というわけで第54話です!
あいにくのトキワジムリーダー不在を受け、ツバキ達は先にグレンジムを突破しようと南下し、その道中、ポケモン研究の権威・オーキド博士の研究所を訪れてみようとマサラタウンをとりあえずの目的地と定める。
当然、伝説のポケモン・ファイヤーが密かにロケット団に捕獲された事など知らずに……。
「ファイヤー綺麗だったなぁ……今度はもっと近くで見てみたいかも」
「ふふっ、なんならいっそゲットでも狙ってみるか?」
「え……い、いやそれはさすがに……」
途中で見かけたファイヤーについての感想を交わしながら、ツバキ達は1番道路を進む。
やがて、静閑な町並みの中に一際大きな建物が見えてきた。
「見えてきた、あれがオーキド研究所だ」
「わぁ……!」
目を輝かせるツバキの視線の先には、赤い屋根が印象的な立派な建物が飛び込んでくる。
タマムシシティやヤマブキシティの建物も大きいが、それらとはまた異なる趣で、マサラタウンの雰囲気によく溶け込んでいる。
「さて、では行こうか」
イソラが研究所の扉を開くと、中にはパソコンを筆頭とした様々な機械、各地方のポケモンに関する膨大な書物や研究資料を納めたキャビネットがところ狭しと並び、大勢の研究員がそこかしこで資料を確認したり、会話をしている。
その内の1人、年若い男性がツバキ達に気付き、近付いてきた。
「やぁ、ようこそオーキド研究所へ! 今日はどのようなご用件ですか? ……おや? あなたは……」
「こんにちは。私はグレンタウンから来ましたイソラと申します。こちらは妹分のツバキです」
「ツ、ツバキです! はじめまして!」
緊張からか、大袈裟に頭……というより上半身を折り曲げて挨拶をするツバキに、男性の表情に笑みが浮かぶ。
「ははっ、よろしくお願いします。……はて、イソラ……グレンタウン…………ああ! もしかして『
その名を出せば、大抵の相手が思い出す異名。
本人は謙遜しているが、やはり地元である事も手伝い、イソラはカントー地方では結構な知名度があるようだ。
「(やっぱりお姉ちゃんはすごいなぁ……こういうのネームバリューって言うんだよね……)」
「しかし申し訳ありません……せっかく来ていただいたのに、あいにくとオーキド博士は不在でして……イッシュ地方で開かれる学会のため、2日ほど前に出発してしまったのです」
「む、それは残念です……」
ツバキとイソラは、揃って落胆の表情を見せる。
「……うん?」
そこで男性は、ツバキのバッグから赤い機械の角が見えている事に気付く。
「……あっ! そ、それはポケモン図鑑の最新モデル……!? 待てよ……グレンタウン……グレンタウン…………っ! なるほど、あなたが……!」
「えっ?」
きょとんとするツバキとは対照的に、男性は納得したようにうんうんと頷いている。
「いや、実は半年ほど前、グレンタウンのカツラさんからオーキド博士に連絡がありまして。もうすぐ旅立つ新人トレーナーがいるので、ポケモン図鑑を用意してほしい、と。新たな若いトレーナーの誕生を喜んだオーキド博士が取り寄せたのが、その新型ポケモン図鑑なのですよ」
「カツラさんが……」
歳の離れたツバキの旅立ちへの祝福・応援も兼ねてか、なかなか粋な計らいである。
カツラ本人の感覚的には、祖父から孫へのプレゼントのような感じなのかもしれない。
顔見知りの人物の思いやりを感じ取り、ツバキの胸には温かい感情が湧いてきた。
「それと……もしもそのトレーナーが訪れたら、これを渡すようにと言われています。どうぞ、開けてみてください」
男性はキャビネットの引き出しを開けると、中から少し大きめの箱を取り出し、手近な机の上に置いた。
ツバキが首を傾げつつも、促されるままに箱を開けると……。
「っ! こ、これは……!」
イソラがその中身に驚愕する。
中に入っていたのは、キラキラと虹のような輝きを放つ丸い石が納められた小箱と、それを嵌めるためと思われる窪みのあるペンダントだった。
「……? 綺麗な石とペンダントだけど……お姉ちゃん、知ってるの?」
「……キーストーン……」
「キー……ストーン……?」
聞き慣れない単語に、ツバキは再度首を傾げる。
「ああ。進化を超えた力……メガシンカを行うのに必要となる物の1つだ」
「メガシンカとは、ごく一部のポケモンにのみ見られる現象で、一時的に姿を変えて爆発的な力を発揮するのです」
「メガシンカ……」
「トレーナーとの強い絆によって発現するこの現象は、通常の進化と異なり、バトル中の一時的な変化だ。終われば本来の姿へと戻る。加えてポケモンには特に大きな消耗をもたらし、トレーナーにもポケモンほどではないが負荷がかかるんだ」
そこだけを聞くと、どちらかと言うと危険や怖いという感想が出そうなもので、実際ツバキも少し腰が引けている。
「だが、見事にその試練を乗り越える事ができれば、それは極めて強い絆の証明となり、大きな力になる。まぁ、使うか否かは結局のところ個人の意思だがな」
「……絆の証明……」
「ま、使うかどうかは置いておいて、とりあえずお守り代わりにでもお持ちになっては?」
男性がペンダントを差し出し、ツバキはそれを恐る恐る両手で受け取った。
「さすがに持ってるだけで体力を奪われる事は無いから安心しろ」
「う……うん…………お姉ちゃんは……これ、持ってるの……?」
手の中のキーストーンをじっと見つめるツバキは、ふと思った事をイソラに尋ねてみる。
「ん……見せていなかったか」
思い返してみれば、イソラがツバキと合流後に初めてメガシンカしたのは、発電所での戦いでツバキがウィルゴに拉致され、その救出に向かった時だった。
イソラは首から下げた紐を引き、服の中からキーストーンを取り出した。
「ほら、これだ」
「これが……」
見れば見るほどに不思議な輝きを放つ石がゆらゆら揺れて、ツバキは目を奪われる。
……一方の男性は、胸の谷間から引き出されたであろうそれに、顔を赤くして目を背けているが。
「メガシンカ……怖くなかったの?」
「そうだなぁ……初めの頃は戸惑いはあったかな。なにしろ運動したわけでもないのに、同じくらい体力が減るからな。だが……同時にポケモンとの強い一体感も感じたのを覚えている。自分は今、ポケモンと共に戦っている……とな」
「一体感……」
これまでツバキの経験したバトルにも、それが無かったわけではない。
イソラがそう言うからには、メガシンカはそれすら上回る一体感や高揚感がある……という事なのだろう。
そう思うと、ツバキも少しだけ興味が湧いてきた。
「まぁ、どのみちこれだけだとメガシンカはできないがな。ポケモンごとに対応するメガストーンが必要になる。たとえばリザードンにはリザードナイト、プテラにはプテラナイトがという具合にな」
「そうなんだ……やっぱり簡単には手に入らないの?」
「少なくとも、カントーで発見された……という話はあまり聞かないな。比較的報告が多いのは、ホウエンやカロスか」
残念なようなホッとしたような……そんな複雑な感情がツバキの胸中で渦巻いている。
「なぁに、さっき言われたようにお守りとして持っておけば良いさ。お前ならばいずれはメガストーンも手に入れられるだろうし、その時に考えても遅くはない」
「そう……だね。うん、そうする! あの、ありがとうございます!」
「いえ、私は頼まれた物を渡しただけですので」
オーキド博士には会えなかったものの、その代わりにキーストーンという、得がたい物を手に入れたツバキは、改めてグレンタウンを目指す事にする。
研究所を出て、見送りする男性に手を振りながら歩き、2人は21番水道へと続く水路の前に立つ。
「よし……出てこい、マンタイン」
イソラが水面に向けたボールから、翼のように大きく広げたヒレが特徴的なカイトポケモン『マンタイン』が現れた。
「わっ、マンタイン! 前に連絡船の上から見たけど、こんなに近くで見るのは初めてだなぁ……! ……? あれ? なんだか背中に……」
そう、そのマンタインの背中には、手すりと座席が付いているのである。
「これはアローラ地方のライドポケモン用シートだ。向こうは様々な場面でケンタロスやリザードンといったポケモンに乗り、その力を借りて移動する事が多いんだ。記念に1つもらったので、マンタインに取り付けたんだ」
「へぇ~、ライドポケモンかぁ……!」
「頼むぞ、マンタイン」
イソラが優しくその頭を撫でると、マンタインが身体を擦り寄せ、甘えるような鳴き声を上げる。
「ははっ、お前は本当に甘えん坊だな。よしよし、後で遊んでやるからな」
イソラは靴を脱ぐとマンタインのヒレの端から乗り、背中のシートに腰かけると、ツバキを手招きした。
「ほら、おいでツバキ。大丈夫、マンタインは大人しいから、乗っても暴れたりはしない」
「う、うん……」
が、大型とはいえ、やはりポケモンの身体を踏むというのにはなかなか抵抗がある。
「ご、ごめんねマンタイン……」
ツバキもイソラに倣って靴を脱ぐと、マンタインに一言謝ってから恐る恐るといった調子でその身体に乗って歩みを進め、シートまで辿り着く。
そして、先にシートに座ったイソラの膝の上に腰かけると、手すりをギュッと握った。
それを確認したイソラは、シートベルトを伸ばしてツバキと自身の身体をシートに固定した。
ツバキと自分のタマゴも二重三重にガッチリ固定すると、自身も手すりを握る。
「よし……行くぞ。出発だマンタイン!」
イソラのかけ声と共に、マンタインが驚異の瞬発力で発進し、スピードが出てくるとヒレで水面を打って大きく飛び上がった。
「わっ! わっ! わぁぁっ!」
それまで感じた事の無い疾走感。
水滴が舞い、風を切る未知の感覚にツバキは驚愕するも、決して不快感は無く、むしろ爽快感が突き抜けていく。
「……あはっ! あはははっ♪ すごいスピードだねお姉ちゃん!」
「ふふん、私のマンタインは鍛え方が違うからな。危ないのでやらないが、その気になればもっと速くもできるぞ」
尻尾を靡かせ滑空したマンタインが着水し、勢いも手伝って盛大に水が跳ねた。
「わぷっ! ……あははっ! 楽しい~♪」
これまで経験した事の無いシチュエーションにはしゃぐツバキの様子を、イソラは目を細め、子を見守る母のような眼差しで微笑む。
かつてはツバキがこんなにも年相応に無邪気な表情ではしゃぐ様など想像もできなかった。
ニビシティでも思った事だが、やはりポケモンと旅をする内に性格も明るく積極的かつ開放的に改善されているのだろう。
ひたすら自分の後ろを付いて回っていたあの頃を懐かしむ事が無いと言えば嘘になるが、今のツバキの方が良いのは言うまでもない。
「……良かったな、ツバキ」
「あははっ♪ ……え? お姉ちゃん何か言った?」
「ん? いや、なんでもないよ。……よし、周りに人もポケモンもいないし、あれをやるか。マンタイン、“なみのり”だ!」
直後、前方の水面がざわめき、見る見る大きな波へと変化していった。
マンタインはスピードを上げて波を駆け上り、その最上部を維持しつつ、上下する波を器用に乗りこなして見せる。
「わわっ!? すごいすごーい! すごいねマンタイン!」
「親バカのようだが、こと水上でのアクロバティックな動きでこいつを上回るポケモンはそうはいないと私は思っている。お前が気に入ってくれて良かったよ」
だんだんと潮の香りも強くなり、波の上という高所なだけになおさら強く鼻を刺激する。
「……懐かしい香り…………お姉ちゃん、わたし達……」
「……ああ」
水平線に島の影が浮かび、マンタインのスピードもあってどんどん大きくなってきた。
それはツバキ……そしてイソラにとってはなによりも見慣れ、どこよりも安心できる場所……。
「……帰ってきたんだ……グレンタウンに!」
つづく
今回も駄文雑文落書きにお付き合いいただきましてありがとうございます!
肝心のオーキド博士がいないせいで1話の間に入る→出るで終わったマサラタウンさん…。