サブタイからして嫌な予感しかしないですねぇ……。
「ファンファン、“じゃれつく”!」
「エモンガ、“アイアンテール”!」
ロケット団による占拠事件の発生したカントー発電所。
その施設内に、凛とした指示の声と轟音が響く。
「うわっ! ニュ、ニューラぁ!」
「お、俺のデルビルが……! つ、強い……! なんなんだこいつら……!?」
潜入したツバキとイソラを挟撃したロケット団員達だったが、彼女達のポケモンは、トレーナーの怒りと気迫を受けてか驚異的な戦闘能力を発揮し、団員達のポケモンを次々戦闘不能にしていく。
「くそっ! アーボック、“こおりのキバ”!」
「挟み撃ちだ! ゴースト、“シャドークロー”!」
コブラポケモン『アーボック』が冷気を放つ牙を剥き、ガスじょうポケモン『ゴースト』が自身の影で巨大な爪を形作り、それぞれ左右からエモンガに迫る。
「……馬鹿め。“ほうでん”」
が、近付いたのが仇となり、エモンガが無差別に周囲に放出した電撃で容易く一網打尽にされてしまった。
「ズバット、“かみつく”だ!」
「ファンファン、“まるくなる”!」
鋭い牙を剥いて空中から襲いかかるズバットだったが、身体を丸めて防御態勢に入ったファンファンには文字通り歯が立たず、痛みで怯んだところを鼻で掴まれてしまった。
「そのまま“ころがる”!」
ズバットを鼻で掴んだまま回転に巻き込んだファンファンは、へびポケモン『アーボ』に“ころがる”をヒットさせると同時に、ズバットを投げ飛ばす。
「だ、駄目だ……! ガキだけならまだしも、あっちの女が強すぎる……!」
無論、ツバキとイソラでは実力に雲泥の差があり、ツバキ単独ではこのロケット団員達に太刀打ちする事はまだできないだろう。
だが、2人が背中合わせに立ち、実力の高いイソラが多勢の方を一手に引き受けているため、ツバキも正面の相手にだけ気を配れば良い状況となっている事で十分に渡り合う事ができている。
「悪い人達になんて絶対負けません……負けられません!」
「ふっ、その意気だ。……さぁ、どうする貴様ら。まだやるか?」
「うっ……」
手持ちの大半を戦闘不能にされた団員達は、イソラの鋭い眼差しに射抜かれ、後退りを始める。
しかしその時、どこからか地鳴りのような音と振動が響き始めた。
「……? 何……?」
「……どこからだ……!?」
イソラが神経を研ぎ澄まし、周囲を警戒する。
まさにその瞬間、2人の真横の壁を破壊して、紫色の巨大なサソリが姿を現した。
「(ドラピオン……!? 完全に不意を突かれた……!)」
ドラピオンの振り回す巨大な爪をバク転で回避したイソラの前に、ひらひらと何かが落ちてくる。
赤と白のツートンカラーの、丸みを帯びた帽子だ。
「っ!! ツバキっ!!」
「……お姉ちゃんっ……!」
もうもうと立ち込める煙が晴れると、ツバキはドラピオンの右腕の爪でガッチリと掴まれ、脚をバタつかせていた。
「ウフフ……つーかまーえた♪」
そして、ドラピオンの脇に立つトレーナーらしき女性が口を開いた。
「ツバキを放せ貴様っ!!」
「ふぅん、あんたツバキって言うんだ……ふむふむ……」
黒い服を纏った女性……ウィルゴは、イソラの怒号などまったく意に介さずに捕らえたツバキを眺める。
当のツバキはどうにか拘束から逃れようともがくが、ドラピオンの腕はビクともしない。
「あんまり暴れない方が良いわよ? ドラピオンの腕は、車だって粉砕しちゃうんだから。ちょっと力加減を間違えれば、人間の身体なんて1発でバラバラよ?(……ま、アタシのラピオに限ってそんなミスはしないけどね)」
ウィルゴはツバキの爪先から頭までじっと観察する。
だが、死と隣り合わせの状況だというのに、ツバキの表情に恐怖は無く、ロケット団への怒り、そして悪事に利用されるポケモンへの憐れみに満ちていた。
「……ウフっ、気に入ったわ。行くわよラピオ」
そして、そのままイソラに背を向けて立ち去ろうとする。
「待て貴様っ!」
「安心して。ちょぉっと向こうでお話しするだけよ。ポケモントレーナーらしく、ね。あんたは目付き悪くて可愛くないから興味無し。どこへでも行きなさいな」
その時、近くの階段から新たに10名ほどのロケット団員が駆けつけた。
「ちょうど良かったわ。あんた達、そいつを外に放り出しなさい。じゃ、さよならぁ~」
「お姉ちゃんっ!!」
「ツバキっ!!」
互いの叫びも虚しく、ツバキを捕らえたままのドラピオンとウィルゴは姿を消し、ロケット団員がポケモンを出して行く手を阻む。
「…………どけ…………どけ、貴様ら…………」
殺気にも似た怒気を放つイソラに、団員達は気圧されるが、逃げようとはしない。
「こ、断る……! 我々とてウィルゴ様の機嫌を損ねれば、どんなお仕置きが待っているかわからんのだ……!」
「…………そうか……戻れ、エモンガ。ファンファンも下がっていろ」
イソラは低く静かな声のままエモンガをボールに戻し、取り残されたファンファンを自分の後ろへと下がらせる。
そして、無言のままに新たに取り出したボールから、かえんポケモン『リザードン』を繰り出すが、この狭い通路にその体躯は少々窮屈そうである。
「……今は加減をしている余裕は無いのでな……押し通らせてもらうぞっ!!」
イソラは首に下げて服の中に入れていた紐を引くと、その先端に付いた丸い石を露出させる。
「リザードン……我が怒りを蒼き炎とし、さらなる高みへ舞い上がれ……!!」
イソラが握り込んだ石から光が溢れ、リザードンの左腕に付いたリングに嵌められた石も共鳴を始める。
「な、なんだ……!?」
「ひっ……ひいぃ……!」
光を浴びて変化するリザードンのシルエットと、急激に上昇する周囲の熱量に、団員達が目を見開き、腰を抜かす。
「う……うわぁぁぁーーーーーーっっっ!!!」
「……ここは……」
ツバキを掴んだドラピオンは、それまでの通路続きから一変、広い部屋へと出る。
「もう良いわよラピオ。放してあげなさい」
ウィルゴの指示に従い、ドラピオンはツバキを床……いや、地面に下ろす。
「ウフフ……ここの連中も、相当なバトル好きよねぇ。わざわざこんな頑丈な部屋を増設してまでバトルフィールドを作るんだから。カタログスペックでは、内側でギャラドスやボーマンダが暴れようと施設には影響が出ないってんだから大したもんよねぇ?」
そう、ツバキの連れてこられた部屋は、なんとバトルフィールドだったのである。
「……何をするつもりなんですか」
「ポケモントレーナーがバトルフィールドでする事なんて決まってるでしょう? ポケモンバトルよ」
ウィルゴはニタァと笑うと、ドラピオンの顎を撫でながら宣言する。
「ウフフ……あんたにとっても、悪い話じゃないわよ? なにしろあんたが勝てば、アタシ達はここの施設に手を出す事無く帰ってあげるんだから」
「……!」
ツバキは思わず息を飲む。
自分はまだまだ半人前で、相手は腕に自信がある様子とはいえ、バトル1回で凶悪犯罪を止める事ができるという、確かに破格の話を持ちかけてきたのだから。
「……わたしが……負けたら……?」
「そうねぇ……」
ツバキからの質問に、ウィルゴは目を閉じて考える素振りを見せた後、口の端を歪めてツバキを指し示す。
「あんた、アタシのモノになりなさい」
「っ!? な……何……を……!?」
唐突な私物化宣告に、ツバキの頭が混乱するが、相手はそんな事はお構い無しに話を進める。
「ウフっ……さぁ、どうするのかしら? カントー中の電気と自分自身……あんたはどっちを守りたいのかしらねぇ?(……と言っても、ハナからここを壊す気なんて無いんだけどね♪)」
「…………わ、わかりました……わたしが勝てば……勝てば良いんですから……!」
「あら、意外とアグレッシブ。ま、そうでないとね♪」
もしもこの発電所を破壊されれば、カントー中から光が消え、未曾有の混乱が起きるであろう。
そんな危機と自分1人……天秤にかける事などツバキにはできなかった。
ならば、無茶でもなんでも、勝利する他無い。
「それじゃあサービスよ。手持ち全部使って、このラピオを倒して見せなさいな」
ドラピオンをフィールドへと送り出したウィルゴは、完全にツバキを侮っている様子だ。
「(どく・あくタイプのドラピオン……すごく強そう……! 状態異常にして、少しでも弱らせないと……!)」
まだまだ未熟な自分ですら感じ取れるほどの圧倒的なオーラを放つドラピオンを前に、単純な戦闘能力では勝ち目は無いと判断したツバキは、腰のモンスターボールに指を這わせる。
「……お願い、ミスティっ!」
いつものように勢いよく飛び出したミスティだが、これまでに経験が無いほどの覇気を放つドラピオンに、一瞬だけ身体が竦み上がる。
「ミスティ、怖いだろうけど……発電所を守るためにお願いっ!」
ツバキの声援を受け、ミスティは表情を引き締めて「怖くなんかないし」と言わんばかりにドラピオンと睨み合う。
「ミスティ、“しびれごな”!」
ジャンプしたミスティの葉から黄色い粉が振り撒かれる。
「返してあげなさい。“クロスポイズン”」
その指示に頷いたドラピオンは、その場で両腕を交差させて、全力で振るう。
それによって凄まじい風圧が起き、“しびれごな”諸共ミスティを吹き飛ばしてしまう。
「な……なんてパワー……! ミスティ、連続で“エナジーボール”!」
5枚の葉を別個に動かして空中でバランスを取ったミスティは、その葉の先端に小型の“エナジーボール”5発を作り出して発射した。
“エナジーボール”はドラピオンの周囲に着弾し、砂を巻き上げて視界を塞ぐ。
「目眩ましね。“クロスポイズン”」
先ほどと同様、クロスさせた腕を振り抜いて風圧を巻き起こし、邪魔な砂を払ったドラピオンだが、ミスティは砂に紛れてその足元に迫っていた。
「へぇ……」
「“ねむりごな”!」
至近距離で放出された“ねむりごな”がドラピオンを覆い、強烈な睡魔が襲う。
「やった……! ミスティ、“エナジーボール”!」
ミスティは、眠って無防備になったドラピオンの周囲を走り回りながら、次々に“エナジーボール”をヒットさせていく。
ざっと30発は当てただろうか。
爆煙がドラピオンの周りを覆い、ほとんど何も見えなくなる。
「…………おはよう、ラピオ♪」
煙の中のシルエットが両腕を振るい、風圧で煙が晴れると、何も変わった様子の無いドラピオンが姿を現した。
「そ……そんな……!?」
「よく眠れたかしらラピオ? 寝不足解消してくれた上に、マッサージまでしてもらって悪いわねぇ♪」
ウィルゴは、大仰な所作でわざとらしい礼をすると、再び歪な笑みを浮かべる。
「お礼よ、取っておいて。“ミサイルばり”」
ドラピオンの口から3発の針が発射され、それぞれ違う方向に飛んでから、ミスティを包囲するように誘導して直撃した。
「ミスティっ!」
立ち込める煙が霧散し、姿が露になったミスティは、目を回して動かなくなっていた。
「そんな……一撃……?」
「あ、泣く? 泣いちゃう?」
これまでジム戦で度々根性を見せて活躍したミスティが、“ミサイルばり”の一撃で倒されてしまった事にショックを受けるツバキを、ウィルゴが煽る。
「っ! 戻ってミスティ! ……お疲れ様」
その煽りで我に返ったツバキは、ミスティをボールに戻す。
そして確信した。
目の前の相手は、弱者を甚振って遊んでいるのだと。
「ほらほら、まだポケモンは残っているんでしょう? もっともっと楽しみましょうよ。ウフフ……もっと顔を歪めて良いのよ? 怒りなさい、悲しみなさい、悔しさと恐怖に打ち震えなさい。ウフ……ウフフフ……アハハハハハ!!」
これまでに出会ったトレーナー達とは、あまりに趣の違いすぎるウィルゴに、ツバキは生まれて初めてバトル相手への戦慄を感じ始めていた。
つづく
イカれてるキャラって嫌いじゃないわ!
というわけで今回もお付き合いいただき、ありがとうございました!
もう残業は嫌じゃあ……オラに文章と挿絵を書き溜める時間をくれぇ……。