蒼天のキズナ   作:劉翼

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今回は久々に短めの内容となっている、第31話です。


第31話:欲望と傲慢と希望と

 アケビに別れを告げてシオンタウンを後にしたツバキとイソラは、ハナダシティへ向かうためにイワヤマトンネルへと踏み込む。

 2人がほんの1歩洞窟の中へ入ると……。

 

「……思ってたよりずっと暗いね……」

 

 一寸先は闇、とはよく言ったもので、洞窟内は自分の足下すらもはっきりとは見えないほどの暗闇に支配されている。

 

「うーむ、そういえば“フラッシュ”を使えるポケモンを連れてくるのを忘れていた……」

 

「懐中電灯を貸してくれたアケビさんには、今度改めてお礼言わないとね」

 

 そう言いながら借りた懐中電灯を点灯させると、ゴツゴツした岩肌の露出する壁や天井がはっきり見える。

 

「イワヤマトンネル……ここを通るのも懐かしい。何年経ってもここは変わらない……」

 

 と、感傷に浸ろうとした矢先、突然明るくなった事に驚いてか、天井にいたこうもりポケモン『コロモリ』と、おんぱポケモン『オンバット』が飛び回り、岩陰からマントルポケモン『ダンゴロ』が逃げていった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「……でもないか。ここも生息するポケモンが様変わりしているな」

 

 無論、ズバットやイシツブテなどもいるが、元々はカントー地方にはいなかった外来種ポケモンの姿が圧倒的に多く見られた。

 ポケモントレーナーにとっては、ゲットできるポケモンのバリエーションが増えるのは喜ばしい事であり、実際、隣のツバキも嬉しそうにポケモン図鑑でデータを確認している。

 が、その原因が他地方からの持ち込みと放棄、そして野生化であるとなると、一個人としては複雑な感情を抱かざるをえない。

 

「……人間とは、エゴの上に成り立つ生き物なのかもな……」

 

「……お姉ちゃん?」

 

 同族の愚行に溜め息を吐くイソラであるが、覗き込んできたツバキの純粋な眼差しと表情を見ていると、決して人間はそれだけではないとも思えた。

 

「……いや、何でもないよ。……出てこいクロバット」

 

 ボールから出たクロバットは、音も無くイソラの右腕に降り立つ。

 

「道案内を頼む。久々すぎてルートを忘れてしまったんだ」

 

 クロバットは頷き、無音で飛び立つと口から超音波を放って周囲の地形を把握し、ゆっくりと進み始めた。

 ツバキとイソラは、はぐれないように手を繋ぎ、クロバットの後に続く。

 その途中でも、やはりオンバットやダンゴロが怖々とこちらを見てくる。

 他の場所と同様、この洞窟内も生態系は著しく変化してしまっているようだ。

 

「……ねぇ、お姉ちゃん」

 

「うん? どうしたツバキ?」

 

 しばらく黙っていたツバキが、おずおずと口を開いた。

 

「わたしは昔の事はよく知らない。……でも、お姉ちゃんは知ってるんだよね、昔のカントーを」

 

「ああ」

 

「……変わるのって……いけない事なのかな……」

 

「っ……! ……ツバキ……」

 

 ツバキの言葉にイソラの歩みが止まり、ツバキも同時に足を止める。

 

「わたしにとっては、たくさんのポケモンがいる今のカントー地方が良いけど……良い事ばかりじゃないんだよね……」

 

「……そう、だな……。ポケモン達は賢く、新しい種類のポケモンが根付いても、いつの間にか生態系は安定を取り戻している。……だが、人間の身勝手で自然本来の形を歪めた事には変わらない」

 

「連れてきて、捨てる人がいるから?」

 

「……そうだ。ツバキのようにポケモンを対等な友人として扱う者も決して少なくはないんだ。……だが、道具や商品、見世物としてしか価値を見出さない者もまた多い」

 

 自身と繋いだツバキの手に、ギュッと力が込められるのをイソラは感じ取る。

 

「そして、そういう目的で他の地方から連れてきたポケモンを、また様々な理由で放り出す。「弱いから」、「飽きられたから」、「増えすぎたから」。……彼らポケモンは、私達人間の犠牲者なんだ」

 

 イソラが天井を見上げると、その視界にクロバットが入ってきたので、自身の腕に掴まらせる。

 

「……こいつもだ。私が見つけた時、こいつは生まれたばかりの小さなズバットでロクに飛べないはずなのに、本来の生息域から遠く離れた場所で雨に打たれて震えていた。強いポケモンを作ろうとしたトレーナーに、望まれた力を持たなかったが故に捨てられたとすぐにわかった」

 

 クロバットの壮絶な出自を聞いたツバキの目が見開かれ、その表情が強張る。

 

「……そんな……それじゃあ……」

 

「……ポケモンが増えても、一時的に乱れた生態系はいずれ安定する。だが、その安定の裏では、数えきれない犠牲もあったかもしれない、という事だ」

 

 イソラがクロバットの頬を撫で、表情を和らげると、クロバットもまた気持ち良さそうに気の抜けた表情を見せた。

 

「全ての人間の思想を変える事などできないし、それによる世界の変化も止められない。ならばせめて、自分にできる事を精一杯するんだ。自分の意思でな」

 

 クロバットが再び飛び立つと、イソラはツバキに視線を向けて笑いかけた。

 

「さっきの問いの答えだが……変化の全てが悪というわけではない、としか言えない。良い方向への変化も確かにあるんだ。お前がポケモン達と出会い、絆を深めながら共に強くなっていき……そのおかげでお前自身も昔より明るく積極的になったように」

 

 そして、ツバキを抱きしめて優しい声色で言葉を紡ぐ。

 

「だからツバキ。お前は、人にもポケモンにも優しいお前のままでいてくれ。ツバキらしさを見失わないでほしい。……お姉ちゃんと約束してくれるか?」

 

 しばし俯き、帽子で表情を隠していたツバキだったが、ゆっくりと顔を上げると、イソラの目をまっすぐに見つめて力強く頷いた。

 

「……うん、約束する! わたしはポケモン達と一緒に、わたしらしく変わるよ!」

 

「……良い子だ、ツバキ」

 

 イソラがツバキの頭を撫でると、ツバキの表情が蕩ける。

 

「……ふにゃぁ……♪」

 

 そして同時にイソラの表情も蕩ける。

 

「(ああもう、可愛い可愛い可愛い……! なんなんだその顔の殺人的可愛さは……!)」

 

 が、イチャつく2人に近付いたクロバットが、急かすようにイソラの頭を翼でベシッと叩く。

 

「あたっ! あ、ああ、すまないクロバット。そうだな、先を急ごう」

 

「うんっ!」

 

 正気に戻ったイソラは、再びツバキと手を繋いで歩き始めた。

 この子はきっと、この純粋さを失わないまま、自分を超えるトレーナーとなってくれるだろう……そんな希望を胸に抱きながら。

 

 

 

「あ~あ、つまんない……」

 

 黒い服を纏った女性が、キャンディを舐めながら欠伸を噛み殺す。

 

「ウィルゴ様、所員全員の拘束完了しました。連絡手段とポケモンを没収の上1つの部屋に閉じ込めておきました」

 

「ご苦労様。……あんたもつまんないわよねぇ、ラピオ?」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 部下の報告を聞くのもそこそこに、ばけさそりポケモン『ドラピオン』に寄りかかりながら、その顎を撫でる。

 警備員達のポケモンと交戦したが、全員毒であっさりと戦闘不能にしてしまい、退屈を持て余していたのだ。

 

「『S』は見つかったの?」

 

「はっ……それはまだ……しかし、反応は検知できましたので、範囲を絞って捜索中です。動力室はセキュリティが強固で、受け取ったカードキーでは開けられず、現在ハッキングによる解錠を試みております」

 

「あっそ……アタシの嫌いな物……わかってるわよね?」

 

 ウィルゴは心底つまらなそうな返事をしたかと思えば、凍りつきそうな冷たい視線を部下へと向ける。

 

「っ! む、無駄に待たされる事であります! 全員に作業を急がせます!」

 

「結構。……それにしても警察は一向に来る気配すら無いわね……」

 

「あの男は結局裏切らなかった……という事でしょうか」

 

「ま、どっちでも良いけどね……仕方ないから、こっちから犯行声明でも出そうかしら」

 

 まさかまさかのウィルゴの言葉に、部下が驚愕の表情を見せる。

 

「は、犯行声明ですか……!?」

 

「そうよ。できればダミーの方を派手に知ってもらって、本命には気付かれないようにしたいしね」

 

 部下に説明をしたウィルゴは、早速電話を取り出す。

 

「……あ、もしもし警察? こちらはロケット団でーす。カントー発電所は、我々ロケット団が占拠しましたぁ。所員及びカントー中の電気はこちらの手の中……無事に返してほしければ、現金15億円を用意してちょうだい。こちらには人質も発電機も施設ごと爆破する用意がある事をお忘れなく。それじゃーねぇ」

 

 ウィルゴは一方的にまくし立てるだけまくし立てると、電話相手の制止する声を無視して電話を切る。

 

「い、いくらなんでも大胆すぎでは……」

 

「バトルも作戦も、繊細さと大胆さを合わせてこそよ。……ウフフ、これで少しは退屈も紛れるかしらねぇ……♪」

 

 ドラピオンに楽しげな視線を向け、警察を迎え撃つ準備のために歩き出す。

 

「しかし……警察程度でウィルゴ様の相手が務まるかどうか……」

 

「ハナっから期待はしてないけど、今より退屈って事は無いでしょ。あ、他の連中は現在の作業を続行よ。警察の相手はアタシだけで十分だから」

 

「了解しました」

 

 自信の表れとも、単なる傲慢とも取れる発言をするウィルゴであるが、部下の男は特に止める様子は無い。

 彼女の実力であれば、警察官など束になっても相手にならないと理解しているからだ。

 

 ……それから2時間ほど経って、パトカーのサイレンの音が聞こえ始めた。

 

「やっと来たわね」

 

 モニタールームの席についたウィルゴは、無数の監視カメラが送る映像を眺め、その内の1つ……発電所入口を映し出すモニターを見つめた。

 そこには、自身とお揃いのヘッドセットを着けたドラピオンが陣取っている。

 

「ラピオ、聞こえてるわよね?」

 

 ウィルゴの問いかけに、ドラピオンは両腕を振り上げて答えた。

 

「感度良好ね。……さぁて……警察の皆さんは、アタシにどんな刺激をくれるのかしら? ウフフ……少しはアタシを満たしてくれると良いんだけど……」

 

 口の端を歪めたウィルゴは、遠足を控えた子供のように、やがて訪れるであろう楽しみに胸を膨らませていた。

 

 

 

つづく




はい、今回も駄文雑文落書きにお付き合いいただきまして、ありがとうございました!

ようやくロケット団が本格的に表舞台に出始めました!
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