ハナダジムリーダー・ルイから、それぞれポケモンのタマゴを託されたツバキとイソラは、タマゴが冷えてしまわないように気を付けつつ、おつきみ山を目指して4番道路を進んでいた。
「ポケモンのタマゴはそこそこ頑丈だが、衝撃を与えないに越した事は無い。こうして身体の前に両腕でしっかり持つんだ」
「こ、こう?」
ツバキと向かい合って座り、イソラがゆっくり手順を説明しつつタマゴを抱き、ツバキがそれを真似する。
ツバキがルイに譲られたタマゴの扱いを学んでいる最中なのだ。
「立ち上がる時は前傾姿勢になりがちなので、タマゴの抱き方もこうやって前をカバーできる形にする事。それか、安定させられる場所に一旦置いてから立ち上がり、後から持ち上げても良い」
「お、落とさないように前をカバーして……わわっ……!」
言われた通りにタマゴを持って立ち上がろうとするが、これがなかなか難しい。
ただでさえ物を持ったまま立ち上がるというのは難しいのに、タマゴは時々動くのだから無理も無い。
「そうやってタマゴが動くので、斜面の側などに置くと転がる危険があるからな、絶対にやってはいけないぞ」
「はーい」
何度か試す内に、だんだんとコツが掴めてきたツバキは、ようやく立ち上がる事に成功した。
「よし、その感じを忘れるなよ」
「う、うん……!」
イソラも立ち上がるが、さすがに慣れているようであり、身体とタマゴの重心バランスを取るのもお手の物だ。
「さて、ではおつきみ山に向かうか。運が良ければピッピが見れるかもな」
「ピッピ……!? 本で読んだ事ある! 可愛いようせいポケモンだよね……! 会いたいなぁ……」
ようせいポケモン『ピッピ』。
そのマスコットのような愛くるしい姿から人気が高い一方でめったに人前に姿を現さないが、昔からおつきみ山では何度か目撃例があるのだ。
「ま、こればかりは運だがな。さぁ、行くぞ」
2人は並んでおつきみ山への道を進む……が、なにやらおつきみ山入り口付近に人だかりができている。
「うん……?」
「なんだろう……?」
顔を見合わせた2人は、手近な人に聞いてみる事にした。
「ああ、なんでも崩落事故だってよ。1週間だったか2週間だったか忘れたが、そんくらい前にもあったんだけどなぁ」
「むぅ……崩落か……」
「幸い、人やポケモンは巻き込まれなかったんだが、通行止めなんだってさ」
イソラが背伸びをして入り口を見てみると、複数の重機が絶賛稼働しており、作業員も忙しそうに走り回っている。
「……これでは通過はできないか…………ん?」
と、そこでイソラは野次馬の前列辺りにいる人物の後ろ姿に目を止める。
「あの後ろ姿……もしかして……?」
「お姉ちゃん?」
「ツバキ、少しここで待っていてくれ」
イソラは人混みを掻き分け、その人物へと近付いていく。
「スカーレット?」
そう呼びかけられた人物は、緩慢な動作で振り向き、眠そうな目でじっとイソラを観察している。
「………………イソラ?」
少しすると、イソラがその人物と共にツバキの元へ戻ってきた。
「待たせたなツバキ。知り合いらしき後ろ姿を見つけたのでな。紹介しよう、シンオウ地方のポケモントレーナー・スカーレットだ」
スカーレットと紹介された女性が、じっとツバキを眺める。
「………………よろしく。スカーレット。ワタシ」
「よ、よろしくお願いします、ツバキです!」
改めて見るとまるでファンタジー世界の魔法使いのような格好をしているが、なにより目を引くのが、その名が体を表したかのような真っ赤な髪と瞳である。
……もっとも、髪……特に前髪はあまり手入れをしないのかボサボサだが。
「………………ツバキ」
「はわっ!?」
と、いきなりスカーレットが両手でツバキの両頬に触れ、軽くつまんだり撫でたりし始めた。
「……おい、ツバキはデリケートなんだから、そのくらいにしてくれ」
「………………柔らかい。気に入った。ワタシ」
ひとしきりぷにぷにし終えると、スカーレットは満足げな表情を浮かべ、ツバキの頭を撫でる。
「ごめん。いきなり」
「い、いえ……」
とは言ったものの、突然の事でツバキの頬は上気して赤くなってしまっていた。
「すまんなツバキ……スカーレットの癖なんだ。なんでも、肌に触れる事で相手の内面までわかるそうだ」
イソラのフォローにスカーレットが頷く。
「………………清らか。まっすぐ。……ちょっと臆病。……でも……芯、強い。ツバキの心」
「……ほう、正確だな……本当にそれでわかるのか……」
眉唾程度に聞いていた話だが、ツバキの性格をピタリ言い当てるスカーレットに、イソラも驚きを隠せないようだ。
「……しかし、一昨年下期のイッシュリーグ以来か。カントーに来てたとはな」
「来た事無かった。カントー。ピッピ捕まえに来た。おつきみ山。そして参加する。ポケモンリーグ……!」
めらめらと燃えている……らしいスカーレットは、ビシッとイソラを指差す。
「つける。決着! ポケモンリーグ!」
「……あー……気合いを入れてるところ悪いんだが、今回のトージョウリーグは私は参加しないんだ。今回はこの子の応援でな」
しばらくそのままの姿勢だったスカーレットが、がくりとうなだれる。
「………………残念……」
あまりの落胆ぶりにツバキが慌てて話を逸らそうとする。
「え、えと、あの……お、お姉ちゃん、スカーレットさんとは何度もバトルしたの?」
「ああ。最初にシンオウリーグでバトルして、その後ホウエン、またシンオウで、次がイッシュだったか」
「2勝2敗。ライバル」
そう言って頷き合っているが、ツバキが驚いたのはあのイソラ相手に2勝をもぎ取っているという点だ。
ポケモンリーグに何度も参加している辺りからも、相当な強者である事が窺える。
「す、すごい……強いんですねスカーレットさんって……!」
「ああ、強いぞ。普段はボーッとしてて強そうには見えないが、一度バトルとなれば、どんな状況でも失わない冷静さと判断力、決断力。そしてパワーを重視した戦術で圧倒的な実力を見せつけてくれる。その道では『
「………………可愛くない。その名前。プリティ・オーガとかの方が良い」
「(
どうにもこのスカーレットという人物、センスが色々とズレているようである。
ツバキがスカーレットの発言に首を傾げていると、彼女はおもむろにモンスターボールを取り出した。
「………………イソラ」
「む…………ふっ、良いだろう」
するとイソラもボールを取り、向かい合った2人はボールを持った腕を伸ばしてカチンと軽くボールをぶつけると、距離を取り始めた。
「ツバキ、少し離れていなさい」
「………………危ないよ」
……2人の行動と言動を見るに、どうやらバトルをするらしいので、ツバキは言われた通りにそろりそろりと後ろへと下がる。
「(言わなくても何をするか通じる……この2人、本当にライバルなんだ……!)」
しばし睨み合った2人は、示し合わせたかのように同時にボールを投げた。
「行けっ、メガヤンマ!」
「ミミロップ」
イソラが繰り出すは、長い胴をしならせて6枚の羽から羽音と衝撃波を撒き散らすオニトンボポケモン『メガヤンマ』。
対するスカーレットのポケモンは、もふもふとした毛に覆われた長い耳を持つうさぎポケモン『ミミロップ』だ。
「じゃ、じゃあわたしが審判するね。メガヤンマ対ミミロップのバトル……スタート!」
「“れいとうパンチ”」
「“みきり”!」
先手を打ったミミロップが、驚異的な脚力で一気に距離を詰めて冷気で覆われた拳を突き出すが、メガヤンマは身体で円を描くように動いてそれを回避する。
そのままミミロップと最初の立ち位置を入れ替わるように移動したメガヤンマだが、先ほどよりも動きが素早く見える。
「………………《かそく》」
特性《かそく》。
バトル中に少しずつ自身の素早さを引き上げていく特性であり、放っておくと手の付けられない速度になる事も多い。
「今度はこちらから行くぞ。“エアスラッシュ”!」
メガヤンマが尻尾の部分を除いた2対4枚の羽を羽ばたかせて強風を巻き起こし、ヒュンヒュンという風切り音と共に空気の刃がミミロップを襲った。
「“れいとうパンチ”。地面」
対してミミロップは、冷気纏う拳を地面に打ち付けてそこから巨大な氷の壁を発生させ、“エアスラッシュ”を受け止める。
「“なかまづくり”」
そして、氷の壁の後ろから跳び跳ねたミミロップは、メガヤンマの手(?)を握ると、まるで友人のようにブンブンと腕を上下させてメガヤンマを困惑させる。
「(むぅっ……! “なかまづくり”は相手の特性を自分の物と同じに変える技……! 《ぶきよう》か《メロメロボディ》かわからんが、どちらにしても《かそく》は潰されたか……!)」
それはつまり、もうメガヤンマの速度向上が望めない事を意味し、相手のミミロップもかなりの素早さを持つ以上、速度を上げて優位に立つという当初の戦術が破綻したという事。
「ならば攻めるまで! “むしのさざめき”!」
メガヤンマが6枚の羽を激しく振動させて強烈な音波を発する。
音による攻撃であるため、先ほどのように氷の壁を作っても防ぐ事はできない。
大きな耳を持つミミロップには人より鮮明に聞こえているのか、かなりのダメージが入っているようだ。
もっとも、ツバキにとっては両者の技が半分以上出揃って初めてダメージが入るというこのバトル自体が驚きの連続だが。
「“おんがえし”」
「“はがねのつばさ”!」
スカーレットを一瞥して気合いを入れたミミロップの拳と、鋼鉄のように硬質化したメガヤンマの羽が激突し、周囲に衝撃波を拡散させる。
そんな激突を空中で4回、5回と繰り返し、両者はそれぞれのトレーナーの前へと降り立つ。
「す……すごい……」
すぐに中断されたアクイラ戦を除けば、強者同士のバトルを第三者の目で見る機会はこれが初めてだ。
「(こ、これが……「強い」って事なんだ……!)」
まさにレベルが違うバトル。
自身の憧れたイソラの強さそのものを表すこのバトルに、ツバキは得体の知れない感動を覚えていた。
「“エアスラッシュ”!」
「“れいとうパンチ”」
再び放たれた空気の刃に対し、ミミロップは冷気を纏うどころか、空気中の水分を凍結させて巨大な氷塊のグローブを作り出し、ジャブを繰り返して“エアスラッシュ”を受け止めながら突き進む。
「“みきり”!」
メガヤンマに接近して巨大な氷を振りかぶったミミロップだったが、その重量が災いしてわずかに動きが鈍り、メガヤンマの“みきり”で回避されてしまった。
が、地面に叩き付けられた氷のグローブが砕け散り、その破片がメガヤンマを襲った。
「“おんがえし”」
大きめの破片を踏み台に、ミミロップが空中のメガヤンマへと迫り、拳を振りかぶる。
「(この距離と速度……“エアスラッシュ”と“むしのさざめき”は間に合わん……!)“はがねのつばさ”!」
両者の技は再度空中でぶつかり合い、一際大きな衝撃波がツバキにまで届いた。
度重なる衝突とダメージで体力を使い果たした2体は、揃って地上へと落下してしまった。
「……メ、メガヤンマもミミロップも戦闘不能みたいです! 引き分け!」
ツバキが2体を撫でていると、それぞれのトレーナーが駆け寄って自分のポケモンを抱き起こした。
「……よくやった、メガヤンマ。良いバトルだったぞ」
「………………頑張った。ミミロップ。すっごい頑張った」
そして2体をボールに戻すと、どちらからともなく手を伸ばして握手をした。
「やはり私達の再会にはバトルが相応しいな」
「見れる。互いの成長。ワタシ達らしい」
その様子からも、2人がこれまで幾度も戦い、競い、認め合ってきた事がわかる。
「……さて、待たせたなツバキ。どうにもこいつと会うとバトルせずにはいられなくてな」
「闘争本能。トレーナーとしての」
「うぅん、すっごいバトルでわたしびっくりしちゃった! わたしもいつか、あれくらい強くなれるかな!?」
目をキラキラと輝かせるツバキに2人は顔を見合わせて微笑み、同時に答えた。
「「もちろん」」
その後、おつきみ山を通過できないという事でルートを改めて考える必要が出てきたので、同じくニビシティを目指すスカーレットも交えてタウンマップを見ながらの話し合いが始まった。
「私のポケモンで空を飛んでニビシティに直行しても良いんだが、ツバキはできるだけ色んなポケモンに会いながら進みたいんだったな」
「うん。だから、歩いて行けるルートがあれば良いんだけど……」
その時、もぐもぐとおにぎりを食べていたスカーレットがタウンマップを指差した。
「………………ふぃふはほはは」
「飲み込んでから喋れ」
イソラのツッコミに喉を鳴らしたスカーレットが改めて口を開く。
「………………ディグダの穴」
「ふむ、なるほど……確かにこれなら徒歩でも行けるか」
「ディグダの穴?」
ツバキが首を傾げると、イソラがマップの該当部分を拡大してツバキに見せた。
「クチバシティから11番道路へ向かう途中、洞穴があっただろう? それがディグダの穴だ。もぐらポケモンの『ディグダ』と『ダグトリオ』が開通させた地下通路らしい」
「行ける。クチバシティからニビシティ」
「へぇ……! やっぱりポケモンの力ってすごい!」
「ふふっ、そうだな。そうなるとハナダシティ南からヤマブキシティを経由してクチバシティへ行くのが最短ルートか」
わかりやすいように指でツツツとルートをなぞると、ツバキとスカーレットが頷いた。
「よし……それではこのルートで行くか。スカーレットも行くだろう?」
「………………行く。同じ。目的地」
「よろしくお願いします、スカーレットさん! ポケモンや他の地方の事、教えてください!」
スカーレットは頷きながらツバキの頬に触れる。
「……あ、あの……」
「………………柔らかい。落ち着く」
「……おい、私のツバキだぞ。ほどほどにしろ…………聞いているのか!? おい、スカーレット!」
「………………ぷにぷに……♪」
イソラの声が聞こえているのかいないのか、スカーレットはツバキの頬をつまみ続け、ツバキは動こうにも動けない。
こうして実力は確かながら色々と奇異な旅の道連れを加えたツバキ達は、南へ向けて進む事になったのだった。
つづく
はい、今回も駄文雑文落書きにお付き合いいただきありがとうございました!
改めての説明になりますが、この世界観では半年ごとにリーグが開催されるため、上期と下期に分かれております。
開催時期が被らない地方もあるため、やろうと思えば地方Aのリーグを終えた直後に地方Bのリーグに参加もできます。(無論、バッジは集める必要あり)