帰らないかなぁ……あと、パパとママはうちにはいないよ。死んじゃったし」

 

 時計を見たツバキの呟きに、ダイニングのテーブルに頬杖をついたアケビが答えるが、さらりととんでもない事を言い放っていた。

 

「……え、あの……」

 

「あたしがちっちゃい時に事故でねー。8番道路で散歩してたら、ハンドルの操作間違えたバイクが突っ込んできてさー」

 

 一気に気まずい雰囲気になり、ツバキは何はなくともまず謝罪する。

 

「ご、ごめんなさい……わたし……失礼な事……」

 

「気にしなくていーよ! むかーしの事だし! それに、あの事故があってから暴走族の取り締まりが厳しくなって、すっごく数が減ったんだって。だから……良くはないけど、良かったんだよ! きっと!」

 

 アケビはまったく気にする様子も無く、ツバキの謝罪を流す。その言葉に偽りは無く、浮かべる笑顔は先ほどまでと変わらぬ、明るく元気なままだ。

 

「(……8番道路の治安が良くなった裏にそんな事があったのか……状況が改善されるのは、いつも犠牲者が出てから、か……)……寂しくは……ないのか?」

 

 イソラの質問に、アケビはキョトンとした表情を浮かべる。

 

「うーん……寂しくない……って言ったら嘘になっちゃうのかなー。でも、あたしを引き取ってくれたフジおじいちゃんは優しいし、ネリアさんやラニーちゃんとの毎日も楽しいし、それにポケモンがたくさんいるからね! うん、やっぱり寂しくないかも!」

 

 あれやこれやと指折り数えたアケビは、満面の笑みを咲かせて答えた。

 

「……そうか。無神経な質問をしてすまなかった」

 

「もー! 気にしなくて良いって言ってるでしょ!」

 

 プンスカという効果音が聞こえてきそうなくらい頬を膨らませたアケビが、イソラをポコポコと叩く。

 この天真爛漫さこそが、今日までアケビがアケビらしく成長できた理由なのかもしれない。

 

「それに、ツバキちゃんもイソラさんも、もうあたしのお友達だよね? お友達がいれば、寂しいなんて事あるはずないよ!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

「うっ……!」

 

「はうっ……!」

 

 あまりにも屈託の無い明るい笑顔で友達宣言をされ、不意を突かれた2人は心を撃ち抜かれてしまった。

 

「あっ、長く引き止めちゃってごめんね! ツバキちゃんもジム巡りで急いでるんだったよね!」

 

「い、いえ……大丈夫です……」

 

「ま、まぁ……人生には寄り道が必要な事もある……」

 

「イワヤマトンネルに行くなら~……っと……あった! はい、懐中電灯! そーらーばってりーって言って、お日様に当てると充電できて何度も使えるんだって! イワヤマトンネルは暗いから持っていってよ!」

 

 アケビが引き出しから取り出した懐中電灯を受け取ると、ツバキは大事にしまい込み、しっかりと礼を告げる。

 

「……ありがとうございます、アケビさん」

 

 魂の家を出た2人を、アケビはシオンタウンの出口まで見送りにきた。

 

「ツバキちゃーん! イソラさーん! まったねー! いつかバトルしよーねー! リーグ頑張ってねー!」

 

 ブンブンと両腕を振るアケビの姿に元気付けられたツバキとイソラは、イワヤマトンネルへと足を踏み入れた。

 暗闇と静寂が支配する洞窟……そしてその先で待つものは……。

 

 

 

 魂の家へと戻ったアケビは、再度家の庭へ出ていた。

 そこには、雨風を凌ぐ簡易的な屋根と壁で囲われた、ポケモンの物とは異なる意匠の墓石。

 アケビはその前にしゃがんで手を合わせる。

 

「パパ、ママ。今日、ツバキちゃんの連れてきたイソラさんていう新しいお友達ができたんだ。……アケビはこれからもたくさんの人やポケモンとお友達になって、元気で生きていくから。……安心して見守っててね」

 

 立ち上がったアケビが見上げた空には、2つの大きな雲がこちらを見守るように浮かんでいた。

 

 

 

つづく




今回も長文と落書きにお付き合いいただき、ありがとうございました!

今回はちょびっと暗めのお話でしたが、アケビの明るいキャラで相殺できたと思います。
まぁ、シオンタウンなのにホラーイベント無しで終わった事にがっかりした方もいらっしゃるかもですが……。
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