蒼天のキズナ   作:劉翼

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入院後、ジム戦前となれば……特訓!
……というわけで特訓回となる第37話です。


第37話:一寸の虫にも

「~♪」

 

 ハナダシティ東に広がる9番道路。

 イワヤマトンネルやカントー発電所へ続くこの道は一方通行の段差や行き止まりが多く、目的地までの直線距離と実際の移動距離では大きな差がある。

 それでも近年は車や大型のポケモンが通れるように整備が進められてはいるが。

 

「なんだか、こうして歩くのすっごい久しぶりな気がするね、ポポくん」

 

 その道を、肩にピジョンを乗せた少女と、保護者のような女性が歩いている。

 

「この辺りも変わったものだ。歩きやすいよう整備されつつも、野生ポケモン達の生活環境にも気を配っているようだな」

 

 入院期間は決して長くはなかったが、ツバキにとっては相当な拘束時間に感じられたらしく、久々の外出のせいかテンションが高い。

 

「あっ、あそこ広場になってる。あそこなら特訓できそう!」

 

「こら、走るなツバキ」

 

 ツバキが走り出し、イソラが咎める。

 そう、ツバキの目的は、ハナダジム攻略に向けた特訓だ。

 意識を失っていた期間と入院期間を合わせると、そこそこに時間を潰されていた事になるので、どうにか取り返したいらしい。

 

「お姉ちゃん、ハナダジムって確か……」

 

「ああ、みずタイプ専門ジムだったはずだ。くさとでんきタイプが有利だな。ただ、みずタイプはこおり技を覚えている事もあるから、くさタイプを使うなら注意は必要だ」

 

「そっかぁ……よし……! おいで、ミスティ!」

 

 ツバキがボールを投げると、5枚の葉でバランスを取りながらミスティが着地する。

 

「でんきポケモンは持ってないから、くさポケモンのミスティが鍵になるかも……! 頑張ろ、ミスティ!」

 

 ツバキがミスティの前にしゃがみ込んで気合いを入れると、ミスティも葉をピンと立たせて応じ、やる気を燃やしている。

 その様子を見ていたイソラは、ふと疑問を口にする。

 

「……前から思っていたが、ミスティはかなり鍛えられて実力も高いはずなのに、まだ進化していないな……」

 

「……言われてみれば……なんでだろう? ミスティ、何か理由があるの?」

 

 ツバキはミスティを目線の高さまで持ち上げると、首を傾げながら尋ねるが、ミスティはふんすと鼻息を荒くするだけだ。

 

「……うぅ……ポケモンの言いたい事がわからないのは、わたしがまだまだだからなのかなぁ……」

 

「いやいや、たまに例外な人はいるが、普通は言葉はわからんぞ。大半のトレーナーはポケモンとは気持ちで通じ合うものだから、こればかりは長く付き合い続けるしかない」

 

「だよね……でも、できるだけわかるように努力するね、ミスティ」

 

 まだまだ付き合いが足りない事にしょんぼりしたツバキは、ミスティをゆっくりと地面に下ろす。

 

「……そういえば、ポケモンはほとんどが条件を満たした時点で進化するが、中には進化のタイミングを自分で見極めて機会を待つ個体もいると聞く。ミスティもそのクチかもな」

 

「タイミング?」

 

「ほとんどのポケモンは、進化でエネルギーを大量に消費するのか、進化後は技の習得が遅くなるんだ。しかも、進化すると特定の技を覚えなくなってしまうポケモンもいる」

 

「そ、そうなの……!?」

 

 とはいえ、技の習得が遅くなるのと、進化によって様々な能力が向上するのとでは一長一短、どちらが損でどちらが得という話でもない。

 

「なので、もしミスティがそのタイプなら、いつ進化するかは本人に一任するしか無いな」

 

「うん、わかった。……ミスティ、あなたが何を考えてるのかはまだわからないけど、きっとあなたの好きなようにするのが正解なんだと思うよ!」

 

 頭を撫でられたミスティは力強く頷き、ツバキの期待に応えて見せる意思を固めた。

 

「それじゃ、そろそろ特訓を始めるか、ツバキ。どうする? 私が相手をしても良いんだが……」

 

「うぅん……とりあえずわたし達だけでやってみようと思う。……出てきて、シェルル!」

 

 ミスティに続いてボールから出たのはシェルル……だが、いつものように、ボールから出ると同時にツバキの後ろへ隠れてしまう。

 

「あっ……! もうシェルルったら……!」

 

 ツバキは振り向いてからしゃがみ、シェルルに向けて右腕を伸ばし、そのまま登らせる。

 

「この前の発電所では、あんなにやる気になってくれたでしょ? シェルルはやればできる子なんだから、自信を持って、ね?」

 

 肩に乗ったシェルルに優しい声色で語りかけると、何度か触角を動かして悩んでいたが、やがて意を決して飛び降り、ミスティと対峙する。

 

「ツバキ、良ければ私がミスティに指示を出そうか?」

 

「えっ、本当!? お願い、お姉ちゃん! ……1人だと両方に指示するの大変で……」

 

「ははっ、だろうな。そういうわけだミスティ。ツバキ以外からの指示は不本意だろうが、付き合ってくれ」

 

 イソラがしゃがんで右手を差し出すと、ミスティは最も大きい葉で握手(?)に応じた。

 

「では……うん、このコインを投げて、地面に落ちたのをバトル開始の合図にしよう」

 

「わかったよ、お姉ちゃん。……シェルル、お姉ちゃんが指示をする以上、ミスティはいつもよりもずっと手強くなるはず……気を引き締めるよ……!」

 

 ツバキとシェルルが気合いを込める中、イソラが手の上に置いたコインを親指で弾く。

 互いに緊張が走り、くるくると裏表を入れ替えながら落下するコインが、コンクリートの地面に甲高い音を立てて落ちると同時、イソラが動く。

 

「“エナジーボール”!」

 

 ミスティが緑色のエネルギーを集束し、球状に成形して発射する。

 

「シェルル、“アクアジェット”!」

 

 それに対してシェルルは、水流を身体に纏って高速で移動し、“エナジーボール”を回避すると同時にミスティへ突進を行う。

 

「(やはりあの素早さは厄介だが……ミスティならばそれを封じられる)」

 

「シェルル、“むしのていこう”!」

 

 シェルルが身体中のエネルギーを精一杯集め、集束を終えると口から放出する。

 

「“エナジーボール”で迎撃!」

 

 ミスティは瞬時に小振りな“エナジーボール”を生成し、“むしのていこう”のエネルギー弾へぶつけて相殺させる。

 2つのエネルギーの衝突によって生じた爆発で、ミスティとシェルルを爆風が襲い、平べったいシェルルはひっくり返ってもがいてしまう。

 

「あっ……! シェ、シェルル……!」

 

「ミスティ、“しびれごな”!」

 

 ジャンプしたミスティが、もがき暴れるシェルルに“しびれごな”を浴びせかけ、シェルルは麻痺状態となってしまった。

 

「シェルル! だ、大丈夫……?」

 

 どうにか起き上がったシェルルだが、身体が痺れて上手く動けないようで、その動きは目に見えて鈍くなっている。

 

「シェルルの欠点はその体型だ。平たい身体はちょっとした衝撃でひっくり返り、身動きが取れなくなってしまう。そこをどうやってカバーするかが、トレーナーの腕の見せ所といったところだな」

 

「うぅん……確かにそうだよね……」

 

 優れたトレーナーであれば、こちらの体型や体格を利用した戦術を繰り出してくる可能性も高く、ツバキの目指すポケモンリーグともなれば、そのレベルの相手がゴロゴロいるであろう。

 そういった単純な能力や技に限らない部分まで理解し、どう対策しておくか……というのもまたトレーナーには必要なスキルと言えるだろう。

 

「……とりあえずもうやめておくか。シェルル最大の武器はそのすばしっこさ。それを封じられては、継続は厳しいだろう」

 

「うん……シェルル、どうする……?」

 

 ツバキがその背中に語りかけると、シェルルは触角をピーンと立たせて継続の意思を見せる。

 

「……わかった……! お姉ちゃん、シェルルまだやる気みたいだよ!」

 

「(……あの臆病なコソクムシが圧倒的不利な状況下で、ここまで意欲的にバトルに臨むとは……)……ふっ……良いだろう。もう少し頼むぞ、ミスティ」

 

 ミスティもシェルルに触発されてか、ますますやる気をたぎらせている。

 

「“アクアジェット”!」

 

 再度水流を纏い、ミスティへ突進するが、そのスピードは著しく低下している。

 

「(スピードが落ちた状態でなお“アクアジェット”……ここからさらに別の技へ繋げてくるか)落ち着いて動きを観察しろミスティ。今のスピードならばギリギリまで引き付けても回避可能だ」

 

 イソラの指示を受け、ミスティはシェルルから目を離さず、その動きをじっと見極める。

 そして、シェルルとミスティの間隔が大きく縮まった瞬間、ツバキが次の手を打つ。

 

「“すなかけ”!」

 

 シェルルが“アクアジェット”の速度を落とし、頭の先端を地面にぶつけてミスティへと砂をぶちまける。

 

「やはりか。“エナジーボール”を地面に!」

 

 ミスティが先ほどと同様に、素早く小さな“エナジーボール”を生成して足元に発射。

 爆風が“すなかけ”を巻き込み、打ち消してしまった。

 

「地面を這って“むしのていこう”!」

 

 コソクムシの身体は平べったいのは散々指摘されている。

 だが、実際のところは頭の先端となる口の部分から背中にかけて、丸みを伴って徐々に厚みを増していく形状であり、正面や上方からの衝撃は、よほど強烈でない限りは受け流す事ができる。

 実際、これまでにシェルルが吹き飛ばされていたのは、技を使うためにジャンプしていたり、正真正銘真下からの衝撃を受けた場合などである。

 つまり、身体の下側全体がほぼ接地するくらいに姿勢を低くすれば、先ほどの爆圧程度ならば耐えられるのだ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 そして今、ひたすら地面を這って移動する事によって、“エナジーボール”による爆風にも負けずに前進し、ついにミスティの眼前に……。

 

「なるほど、ポケモンの体型の長短を理解し、それを活かす動きを徹底したか。だが」

 

 立ったはずだった。

 

「相手もその動きを見越した戦術を立てる……という事も想定しなければな。“エナジーボール”!」

 

 実際にミスティがいたのは、シェルルの眼前どころか、その頭上。

 無防備な背中に向けて“エナジーボール”が放たれ、痺れた身体では素早く回避ともいかないシェルルに直撃した。

 

「あぁぁっ……!」

 

 せっかくやる気を出したシェルルだったが、あえなく目を回してダウンとなってしまった。

 

「シェ、シェルル! ご、ごめんね……わたしの考えがまだ足りなかったよ……」

 

 ツバキはシェルルを抱き上げて、少し焦げ目の付いた背中を撫でる。

 

「良い動きだったぞ、ミスティ。その実力で、これからもツバキを助けてやってくれ」

 

 頷いたミスティは、ツバキとシェルルへと駆け寄る。

 

「はう……負けちゃった…………でも……すごいね、ミスティ! ……わたしもお姉ちゃんみたいにテキパキ指示してあげられたらなぁ……ふぅ……」

 

「仕方ないさ。こればかりは経験……ひたすら実践あるのみだ。お前は元々、人見知りする引っ込み思案な性格だしな。ほら、キズぐすりだ」

 

「うん」

 

 ツバキがイソラに手渡されたキズぐすりをシェルルに吹きかけていると……。

 

「んん……? そこにいるのは……よぉ、ツバキじゃねぇか!」

 

 草むらの中を歩いていた男性が、ツバキに気付いて近寄ってくる。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「え…………えぇっと……すいません、どこかでお会いしましたか……?」

 

 ……が、あいにくとツバキにはこの人物に見覚えが無いのである。

 

「あー、まぁ仕方ねぇか……結構前だしな……」

 

 男性は溜め息を吐くと、改めてツバキに向き直る。

 

「俺はゲントだ。元クチバジムのジムトレーナーだよ」

 

「……ゲン……ト………………えぇぇぇーーーーっっっ!?」

 

 そう、それはツバキが初めてクチバジムに挑戦した時、レベル差に物を言わせてライボルトでボッコボコにしてくれた男である。

 

「え……なんでここに……? というか……前はもっとこう……失礼ですけど、性格悪そうな目付きと威圧感だったような……」

 

「い、言うようになったじゃねぇかツバキ……。ま、まぁ俺もあれから色々あってよ。お前に負けた後、もう1度自分を見つめ直して、ポケモン達とも向き合おうと思ってな。マチスさんに暇をもらって、ジム巡りで修行中なんだよ」

 

 なんだか物凄く漂白されてしまっているが、どうやら本当にあのゲントらしい。

 

「ツバキ、お前には感謝してるんだ。あん時お前に負けなきゃ、俺はずっと格下ばっか苛めてイキってる、井の中のニョロトノだったからな……それと、あん時は色々と悪かった」

 

「い、いえ、そんな……わ、わたしもあの時は必死で……」

 

「はっはっ! 相変わらず謙虚だなお前! だが、だからこそマチスさんも見込んだんだろうよ……っ!?」

 

 ……そこでゲントは、背後から凄まじい敵意と殺気を感じ、背筋が凍るような感覚に襲われる。

 まるで“ねっぷう”と“ふぶき”を同時に浴びているような、複雑で恐ろしい感覚……。

 

「……ツバキを……呼び捨てにする男…………何者だ貴様はぁぁぁーーーーっっっ!?」

 

 恐る恐る振り返ると、オニゴーリのような恐ろしい形相のイソラが、敵意を剥き出しにして咆哮を上げていた……。

 

 

 

つづく




今回も駄文雑文落書きにお付き合いいただき、ありがとうございました!

ミスティが進化しないのは、決してクサイハナになるのが嫌とか、そういんじゃないですよ!?

ところで“むしのていこう”って具体的にどういう技なんでしょうね。
分類は特殊技なのに、説明文は物理っぽい……謎の多い技だ……。
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