観光客で賑わうクチバシティの街中を、1人の少女がボロボロのポッポを抱え、おぼつかない足取りで進む。
クチバジムへ挑戦したツバキは、ポケモンバトルの過酷さと厳しさを、今、その身で味わったのだ。
自分が何かを言う前に、大切なパートナーがボロ雑巾のようにズタズタにされてしまい、彼女は思考が混乱していた。そんなボーッとした状態で歩いていたためか、ドシンと何かにぶつかってしまった。
「Oh、ソーリーデス、ケガはありませんかプリティーガール?」
尻餅を付いてしまったツバキが顔を上げると、サングラスをかけた金髪の男性が手を差し伸べている。素直にその手を取ったツバキを、男性は優しく引っ張り起こしてくれる。
「……ごめん……なさい……」
「気にしないでくだサーイ。……うん? そのポッポは……ポケモンセンターなら向こうの角を左へ曲がってすぐデース」
男性の指し示す方向に顔を向けたツバキは、ぺこりと頭を下げてポケモンセンターへと進行方向を変える。
ポケモンセンター……それは各地に点在する、ポケモントレーナー達のオアシス。バトルで疲れたポケモン達の体力回復の他、ちょっとした休憩や宿泊まで無料で行える、旅をするトレーナーに無くてはならない存在である。場所によっては広いプールや温泉も併設され、ポケモンにもトレーナーにも憩いの場となる。
センターに入ったツバキは、受付のジョーイさんにポポを預け、手近なソファに座り込む。
「ヘイ、ガール、隣、良いデスか?」
その声に顔を向けると、先ほどの男性が立っている。
「ぁ……はい……。……あの……さっきはその……ありがとう……ございました……」
ツバキの答えを待ち、男性はツバキの隣に腰掛ける。
そして、しばらく黙った後、おもむろに口を開いた。
「……バトルに負けたのデスか?」
ツバキの肩がピクリと動く。
「……はい……」
そう一言答えた後、ツバキはぽつりぽつりと言葉を紡ぎ始める。
「……初めてのポケモンバトルだったんです……。わたしがもっと……もっとバトルの勉強をしてれば……もっと落ち着いていられたら……もっとちゃんと指示してあげられていたら……!」
言葉と共に、抑えていた悲しみと悔しさがこみ上げ、涙となってボロボロと溢れ始めた。
「……ぅぅ……わたしの……わたしのせいで……ポポくんが…………うっ……ひくっ……ポポくんが……あんな……事にぃ……!」
黙って聞いていた男性は、ツバキの頭を帽子ごしにグシャグシャと撫でると、語り始める。
「ガール。ポケモンバトルに限らず、どんな事も、どんな人も、最初はルーキー……初心者デス。そして、挫折や失敗、敗北は誰しも味わう事……ルーキーならなおさらデース。それはジムリーダーも、四天王も、チャンピオンも、そしてガールの尊敬するような誰かも同じデス」
ツバキを撫でていた手を離すと、立ち上がり、なおも言葉を続ける。
「大切なのは、その後デス。すなわち、後悔したまま座り込むか……立ち上がって歩みを進めるか……ガールはどちらデスか?」
「…………ぐすっ……わたしは……」
「……Youには、一緒に考えるパートナーがいるでしょう。アンサーは、そのパートナーとよく話した、その後でも遅くないはずデス」
「……パートナー……ポポくん……」
涙の渇れたツバキが顔を上げた時、すでに男性は出口へ歩き始めていた。
「……あ、あのっ……」
「前に進みたいのなら、1人で抱え込まない事デス。トレーナーにはポケモンがいて、ポケモンにはトレーナーがいるのデスから。GoodLack」
声をかける前に、男性は出ていってしまい、立ち尽くすツバキが残される。
「……トレーナーには……ポケモンが……ポケモンにはトレーナーが……」
その時、奥の部屋からポポを抱いたジョーイさんが現れる。
「ツバキさん、お待たせしました! お預かりしたポッポはすっかり元気になりましたよ!」
「っ! ポポくん!」
ジョーイさんの腕から離れたポポは、バサバサと羽ばたいてツバキの元へ飛んできて、その腕にすっぽり収まる。
「……ジョーイさん、ありがとう……ございました……! ……ポポくん、さっきは……ちゃんとしてあげられなくて……ごめんね……。……それで……その……」
ツバキはしばし思案した後、ポポに言葉を投げかける。
「……ポポくん……わたし……やっぱり諦めたくない。
さっきはダメダメだったけど……それでもやっぱり、ポポくんと一緒にポケモンリーグに行きたい……一緒に強くなりたい。……ポポくんは……どう……?」
ツバキの言葉を聞いていたポポは、さっきまで涙の流れていたツバキの頬を翼で撫でると、静かに頷きを返した。
「……あんなにダメダメだったわたしと一緒に……まだいてくれる……? ……許してくれるの……? ……ありがとう……ありがとうポポくん……!」
力強く頷いたポポを、ツバキは感極まって力一杯抱き締め、ポポの「グエッ」という声がポケモンセンターに響いた。
――翌日、ツバキとポポは、クチバシティの北、6番道路にいた。
「ジョーイさんの話だと、ここは草むらも、池も、周りに雑木林もあって、色んな種類の野生ポケモンが集まってくるんだって。ここならきっと……見つかるよ、わたし達の仲間になってくれるポケモン……!」
そう、ツバキの目的は、バトルの練習と…新しいポケモンのゲットである。
「トレーナーにはポケモン……ポケモンにはトレーナー……お互いをよく知って、助け合えばもっと強くなれるはず……! それなら、もっと色んな事ができるポケモンも友達になれば、もっともっともっと凄い事ができるよ、きっと……!」
……とはいえ、ツバキの気弱な性格自体が変わったわけではないため、言葉とは裏腹に物凄く腰が引けており、棒切れで草むらを突ついている。呆れたポポがツバキの腰に体当たりして草むらに押し込む。
「ふにゃあっ!? もう、ポポくんたら…………?」
仕方なくガサガサと草を掻き分け進むツバキの目に、雑草に紛れて一際大きな葉が飛び込んでくる。その根元に視線を落とすと、そこには青黒く丸い物体がこちらを見上げていた。ざっそうポケモンの『ナゾノクサ』だ。
「わぁ……丸くてかわいい……♪ねぇ、ポポくん、この子にお願いしてみる?」
と、ツバキの言葉を無視してポポはナゾノクサに“たいあたり”を仕掛けるが、ひょいとかわしたナゾノクサは、通りすぎるポポへ“ようかいえき”を吐きかける。旋回して回避したポポは、ツバキをチラッと見る。
「そ、そうだった、ポケモンを捕まえるなら、まずはポケモンバトル……だったね……! ポ、ポポくん、“かぜおこし”!」
ホバリングしながらポポが勢いよく翼をはためかせると、強風がナゾノクサを襲い、踏みとどまろうとするもあえなく転がってしまう。
「こ、今度は“たいあたり”!」
先ほどと異なり、今度は風で煽られたところへ“たいあたり”が直撃した。だが、ナゾノクサもまだ倒れない。体勢を立て直したナゾノクサは、今度は葉の間から“どくのこな”を噴出する。
「(ど、どうしよう……! ……そうだ!)ポポくん、“かぜおこし”で押し返して!」
ツバキの目論見通り、ポポの起こした強風の前に“どくのこな”は反対方向へと飛散してしまう。
「い、行けそう……! “たいあたり”!」
大きく旋回し、再度の“たいあたり”を試みるが、その速度は見る見る上昇し、先ほどまでとは比較にならないほどとなり、ナゾノクサは直撃を受け、とうとうダウンした。
「今のスピード……! もしかして……!」
ポケモン図鑑を取り出し、登録したポポのデータを見ると、“たいあたり”が“でんこうせっか”へと変化している。
「やった……! 新しい技だねポポくん! って、その前に……えっと……あった! モ、モンスターボール!」
ダウンしたナゾノクサに当たったモンスターボールは、その身体を収納し、ぐらぐらと揺れていたが、スイッチ部分の点灯が消え、捕獲完了を示した。
「……やった……やったよポポくん! 新しい技と新しい仲間が一緒にできちゃった! あ、それにポケモンバトルも初めてできたんだ……!」
早速ボールからナゾノクサを出したツバキは、抱き上げて挨拶をする。
「よろしくね、ナゾノクサ……ナゾ……謎…………ミスティ……うん、ミスティって名前、どう?」
付けられたニックネームに頷きを返すナゾノクサ改めミスティに、ツバキとポポは顔を見合わせて笑い合う。
「……でも……“でんこうせっか”……あれならひょっとして……」
と、何事か考えていたツバキの側で、草むらが揺れ、新たにポケモンが姿を現した。
「っ! ……このポケモンは……!」
ツバキとポポ。旅立ちの直後に挫折を味わった2人だったが、謎の人物からのアドバイスを受け、もう一度自分達なりの挑戦を続ける事を決意する。仲間を増やし、特訓を続け、目指すはクチバジム突破…!
新米トレーナーの、ポケモンリーグへの道程は、始まったばかりである。
つづく
ナゾノクサを描いてみてわかった事は、想像以上に可愛く描くのが難しいという事です…公式絵すげぇ。
第3話ですが、4話として考えていた部分も纏めてしまったので、少し長くなってしまいました。すみません。