おつきみ山を通ってニビシティへ向かうべく4番道路を進むツバキとイソラだったが、おつきみ山は崩落事故であいにくの通行止め。
道中、イソラのライバルであるスカーレットと出会い、目的地が同じという事でしばし一緒に行動する事になった一行は、ディグダの穴を通ってニビシティへ行くため、ハナダシティへ戻りそこからヤマブキシティ、そしてクチバシティを目指す事になった。
「このゲートの先がヤマブキシティだな」
「前はシオンタウンからイワヤマトンネル、ハナダシティの順番だったけど、直行するとこんなに近いんだね」
ハナダシティとヤマブキシティを結ぶゲート内を通過しながら、ツバキ達はとりとめも無い会話をしている。
「だな。しかしスカーレット、よくディグダの穴の事を知っていたな」
「………………ん」
と、イソラの言葉に対して、スカーレットはなにやら本を取り出して見せてきた。
「うん? ……『カントー地方を一生楽しむガイドブック』?」
「たくさん載ってる。名所。勉強した」
「さ、さすが凄腕トレーナーさん……勉強熱心なんですね。やっぱりリーグ参加のために効率的なジムの回り方とか考えるんですか?」
「…………えー…………あー……」
しかし、スカーレットはツバキの質問に視線を泳がせてしまう。
「……クチバビーチ、おつきみ山、ニビ博物館……観光名所にばかり印が付けてあるようだが? お前絶対半分くらい観光旅行気分だっただろう」
タマゴを器用に片手で持ちながらガイドブックに目を通していたイソラが、印の付いたページを開いてジト目で突き付ける。
「………………ぷにぷに。ツバキ」
「話を逸らすな!」
そんなじゃれ合いをしている内に、一行はヤマブキシティへと到着する。
「この前来たばっかりなのに、なんだか久しぶりな気がするなぁ、ヤマブキシティ……」
「……まぁ、色々あったからな……」
「アケビさんに会ったり、イワヤマトンネルでイワークに追いかけられたり、発電所でロケット団と戦ったり……」
ツバキとイソラが思い出に浸りながら歩いていると、スカーレットが顔をしかめる。
「………………嫌い。ロケット団」
「えっ……もしかして見た事あるんですか……?」
「盗られそうになった。ポケモン。この前」
まさかの被害報告にツバキもイソラも驚いてスカーレットを振り向いた。
「えぇっ!? だ、大丈夫だったんですか!?」
「うん。叩きのめした。怒ったから」
「……まぁ、そうなるな……」
「こいつなら大抵の事態は単独でどうにかできる」という一種の信頼を抱いているイソラはうんうんと頷く。
「でも、逃げられた。強いの来た。ドサイドン使う」
「ドサイドンだと……? ……ロケット団のドサイドン……」
イソラの脳裏に浮かんだのは、発電所での戦いでウィルゴを回収していったあのドサイドンだ。
「(だが、ウィルゴ……ベラはどくタイプを専門とするトレーナー……奴とは別のトレーナーがいるという事か……)」
「お姉ちゃん、どうしたの?」
「いや……確かベラの奴は自分で三凶星と名乗った。つまり、奴を除いてあと2人……恐らくはあのアクイラというのも実力的にその1人だろう。そして残りの1人がスカーレットの出会った奴と考えて良いんじゃないか」
「あ、あんな強い人が他に2人も……」
ツバキが思い出したのは、ドラピオン単騎でロクに消耗も無く自身の手持ちを壊滅させた、ベラの恐ろしいまでの強さ。
そのクラスの実力者3人が悪の組織に加わっているという事実は、ツバキに大きな衝撃を与えた。
「ベラがどくタイプ専門、私が戦ったアクイラはヘルガー、ドンカラス、バルジーナという構成からあくタイプ専門だろう。となると、スカーレットが遭遇した奴も何かしらのエキスパート……ドサイドンを使うという事は、いわタイプかじめんタイプの使い手の可能性が高いか……」
「強かった。勝つ。次は」
「次など無い方が良いんだが……万が一遭遇してしまったらそうも言ってられんからな。何か企んでいるようだし、どこに現れるかわからん」
イソラは眉をひそめて真剣な面持ちであれこれ考えているようだが、そうこうしている内に一行はヤマブキシティを通過し、クチバシティへ続く6番道路へ踏み込んでいた。
「うぅ……お姉ちゃんやスカーレットさんくらい強ければ良いけど、もしわたしが会っちゃったらどうしよう……」
「大丈夫、今度こそ絶対に守って見せるさ。お前のためなら3人同時にだって戦って勝つ!」
イソラがグッと拳を握り、闘志を燃やす。
実際、ツバキのピンチとなればそのくらいはやりかねないのがこの人物の恐ろしいところだ。
「………………潮の香り……」
イソラが燃えていると、スカーレットが鼻をヒクヒクさせてポツリと呟いた。
「うん? ……おお、もうクチバシティに入っていたか。ついつい話に夢中になってしまったな」
「そうだね、お姉ちゃん。……でも、クチバシティも懐かしいような気がする……マチスさん元気かな」
「ははっ、なんだツバキ、ずいぶんとマチスさんを気に入っているようだな?」
イソラがからかうような口調で言うと、ツバキは頬をほんのりと赤く染める。
「うん……だってマチスさんはわたしの初めての(ジム戦の)相手だから……」
「!?」
「……?」
イソラの表情が固まり、スカーレットは頭の上に「?」を浮かべている。
「マチスさんてとっても優しくて(励ましてもらった的な意味で)、(人物の器が)大きいし……。最初は緊張したけど、(頭を撫でてもらうの)気持ちよかったし……あぁ、でも今思うとあんなお願いはしたなかったかなぁ……あぅぅ……」
イソラや家族以外に撫でてもらう事を要求したのが恥ずかしくなり、ツバキはますます赤くなる。
それに比例してイソラの顔は真っ青になり、眉をピクピクと震わせている。
そしてタマゴをスカーレットに押し付けると、両手でガシッとツバキの肩を掴んだ。
「ツ……ツツツツバキ……おおお怒らないから、ちょ、ちょっとお姉ちゃんに詳しく話しなさい……!」
「え……え? う、うん……?」
「なんだ、そういう事か……私はてっきりツバキが大人の階段を上ってしまったかと思って、あやうくマチスさんを○しに行くところだったぞ……」
「階段?」
「知らなくて良い。ツバキまだ。イソラの悪い癖」
安堵の表情のイソラ、キョトンとしたツバキ、そして呆れ顔のスカーレットは、気を取り直してクチバシティを進んでディグダの穴を目指す。
「………………ここ」
一行は11番道路へ入ってすぐの所にある洞穴の入り口に到着し、足を踏み入れる。
「ふわぁ……これ、本当にポケモンが掘ったんだぁ……!」
洞穴内部は高さも幅も人が十分に通れるほどになっており、とても小柄なポケモンが開通させたとは思えない規模である。
「ここまでの規模にするには、いったいどれだけの数のディグダ・ダグトリオが、どれだけの時間をかけたのだろうな……まったく、ポケモンとはすごい生き物だよ」
「神秘。自然と生命」
その時、ツバキ達の前の地面が盛り上がり、ポケモンが飛び出してきた。
黒い身体に鋭い爪の……。
「……この子がディグダ?」
「いや、これは『モグリュー』だな。もぐらポケモンには違いないが、種族が違う」
ツバキがしゃがんで手を伸ばしていると、続々とモグリューが地面から這い出てきたではないか。
「………………来た。いっぱい」
すると、その背後の地面も盛り上がり、別のポケモンがポコポコと湧き出てきた。
「あれだ、あれがディグダだ。ダグトリオもいるな」
「……もぐら……なんかモグリューの方がわたしのイメージのもぐらに近いような……」
そんな事を話していると、突然ディグダ達とモグリュー達が睨み合いからの乱闘を始めてしまった。
「わわわっ……!? な、何!? 何!?」
「……まずいな、完全に興奮状態だ。こんな数のディグダ達が乱闘などしては、地盤が穴だらけになってしまうし、洞穴も崩れかねん。……ペリッパー!」
イソラが投げたボールからみずどりポケモン『ペリッパー』が飛び出すと同時に、天井付近に雨雲が現れた。
ペリッパーの特性《あめふらし》だ。
本来ならば洞穴内ではありえない突然の雨に、ディグダ達もモグリュー達も面食らい、文字通り頭を冷やしたようである。
「落ち着けお前達。お前達が暴れたら大変な事になるんだ」
イソラが身振り手振りでなだめると、ディグダ達とモグリュー達が口々に鳴き始めた。
……が、当然言ってる事などわからない。
「むうぅ……」
「………………任せて。ワタシに」
「えっ、スカーレットさんポケモンの言葉がわかるんですか!?」
「わかんない。だからわかるようにする。……オーベム」
スカーレットがボールを取り出し、中から宇宙人のようなポケモンが姿を現した。
ブレインポケモンの『オーベム』だ。
「お願い。オーベム。教えて。この子達の言いたい事」
そう言うと自身はオーベムの右手を握り、モグリューには左手を握らせた。
「……そうか、《テレパシー》か! バトルでは味方と心を通じ合わせて全体攻撃での安全な箇所を教えてもらい、自分は被害を受けないようにする特性だが、こんな使い方もあるか」
感心するイソラをよそに、目を閉じたスカーレットがポツリポツリと語り出した。
「……来た。他の場所から。……無かった。他に住める所。お願いした。住ませてほしい。断られた。ディグダ達に」
次いでオーベムの左手をディグダの頭に置いた。
「……作った。自分達で。かけた。たくさんの時間。ここはワタシ達の場所」
「……なるほど、つまりこれは縄張り争いか……。モグリュー達としては生活に適した場所が無いので居候させてほしいが、ディグダ達としては気の遠くなる時間をかけ開拓した自分達だけの楽園に余所者は入れたくないと……」
「うぅ……どっちの言いたい事もわかるような……」
イソラは顎に手を添え、ツバキはディグダとモグリューを交互に見てアワアワしている。
「本来は自然界に人間が干渉するのは好ましくないが、このままケンカを続けられては周辺にも影響が出てしまう。どうにかしてやりたいが……」
「…………………どっちももぐら。似てる。場所の好み」
うーんと考え込むばかりのイソラ達に、1度落ち着いたディグダ達のイライラも再度募り始めた。
「まぁまぁ、お前達もこの洞穴が崩れるのは困るだろう? もう少し待ってくれ」
イソラとスカーレットがなだめる中、ツバキが何かを思いついたらしい。
「……あっ、そうだ! ポケモン図鑑に何かヒントがあるかも……!」
そう言うとツバキはポケモン図鑑を取り出し、ディグダやモグリューのデータを確認し始める。
「………………お姉ちゃん! これ見て!」
「うん? ……ふむ……」
「………………何?」
ツバキの見せた図鑑を、イソラとスカーレットが覗き込む。
「さっきスカーレットさんは場所の好みが似てるって言いました。でも、似てるだけでまったく同じじゃないなら……それに食べ物とかの好みも住み分けに使えるんじゃないかなって」
ツバキはそう言って、指先で地面に図を描き始めた。
「ディグダ達の食べ物は木の根っこが多いみたいで、どちらかと言うと浅い所に住むんです。それに対してモグリューと進化系のドリュウズは雑食で、地面の中の虫とかでも食べちゃえるのでわりと深い所にも住めるみたいです。だから……」
話しながらもツバキは図を描き進め、どんどん広げていく。
「今わたし達のいるこのディグダの穴はそのままディグダ達の物。モグリュー達には、少し深い所を新しく掘って住んでもらうんです。……もちろん一から掘るので手間も時間もかかりますけど……」
「ふむ……だが、モグリュー達の気に入っている土質はこことそう変わらんはずだし、深度で住み分けるなら餌の奪い合いになる事もほぼ無いだろう」
つまり、モグリュー達には今3つの選択肢がある事になる。
当ては無いが他を探すか。
このままディグダ達と不毛な争いを続けるか。
苦労をして新天地を作るか。
スカーレットがオーベムを介してモグリュー達に伝えると、彼らはなにやらひそひそと話し始めた。
「まぁ、モグリューがカントーに来たのは人間のせいでもあるが……それでもディグダ達の作った聖地に苦労無く転がり込むのは少しムシが良すぎる……と、私は思うぞ」
しばらく話していたモグリュー達の代表らしき個体が、オーベム越しにスカーレットに意思を伝えてきた。
「………………乗った。ツバキの案。確かに図々しかった。反省。……ディグダは?」
ディグダ達の代表がオーベムに触れる。
「………………侵さない。自分達の縄張り。約束するなら許す」
その言葉にモグリューが頷くと、ディグダ達はしばらく考え、顔を見合わせた後、地面に引っ込んでいった。
「……どうやらとりあえずは納得してくれたか……だが、この先どうなるかはモグリュー達次第だ。……あまりディグダ達を刺激しないように頼むぞ?」
イソラが頭を撫でると、モグリューはツバキ達に頭を下げてから地面へと潜っていった。
と、モグリューの消えた穴から黄緑色の石が飛び出してきた。
「……? お姉ちゃん、これ……」
「ほう、雷の石か。……どうやらモグリューからの礼らしいぞツバキ」
「え……で、でもまだ絶対解決するって決まったわけじゃ……」
「厚意受け取らない。失礼」
躊躇っていたツバキだが、イソラとスカーレットに勧められ、ようやく受け取る気になったようだ。
「……モグリュー! ありがとうー! 大事にするからねー!」
ツバキはしゃがみ込むとモグリューの掘った穴に向かって感謝の言葉を叫んだ。
礼に礼を返す形だが、ツバキらしいと言えばツバキらしいだろう。
こうしてディグダとモグリューの争いを、とりあえずの形とはいえ止める事に成功したツバキ達は、ニビシティへの歩みを再開する。
この先、ディグダ達とモグリュー達が上手く住み分けできるか否か……それは誰にもわからない……。
つづく
今回も駄文雑文落書きにお付き合いいただきましてありがとうございました!
ディグダの地面の下の姿が気になってもう何年になるだろう……。