蒼天のキズナ   作:劉翼

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ハナダジム戦直前の第39話です!


第39話:穏やかなる水面、ハナダジムへの挑戦

 窓の外から、ポッポやムックルの声が聞こえる。

 

「……ん……あれ……朝……? ……ふあぁ…………お姉ちゃん……?」

 

 部屋の構造を見るに、ポケモンセンターの個室のようだが、ツバキにはポケモンセンターへ来た記憶は無い。

 

「でも、ちゃんとパジャマ着てるし……えっと、昨日は確か……」

 

 ツバキは曖昧な記憶の糸を辿り、昨日の出来事を思い出そうとする。

 

「うん、ファンファンが進化して……確かその時はゲントさんとバトルしてて……その後は……うぅん……?」

 

 辿れる記憶はそこまでだった。

 それもそのはず、ツバキはゲントとのバトルが終わり、イソラとゲントがケンカを始めたのを横目に、ドンファンへと進化したファンファンにもたれたまま眠りに落ちたのだ。

 

「そう、そうだった! ……あれ? じゃあなんでパジャマ…………まさか……」

 

 ツバキは洗濯されていた私服に着替えると、急いでロビーへと向かい、いつものようにコーヒーで一服しているイソラを発見する。

 

「お姉ちゃん!」

 

「ん……ああ、おはようツバキ」

 

「おはよう! ねぇお姉ちゃん、もしかして昨日……」

 

 バッグからパジャマを取り出して指差すと、イソラは大変良い笑顔を見せた。

 

「ああ、着替えさせたぞ!」

 

 そしてツバキは逆に真っ赤になって困惑の表情を浮かべる。

 

「な……ななな……なんでぇ!? 恥ずかしいよぉ……!」

 

「だからとて、汗をかいたままの服で寝かせるわけにもいかないだろう? 風邪や汗疹の元だ」

 

「そ、それはそうだけどぉ……」

 

 ぐうの音も出ないとはこの事であろう。

 イソラからの至極真っ当な正論を受け、ツバキは黙ってしまう。

 

「それに、着替えるだけでは不足だ。身体を拭いたり、シャワーを浴びたり、その後の髪と肌の手入れも必要不可欠」

 

「……え……ま、まさかお姉ちゃん……それ……」

 

「うむ! 全部やったぞ!」

 

 またしても満面の笑みのイソラとは対照的に、ツバキは耳まで真っ赤になり、穴があったら入りたい気分になってしまう。

 

「あうぅ……10歳で……10歳でそんなぁ……」

 

「気にするな、小さい時から一緒に風呂にも入っていたじゃないか」

 

「それとこれとは別なのぉ!」

 

 寝ている間に脱がされ、拭かれ、洗われ、手入れされ、そしてパジャマに着替えさせられるという、赤ん坊もかくやという扱いに、ツバキの顔はほのおタイプと見紛うほどに上気してしまっていた。

 これ以上は恥ずかしさで倒れると判断したツバキは、話題を変える事にした。

 

「そ、そういえばお姉ちゃん、ゲントさんはどうしたの?」

 

「ん? ゲント? ……………………ああ、あいつか。あの男なら、でんきタイプを探しながらイワヤマトンネルを抜けてシオンタウンに行くと言っていたぞ」

 

 ……沈黙の長さと、何かを思い出すような素振りからして、どうも本気で忘れていたようである。

 

「そ、そうなんだ……。ともかく! 今日はハナダジムへ挑戦して、昨日の特訓の成果を見せるよ!」

 

「そうだな。それと、“10まんボルト”を覚えているナオをボックスから連れてくと良いんじゃないか?」

 

「あ、確かに……! ……うぅん………………うん、ごめん、ケーン……しばらくナオと入れ替わりでボックスにいて」

 

 ツバキはケーンの入ったボールを腰から外し、パソコンの横の装置に置いてパソコンを操作する。

 こうして手持ちのケーンがボックスに送られ、替わりにナオが送られてきた。

 

「ナオ、今日はお願いね」

 

 答えるようにナオのボールがカタカタと揺れ、ツバキは頼もしさを感じる。

 

「ナオもやる気十分なようだな。……では、行くか」

 

「うんっ……!」

 

 ツバキは表情を引き締めてポケモンセンターの扉を開け、その姿にかつての自分を重ねたイソラは微笑ましく見守りつつ後に続いた。

 

「(しかしハナダジムか……カスミの奴はどうしているんだろうか。まだあいつがジムリーダーなのか、それとも……)」

 

 2人がハナダジムへ向かって歩いていると、ジムの前を箒で掃除している少女がいた。

 

「~♪」

 

「……あの……」

 

「ひゃいっ!?」

 

 鼻歌を歌いながらの掃除に集中していたのか、ツバキが声をかけると変な声で返事をした。

 

「あっ、すすす、すいません、気が付かず……!」

 

「い、いえいえ! こちらこそ驚かせてごめんなさい!」

 

 ペコペコとお互いに頭を下げ合う様子は、端から見るとかなりおかしい状況だ。

 見かねたイソラが話を進める事にしたようで、1歩前に出る。

 

「……こほん。あー、ジムの関係者の方ですか?」

 

「あ……は、はい……そうですけど……もしかして……?」

 

「えと……ジム戦をお願いしたいんですけど……」

 

 ツバキが挑戦者である旨を伝えると、少女は驚いてひっくり返りそうになったが、イソラが腕を掴んで持ちこたえる。

 

「す、すいません……で、では中へどどどうぞ……!」

 

 ぎこちなく案内する少女に続いてジムの中に入ると、黒眼鏡をかけた男性が書類の整理をしていた。

 

「……ん? ああ、ルイさ……また掃除なんてしていたんですか?」

 

 男性に詰め寄られ、ルイと呼ばれた少女が縮こまる。

 

「は、はい……。あ、あのクロタさん! ちょ、挑戦者の方だそうです!」

 

「……ほう」

 

 クロタと呼ばれた男性が書類をファイルへと閉じ、ツバキ達に近付いてきた。

 

「ようこそチャレンジャー、ハナダジムへ。クロタと申します」

 

 物腰は柔らかいが、その身から放たれる気配はただ者ではない。

 

「はじめまして、イソラです」

 

「グ、グレンタウンから来ましたツバキです! あ、あの……ジムリーダーさんですか?」

 

「……いえ、ジムリーダーは……」

 

 ツバキの問いかけに対してクロタが首を横に振り、ツバキ達の隣を指差す。

 

「そこのルイさんです」

 

「……え?」

 

 ツバキが目を見開き、イソラもいかにも強者な雰囲気を纏うクロタをジムリーダーと思っていたため、呆気に取られてしまった。

 

「ど、どうも……ハナダジムリーダーのルイ……です……! ……あの、クロタさん……やっぱりボクよりクロタさんが……」

 

「またそんな……もっと自信を持ってください。カスミさんの期待を裏切るのですか?」

 

「うっ……わ、わかりました……準備してきます」

 

 ツバキ達に頭を下げて奥の部屋へ入っていくルイの背中を見送り、クロタが溜め息を漏らす。

 

「……実は彼女、今日がジムリーダー就任後初のジム戦なのですよ」

 

「……なるほど、それであんなに……」

 

「元々はジムトレーナーとして働いていましたが、先代ジムリーダーであるカスミさんの推薦を受け、試験も見事パスして正式にジムリーダーに就任していますので、実力は本物なのです。ただ、気が弱い上に自己評価が非常に低いのが欠点でしてね」

 

「(要するにツバキと同じタイプか……)」

 

 イソラはツバキに視線を向け、妙に納得した表情を見せる。

 

「これまでもチャレンジャーはいたのですが、獣のような嗅覚で察知してその都度逃げ出してしまい、やむなく私が代理を務めていた有り様でして。ま、今日はあなた方と鉢合わせして、逃げようにも逃げられなかったようですが」

 

「……初ジム戦ってそういう意味ですか……」

 

 どうやら臆病さという点ではかつてのツバキ以上という、困った人物らしい。

 その時、扉の隙間からルイが顔を出して手招きをしてきた。

 

「じゅ、準備できましたので……ど、どうぞ……」

 

 クロタを含む3人が部屋へ入ると、そこはバトルフィールド……なのだが、さすがはみずタイプのジムと言うべきか、周囲をプールで囲われた、円形のフィールドとなっている。

 

「まさにみずの試練とでも言ったところか」

 

「いつものジム戦ほど自由には動けないね……」

 

 ツバキの考える通り、ほぼ部屋全体を縦横無尽に駆け回る事のできたこれまでのジム戦と比較して、ポケモンの動きにはかなりの制限がかけられそうだ。

 それは何も陸上系のポケモンに限らず、空を飛べるポケモンも相手の攻撃によって水中へ落下するリスクを考えねばならない。

 

「え、えっと……挑戦者は確か……」

 

「あ、わたし、ツバキです」

 

 ツバキが名乗り出て1歩前へ踏み出す。

 

「で、では……バッジはいくつですか?」

 

「4つです」

 

「4つ……じゃ、じゃあトレーナーレベル5ですね……3対3のバトルで、バ、バトル中の入れ替えはツバキさんのみ可能です。そ、そして……」

 

 ルイが端末を操作し、天井から10個のモンスターボールが乗った台座が下りてきた。

 

「こ、この中からツバキさんがボールを3つ選び、その3体が今回のジム戦でのボクの手持ちになります」

 

「10体はまったく同じタイプ構成のポケモンはおらず、得意戦術もバラバラです。自分のポケモンが有利に立ち回れる相手を引き当てられるか否か……運も実力の内という言葉を具現化した形式です」

 

 ルイの説明をクロタが補足する。

 しかし、これはルイ側からすれば、挑戦者の選択に依存する即席パーティでのバトルとなり、その都度異なる戦術構築が必要となる事を意味する。

 つまり、ルイはそれが十分に可能な力量を持つトレーナーである事を、この形式そのものが裏付けていると言えるだろう。

 ツバキは10個のボールを凝視するが、当然中身が見えるわけでもなく、結局は直感で選ぶ事になる。

 

「……うぅん…………………………これと、これと…………あとは……これ! この3体にします!」

 

 選んだ3つのボールを渡すと、ルイはそれをたどたどしく受け取り、腰のベルトへと装着する。

 ビクビクした態度は変わらないものの、その目付きは大きく変化しており、選択された3体による戦術パターンを頭の中で組み上げているようだ。

 

「(……この顔……すでにかなりの数の戦術を構築し、凄まじい速度で脳内模擬戦をしているな)……ツバキ、気を付けろ。……強いぞ」

 

「お姉ちゃん……うん……!」

 

 そして両者がフィールドを挟んで向かい立ち、いよいよバトル開始の秒読みに入る。

 

「審判はこのクロタが務めさせていただきます。今回のジム戦は3対3のシングルバトル。バトル中のポケモン交代は、チャレンジャーのみ許可されます。よろしいですね?」

 

「はいっ!」

 

「は、はいぃっ……! ……で、では……ハナダジムリーダー・ルイ……! い、行きますぅぅーーっ!!」

 

――――ジムリーダーのルイが勝負を仕掛けてきた!

 

 

【挿絵表示】

 

 

「それでは、まずジムリーダーからポケモンを」

 

 クロタに促されたルイが腰のボールに手を伸ばし、迷い無く1つ目を手に取る。

 

「お、お、お願いします……ハスブレロぉっ!」

 

 へなへなと投げられたボールから飛び出したのは、頭にハスの葉のような皿を持つ、ようきポケモンの『ハスブレロ』だ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「(ハスブレロ……みずとくさの複合タイプか……厄介だな。本来対みずとして機能する、くさとでんき技の威力が抑えられてしまう上、粉系の技が効かないので状態異常にしにくい)」

 

 観客席に座ったイソラが冷静に相手の分析を始め、ツバキもまたポケモン図鑑でそのタイプ構成に悩む。

 

「(このタイプだと、ミスティもナオも全力は出せない……でも、くさタイプを持ってるなら……!)……出番だよ、ポポくん!」

 

 ツバキが投げたボールから、翼を広げてポポが飛び出した。

 前回のヤマブキジム戦に続いて先鋒としての抜擢だ。

 

「(ポポか……確かにくさタイプ相手なら、ひこうタイプのポポは有利だ。だが……)」

 

 ホバリングしてフィールドを見下ろすポポと、それを見上げるハスブレロ……両者は今にもぶつかり合いを始めそうな、一触即発状態だ。

 それを制するように上げられたクロタの右腕に、誰もが注目する。

 

「それでは、ジムリーダー・ルイと、チャレンジャー・ツバキによるジム戦を始める。ハスブレロ対ピジョン……バトル…………開始っ!」

 

 そして、その右腕が振り下ろされると共に、2人のトレーナーが同時に声を上げた。

 

 

 

つづく




今回も駄文へのお付き合い、ありがとうございました!

イソラがシスコン通り越して変態になりつつある気がする。

ルイの服装は、ORASのピクニックガールをモチーフにしています。
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