蒼天のキズナ   作:劉翼

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博物館でのお勉強を終え、ジム戦に向けた特訓……をするはずだった第46話です!


第46話:姫騎士推参

 ニビ科学博物館で科学、そしてポケモンの様々な知識を心行くまで堪能したツバキ達3人は、ついつい遅くまで話し込んでしまい、翌日は揃って昼過ぎに目を覚ます事になってしまった。

 

「……ふあ…………あふっ……お姉ちゃん、スカーレットさんおはよ~……」

 

「……んむ……おはようツバキ……」

 

「………………zzz……」

 

 ツバキはタマゴを抱き締めながら、肩にポポを乗せてゆらゆらと歩く。額にはクチバシの跡が残っており、ポポが黙っていられないほど寝ぼけていたようだ。

 イソラはイソラでテーブルに置かれたコーヒーカップの前でボーッとしており、スカーレットに至っては寝たまま歩いている。

 

「……んくっ…………ふぅ……昨夜はつい遅くまで語ってしまったな……」

 

 お気に入りのグランブルマウンテンを飲み干しながらも、まだまだ眠そうである。

 

「それくらい博物館がすごかったからね~…………はふぅ……ポポくん、スカーレットさんも起こしてあげて……」

 

 バサバサと羽ばたいたポポはスカーレットの前でホバリングし、その額を目掛けてクチバシを突き出した。

 

「っっっ!! ~~~~っ! ○¥◇∞>!!」

 

 どうやらバッチリ目が覚めたようだ。元気にポケモンセンターの床を転げ回っている。

 

「………………なんて事させる。ツバキ」

 

「ん~……ごめんなさ……ふあぁ~……あふぅ…………」

 

 ……ツバキの額にもう1つクチバシの跡が増える事となった。

 

 

 

「……やっと頭がはっきりしてきたな、やれやれ……」

 

「……わたしは頭がズキズキするよ……」

 

「……ワタシも……」

 

 イソラが身体を伸ばし、残り2人が額をさすりながら、ニビシティ東の3番道路を進む。

 目的は、ニビジム攻略のための特訓で、今回はスカーレットとのバトルだ。

 

「しかし、ツバキが自発的にスカーレットとバトルしたいと言うとは思わなかったな。以前までのお前なら、腰が引けていただろうに」

 

「うん。でも、昨日博物館でルギアの絵を見た時、思ったの。いつかあの伝説のポケモンに会おう! ……っていうのに、怯えてばかりじゃ情けないな、って」

 

「………………良い事。挑戦。力になる。ワタシ」

 

 ツバキがやる気をメラメラと燃やしながら歩いていると、なにやら先の方が騒がしい。

 

「……ん……? あれはおつきみ山の方か……? ポケモンの鳴き声のようだが……」

 

 聞こえてきたのは、もはや鳴き声というよりは咆哮に近い。

 

「ひゃっ……!?」

 

「…………怪獣?」

 

「気になるな……行ってみよう」

 

 と、一行がおつきみ山へ向かうと、先日のハナダシティ側出入口と同じように人だかりが。

 あの時と違うのは、野次馬達の表情が緊張で強張り、その視線が洞窟の中へと注がれている事。

 

「すいません、何かあったのですか?」

 

「あっ、あんたらも近付かない方が良いぞ! おつきみ山の中に、怪物が出たんだ!」

 

「怪物……?」

 

「す、凄く恐ろしい鳴き声で、空を飛んで炎を撒き散らして……うう、思い出すだけで震えが……」

 

 男性は青ざめた顔をして、もう耐えられないと言わんばかりに走り去ってしまった。

 

「空を飛んで炎を撒き散らす怪物か……放ってもおけんか」

 

 その時、一際大きな咆哮が洞窟内から響き、野次馬が我先にと散っていった。

 イソラを先頭に、一行は逃げる野次馬に逆流するように洞窟内部へと侵入する。

 

「……ふむ……わずかだが周りの温度が高い……それにあちこちに焦げた跡がある。本当に炎を使うようだな」

 

「………………爪の跡もある」

 

 岩壁が焼け焦げ、岩を抉るような爪の跡が残り、どうやら怪物はかなり大型でパワーのあるポケモンであるらしい。

 イソラ達が奥に進もうとしたその時、入口から金属質の音が聞こえてきた。

 

「ちょっとあなた方! ここは危ないですわよ!」

 

「っ!?」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 振り返れば、そこにいたのは長い金髪をなびかせ、白銀の甲冑を纏った少女だ。

 左右にはかっちゅうポケモン『アーマルド』とツンドラポケモン『アマルルガ』が控えている。

 

「さぁ、早く…………あら? どこかで見たような……………………あっ! 思い出しましたわ! あなた方、『戦翼の女帝(フェザー・エンプレス)』に、『真紅の戦鬼(クリムゾン・オーガ)』ですわね!? まぁまぁまぁ! 本物にお会いできて光栄ですわ!」

 

 少女は両手でイソラとスカーレットの手を取るとブンブンと握手してくる。

 

「もしかしてそちらの可愛らしいお嬢さんも何か…………はっ! し、失礼いたしましたわ! 自ら名乗らぬとはとんだご無礼を……!」

 

 我に返った少女は慌てて後退して顔を赤くする。

 

「い、いや、お気になさらず……」

 

「いえ! 礼節に反しますわ!」

 

 少女はビシッと足を揃え、右腕の肘を曲げて拳を胸の前に置くと、凛とした声で名乗りを上げた。

 

「わたくしはニビシティジムリーダー・エーデルと申しますわ。以後お見知りおきを」

 

「ジ、ジムリーダーさん……!?」

 

 なんと、街から離れたこんな場所でジムリーダーと出会うとは……世の中は何があるかわからないな、とツバキは考えていたが、自分がまだ挨拶をしていない事に気付いた。

 

「あ、す、すいません! わ、わたしツバキって言います!」

 

「イソラです、はじめまして」

 

「…………スカーレット。ワタシ」

 

 釣られるように挨拶をする3人だったが、何度目かの咆哮が洞窟中に響き渡り、一行に緊張が走る。

 

「ゆっくりお話ししたいところですが、先にこの声の主をどうにかしなければなりませんわ。普通のトレーナーならば追い返すつもりでしたが、高名な皆様となれば話は別……よろしければご助力願えませんか?」

 

「元よりそのつもりです。……しかし、音が反響して正確な位置が掴めないな…………よし、出てこいクロバット!」

 

 イソラが投げたボールからクロバットが飛び出し、イソラの右腕に掴まる。

 

「クロバット、超音波で洞窟内を精査だ。最も大きい動体を探ってくれ」

 

「まぁ! さすが『戦翼の女帝』……! ひこうタイプの扱い方を熟知してますのね!」

 

 クロバットが時々停止しながら空中を飛び回り、5分ほどすると何かを探知したようで一直線に移動を始めた。

 

「見つけたか(……あの爪の跡……そして空を飛んで炎を……恐らく怪物の正体は……)」

 

 4人がクロバットの後を追うと、壁や天井に何かがどしんどしんとぶつかる音が響き、だんだんと大きくなってくる。

 そして少し広い部屋に出ると、そこにいたのは……。

 

「やはりボーマンダ!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 怒りを表すかのような烈火のごとき深紅の翼をはためかせ、太く長い尻尾を地面に叩き付け、大きく開いた口からは眼前の敵をたじろがせる咆哮と高温の炎が発せられる。

 ドラゴンポケモン『ボーマンダ』だ。

 

「な、なんかお姉ちゃんのボーマンダより怖い……!?」

 

「恐らくは進化して間も無いのだろう。コモルーからボーマンダへ進化する際の戦闘力の伸びは目覚ましいが、その分進化前とは桁違いに高まったパワーを制御しきれない事があるんだ」

 

「なんにしても、まずは止めねばなりませんわ! アマルルガ、“こごえるかぜ”ですわ!」

 

 エーデルの指示の下、アマルルガの口から冷気を帯びた風が放たれる。

 しかし、ボーマンダが薙ぎ払うように“かえんほうしゃ”を吐くと、あまりの高温に“こごえるかぜ”がかき消されてしまった。

 

「止める。動き。ドータクン」

 

 スカーレットが放ったボールから現れたのは、どうたくポケモンの『ドータクン』。名は体を表すとは良く言ったもので、青い銅鐸のような姿が特徴的だ。

 

「……動きを止める……そうだ! お願い、ミスティ!」

 

 スカーレットに続いてツバキもボールを投げ、ミスティが回転しながら着地する。

 

「ミスティ……なるほどな。戻れ、クロバット! 行けっ! ムクホーク!」

 

 次いでイソラがクロバットをボールに戻し、代わりにムクホークを繰り出した。

 

「“サイコキネシス”。控えめに」

 

 ドータクンの念動の力が作用し、ボーマンダの身体から自由を奪う。

 しかし、必要以上に傷付けまいと手心を加えたためかボーマンダのパワーに押し負け始める。

 

「今ですわ! 翼を狙って“こごえるかぜ”!」

 

 ボーマンダの動きが封じられている内に左から回り込んだアマルルガが再度冷たい息を吐き、首を自由に動かせないボーマンダは抵抗できずに翼が凍ってしまった。

 

「よし……ツバキ!」

 

「うんっ! ミスティ、ムクホークに!」

 

 トトトトっと走るミスティの横をムクホークが低空飛行し、ミスティがその背に飛び乗ると、ムクホークはそのままボーマンダの頭上へと飛翔する。

 

「今だよっ! “ねむりごな”!」

 

 ムクホークから飛び降りたミスティが葉を揺らし、ボーマンダに“ねむりごな”が降り注いだ。

 

「(なんて息の合ったコンビネーション……! あっという間にボーマンダを無力化してしまいましたわ!)」

 

 ツバキがミスティを出した時点で互いの意図を理解し、その後も多くを語らずに行動したツバキとイソラの連携に、エーデルは目を見開く。

 

「……っと、感心するのは後ですわ! モンスターボール!」

 

 “サイコキネシス”に囚われたまま眠るボーマンダに対してエーデルがモンスターボールを投擲し、捕獲に成功する。

 

「ふぅ……一件落着ですわね。皆様、ニビシティに住まう者を代表し、ご協力に感謝いたしますわ」

 

「いえ、大事にならず良かったです」

 

 深々と頭を下げるエーデルに、一行は気恥ずかしさを覚える。

 騒ぎを収めておつきみ山を出ると、散っていた野次馬が戻っていた。

 

「……皆様、怪物の正体は野生のボーマンダでした! このボーマンダはわたくしが責任を持って安全な場所へと放しますわ!」

 

 ボーマンダの入ったボールを掲げて宣言するエーデルに、野次馬から歓声が上がる。

 

「「「ひーめっさまっ! ひーめっさまっ!」」」

 

 突然の姫様コールである。

 

「そして! 今回の騒動の解決は、こちらの方々の並々ならぬご尽力あってのものです! 皆様、どうか彼女達の勇気ある行動にも盛大なる拍手をお願いいたしますわ!」

 

 その言葉に従い、大きな拍手が一行に贈られる。

 当のツバキ達はといえば、前触れ無く話を振られた上、アーマルドに押されて観衆の前に引っ張り出されて困惑顔だ。

 

 

 

「それにしても、イソラさんとツバキさんの連携には驚きましたわ。まさに阿吽の呼吸ですわね!」

 

 ボーマンダを回復している待ち時間で、4人はポケモンセンターでティータイムと洒落こんでいた。

 

「ふふっ、この子との付き合いも長いですからね」

 

「お、お姉ちゃん恥ずかしいよぅ……」

 

 エーデルの賞賛の言葉に、イソラはツバキを抱き締めて頭を撫で回し、ツバキの顔は赤く染まる。

 イソラに撫でられるのは好きだが、スカーレットにエーデルまで見ている前ではさすがに恥ずかしいのだ。

 

「ツバキさんは確かにまだ未熟なようですが、かなりの才気を感じますわ。遠からぬ未来、イソラさんやスカーレットさんのような異名を取っているかもしれませんわね」

 

「確かに。すごかった。ツバキ」

 

 エーデルとスカーレットから口々に褒められ、ツバキは熟したチェリンボのように真っ赤になってしまう。

 

「そういえばエーデルさんはどうしてそのような格好を?」

 

 ふぬけた顔をしていたイソラが真顔に戻り、エーデルの甲冑姿に注目する。

 

「ウフフ……カロス地方のガンピ様をご存じですか?」

 

「ガンピさんですか。以前カロスリーグに参加した際、お姿を拝見した事が」

 

 ガンピ。

 はがねタイプを得意とするカロス地方四天王の1人であり、堂々たる騎士道の体現者である。

 

「わたくしはそのガンピ様に騎士道とポケモン道を学んだ弟子なのですわ。……最も、扱うのはいわタイプですけども。だって、いわタイプの方が好きなんですもの♪」

 

「……格好良い。騎士道」

 

「なるほど……では、『姫様』、というのは?」

 

「……あー……」

 

 甲冑を着ている理由に納得したイソラからの次なる質問に、エーデルは空を仰ぐ。

 

「……嘘か真か、わたくしの祖先はかつてカロス地方に存在した王家……の分家筋だそうですわ。もっとも、家系図が途切れてしまって空白期間があるので証拠とは言い難いですが。どこからかその話が伝わった結果、人々から『姫様』と言われ、この格好も相まっていつしか『姫騎士』と呼ばれるようになってしまったのですわ」

 

「………………お姫様。憧れ。女の子の」

 

 スカーレットは目を輝かせているが、エーデル当人は真偽の定かでない話から来る姫扱いはあまり嬉しくないようだ。

 

「エーデルさん、お待たせしました! ボーマンダは元気になりましたよ!」

 

 そんな話をしていると、受付カウンターからジョーイさんがエーデルに呼びかけてきた。

 

「ありがとうございます、ジョーイさん。いつも助かっていますわ」

 

 ボーマンダのボールを受け取ったエーデルは、頭を下げると優雅な所作で振り返りその場を後にする。

 ツバキ達がその後を追おうとすると、ジョーイさんが小声で耳打ちしてきた。

 

「エーデルさんが姫騎士と呼ばれているのは、どちらかと言えば彼女の人間性由来なんです。優雅で高貴な立ち居振舞いで、高潔な性格ながら気配りを忘れず、他人のために努力を惜しまない……そんな彼女への人々の感謝と敬意があの呼び名なんですよ」

 

「へぇぇ……! 素敵なお話ですね! ……でも、なんで直接言ってあげないんですか?」

 

「うふふっ、エーデルさんて堂々としているように見えて恥ずかしがり屋さんなんですよ」

 

「……なるほど。ストレートに伝えると変に意識させてしまうかもしれない、と」

 

「ええ♪」

 

 ジョーイさんから微笑ましい話を聞いた一行は、早足でエーデルに追いつくと、おつきみ山の洞窟ではなく外側を登り、ある程度の高さまで来るとエーデルがボールを取り出す。

 

「おいでなさい、ボーマンダ!」

 

 普通に出した場合とは異なる青い光に包まれてボーマンダが姿を現した。

 

「さぁ、これであなたは自由ですわ。この広い大空に思う存分羽ばたきなさいな!」

 

 頷いたボーマンダは、赤い翼を羽ばたかせて空の彼方へと消えていった。

 

「……この近くの林にタツベイの巣があるのですわ。そこでコモルー、そしてボーマンダへと進化し、旅立っていくのです」

 

「ふむ……では、あの個体は運悪く洞窟に迷い込み、そのまま進化してしまったわけか……不自然だと思った。身体も翼も大きいボーマンダがなぜ洞窟に、と」

 

「ええ……さぞや窮屈で怖かったでしょう。暴れてしまうのも無理はありませんわ」

 

 エーデルは両手を合わせ、不運なボーマンダのゆく道が明るくある事を祈る。

 

「………………綺麗。聖女みたい」

 

「っ!? ま、まぁ……まぁまぁ! 聖女だなんてそんな……オホホホホ♪」

 

 スカーレットのポツリとした呟きに、エーデルは満更でもなさそうである。

 

「……さて、ツバキさん。あなたはジム巡り中でしたわね」

 

「はい。……でも、もう少し特訓を積んでからニビジムに挑戦したいと思います」

 

 ツバキの真剣な眼差しを見たエーデルは、柔らかな笑みを浮かべて頷いた。

 

「……ええ、いつでもいらっしゃいな。挑戦、お待ちしておりますわ!」

 

 ニビジムリーダー……姫騎士・エーデル。

 はたしてツバキは、この眼前に立ちはだかる強固な岩壁を破る事はできるのか……?

 

 

 

つづく




今回も駄文雑文落書きにお付き合いいただきありがとうございました!

当初はタケシの弟であるジロウをジムリーダーにしようとしましたが、アニメ版のオリキャラなので取り止めました。
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