蒼天のキズナ   作:劉翼

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ちょっとしたギャグ回となる第36話です。


第36話:カムバック!自由な日々!

 カントー発電所での戦いで意識を失い、4日後に目覚めたツバキは、命に別状は無いものの、様子見でしばし入院する事になった。

 

「……特訓したい……」

 

「ダメだ。先生からも安静にしろと言われているだろう」

 

 ……という会話を、ここ2日で10回はしている。

 

「でも、ハナダジム戦が……」

 

「ダーメーだ。今のところ後遺症は無いと診断されているが、打ったのが他でもない頭なんだからな? 用心をしすぎという事は無い」

 

 リンゴの皮をナイフで剥きながら、イソラが何度目かの注意をして、ベッドに寝たツバキがそれに対して頬を膨らませる。

 

「……あ、皆のお散歩を……」

 

「私が毎日やってるので安心しろ。……散歩にかこつけて外出して特訓するつもりだろう」

 

「……んむぅ……」

 

 ポポと旅に出てポケモン達と出会い、毎日が目新しさに溢れたドキドキする日々だったためか、このようなひたすら大人しくする……という暮らしはどうにも落ち着かない。

 

「まったく……昔よりも明るくなったのは良いが、こういう時くらいは大人しくしていなさい。……よし、剥けたぞ。ほら、あーん」

 

「ひ、1人で食べられるよぉ……」

 

 皿に並べたリンゴに楊枝を刺して差し出すイソラに顔を赤くしたツバキは、身体を起こして皿ごと受け取ろうとする。

 

「うむぅ……昔は逆に軽い風邪だろうと「お姉ちゃん食べさせて~」と甘えてきたのだが……反抗期かはたまた姉離れか……お姉ちゃん寂しいなぁ……」

 

「どっちでもないよぉ! さすがに10歳になってそれは恥ずかしいだけ!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 というより、実の姉妹ならともかくとして、ただのご近所のお姉さんにそこまで甲斐甲斐しくされる事自体が珍しいとも言える。

 顔を赤くしながらシャリシャリとリンゴをかじるツバキを、イソラは微笑ましく眺め、そのせいでさらにツバキは赤くなる。

 

「……んもう……」

 

 リンゴを食べ終えたツバキは、スリッパを履いてベッドから起き上がる。

 

「ツバキ?」

 

「ちょっとジュース買ってくる」

 

 イソラにじーっと見られて熱くなった顔を冷まそうと部屋を出たツバキは、自動販売機にお金を入れて、ミックスオレのボタンを押す。

 

「えっと、お姉ちゃんはサイコソーダが好きだったよね」

 

 取り出し口からミックスオレを回収すると、もう1度お金を投入し、今度はサイコソーダのボタンを押した。

 ……困った部分はあるものの、やっぱりイソラが大好きなんだなぁと、自分自身に苦笑いする。

 飲み物を買って戻ろうとすると、ポケギアの電話機能で会話するイソラが病室の前に立っていた。

 

「……なるほど。ひこうタイプトレーナーを集めて……ふふっ、私などにお声がけをいただけるとは光栄です、ハヤトさん。……はい、是非参加させていただきます。協力できる事があればいつでも。……はい、では」

 

 電話を切ったイソラが、ツバキに気付いて手を振ってきた。

 用事が済んだようなのでツバキが近付き、サイコソーダを手渡す。

 

「ありがとう、ツバキ」

 

「お姉ちゃん、さっきの電話は?」

 

「ああ、ジョウト地方キキョウジムのジムリーダー・ハヤトさんだ。なんでも、各地方からひこうタイプを専門とするエキスパートトレーナーを集めて、地方同士の交流を目的としたイベントをやるそうなんだが、そのカントー代表として私に声をかけてくれたんだ」

 

「へえぇ……! お姉ちゃんすごい! 他にはどんな人が来るの!?」

 

 身近な人物……しかも自分が尊敬する人物が、ジムリーダー直々に指名された事が自分の事のように嬉しいツバキは、興奮気味に尋ねる。

 

「ホウエン地方からはヒワマキジムリーダー・ナギさん。イッシュ地方からはフキヨセジムリーダー・フウロ。そして、アローラ地方からは四天王・カヒリさんを呼ぶそうだ。……正直、唯一肩書きが無いのが恥ずかしいくらいのメンバーだよ」

 

 とはいえ、肩書きが無いのはイソラ自身の選択の結果である。

 実のところ、プロトレーナーやジムリーダーへの勧誘は何度か行われているにもかかわらず、イソラは鳥ポケモンのように自由を好むがために、その都度話を断っていたのだ。

 

「ハヤトさんとナギさんは、私にひこうタイプの扱い方を教えてくれた、師とも呼べる人達だからな……会えるのが楽しみだ。フウロの奴は元気だろうか……カヒリさんともゆっくり話をしてみたいものだ」

 

 共にひこうタイプを愛する仲間達を思い出し、イソラは自然と笑みを浮かべていた。

 

「開催は来年を予定しているらしい。……そうだ、お前も皆に紹介しなければな」

 

「えぇっ!? い、良いよわたしは! そ、そんなすごい人達の前になんて……」

 

 まさかの有名人揃いの中へのお誘いに、ツバキは全力で頭と手をバタつかせる。

 

「なぁに、一般参加者として来れば良いんだ。主催はエキスパートトレーナーだが、一般参加は1体でもひこうタイプがいれば良いからな。その頃にはポポは今よりもずっと強くなっているだろうし、他のひこうポケモンも捕まえているかもしれん」

 

「そ……それはそうかもだけど……」

 

「ちなみにハヤトさんによると、いずれは協会に働きかけ、このような特定のタイプごとのイベントを協会公認イベントにしたいらしい。地方同士もだが、好みの合う同好の士の交流や、タイプへの理解を深める目的もあるそうだ」

 

 ジムリーダーといえど、ただジムへのチャレンジャーを待つだけ……というわけではない。

 バトルを通してポケモンバトルという文化の活性化と、全体的なレベルの向上を目指したり、こういったイベントを企画してポケモンへの理解を深め、人間との関係をより身近な物とする事もまた重要な役目なのである。

 

「じゃあ、むしろわたしみたいな新米こそ参加した方が良いって事?」

 

「そうだな……少なくともポケモンへの理解を深められるという点では、新人教育に向いている。だが、そもそもにしてポケモンバトルは、玄人や素人といった枠組みをそうそう気にしてやる物ではないだろう。主催するジムリーダー達も、一般トレーナーから雲の上の存在のように思われているのをどうにかしたいと思って企画したらしいしな」

 

 言うまでも無いが、ジムリーダーや四天王、チャンピオンらは、卓越した戦術眼や発想力を持ち、高い実力を誇る、極めて優秀なトレーナー達である。

 そういった世間からの認識が強いため、一般トレーナーとはどうしても1歩引かれた関わりとなり、敬遠されがちになってしまう。

 だが、彼らの大半はその肩書に誇りは持ってはいるものの、恐れられたり、変に遠慮されたりというのはご免被る……と考えているのだ。

 

「強いとはいえ、彼らもまたポケモントレーナー……身分や経歴など関係無しに、対等な目線でポケモンバトルを楽しみたいのさ」

 

「……えっと、じゃあ…………こんな風に話されるのがお嫌なんですか、イソラさん?」

 

 その話を聞いたツバキが1歩下がり、わざと固い口調で話しかけると、イソラは青ざめた顔でツバキの肩を掴む。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「やめろやめなさいやめてくれ! お前にそんな他人行儀にされたら、私は本当に死んでしまう! 頼むからいつも通りにお姉ちゃんと呼んでくれ!」

 

「じょ、冗談だよお姉ちゃん……!(ほ、本気の目だ……!)」

 

 声も身体も震えて、半泣きで懇願するイソラにドン引きしたツバキは、慌てて冗談だと取り繕う。

 

「ふぅ……趣味が悪いなもう……ま、ともかくそういう事だ。このイベントで、ジムリーダーらに対する苦手意識も払拭しようという事なんだそうだ」

 

「そっかぁ……言われてみればわたしも、漠然とすごい人達だなー、わたしとは違うなーって思ってた……」

 

 と、そんな話をしていると、白衣を着た男性が近付いてきた。この病院に勤め、ツバキの診察を担当した医師だ。

 

「ああ、ツバキさんちょうど良かった」

 

「あっ、先生。こんにちは」

 

 ツバキが丁寧に頭を下げると、医師の方も優しい笑顔で挨拶を返してくる。

 

「はい、こんにちは。お姉さんもご一緒なら話が早い。ここまで経過を見てきましたが、どうやらもう大丈夫そうです」

 

「えっ、じゃあ……」

 

 ツバキが期待に満ちた視線を向けると、医師はにっこりと笑って頷く。

 

「はい、もう退院して大丈夫ですよ」

 

「……! あ、ありがとうございました! 聞いた? お姉ちゃん!」

 

「ああ。……先生、お世話になりました」

 

「いやいや、本当に大事にならなくて良かったです。……ジム戦とポケモンリーグ、頑張ってください。影ながら応援していますよ」

 

「は、はいっ! ありがとうございます!」

 

 退院できる上、医師からの思わぬ激励でテンションの上がったツバキは、挨拶もそこそこに部屋へ戻り、退院準備を始めた。

 

「まったく、あの子は……落ち着きが無くてすいません」

 

「はははっ、どうも入院生活でかなり鬱憤が溜まっているようですからな。……それにしても良いですなぁ、夢と希望に満ちた若者は。見ていると、こちらまで明るい気分になります」

 

「ええ。私も色々ありましたが……あの子がいればこそ、今日まで諦めずに努力をしてこれた……と思います」

 

 イソラはいつもの下心を含んだ物でなく、純粋に愛しい妹や娘を見るような澄んだ瞳でツバキの背中を見つめる。

 

「羨ましいものです。私の若い頃も、そんな存在がいればトレーナーを続けていたかもしれませんなぁ」

 

「ほう、先生もトレーナーでしたか」

 

「ジム巡りを終えるまでもなく挫折しましたがね。ただ、人生は不思議と言うべきか皮肉と言うべきか……トレーナーの道を諦めたおかげでこうして医師になり、人やポケモンを救う仕事ができている。トレーナーとしての道に未練はありますが、かといって今の仕事に後悔はありませんよ。だからこそ、若者の夢は応援したい。私のように中途半端でなく、未練の無いスッキリした道を歩んでもらいたいのですよ」

 

「……未練の無い道か……」

 

 年長者故の含蓄ある言葉。

 イソラはその言葉を胸にしっかりと刻み、いずれ自分も誰かに伝えようと心に決める。

 

「お姉ちゃん、行こう!」

 

「早いな!?」

 

 気が付けば、いつもの格好をしたツバキが目の前に立っている。

 

「先生、お世話になりました!」

 

「いえいえ、病気や怪我には気を付け、元気に夢へ向けて進むのですよ」

 

「はいっ! お姉ちゃん、外で待ってるね!」

 

 そう言ってツバキは走……りはさすがにしなかった。なにしろ病院の廊下なので。

 

「……ふふっ……では先生、そろそろ失礼いたします。……あの子の未練の無い道……導き、守らねばなりませんので」

 

「ええ、そうしてあげてください」

 

 軽く会釈をしたイソラは、病院の外で待つツバキの元へ歩みを進め、廊下の曲がり角へ消えていった。

 

「若者が往く、夢への道か……眩しく心地よい道だ。……若者の未来に幸あれ」

 

 医師はそう呟き、次の患者の診察へ向かう。

 彼女らには彼女らの道があるように、自分にはこの医師としての道があり、成すべき事がある。

 ならば、夢へまっすぐに進む若者達にしっかり胸を張れるよう、この道を精一杯往こう……そう、決意を新たにして。

 

 

 

つづく




第36話終了!お疲れ様でした!

今回登場した意味ありげなお医者さんですが、再登場予定はありません。
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